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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
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爵位授与の儀

朝早く、洋介達は起きる。

そして、礼服に着替え、出発の時を待った。


玄関に馬車が到着する。

皆が一様に緊張した面持ちで馬車に乗り込む。

全員が乗ったところで御者があいさつし、手綱を振るう。

ピシッ!という音と共に、馬車が王城へ向け出発した。


これまで、皆が一様に無言なのが洋介には気味が悪かった。

『そんなに緊張する事…だよね。しょうがないか』

洋介は「はぁ~」と、ため息を漏らし、馬車に身を任せた。


賛課の鐘が鳴り、馬車が王城に入城する。

そして、入り口で全員が降りた。

そこには、前回会った時より豪華な服装に身にまとったピピンが立っていた。


「ようこそ、王城へ。今から、待合室にお連れします。私の後についてきてください」

ピピンが深々と一礼する。


「よろしくお願いいたします」

ルミナは代表して、お礼のあいさつを言う。


そして、全員が揃って深々と礼をした。


待合室に通され、緑茶の様な紅茶を出される。


『なんか、味わいが反対だからおかしな感じ。なんていう名前だろう?』

ちなみに、紅茶の様な緑茶はルぺという名前だった。


「ルミナさん。この飲み物はなんていう名前なの?」

質問するが返答は無い。

ルミナは壁に向かってブツブツと一人で呟いていた。


『ああ…これは重傷だ』

洋介は直感的に思った。



「これは、モンという高級茶ですわ。あと、ルミナちゃんは練習してるから声かけたらダメですよ」

ミリムは小声で洋介に言う。


「わかった。ありがとう」

洋介は苦笑いを浮かべて礼を言う。


時計の隅で、大柄な男が小刻みに震えている。

顔には冷や汗と思われる汗を大量に出して。

汗が滴るたびにタオルで拭いている。

よく見たら、ルフトだった。


『この人も体に似合わず繊細だよな。高所恐怖症だし』

ルフトをまっすぐ見ながら洋介は思った。


「ミリムさんは緊張しないの?」


「私も緊張してますよ!でも、一昨日に会った人だから、あそこまでは緊張しないわ」

ミリムは顎でルフトを指し、モンを飲みながら答える。


「ふーん。そんなもんかな?」


「そうよ!もしかしたら気に入られて、愛人になるかもしれないし!緊張してたら勿体無いわ」


「…そう。頑張ってね」

洋介はミリムの壮大な野望に呆れる。


そうこうしていると、ピピンが入ってきて説明があった。


「これより、ブルト伯爵、爵位授与の儀の説明に入ります。皆様、お聞きください」

まるで、お伽話でも始まるかのような口ぶりで話すピピン。


非常に長ったらしい言い回しなので要約すると、決められた席次でかしずき、呼ばれたら、前に出て授与されなさい。

そのあと、お礼の言葉を言って、下がりなさい。全て終わったら、私について待合室に移動する。

と言った事だった。


「では、参りましょう」

ピピンは、扉を開けて、部屋を出る。


席次順にルミナ、ルフト、ヨウスケ、シャドウ、ミリムが部屋を出て、ピピンについていく。

階段を何回か上がり、だんだんと豪華な内装になってきた。

道幅も広く、まさに王の城であるという雰囲気を漂わせていた。


『前世でいうベルサイユ宮殿みたいだな…まあ、本でしか見たことないけど』

洋介は壁にかかる壁画や、装飾などを見て思った。


やがて、一つの大きな扉の前に来た。


ルミナや、ルフトが先ほど言われた席次に着き、かしずく。

洋介も慌てて、席次通りにかしずいた。


「リヒト・リンデラン・ジェノブ・アテナ様!ルミナ・ウルム・ブルト以下4名、ここに王の命を受け、参上いたしました!」

ピピンが大きな声で叫んだ。


扉が同時に開き、中から音楽が一斉に鳴りだした。


「苦しくない。表を上げよ」

凛とした、リヒト王の声が聞こえる。


皆が一斉に顔だけを上げた。

そこには、まさに王という雰囲気で玉座の前に立つリヒト王が居た。


「ルミナ・ウルム・ブルト。ここに参れ」


「は!」

ルミナが静かに前に出て、かしずく。


「ルミナ・ウルム・ブルト。この度の訃報に対し、余は非常に悲しい。先代のブルト伯は心優しい良い領主であった。その意思を引き継ぎ、領主としてジェノブ王国発展に勤めてほしい。ここに、伯爵の爵位を授与する」


「ありがとうございます。父の意志を引き継ぎ、誠心誠意、努力いたします。閣下の御配慮を胸に、ジェノブ王国の益々の発展に微力ながら力を尽くしたいと思います」

ルミナの首に伯爵のペンダントをかける。

立ち上がり、一礼し、元の席次に戻る。


「皆の者、大儀であった。」

リヒト王のその言葉で、全員が立ち上がり、深々と一礼する。


そして扉が閉まる。


「これにて、爵位授与の儀を終わります。皆様、ついてきてください」

ピピンがそういうと、先ほどとは反対方向に進んだ。

そして、また、待合室に戻った。


「お疲れ様でした。しばらくここで待機をお願いします」

ピピンがそういうと部屋をでた。


「ヨウスケさん!褒めてください!頭撫でててください!!」

ルミナはいきなり訳の分からない事を喋り、洋介に抱き着く。


「お…お嬢様!!」

ルフトは口をあんぐりと開けて時が止まっている。


「あら~♪羨ましい…私も相手が欲しいわ」

ミリムはニヤニヤしながら洋介を見た。


「いやいや!これは何かの間違いですよ!こら!ルミナさん!!皆さん呆れてますよ!!早く離れて!!」

洋介は全身を使って否定する。


しかし、ルミナは離れようとはしなかった。

凄い力で洋介を抱きしめる。


シャドウが「はぁ~」とため息をつきながら間に入り、ルミナをいとも簡単に引き離した。


「ブルト伯爵は、少々お疲れのようで錯乱いたしました。皆様も、ブルト伯爵の名誉の為、このことは他言無用でお願いしたい。いいですね?」

シャドウが低い声で脅す。


「それとブルト伯爵。いくら疲れてるとはいえ、このような失態は命取りになります。今後は謹んでください。じゃないと殺すぞ?」

シャドウの怒りがピークに達した。


「す…すみません」

ルミナは正気に戻り謝った。


『謝るぐらいだったら最初からしなきゃいいのに…まあ、ああいう直球なところは可愛いよね』

洋介は苦笑いを浮かべながら思う。


しばらくすると、ピピンが呼びに来た。


「リヒト様が中庭で御呼びです。私についてきてください」

全員がピピンに付き添い、中庭に向かう。


中庭は広大な広さで、普段は軍事訓練もしているのであろう藁人形なども置いてあった。

その中心部にリヒト王が居た。


「よく来たヨウスケ。さあ、ドラゴンを呼んでくれ!」

リヒト王は興奮を抑えきれないように饒舌に語った。


「わかりました。レオパルト!」

洋介は叫んだ。叫ぶ必要はないが、カッコを付ける為、わざと叫び、ポーズを取った。


しばらくすると、遠くから声が聞こえる。


「ガアァァオォォ」

レオパルトは一声鳴き、城の上空を旋回する。


「おお!あれが伝説のドラゴンか!素晴らしい!真っ赤な鱗が美しい」

リヒト王は目をキラキラさせながら語る。

レオパルトは着陸し、人を乗せやすいように伏せる。

リヒト王はレオパルトを触ったり、翼を見たり、忙しそうに動いてた。


『なんだか、ルミナが初めてレオパルトを見たときに似てるな…天真爛漫というか、素直な人なんだな』

リヒト王の動きを見て、洋介は思う。


洋介とリヒト王はレオパルトに乗り、レオパルトは飛び上がった。


「あはは!これはすごいぞ!王都の端から端まで見える!」

リヒト王は洋介の後ろで笑いながら呟く。


「いかかですか。閣下?」

目測で500メートル付近を大きな円を描いて旋回する。


「ブレスを見せてもらっても良いか?」


「わかりました。レオパルト!」

洋介が叫ぶとレオパルトは空に向かってブレスを吐く。

一瞬で周りは熱くなり、雲は四散した。


「素晴らしい…ブランシュタイナー侯爵が恐れるわけだ」


「ブランシュタイナー侯爵が何か?」


「元老院にこう流布しているのだ。強力な魔獣を使役し、我がブランシュタイナーに攻め込んで来る、とな」


「そのつもりは無いんですけどね」


「もちろんわかっておる。しかし、それが奴の常套手段だ」


「閣下は、これからどのようにお考えで?」


「うむ…他言無用だぞ」


「はい」


「余が思うに、近い将来ブランシュタイナーは独立する。国に昇華する。そして、王国に攻め入るであろう。その際、王国は2分する。余に付くか、アレキサンドに付くか。どちらにしても凄惨な戦争が始まる」

リヒト王は苦々しく語る。


「そうなって欲しくは無いですね。有能な人が次々と死んでいく。国にとっては痛手です」


「そうだ。しかし、人の欲望とは深い物よのう。わかっていても止められぬ。帝国が攻め込んでこなければ良いが…」

リヒト王は遠くを見つめ、考える。

洋介はリヒト王の思慮に深い感動を覚えた。噂通りの聡明な君主であると納得した。


「今日はわざわざすまなかった。余と共に戦ってくれるか?」


「もちろんです。ただ、希望を言えば戦争はできるだけ回避していただきたいと思います」


「もちろんだ。ただ、奴がどう出るかだ」

リヒト王ははっきりと言った。


中庭にレオパルトは着地する。

リヒト王と洋介は降りた。


「今日は楽しかった。ドラゴンというのは誠に勇ましい」


「お気に召していただけて光栄です。閣下。いつでも呼んでいただければ馳せ参じます」

洋介はかしずく。


「うむ。では、褒美を授与する」


「そんな!滅相もない」


「受け取ってくれ…この褒美で備えるのだ」


「なるほど…わかりました。ありがたく頂きます」

洋介は直感的に理解した。ブランシュタイナー侯爵との全面戦争に備えろと言う意味だろうと。


洋介はレオパルトを森に移し、待合室へと移動した。

待合室に入ると、ピピンがやってきて、重そうな箱を持ってきた。


「ヨウスケ殿に閣下より、褒美を授与された。金貨500枚。謹んで受け取れ」


「は!ありがたく頂戴いたします」


「「「金貨500枚!」」」

シャドウを除く3人は声を揃えて驚く。


「ななな、何事ですか?何か閣下に売ったのですか?」


「一生遊んで暮らせるじゃん!ヨウスケさ~ん、私も欲し~い」


「はは、訳はブルト領に帰って話すよ。よっと…これって超重いね」

箱を持とうとした洋介だったが、持ち上げるのが精一杯だった。


「では同化しましょう。スキルを使えば、容易いですよ」

シャドウはそういうと、洋介と同化した。

箱が一気に軽くなる。


荷物を持ち、洋介達はパリスへ戻る。


パリスへ戻ると、製紙ギルドから使いが来て、話がしたいのでブルト伯爵も一緒に来てほしいとの託けを貰った。

すぐに着替えて、二人は製紙ギルドに赴く。


「お待ちしておりました。まずはブルト伯爵。爵位の授与おめでとうございます」

恰幅の良いおじさんが、恭しく一礼する。


「ありがとうございます。で、話とは?」

ルミナは礼をして、聞き返す。


「はい。ヨウスケさんからお話をいただき。我が製紙ギルドで検討した結果、とりあえずは月1万枚ほど紙を卸していただければと思います。1枚銅貨10枚で売り出しますので商品の受け取りと引き換えで、報酬はお支払いします。割合は6割で異存有りません」


「月1万枚とは大きく出ましたね。どうされたんですか?」

洋介は質問する。


「実は、いただいた試供品をためしに売り出したところ、昨日ですべて売り切れました。反響も大きく、需要が見込めると判断しました」


「では、今月は頑張ればあと5千枚は卸せますので、買い取っていただけますか?」


「もちろんです。昨日の試供品の代金もお支払いします」


「ご配慮ありがとうございます。では来月から、週2千5百枚で製紙ギルドに卸します」


「よろしくお願いします」

恰幅の良いおじさんはホクホク顔で一礼した。


代金を受け取り、二人はパリスに戻る。


「というわけで、ルミナさん。王都までの定期便をよろしくお願いします」

洋介はルミナに一礼する。


「わかりました。でも凄いですね。売れちゃいましたよ。今日だけで銅貨600枚の報酬ですよ」


「できれば、カミント村にも報酬を分けたいんだけど、どうする?」


「6割カミント村でどうでしょう?原料と製造を任せているのですから、労を報いなければいけませんから」

ルフトがルミナに進言する。


「そうね。そうしましょう。帰ったら、カミント村に行って報告しましょう」


洋介は事業が順調に動き出してホッと胸をなでおろす。

戦争が起こらないことを願いながら、日々仕事に邁進する決意をした。

※10/30改稿

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