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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
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王都到着

王都まであと、30分という所だ。

洋介はルミナに質問する。


「そういえば、レオパルトは何処に降ろせばいいの?」


「王都の南東に隣接する森林地帯があります。そこがいいでしょう。あまり目立ちすぎると何を言われるか分かりませんから」

ルミナは苦笑いを浮かべる。


「わかった。レオパルト!南西の森だ!よろしく!」


「ガァオ!」

洋介の問いに一声鳴いて答える。


やがて、地平線の先に大きな城が見える。


「あれが王都である、ローレンツです。見えているお城は王城であるローレンツ城です。そろそろ降りる準備を」

ルミナがそういうと、レオパルトが徐々に高度と速度を落とす。


しばらく行くと、西側に大きな森が見えてきた。そして王都を取り囲むように作ってある頑丈な石の城壁も見えてきた。


「城壁の手前で降りましょう。城門が森の近くにあるはずです」

ルミナが指を指す。

確かに、そこには城門があり、着陸できそうな広場があった。


レオパルトはゆっくりと着陸する。


城門を守る警備がすぐに飛び出してきた。

弓部隊もいつでもすぐに打てるよう弓を引いた。

緊張感が漂う。


「攻撃しないで!!私はブルト伯爵です!王の召喚要請で参りました!」

ルミナが着陸した途端、レオパルトから飛び出し叫んだ。


すぐに警備の司令官らしき人が城壁から来た。


「ブルト伯爵。お待ちしておりました。上の者から話は聞いています。ドラゴンは森で待機をお願いいたします。いま、馬車を用意させますので少々お待ちください」


「閣下の御配慮感謝いたします」

ルミナは上品に一礼した。


しばらくすると豪華で大きな馬車が来た。

荷物を全て馬車に積み、全員が乗り込む。


「閣下から、お話は聞いています。今から宿であるパリスに向かいます」

豪華な服を着た御者がルミナに言った。


「「「「よろしくお願いします」」」」

全員が御者に乗車しながら一礼する。

ヒュウ、ピシ!と手綱を振り下ろす音が聞こえ、馬車が動き始めた。


「パリスとは豪勢ですね。さすがは閣下。ご配慮に感謝ですわ」

ミリムは笑いながら呟く。


「パリスっていい宿なの?」

洋介がミリムに聞く。


「王都で一番格式のある宿です。帝国使節団とか公爵様が王都に来たときとかに使用される宿ですわ」


「へ~。それは良い宿なんだね。楽しみだ」

洋介は前世でいう高級旅館を想像して心躍る。

特にどんな食事が出るか楽しみだった。


『久しぶりに刺身とか食べたいよね~。まあ、有るわけ無いか』

元来日本人である洋介は、急に刺身が恋しくなった。


宿に到着する。


馬車から降りると、ルミナの屋敷の様な大きな宿だった。緻密な装飾で彩られた外装が高級感を漂わせ、王都最高峰の格式を滲みだしていた。


エントランスの車寄せに馬車が止まる。


すぐにドアマンが出てきてドアを開き、軽く一礼したままにこやかな笑みを浮かべた。


「ようこそパリスへ。少々段差がございますのでお気をつけて降りられてください」


「わかりました」

一番初めにルミナが降り、順に全員が降りる。

ドアマンが荷物をロビーに運び、一礼した。


「ありがとう」

ルミナは袋に入れた銅貨をドアマンに渡す。


「ご配慮感謝いたします」

ドアマンは一礼して袋を持って下がった。


「ルミナさん。質問いい?」


「なんですか?ヨウスケさん」


「今のはチップだと思うけど、相場は幾らぐらいなの?」


「そうですね、大体銅貨十枚ぐらいだと聞いています。ただこちらは格式が高いので、それではちょっと失礼かもしれません」

ルミナは苦笑いを浮かべて答える。


「なるほど、参考にする。ありがとう」

洋介は忘れないように心に誓う。


ルフトが受付を済ませ、案内される。


階段を最上階まで登り、部屋に着いた。

その部屋はこの宿で一番、豪華な雰囲気を醸し出していて、前世でいうならロイヤルスイートと呼ばれる部屋であった。


「ルミナさん。質問いい?」

洋介は質問する。


「なんでしょう?ヨウスケさん」


「一番高そうな部屋に入ろうとしてるけど、大丈夫なの?」


「何がですか?」


「いや、お金の方が…」

洋介はつい小声で喋る。


「ああ、その点は心配いりません。閣下の御配慮で用意された部屋らしいので大丈夫です」

ルミナはにこやかに答えた。


「そうなんだ。さすがは王様」

洋介も納得した。


「まあ、お返しの貢物は持ってこないといけないのですけどね」

ルミナは苦笑いを浮かべる


「なるほど、それであの大量の貢物がいるわけだ」


「そうです。王都はそういう事に五月蠅いですからね」


「はぁ~、めんどくさ」

洋介はため息をつく。


「そうですね、チップ代もかなりかかるので、意外と王都は住みづらいんです。物の値段も高いですし」

ルミナも正直な感想を述べた。


部屋に入ると、豪華な調度品がいたるところ置いてあり、最高級の雰囲気を漂わせていた。


洋介は正直、落着けなかった。


各人の部屋は別々に用意されており、洋介も割り当てた部屋に入る。


「緊張されていますか?」

シャドウが心配そうに聞く。


「いや、この高そうな調度品を壊しそうで落着けないだけ」

洋介は苦笑いを浮かべ、ベッドに座る。


「窓の外でも見ますか?最上階だけあって景色は素晴らしいですよ」

シャドウはカーテンを開け、言った。


「おお!窓から王城が見える。すげー!」

洋介は窓に立ち、王城を眺め喜ぶ。


「もう少し、落ち着いたら製紙ギルドに出かけましょう。あまり時間も無いので仕事は早めに片付けましょう」


「そうだね。俺たちの紙が世界に通用するか…楽しみだ」

洋介はフフフと不敵に笑う。



ルミナに許可を経て、製紙ギルドに向かう。


その前に、フロントに向かい、袋を買い、銀貨を銅貨に交換してもらう。


ちなみに、この世界では金貨1枚のレートは銀貨100枚。銀貨1枚は銅貨1000枚だ。

金貨100枚で大金貨1枚とか、大金貨100枚で白金貨1枚というレートも存在するらしいが、普通は計算上でしか使わない。


ブルト領の年間予算でも金貨10枚ぐらいなのだ。

一応、貨幣も存在するらしいが洋介は見たことが無かった。


「たしか、羊皮紙1枚が銅貨100枚だったっけ?」

洋介は道中、シャドウに質問する。


「おおむねそのようなレートだと聞いています。ただ、町々で市場経済が働いていますので一定ではありません」


「しかし、高いよな。銅貨5枚でパオが食べれるのに、100枚だぜ。パオ20食分だぜ」


「私は、パオ20食より羊皮紙の方が良いですが。確かに高いです。一般にはまず普及しないと思います」


「とりあえず、銅貨10枚ぐらいが妥当な値段かな。5:5で折半して普及を図る。どうだ?」


「強気で7:3ぐらいでも大丈夫だと思います。なにせ、こちらは製造コストがありますからね」


「それは、強気すぎないか?まあ6:4ぐらいで決着できれば御の字かな」


「まあ、それでもいいでしょう。良い商談が出来ればいいですが」

シャドウとそんな話をしてると、製紙ギルドに到着する。


入り口から中に入ると、こじんまりとした受付があり、女性が一人立っていた。


「あの。ブルト伯爵の使いの者ですが、商談があって来ました。責任者の方はいらっしゃいますか?」


「わかりました、少々お待ちください」

受付の人は上品に礼をすると、奥に行った。


しばらくすると、恰幅の良い職人肌の人間が出てきた。

洋介は前回のガミルの件を思い出し、内心ひやひやしたが、普通のおじさんだった。


『やっぱりガミルさんが特殊なんだな。うん。いい人だけどオネエじゃなぁ…』

洋介は改めて思った。


「ブルト伯爵様がどういったご用件で?紙のご注文ですか?」

恰幅の良いおじさんが質問する。


「いえ、実はブルト領で新たな技法を使い、紙を製造しました。これが試作品です」

洋介はそう言って紙を渡す。


「これは…どのような動物で作られましたか?見たことも無い文様だ…まるで布のようだ」

おじさんは怪訝な顔で紙を透かしたり、引っ張ったりして確認する。


「単刀直入に言います。これをギルドに卸せば幾らぐらいになりますか?」


「この紙を売りたいと…しかし、少し茶色いな…銅貨40枚と言った所かな?」

洋介は顔には出さなかったが、少し嬉しかった。

想定より高い金額を言われたからだ。


「実は、この紙はある特殊な技法で製作されており、かなりの量を短期間で作ることができます。私たちとしては、製紙ギルドのネットワークを使って販売してほしいと思っています」

洋介は雄弁に語る。


「ほうほう。どれくらいでどれほど作れるのですか?」

洋介の言葉におじさんは食いついた。


「いま、試作品を1000枚ほど用意していますが、だいたい10日ほどで作成できました。軌道に乗れば品質も向上し、より白く、より多く出来るでしょう。そうですね、1日1000枚は作れるでしょう」


「1000枚!それほどの紙をどうやって消費するのですか?」

おじさんは驚いた。この世界では紙は高級品で使用頻度は限られていたからだ。


「私たちは広く一般に普及させたいと思っています。文字文化が発達すれば、利用法は色々とあると思います」


「なるほど、しかし価格が…」


「価格は大量に生産すれば下げることは可能です。この紙の製造方法はそれに向いてます」


「たしかに…羊皮紙は1枚作るのに5日はかかるからな」

おじさんは唸る。


「私たちは1枚、銅貨10~20枚で売り出したいと考えています。軌道に乗ればもっと価格を下げることも出来るでしょう」


「それほど安くできるのか!!」


「はい。可能です。しかし、我々の問題は販売ネットワークが無いという事です。そこで、製紙ギルドに協力をして欲しいのです」


「そうか…確かに、その話なら納得ができる。ブルト領が製造して、我々が販売する。そういう事だな?」


「そういう事です。可能でしょうか?」


「可能だ。こちらとしても、羊皮紙の代替品を探していた所だ。しかし、どうなのだ?ブルト領としても都合があるだろう?」

おじさんは片手で円を作り、覗き込むように見た。

洋介は直感的に金銭のジェスチャーだろうと感じ、答えた。


「そうですね、販売金額の7割をこちらでというのはどうですか?」


「それは無理だ。5割は?」


「間を取って6割ではいけませんか?こちらとしては原料と、製造を負担していますので5割より多めでないと、皆を納得させることができません」


「う~ん」

おじさんは悩む。


「王都まで、こちら側が定期便を出して配送しましょう。それでもダメですか?」

洋介が畳み掛ける。


「わかった。それで説得してみよう。しばらく回答を待ってくれないか?」


「いいですよ。ただ、我々も3日間しか王都に滞在しませんので、その間に回答が出ますか?」


「出す。必ず。宿泊は何処ですか?」


「パリスの最上階に宿泊しています。ただ、2日後に王城で用事がありますので、その際はフロントに託けてください」


「わかりました。今日は良いお話ありがとうございます」


「こちらこそ、ありがとうございます。良い返事を期待しています」

二人は立ち上がり、テーブル越しに硬い握手をした。


洋介とシャドウは礼を言って製紙ギルドを後にした。


「さすがはご主人様…見事な交渉術です。感服いたしました」


「教師も所詮は人間相手の営業みたいな側面があるからね。交渉術は心得てるつもりだよ」

洋介は思い出す。


教師の仕事の半分は交渉だ。

外部、親、職場、そして、生徒に対しても時には使わざるをえない。

その経験が役に立った。


二人は意気揚々と宿に帰った。


※11/11少し改稿

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