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前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
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エレナ・ルーナ・ブルト

洋介はシャドウとルミナを連れて、ルフトの訓練場に寄った後、ヒルマンの屋敷に行く。


そこは、領主の屋敷より小さいながらも学校として使うには十分な広さがあった。

しかし、調度品が多く残っており、それの撤去に時間がかかりそうだった。


「学校として使えそうですか?」

ルミナは洋介に尋ねる。


「十分、十分。ただちょっと豪華すぎるかな。まあ、調度品を全て撤去して、簡単な机と椅子をいれれば大丈夫だろう」

洋介は満足そうに答える。


「部屋の大きさがちょうどいいですね。子どもだったら30人は入れるでしょう。庭も平らにできれば運動場代わりにもなりますね」

シャドウも太鼓判を押した。


「まだまだ開校には時間がかかるから、ゆっくり改装していくよ。さて、ここが書斎かな?」

洋介は2階の奥にあるヒルマンの書斎らしき部屋に入る。


中に入ると、中央に大きな絵が飾ってあった。


「これは肖像画ですか?」

シャドウがルミナに聞く。


そこには家族の肖像画があった。

肖像画には男性が4人、女性が3人描かれていた。一番小さな女の子は髪の毛の色からルミナであろうと思われた。


「この女性は?」

洋介は疑問に思う。見たことのない赤毛の若い女性がそこには描かれていた。


絵にはグラビアアイドル並みにボンキュッボンで描かれており、妖艶な美女という印象を洋介は持った。


「ああ、この方は私の姉です」

ルミナは懐かしむように目を細め語る。


「お姉さんが居たの?」

洋介は、アレキサンドがルミナの事を『ブルトの末娘』って言ってたのを思い出した。


「はい。エレナ・ルーナ・ブルトと言って、年齢は私と6歳離れています。二男であるヒルマン兄さんの次に産まれました。ただ、15歳で父上と懇意にしていたワルミド男爵様の長男であるホーカー様の所に嫁ぎました」


「お姉さんは元気に暮らしてるの?」


「それが、ワルミド男爵領はブランシュタイナー侯爵領の隣の領地で、連なる山脈にあり、有数の金剛石の産地でした。なので、4年前にブランシュタイナー侯爵が無理やり併合したのです」

そこまで言うとルミナの表情が暗くなる。


「じゃあ、お姉さんは?」


「行方知れずになりました。ワルミド男爵領も荒廃し、都であったワルンも噂では幽霊が闊歩するゴーストタウンになっているとか」


「それは酷いね。よく王都がそんな暴挙を許したね」


「表向きは、ワルミド男爵様が攻めてきたので自衛のための併合だという話になっていますが、実際、あの優しいワルミド男爵様がそんなことするとは思えません」

ルミナは苦々しく答える。


「金剛石が産出されるばっかりに狙われたというのが真相ですか?それは短絡的すぎませんか?」

シャドウが顎付近を撫でながら唸る。


「確かにね。でも、真相って案外単純なものじゃないの?」

洋介は貴族の知略に飽き飽きしていた。


「あのアレキサンドがそんな単純な理由で動くとは思えません。金ならいくらでもある、というような人間がわざわざ宝石の為だけに侵略するとは思えませんね。何か別の目的を隠す為にわざとしているような、そのように思えます」

シャドウが唸る。


「シャドウがそこまで言うのであればそういう事もあるのかもね。どちらにせよ、現状で推測は困難だよ」

洋介は降参した。


「そうですね。言われてみれば、辻褄が合いすぎて逆に怖いですね。本当にアレキサンドは油断ならない相手です」

ルミナはエレナの肖像を憂いに満ちた表情で見ながら語った。




ブランシュタイナー侯爵領アレキサンドリア。


ブランシュタイナー侯爵の屋敷は数年前に改装され、その大きさと外観からブランシュタイナー王の城と呼ばれていた。


そんな、城の謁見の間には眼鏡をかけた学者風の男が、大きな風呂敷を持って中央でヘコヘコしている。


アレキサンドは奥の玉座に悠然と支配者風に座っている。


その隣には赤毛の豊満な美女がほぼ全裸というような水着を着て給仕をしている。


「マルト。持ってきたか?」

アレキサンドは口元をニヤケながら言う。


「は~い。ブランシュタイナー侯爵様。私の開発したホルルドマリン液で満たした作品をご覧くださ~い」

学者風の男が軽い口調で言い放ち、3つの風呂敷を開ける。


そこには透明な瓶に首が3つ入っていた。


その首はブルト家3兄弟の首であった。


「決して腐ることはございませ~ん。未来永劫この状態を維持できま~す」


「おい!だれか、この首を奥の間に持って行け!!」

アレキサンドはニヤニヤしながら命令する。


「よし。マルト、下がってよい。新兵器の開発も頼んだぞ」


「は~い。お任せくださ~い。火薬を利用して作りま~す」

そう言い残すとマルトは謁見の間から出て行った。


「次!だれだ?なんだ、娼館のルルンか」

アレキサンドは冷たく言い放った。


謁見の間には一人の小太りの男がヘコヘコと中央に来た。


「閣下。ご機嫌麗しゅう存じます。昨晩はいかがでしたか?粗相などございませんでしたか?よろしければぜひとも新たな娼館の建設許可をいただければと思い参上いたしました」

小太りの男は揉み手にへらへらと笑顔を作りアレキサンドに言う。


「ああ。この豚か。残念ながら落第点だ。出直せ」

アレキサンドは横にいるほぼ全裸の赤毛の豊満な美女を横目に見ながら言い放つ。

その言葉に小太りの男が慌てる。


「そ!粗相がございましたでしょうか?なにとぞ、ご再考をお願いいたします。…もしかして似てなかったでしょうか?閣下御執心のあの女子…」

小太りの男がそこまで言うと、空気が変わった。


「何を口走っている?」

アレキサンドからほとばしる殺気が漂い始めた。


「いえ!も、申し訳ございません!!平に…平にお許しください!!」

小太りの男は中央で土下座をする。


そこに、剣が音もなく飛んだ。


「うげ!!」

その剣は小太りの男の心臓を貫き、男は土下座のまま絶命した。しかし、不思議なことに血は一滴も流れていなかった。


「閣下。不埒な輩は私の糧にしました。」

奥から漆黒のローブをまとった人の様な者が出てくる。

男の様な声がしたが、その顔は骸骨だった。


その姿を見て赤毛の美女は震え、膝から崩れ落ちた。


「どうだ。この男はうまいか?」

アレキサンドはニヤニヤしながら骸骨に言った。


「若干太りすぎていて可もなく不可もなくと言ったところでしょうか?私の好みは隣の女みたいな者の血肉です」

骸骨はどこから声を出しているかわからなかったが、アレキサンドに言った。


「そうか。じゃあこの女はお前にくれてやる。存分に糧とするが良い」

アレキサンドは冷たく言い放つ。その言葉の意味を美女が理解し、震えながら力なく倒れる。


骸骨は女を無理やり立たせると、奥の部屋に連れて行った。


「リッチというやつは本当に面白い。あいつにはまだまだ働いてもらわないとな。次!」

アレキサンドは独り言のように呟き、次の者を呼んだ。


「ワグルでございます。閣下。お耳に入れておきたいことが」

そこには小汚い男のワグルが居た。


「情報屋が何の用だ?引退宣言か?」

アレキサンドは無表情で冷たく言い放つ。


「こんなに面白い世界は引退する気はございません。実はある男が訪ねてきまして…」

ワグルが不敵な笑みを浮かべる。


「ふん!汚い奴め。受け取れ」

アレキサンドは革袋を投げる。


ワグルが器用に受け取ると、中身を確認する。中身は銀貨だった。


「ありがとうございます。実はグルン・オーガント・ヘルムントが来ました。少々変装していましたがお粗末な物でした」

ワグルは大げさに語る。


「ほう?何を探りに来た」


「閣下の真意を探りに来ました。あと、新兵器の有無を聞いてきました」


「はは!伝説の竜を持っておきながらご苦労な事だ。で?」


「は、もちろん閣下の情報は漏らしていません。表向きの嘘を流しました。現在、繁華街外れのルペルペに泊まっているそうです」

ワグルが恭しく一礼する。


「ふん。まあ、適当に探らせるか。あの『青竜』は下手な武将より強い。俺の部下に欲しいぐらいだ」


「まったくです。あいつは昔から強情で頭の弱い奴でしたから、前ブルト伯に義理立てしているのでしょう。ホントに馬鹿な奴です」

ワグルがニヤリと笑いながら言った。


「ほかは?」


「以上です。なんでしたら討伐隊を私の方で出しましょうか?」


「まあ、出したければ出せ。俺は知らん」

アレキサンドは冷たく言い放ち席を立つ。


「仰せの通りに」

ワグルが一礼し謁見の間から出る。


「しばらく奥の間で休む。だれにも入らせるな!!」

アレキサンドは強い口調で言い放ち、玉座の奥に消えた。



奥の間には一人の女性が豪華な椅子に座っていた。


赤毛の妖艶な美女。彼女は紛れもなくエレナ・ルーナ・ブルトであった。


豪華な奥の間には少女趣味で彩られたベットなどの調度品が乱雑に置かれていた。

そんな中央の豪華な椅子に座っている彼女の目は、まるで生気がなく手や首に拷問の後があり、足には足枷がついていた。


彼女は囚われているのだ。


そんなエレナに一人の男が近づく。他ならぬアレキサンドだ。

アレキサンドはエレナの顎を持ち、顔を近づける。


そして、軽くキスをした。


「ふん。魔法というのはどうも好かんな。反応が無くて面白くない」

アレキサンドは顎から手を離し、呟く。

エレナは力なく生気のない瞳でアレキサンドを見つめていた。


アレキサンドは机の上を見る。

そこには、先ほど謁見の間にあった首が3つ並べられていた。


「エレナ。兄弟の対面だぞ?もっと喜んだらどうだ?しかし、お前の子供の首をくれてやった時は傑作だったなぁ。あれくらい反応してもいいんだぞ?はは!俺の復讐はこれでは終わらん。残りは一人。お前の大事にしていた妹の首だ!!ははははは!」

アレキサンドは立ち上がり高笑いをする。その声は部屋中に響き渡った。


「ふん。つまらん。お前が最初から俺について来ればこんなことにならなかったのだ」

急に無表情になったアレキサンドはエレナに言い放ち、部屋を出た。


エレナの瞳は生気なく、ただぼんやりと空中を彷徨っていた。

ていた。

11/11少し改稿

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