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ご褒美

エルンに戻った洋介はルミナの書斎に出向く。


「コンコンコン」


「は~い。どなたですか?」

扉の奥からルミナの声が聞こえる。


「洋介だけど、ちょっと相談があって」


「あ!ヨウスケさん!!ちょうど良かった!!」

ドタドタと扉の奥から物音が聞こえる。

そして、扉が開いた。


「どうぞ!入ってください。まだちょっと散らかってますけど…」

ルミナは恥ずかしそうに部屋の中に招き入れた。


洋介は『なにがちょうど良いのか?』と思ったが、中に入って理由が分かった。

ルフトやミルトやグルンが居ないのだ。


ブルト領では各個人の家はもちろん存在する。しかし、家臣は基本的に領主の屋敷に個別の部屋が与えられ、屋敷で待機するのが普通だ。


領主の一言ですぐに駆けつけることができるように家臣の家も領主の屋敷の近くにあることが多い。


ちなみに、ルフトやグルンは既婚者の為、夜になると自分の家に戻る。


ミルトは独身の為、夜間の警備係としてルミナの屋敷に常駐していた。


もちろん家は持っているが、家政婦が管理している為、月に一度帰るか帰らないかの生活をしていた。


まあ、ミルト本人はその方が都合が良いのかも知れない。


そんな、家臣や、身の回りのお世話をする家政婦がルミナの書斎に居ない。


そこから考えられる『ちょうど良かった』の理由は、一つしかない。


「ヨウスケさ~ん!!今日こそは!ご褒美を!!」

ルミナの鼻息は荒い。


「一応、私も居るんですがね…」

シャドウが呆れてルミナに言う。


「シャドウさんは口が堅いので気にしません!!それに…は…初めての時の確認がひ…必要…なので…慣れておくことも…大事かと」

顔を真っ赤にしてルミナはモジモジと語る。


その恥ずかしがる姿は非常に可愛らしかったが、言ってることは過激だった。


「ルミナ伯の妄想ではそこまで関係が進んでいましたか…わかりました。どうぞご自由に」

シャドウは呆れて物陰に隠れる。魔族であるので、気配を隠すのは造作もない事だった。


「やったーー!!ヨウスケさん!!お願いが…」


「なに?あんまり過激なのは却下だからね」

洋介は諦めた。しかし、今後の事を考えて釘だけは刺した。


「あの…膝枕で頭を撫でてください。ほんのちょっとの時間でいいですから。お願いします」

ルミナは洋介の手を取り、目を輝かせながら上目使いでお願いした。


『こ…この破壊力は…すさまじい』

洋介は顔が赤くなり悶絶する。


「わ…わかった。じゃあ、ソファですぐご褒美をあげよう。3フルだけだよ」


「ありがとうございます!!」

洋介とルミナはソファに移動してご褒美タイムが開始された。


「えへ~!!ふふふ~!!!ほほほほ~!」

よほど待ちわびていたのか、ルミナはすぐに変な声で笑った。


そのうち『にょほほ~』とか『らめ~』とか言い出しそうで少し怖かったが、さすがにそこまで壊れてなかった。


洋介も久しぶりにルミナの良い香りを嗅いでリビドーに若干の緊張を覚えたが、ミルトの事が頭をよぎり必死に耐えた。


『これが寝取られフラグか…もしかしたら俺はMなのか?いや、現状では俺の方が有利。これは、寝取りフラグか!そういうと俺はSなのかもしれんな…』

洋介は頭を優しく撫でながら不埒な事を考えていた。


ルミナはそんな洋介の思いを気づくことは無く、終始、変な声で笑っていた。


素敵な時間はすぐに終わりを告げる。

シャドウが時間の終わりを告げたのだ。


「ご主人様。約束の時間になりました。そろそろ本題に入ってください」

シャドウが物陰から姿を現し言った。


「え~!もうですか~!!延長で!!」

ルミナは膝の上でフグのように膨れながら器用に喋った。


「だ~め。約束は約束だよ。」


「…今日は諦めるので、次、頑張ったら添い寝してください!!」

ルミナは諦めて洋介の前に座る。そして目を輝かせながら言った。


「ハハハ…考えておくよ。でも、そこまですると、自制心が保てないかも。僕も男だからね」

洋介は冗談のように軽く言った。


しかし、実際にルミナと添い寝をして、間違えを犯さない自信がなかったので、そうならないように釘を刺すつもりでルミナに言った。


しかし、ルミナの反応は洋介の思っていた物と違った。


「私は…そ、それでも…構いません。ヨウスケさんの事が…好きだから」


ルミナは耳まで真っ赤にして手で顔を隠しながら静かに言った。


洋介は予想外の告白に心臓の音が聞こえてくるほどドキドキした。

みるみる耳まで赤くなり、思わず『僕もだよ!』と言いそうだった。


しかし何とか冷静になり、本音では非常に残念だったが苦渋の決断をする。


「え…えっと、まあ、いまは大事な時期だから…うれしいけど…その…心に…留めておくよ」

ミルトや今後の事を考えるとそういう方面の話に持っていくことはリスクが大きい気がしたからだ。


「そんな!」

その言葉を聞き、ルミナの目からは涙があふれ出ようとしていた。


「いやいや、嫌いってわけじゃないよ!むしろ好きなんだ。でも、今は色々と厄介ごとがあるから、そういう時期じゃないっていうか…なんというか、ごめん」

洋介は言葉を繋ぎながらもルミナに申し訳ない気持ちになっていた。


『あ~!畜生!!こんな美少女に告白されて、こんな事をしか言えないなんて!!なんて損な役なんだ』

洋介は非常に悔いた。普通の異世界ラノベだったら正妻にして話が終わるところなのにどこを間違えたのだろうか?



「ルミナ伯爵。残念ながらブランシュタイナー侯爵の脅威は去っていません。また、王都での大事な儀式も控えています。ご主人様に関連する非常事態も想定されます。また、疲弊した領内の統治と家臣団の再編成も残っています。現状で個人の色恋を優先させる要素は無いと思いますが?」

シャドウが静かにルミナに語る。


「でも…私も…女性ですから」

ルミナは静かに反論する。


「女性ではありますが領主でもあります。昨日の葬儀での誓いをお忘れですか?あなたの肩にはブルト領すべての人の人生がかかっているのですよ?それでもまだ自分の事を優先しますか?せっかくご主人様が優しく諭してくださったのを、無になさるおつもりですか?」

シャドウの言葉は容赦がない。違う意味でルミナは泣きそうだった。


「まあまあ、シャドウ。そこまで言わなくてもルミナは頭がいいからわかってくれるよ。色々あってルミナは少し疲れてるんだ。少しぐらい我儘いってもいいだろ?」

洋介は助け舟をだした。


「ヨウスケさん…すみませんでした。色々と巻き込んでしまっているのに我儘を言ってしまって」

ルミナは冷静になり目元の涙を拭きながら洋介に謝罪した。


「気にしないで!むしろ、頼ってもらって嬉しかった。これから先いろいろあると思うけど、全部終わった時に、ルミナが今と同じ思いでいてくれたら、その時、改めて答えを言うよ」

洋介はルミナの横に立ち、頭を撫でながら優しく言った。


「はい!ありがとうございます」

ルミナは服の裾で乱暴に涙を拭きながら嬉しそうに笑った。



ルミナは家政婦を呼び、お茶の用意をさせる。


「ところで、相談ってなんですか?」

ルミナがお茶菓子を少し食べ、紅茶の様な緑茶を一口飲んで聞いた。


「紙の生産が順調だから、学校開校の準備に入ろうと思うんだ」


「もう、そんな具体的な話になるのですか?」


「まあ、学校なんて、ここが学校で、カリキュラムがコレです!って言えば学校だからね。比較的作ろうと思えば簡単に作れるんだ」


「そうなんですか。でも講師の方は?」


「そこが重要なんだ。カリキュラムはとりあえず読み書き数学ぐらいでいいと思うけど、肝心な場所と、講師が居ない。だから、読み書きが出来そうな人を知らないかと思ってね」

洋介は苦笑いを浮かべて答える。


カミント村の状況を考えれば、このブルト領の識字率はかなり低い。

そもそも、字は読めなくても生活はできるのだから当たり前だ。


「ミルトやルフトを講師として使えば良いのでは?彼らは読み書きなど問題なくできますので。特にミルトは数学に関しては知識が豊富です」


「そうなんだ。でも、訓練とか仕事が忙しいでしょ?かなりの時間、拘束されるから難しいと思うんだ」

洋介は前世の自分の境遇を思い出す。あそこまでは酷くは無いだろうが、それでも人を教えることは大変なので、気が引けた。


「では、王都で探してみるのはどうでしょう?仕官を募るのです」


「でも、先立つものがね」


「ブルト家が給金を用意しましょうか?」


「いや、それは心苦しい。何とかして収入を見つけて…」


「ご主人様。紙をお売りになればよろしいのでは?」

シャドウが当然のように言った。


「でも、製紙ギルドが管理して流通させてるんだろ?外部の人がいきなり紙を販売することは難しいと思う」


「ご主人様。何も敵になる必要はありません。お互いにメリットがあれば手を組むことは可能だと思いますが?」

その言葉で洋介は閃く。


「そうか!製紙ギルドを通して販売すればお互いの利益にできるんだ!」


「そうです。マージンが入るので少々高くはなりますが、あの葦が原料ですから設備さえ整えば大量に生産できると思います。大量生産で原価を下げる。そのことによってブルト家と製紙ギルドに十分な利益を産み出せれば、製紙ギルドとしても生産効率の悪い羊皮紙なんかより魅力的に映るでしょう」


「へ~、確かに、お互いメリットがあって合理的ですね」

ルミナがシャドウの説明を聞き納得する。


「しかし、それには、一括して取りまとめるおろしが必要です。ここは、ブルト伯爵にお願いして、ブルト家が紙の生産とギルドに卸す作業を行い、販売は製紙ギルドに任せて、お互いにマージンを取ってもらう方が納得できると思います。そのブルト家が貰ったマージンの一部を教育の予算として使わせていただく、というスキームが一番良い方法だと思います」


「それは確かに。ルミナはどう思う?」


「私たちに異存は有りません。元々ヨウスケさんが教えていただけなかったら無かったものですから」

ルミナは笑みを浮かべて快諾した。


「じゃあ、今度王都に行ったときは製紙ギルドに交渉しないとな。サンプルもたくさん持って行って売り込みをしなきゃ。それが軌道に乗ってから学校開校だ」

洋介は道筋ができてやる気が出た。


「ヨウスケさん。学校の施設でしたら、ヒルマン兄さんの屋敷を使われるといいと思います」


「お兄さんの大事な屋敷を使って良いの?」


「ヒルマン兄さんは独身で、屋敷にはだれも住んでいません。放置して朽ちるより、ブルト領の為、有効に活用できれば兄も本望だと思います。家政婦を派遣して定期的に清掃はしているので綺麗なはずですよ」


「じゃあ、申し訳ないけど使わせてもらうよ。中を見せてもらってもいい?」


「はい。あの、できれば私も一緒に見たいのですが良いですか?」


「もちろんだよ。でも、仕事があるんじゃないの?」


「一応、目途はつきましたので大丈夫です。それよりもずっと屋敷に籠りっきりでしたので久しぶりに外に出たいです」


「確かにね。じゃあ、どうする?すぐに行く?僕はすぐでも大丈夫だけど」


「すぐに行きましょう。でもルフトには言わないといけないので、少し寄り道をして屋敷に向かいましょう」


「ルフトさんはどこに行ってるの?」


「歩兵部隊の訓練です。城壁外れの畑のそばに居るはずです」


「ふ~ん。じゃあ、玄関で待ってるよ。そのあと、ルフトさん所にいって、それからヒルマンさんの屋敷に行こう」


「はい。では家政婦に出かけることを言いますので少し時間をください」

ルミナは洋介に一礼する。


「わかった、先に玄関に行っとくよ」

洋介はそういうとルミナの書斎を出て玄関に向かった。


玄関に出て、馬の準備をすると、しばらくしてルミナが来た。


「お待たせしました!では私が先導しますのでついてきてください」

ルミナは颯爽と馬に跨った。


洋介もシャドウも続いて馬に跨り、3人はルフトが訓練をしている場所に向かった。


※11/11少し改稿

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