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妖刀 多々良

エルンから馬で2時間。洋介たちは、やっと北の森林地帯に到着した。


「ほ~、すごい森だね」

洋介は感動する。


大きな木が乱立していて、先が見えない。木の一本一本が太く、樹齢は100年は軽く超えている感じだったからだ。


「シャドウ。動物とか感知できる?」

洋介はまだ微妙に距離があるシャドウに質問する。


「できます。えっと…かなりいますね。この周辺だけでも熊のような大型動物はゴロゴロいますね。……奥にかなり大きい物もいます。ここは伐採すると危険ですね」


「だろうね。ちょっと探そう。できれば竹みたいなスグに生えてくる植物がいいんだけど」

馬を走らせて周辺を捜索する。シャドウもそれに付き従う。


すると、近くに小さな村があった。


「地元の人に聞くのが一番早いな。ちょっと聞いてみよう」


「そうですね、闇雲に探すより効率的です」

二人は村に向かった。


村は10軒ほどの集落で近くには小さな麦畑もあった。その中の比較的大きな家に向かう。


「すみませ~ん。誰かいませんか?」

洋介はドアをドンドンと叩き強い口調で言った。


「は~い!ちょっと待ってください!!」

奥から女性の声がした。声からして若そうな声だった。


ガチャ!


「はい?どちら様で?」

20代後半ぐらいの若い女性が怪訝な顔で洋介とシャドウを見つめた。


胸まで伸びた茶色い髪を無造作に後ろで束ねている。

比較的恰幅が良く、お腹が大きかった。妊娠8か月ぐらいだろうか?

チャキチャキと歯切れのいい言葉づかいで、いかにも庶民的な人だった。


「あの、怪しい物ではありません。ブルト家の使いの者です。ちょっとお聞きしたいことがありまして」

洋介は愛想笑いを浮かべながら胸のペンダントを見せる。


「ああ!ご領主様の!!これは失礼しました。なんでしょう?」


「この辺の植物に関して聞きたいんですけど、できればすぐに成長して、大きくて、使い道のない木みたいな植物ってあります?」

洋介は非常に抽象的で説明に困ったが、何とか言葉にした。


「う~ん?ちょっとわからないねぇ…旦那だったら分かると思うんだけど。いま仕事に出てるんで、ちょっと家で待ってくださいな」

女性はドアを大きく開き家に招き入れた。


「ありがとうございます。お邪魔します」


「失礼します」

洋介とシャドウは一礼して部屋に上がった。


家は前世でいう農家の家のような大きさだったが、応接室などは無かったので、ダイニングの机に通された。


「汚い部屋でごめんなさい。ここで待ってて」


「いえ、突然来たのですから、お構いなく」

雰囲気的に前世の実家を思い出した洋介は、遠慮なく座らせてもらった。

二人が座るとすぐに、紅茶のような飲み物が出された。


「こんなものしかないけど、どうぞごゆっくり」

女性は一礼する。


「気を遣わせて、すみません。ありがたく頂戴します」

洋介とシャドウも一礼する。


そのお茶は、色はまるで紅茶のように茶色いが、味はまさしく緑茶であった。

たぶん、朝方にまとめて沸かしているんだろう。丁度いい温度で飲みやすかった。


「私は、ミカエラ・ルーンっていうの。あなたは?」


「僕は佐藤 洋介といいます。僕の民族は佐藤が姓なので、洋介と呼んでください」


「シャドウと言います。ご主人様のしもべです。よろしく」


「珍しい名前ね。最近ここに来たの?」


「ええ、先の戦闘にたまたま巻き込まれて。今はブルト家に保護されています」


「ああ、隣のカーネルちゃんが亡くなった戦ね。ほんと、隣の侯爵様は困ったもんだわ!!」

洋介は苦笑いを浮かべる。戦の被害はこんな小さな村にまで広がっているんだと改めて思う。


「ミカエラさん。ご主人はどちらに?」


「主人は狩りと木の伐採をしてると思う。一応、この集落のまとめ役だから。いつもはもうすぐ帰ってくるんだけどねぇ」

ミカエラはキョロキョロしていると、入り口のドアが乱暴に開いた。


「ミカエラさん!!大変だ!かなりデカい武瑠ぶるが出た!いま、旦那さんが戦ってる!!」


「なんだって!」

3人は慌てる。奥さんはよろめいたがシャドウが肩を持ち支える。


「シャドウ!行くぞ!」


「わかりました」


「わ!私も!」

3人は慌てて外に出て現場に向かった。



村はずれの広場に緊張が走っていた。男3人が大きな熊のような生き物を追い払おうとしていた。しかし、熊は怯んでおらず、少しづつ間合いを詰めていた。


「あれが武瑠ぶる?」


「そのようですな。前世でいう熊のようですね」


「ああ!!お前さん!!!」

ミカエラは悲壮な声で叫ぶ。


よく見るとご主人であろう人が、こけて、もう少しで襲われそうになっていた。


「シャドウ何とかできないか?」

洋介は何とか助け出そうと考えた。この状況ではミカエラが流産してもおかしくない。


「私の攻撃能力では難しいでしょう。私は盾ですので。それほど、単純攻撃能力は強くありません…しかし」


「しかし?」


「私のスキルを使い、ご主人様が『多々良』を使って攻撃すれば、造作もない事と思われます」

シャドウは恭しく一礼する。


「わかった。ちょっと怖いけどやってみよう」


「御心のままに」

シャドウは洋介に憑りつき盾になる。

洋介は体が軽くなった感じになった。スキルが発動したのだろう。


「ご主人様。どうぞ。お切りください」

シャドウの声が頭に響く。


「ええ!どうやって?」


「適当で構いません。カッコよく真っ二つにしてしまってはいかがでしょう?」


「わかった」

洋介はちょっとワクワクした。そしておもむろに、鞘から多々良を取り出した。

なんとなく、多々良の赤みが増しているように思えた。

刀身から熱気がほとばしる。


そして、風のように洋介は駆けた


その動きは一瞬だった。


ジュッという大きな音と共に、洋介は武瑠ぶるを腹から一刀両断する。

しばらくして、武瑠ぶるは腹から真っ二つに切れた。足はすぐに力なく倒れが、

上半身はしばらくバタバタと動いていた。が、やがて口から泡を吐き絶命した。


切り口を見ると焼け焦げていた。周りには肉の焼ける匂いが充満している。

『多々良』は炎の属性があるため刀身は非常に高温で、切りながら傷口を焼いたのだ。

おかげで返り血を浴びずに済んだ。


「また、つまらぬものを切った」

洋介は前世の記憶を頼りに、関係ない事を喋った。


その瞬間。周囲から歓声が起こる。おもむろに『多々良』を鞘に納めると。周りの人たちが駆け寄ってきて、いきなり胴上げをされた。


「うわ!ちょっと!!なに!なに!」

よく見るとみんな歓喜の表情を見せている。ミカエラに至っては嗚咽をだして泣いていた。



すぐに、武瑠ぶるの解体ショーが始まった。


よく見ると武瑠ぶるの顔は前世でいう豚であった。

肉質も豚肉に近く、少し臭みがあるがイノシシの肉と思えば非常においしそうであった。


解体した肉を皆で分けて、ミカエラの家に向かう。外はもう夕暮れで、ここに泊まるしかなかった。

そのことをミカエラに言うと、二つ返事で了承してくれた。


「旦那の命の恩人をもてなすことができて光栄だよ!!ぜひ泊まっとくれ!!」

部屋に案内され少し、ゆっくりする。


「しかし、スゲー切れ味。『多々良』ってどのくらい攻撃力あるの?」


「単純な威力で比べると、レオパルトの爪の一撃ぐらいの強さは有ります。また炎スキルがあり、本気を出せば人間なら一瞬で黒焦げにできます」


「すげー」

洋介は改めて『多々良』の素晴らしさを知った。


そうこうしていると、ミカエラが呼びに来た。夕食の準備ができたらしい。


夕食は先ほど殺した武瑠ぶるの鍋だった。

今の季節は夜は肌寒く、非常にタイムリーな食事だった。


ダイニングに行くと、ミカエラの主人が立ち上がり一礼した。

「はじめまして。カミル・ルーンです。先ほどは助けていただきありがとうございます。また、おかげさまでこのような食事も頂ける事が出来て感謝の言葉もありません」


「はじめまして。佐藤 洋介です。私の民族は姓が佐藤なので、洋介と呼んでください。助けることができて本当に良かった」


「はじめまして、シャドウと申します。ご主人様のしもべです。よろしく。こちらこそ美味しそうなお食事をご用意していただきありがとうございます」

二人はカミルに一礼する。


「さあ、どうぞ。先ほどの武瑠ぶるです。おいしいですよ!」


「では、遠慮なくいただきます。」

二人は食事が盛り付けられた机に座る。

そして、洋介たちを除く、皆が腕を組み、食事の作法をする。


「命の恵みを我らに授けた神に感謝を…」

洋介は日本式の作法で手を合わせ小声で「いただきます」と言った。


鍋は塩で味付けされていたが骨から取れるダシで少し白濁していた。

その匂いは豚骨スープで塩豚骨鍋みたいな感じだった。

肉も豚肉で、すこし、臭みもある。

しかし、イノシシよりは臭くなく、豚骨スープのような匂いで中和されて非常に美味であった。

野菜も裏の畑で採ったであろう白菜のような物と、キノコのようなもので彩りよく飾られていて食欲をそそる。できればネギが欲しかったがこの世界には存在してなさそうだった。


洋介は満足そうにバクバクと遠慮なく頂いた。


シャドウはこっそりと茹でるふりをして生肉のみを食べていた。


しばらくして、満腹となり、ミカエラは食器を持って台所のような場所に持って行った。

洋介は癖で食器を台所まで持って行った。

その姿にミカエラは恐縮して、何度も何度も謝った。

『やっぱり、この世界でも家事は女性の仕事なんだなぁ』

洋介はまた一つ知識を得た。


机に座るとタイミングよく先ほどの紅茶のような緑茶が出された。

それは、少し暖められていて非常においしかった。


「ところで、カミルさん。質問なんですけど」


「ミカエラから聞きました。すごく特殊な植物を探されてるんですね」


「ええ、実は紙を作りたいと思ってまして、どうしても大量に植物が必要なんです」


「なるほど。木ではいけないのですか?」


「基本的に植物なら何でも作れるのですが、木で作ると森の再生が追い付かないでしょう?先ほどの武瑠ぶるみたいな生き物が暴れる可能性が…」

洋介は苦笑いを浮かべる。


「う~ん、なにか…あったような…」

カミルは顎に手を当て必死に思い出そうとしていた。


「まあまあ、もう夜が遅いですし、ヨウスケさん。お風呂にでも入られませんか?」


「お風呂があるんですか!!嬉しいな~!入っていいですか?」


「もちろん!!はい、これがタオルと寝巻用の服と下着です。」


「ありがとうございます。シャドウ!行くぞ!」


「はあ~。私は入らなくてもいいのですが…まあ、たまにはいいでしょう」


二人は外のお風呂に向かった。

そこには広めの木で作られた風呂があった。お湯は隣の金属製の桶で暖められていて、常に新しいお湯が流れていた。

少し熱めだったが、外は冷えてきていたので心地よかった。


「はぁ~…生き返る。死んでも日本人なんだというのが良くわかる」


「お湯に入って生き返るという感覚は良くわかりませんが、たまにはいい物ですね。汚れなんかも取れますし。ルールントでの臭いも無くなります」


「まだ気にしてたの?」


「当たり前です。ちなみに、まだ微かにご主人様の口から臭ってますよ。しっかり歯磨きをお願いします」


「げ!明日にはエルンに帰ろうかと思ってたのに…でも、おいしかったよ!」


「それは良かったですね。私は絶対食べませんが」


「ほんとに嫌いなんだね。はぁ~!」


「やめてください!ご主人様!軽蔑します」


「ははははは!」

洋介はわざとシャドウに向かって息を吹きかける。

シャドウの口からはいつもは聞けない言葉が飛び出すので面白かった。


「さて、そろそろ上がるか?」


「そうですね。明日も早いですから。そろそろ就寝の時間です」

二人は体を拭いて寝巻に着替え家の中に入った。


部屋に戻り寝る準備をしていた。

そうするとドアがノックされ、カミルが部屋に入ってきた。


「ヨウスケさん、思い出しました!」


「なにをです?」


「植物ですよ!ここからすこし西に行ったところの、川の近くに大きな沼地があって、そこに生えてる植物が条件に当てはまります!!」


「そうですか!わざわざ、ありがとうございます!明日一番に行ってみます。ついてきてもらえますか?」


「もちろんです。日の出とともに行きましょう。では、おやすみなさい」


「おやすみなさい」

二人はカミルに一礼し、床に就いた。

※10/30改稿

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