王都そして、思い
腹も満たされルールントを後にする。
先ほどからシャドウが一馬身ほど離れて先頭を進んでいる。
「シャドウは、なんで先に行ってるの?」
「ご主人様の臭いが気になりまして。相当臭いますよ」
シャドウはこちらを見ずに言い放った。
「そうか?はあ~!はあ~!」
洋介は思わず手を口に当て息を吹きかけ確認する。もちろんわからなかった。
「しばらく、先頭を行かせてもらいます。もうすぐ、エルンですがそのまま突っ切って行きますよ!」
シャドウは強い口調で言い放つ。そして、馬速を速めた。
「はぁ~」と一つため息をして、洋介も続いた。
その頃、王都ではミルトが王城の応接の間に待機していた。
『しかし、待たされるな。かれこれ3メモか。…遅い』
ミルトは大きな振り子時計を見て苛立ちを隠せなかった。
王都の王城だけあって各部屋に時計が完備されてある。
しかし、ミルトはそれが気になって仕方がなかった。
下手に時計を見ると時間が遅く感じる。ソレと同じで集中することができなかった。
「コンコンコン!」
「はい!」
「お待たせしました。ブルト伯の使者よ。ついてきてください」
扉が開き、髭を蓄えた初老の男が部屋に入ってきて、そう告げた。
身分の高そうな服を着ていて、いかにも貴族という振る舞いだった。
コツコツコツコツコツ
無言のまま大理石で造られた廊下を通る。
辺りに響くのは二人の足跡のみだ。
窓から入ってくる日差しは明るく。時刻は昼過ぎになっていた。
二人は途中、階段を昇り、かなりの奥まで来た。
だんだんと道幅が広くなった。
壁にはキラキラと眩いばかりの宝石がちりばめられている。
天井には水晶製と思われる豪華なシャンデリアが一定間隔で吊ってあった。
その他大小さまざまな絵画が壁にかけており、まさに王家が通るにふさわしい豪華な道になっていた。
廊下の奥に巨大な扉がある。
「この奥に王である、リヒト・リンデラン・ジェノブ・アテナ様がいらっしゃいます」
ミルトは緊張する。初めて王様と会うからだ。
素早く服装をチェックして、かしずき、頭を垂れる。
そして、ドアが開かれた。
「閣下。ルミナ・ウルム・ブルト代理、ミルト・アインシュ・オルメイヤーでございます」
ミルトは失礼のないように大きな声で言う。
「苦しくない。表を上げよ」
ミルトは顔を上げる。
ドアの奥には煌びやかな空間が広がっていた。まさに王の謁見の間。明るく、荘厳な雰囲気であった。
その一番奥の中央。豪華な椅子の前に立つ20代の若者。
それが王であるリヒト・リンデラン・ジェノブ・アテナその人であった。
顔立ちは非常に美形で、ミルトのように金髪碧眼であり、耳まで隠れるぐらいの少しウェーブかかった髪型をしていた。頭の上には豪華な王冠。服装も煌びやかな、一見して王様とわかる服装をしていた。
「閣下に仰せられればご機嫌麗しゅうございます」
「うむ。遠いところより大変だったな?ミルトよ」
「いえ、閣下のご苦労を思えば大したことではございません。このたび我が領主であるブルト伯爵が亡くなったため、末の娘に伯爵領を継がせたく思い馳せ参じました。本当は本人であるルミナ・ウルム・ブルトが参るべきところでは御座いますが喪に服している為、代わりに、ご承認をいただきたく、臣下である、このミルト・アインシュ・オルメイヤーが代理で参りました」
ミルトは応接の間で練習していた文言を間違えずに言えたことに安堵した。
「うむ。許可する。喪が明けたのち王都に参るが良い。ところでミルトよ。少し聞いてよいか?」
「ご配慮ありがとうございます。何なりとお聞きください」
「そちらの領内に面白い男を保護している、との噂を聞いてな」
ミルトは心臓がドクンと鳴った。たぶん洋介の事だ。ブランシュタイナーが言ったに違いない。
「サトウ ヨウスケの事でしょうか?」
「そのような不思議な名前であった。サトウが姓だったな。まことに不思議。竜に騎乗していると聞いたがまことか?」
「はい。大きさは3モルメルトにもなる大きな火竜に騎乗しております」
「臣下に知性の高い魔族が付き従えていると聞いておる。まことか?」
「はい。シャドウという名前の魔族です。種別は解りませんが、一見、人間のようで顔には道化のような仮面をしており、中は見たことがありません。知性は非常に高く、サトウ ヨウスケの参謀です。ひと時も離れることはありません」
「ははは!面白い。実に面白い」
王は大きな声で笑う。
「ブルト伯に伝えよ。今度王都に来るときは竜と、魔族と、ヨウスケを連れて来いと。余が個人で話がしてみたい。ブランシュタイナー候とは関係ないから安心して連れてくるがよい」
「わかりました。必ずお伝えいたします」
「うむ。頼むぞ。では、下がれ」
ミルトは頭を下げる。すると扉は静かに閉まった。
完全に閉まったことを確認して、ミルトは立ち上がる。
緊張したため少し足がしびれていたが、それより、ブランシュタイナーの足の速さに恐怖していた。
『まあ、当然か。直接的に攻撃する事が出来ないから、王都を使ってどう出るかを見極めてるんだな』
卓越した政治手腕もブランシュタイナー侯爵の恐ろしいところだった。
現ブランシュタイナー侯爵であるアレキサンドは領主になるや、侯爵領の力を一気に強くしのだ。
それは、王都を味方に付けた政治手腕の賜物で、並み居る侯爵の中でも随一の規模にまで大きくなっていた。
それには色々な黒い金が蠢いている、という噂があるが真相は定かではない。
そのうち公爵と同列に扱われ、のちに家系から王を誕生させるのではないか?そんな噂までブルト領にまで流れてくるほど、現在の王国における地位は高い。
『くそ!ルミナを困らせる屑侯爵め。今に正義の鉄槌を食らわせてやる』
ミルトはそう思いながら王都を後にした。
※10/27改稿