始まり
「ルミナお嬢様!敵ブランシュタイナー侯爵軍!来ました!距離3カロメルト。数が数千じゃききません。万単位だと思われます!!」
伝令であろう男が本陣に入ってくるなり、泣きそうになりながら報告する。
その姿は小刻みに震えていた。
「そうでしょうね。予想はしてたけど…最後の戦いになるわね」
中央に座る大将と思しき少女が苦々しく語る。
歳は18ぐらいだろうか。
胸まで伸びた長く綺麗な黒髪を眉のあたりで切りそろえられており、強い意志を宿した瞳はクッキリとしていて顔立ちは整っていた。肌は白く、白い鎧を着ているので黒髪と白い肌と鎧のコントラストが美しく、いかにも身分の高さを醸し出していた。
しかし、よく見ると隅々が泥で汚れており、ここに来るまでにいくつかの戦闘を経験した雰囲気が見て取れた。
軍勢の数も数千と言ったところで、皆の顔や装備には酷い疲労感が漂っていた。
「全軍に伝令。この地が最終決戦の地である。殺されたわが両親や兄弟。そしてブルト家の誇りを胸に、私が先頭を務める。一斉に突撃し!その後、各個撃破し家に帰ろう!!」
凛とした美しい声で叫ぶ。
「はっ!」
その場にいた6人の家臣が立ち、胸に手を当て服従の敬礼を行う。
ルミナと呼ばれる大将も、その場にいた6人の家臣も本当はわかっていた。この戦いは全滅覚悟の戦いで家にはたどり着くことが難しいだろうと、そして、憎きブランシュタイナーに領土を蹂躙され、暗黒の時代に突入することを。
両軍はゆっくりと進む。決戦の地である、オクト草原へ。
そして、悲劇の幕が切って降ろされるのだ。
わかっていながらも戦わなくてはならない。ブルト家にとって、逃げる為の領地はもう無かった。
地上では今にも戦闘が起きそうな雰囲気であった。
しかし、数の差は歴然としている。
「ルミナ様!ご指示を」
「うん。…これが最後の戦いである。諸君の一層の努力を期待する。以上」
騎乗のルミナは肩を震わせながら命令する。その瞳には涙が一筋流れていた。
「皆の者!!ついてくるがいい!!!」
「おー!!」
同じよう騎乗している側近の家臣と共に叫び突撃する。
騎兵は勢いをつける。
手に持っている槍をまっすぐに前に向ける。
騎兵は速度をあげて隊列が一気に鋒矢陣形になる。
重騎兵によるランス・チャージで一気に敵を瓦解しようという作戦だ。
相手は密集陣形をとっており、さながらそれは巨大な壁のようなものであった。
鋒矢陣形で突撃してくる敵を見てもその陣形は崩れなかった。
まるでそれは、相手の攻撃を予想しており、相手の攻撃を容易に跳ね返せるという自信の表れであった。
ブルト家はそれでも鋒矢陣形での突撃をやめない。
いや、この戦い方しか勝算は無いのだ。
それに、ここまでの戦いで殺された両親や兄弟の仇をブルト家伝統の技で報いないと示しがつかないのだ。
貴族とは死ぬまで貴族なので、戦いにおいても見栄とプライドで行うのだ。
たとえそれで死ぬことが分かっていてもやめることはできない。
ランス・チャージがブランシュタイナー軍にたどり着く直前に、矢の雨が降ってきた。
同時に、後ろに配置されていた魔導師軍団から炎の魔法が飛ぶ。
弓の雨は固い鎧のおかげで損害が少なかったが、炎の魔法は効果的だった。
騎兵の約半数が落馬して、地面にのた打ち回る。
「ぎゃーー!」
「熱い!熱いーー!」
「たす…けt」
「母さん…あつ…い」
落ちた人間はそれぞれ最後の言葉を吐く、やがて、灼熱地獄で絶命する。
ルミナも炎の影響で鎧を脱ぎ捨て、煤まみれになりながら懸命に突撃する。
「どこにいる!ブランシュタイナー!!」
ルミナの目は涙にあふれながら口からは罵倒の言葉を叫び続けていた。
そしてブランシュタイナー軍中央を突き進んでいく。
騎兵の数は半数に減ったが、さすがはブルト家伝統の技、強大な魔導師の攻撃にも耐え、敵の部隊を肉薄していた。
しかし、反撃も隊列の3分の1ほど行ったところで急速に弱まった。
それは、敵の反撃で騎兵の数が減って攻撃力を失ってしまったのだ。
そんな中、先頭の集団でルミナは一生懸命頑張っている。一人でも多く道連れにするため懸命に槍を振るっているのだ。
「おのれ!おのれーーー!!」
その顔は青白く、目は涙であふれていた。歯を食いしばり必死に抵抗している。
しかし、数の暴力は抗いきれるものではなく、周りの家臣たちは一人、また一人と殺されていた。
そして、いつのまにかルミナの周りにはだれも居なくなった。
上から見ても鋒矢陣形はすでに体をなしておらず、ブルト軍は敵の密集陣形に飲まれようとしていた。
その先頭でルミナは抗っていた。
そして、最後の時が来る。敵の槍を避けた瞬間、バランスを崩して落馬をしてしまった。
「くっ!」
一斉に集団に取り囲まれ、執拗な暴力を受ける。
それは、人を殺す暴力ではなく、人を犯す暴力であった。
相手の暴力でルミナの武装…すなわち、服などは一枚一枚乱暴に脱がされていった。
「きゃーー!!知れ者!!恥を知れ!!ひと思いに殺すがいい!!!」
その真意をすぐに気づき、必死に抵抗するが暴力は終わらなかった。
全裸になる直前、暴力は突然終わりを告げた。
「なに?どうしたの?」
いきなり周りが静かになり、ルミナは訳が分からなかった。
暴力集団の顔が皆、上を向いていたのだ。
そして、ワナワナと震え、一斉に逃げた。
「ガオォオォーーオォオーー!!!」
そこにはお伽話でしか見たことのない生き物が飛び、雄たけびを上げてこちらに向かっていた。
それは、ドラゴンだった。
「!?」
ルミナは半裸のまま、その場に固まった。
※10/25大幅改稿
※11/11さらに改稿