令嬢様の影武者様
「と、いう訳でアンタは私の影武者よ!!!」
人差し指でガッツリこっちを指して堂々宣言したお嬢様。
なるほど、だから時給8,500円なのか。全ての謎が解けた。謎が解けたからには、やることは一つだろ。
「この話はなかったという事で」
はあ、折角……住み込みOK3食付正社員登用制有皆勤手当て5万。休日は申請制だけどなかなかの好条件の待遇。応募条件が「顔と小柄であること」だけのこんな上手い仕事は水商売か”飼い犬”くらいだろうと少しは覚悟してきたのに。顔が顔だから受からないだろうと思って怖いもの見たさに応募するんじゃなかった。
顔って、確かにお嬢様の顔に似てなきゃダメだろうしね。はいはい納得。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!私はレーヴェリック卿の娘なのよ!?その影武者なんて最高だと思わない!?」
確かに、影武者って言うのはここに居るお嬢様と執事さんとメイドさんとあと噂のレーヴェリック卿くらいだって話だから何でもやり放題だな……いや、そんないらねえな
「思わないんで。帰ります」
「ま、待ちなさいよおおおおおおおおおおおおおお!!
フランチカ=レーヴェリックの生活は女子ならだれもが羨むものでしょう!?」
じ、自分の生活に自信持ってる、だと。
どんだけいい生活してんだ。どんだけみんなこのこの生活知ってんだ。
「でも、そんな動きづらそうなドレス着るのは勘弁なんで」
「……アンタ、変わってるってよく言われない?」
今までガンガンいってたのに、突然真顔にならないでほしい。やめろよ、そんな目で見るなよ。そんなドレス見ても脱ぎにくそうだとしか思わねえんだよ。
「んじゃ、帰るんで。失礼しましぃっったああああああああああ!?」
ビッタァアン!!
両頬がはたかれた。
突然移動していたメガネの執事に両頬を
札束で。
「いってぇええええええええええ!!そして今どきそんな札束扱いする奴いねえよ!!!????」
なんなの。まじでなんなの。どっからだしたその札束!!
「あれは1週間前のことだったわ」
「ええ!?今の流れ総スルー!?なんでこの流れで語りだすの!?」
俺は帰るからな!?と扉へ向かおうとしたら執事さんが札束を構えた。
あっはい。分かりました。聞きゃあいいんだろ!!聞きゃあ!!
大人しく椅子に腰かけて仕切り直しとばかりに淹れられたアールグレイを飲んでお嬢様の言葉を待っていた。はあ、なんでこんなことになったんだか。
「1週間前、私はエリオン王子の婚約者になったのよ……」
「それはさっき聞いた」
「……」
「……」
「私は、幼少期から前世の記憶があるのよ。幼少期のころは気付かなかったけど、私はこの世界を知っていたわ。前世のころにやったことがあるゲームよ。この世界はその某糞マイナー乙女ゲームの世界と非常に似ている、いいえ、そのものなのよ。そして、まさかまさかとは思っていたけれど私はエリオン王子の婚約者になってしまった……
そう、私は分かってしまった。ゲームをしていた時に「え?お嬢様wwww不憫wwwかわいソスwwwww」って半笑いで見ていお嬢様に生まれ変わっていたのだと!!」
……………こんなとき、どんな顔したらいいのかワカラナイヨ。
え、どうしよう、こういう話だった?いつからこういう話だった?
え、どうしよう聞きたくない
「悪女でもないのにタイミングの悪い時に出てきてしまって、婚約者だからという至極真っ当な言葉を一刀両断され、婚約者のせいでヒロインに踏み込むことができないという理由でいつの間にか王子たちがdisり始め、気付いたら悪女認定されて結果婚約破棄される……
ゲームしていた時は半笑いで見てたわよ。でもね、半笑いじゃ済む話じゃないわよ!!!!!」
だんっだんっとテーブルを叩きながら激しく力説するお嬢様にドン引きしてる。
いや、その話が本当なら不憫だと思うよ。でもさ、そんな話させられても超困る。
「それと影武者に何のつながりが?」
「……ヒロインがエリオン王子と私のお兄様のフィーガとハーレムエンドを選ばなければ全然問題はないの。まあ、どのルートでも結局婚約解消はされるのだけれどね?いやがらせよね。」
「で?」
「エリオン王子ルートを選ばれると私の目が抉られるわ」
……………は?
「目?」
「ええ。目よ。私という婚約を破棄するなんて親が許さなかったのでしょうね。”目の見えない女を王家に迎え入れられない”ってところかしらね」
目……か……そりゃあツラいな。色んな意味で……
婚約解消が可愛く見えてくるな……
「……ん?つーことはあんたの影武者になってあんたの代わりに目を抉られろってこと?」
「……」
「……」
おい、こっち見ろよ。おいこらお嬢様も札束執事も目をそらしてんじゃねえよ。こっち見ろ!!
「大丈夫よ!!目が見えなくなっても私たちレーヴェリックが養うわ!!」
「それは大丈夫じゃねえだろ!?」
「報酬は弾みますよ」
「世の中は!!金じゃねえ!!」
いや、給料が高いからってここに来たけどな?違うんだ。そういう問題じゃないんだ。
つーか、先ずそんなことより重大な問題がある。
「第一、俺は男なんだから影武者なんて不可能に決まってるんだよ!!!!!!」