適性無とは
二十一時にもう一本投稿します
僕が何をしたっていうんだ。
地球ではいじめられながらも真面目に過ごし、親の仕事も手伝い、稽古もしっかりつけていた。
なのに、なぜ僕だけがこんな目に遭うんだ。
プレート事件から一か月ほど経とうとしていた。
僕はこの一か月間文字を覚えるとすぐに一人で勉強を始めた。誰かと一緒にいると僕を標的とした稽古という名のイジメが始まるからだ。
昼食は担当のメイドさんに頼んで持って来てもらっている。だけど質が十段階ほど下がっている。最初に食べたものは柔らかい真っ白なパンと暖かいコーンスープ、分厚く柔らかい香辛料の効いたステーキ、新鮮でシャキシャキするサラダと高級そうなドレッシング、ほんのりと甘味を感じる水だったのが、今はやや硬い黒パンとジャガイモ? 入り薄味のスープ、少し萎びたサラダ、苦味のある水だ。
王宮からも完全に僕はお荷物扱いされ、ただ単に生かしてあるだけのようだ。
まだ奴隷や捨てられていないだけでもマシだろうと思ってなんとか堪えている。
とりあえず、この一カ月の訓練の成果はこれだ。
雲林院零夜 男 人族 レベル:1 経験値:0
職業:
筋力:55
魔力:100
体力:55
耐久:30
魔耐:60
精神:70
敏捷:25
魔法属性:無
技能:ボックス、鑑定、言語理解
称号:異世界人
ほとんど上がっておらず、とある方法で魔力を増やすことに成功したぐらいだ。ステータスがほとんど上がっていないため、体が思うように動かないのは変わらない。だけど、何とか慣れてきてある程度の訓練をすることが出来るようになった。それでも、鈍い体に嫌気が差してくるこの日々……。
遊馬君に至っては……。
遊馬大和 17歳 男 人族 レベル:16 経験値:3032
職業:勇者
筋力:450
魔力:600
体力:450
耐久:420
魔耐:330
精神:300
敏捷:450
魔法属性:火、水、風、土、光
技能:全適性、全耐性、物理耐性、合成魔法、剣術、格闘術、怪力、速足、危険察知、魔力感知、魔力回復、言語理解、スマイル
称号:光の勇者、鈍感野郎、異世界人
と、元の数値から100以上上がっていた。
僕だけレベルが上がらないってどういうことだよ!? 僕は弱いけど、スライムぐらい倒せるんだ! そのスライムを何匹倒したと思ってるんだ! それに、僕のステータスとスライムのステータスが同じってどういうことよ! これも新手のいじめか。世界が僕がいじめるよぉ~(グスン)。
地球にいた時と同じくらい動けるようになるにはどのくらいのステータスがいるんだろうか? 今は半分ぐらいしか動けない気がする。せめて普通に動ければウルフぐらい倒せると思うんだけどなぁ。ない物ねだりしても意味ないか。
皆はウルフという狼やミミズのようなウォームに無双している中、僕はスライムと三十分ほどの時間で若干僕が有利な戦闘している。スライム以外と闘うと完全に僕が負けるため白須さんが援護についてくれている。何度白須さん達に助けられたことか。情けない。僕だって男の子だから女の子を守りたいんだよ。それなのに逆に守られて、『私が守ってあげるからね』って極上の笑みを浮かべて言われたら余計に情けなくなるよぉ~。
この先、どうなるかわかるよね? そう、男子生徒からは妬みと敵意を貰い、女子生徒からは侮蔑を貰うんだ。しかも白須さんは僕が弱くなったことで地球にいた時よりも構うし、皆は急に力が付いたことで自分の力に酔っているんだ。そのせいで僕は地球にいた時以上のイジメを受けている。いろんな意味で、本当に僕は生きて還られるのだろうか……。
……はぁ~。
僕は何回目の溜め息を付き数えるのもバカバカらしくなった。自室の窓から見える青い空と白い綿菓子のような雲を見てまた溜め息が出てくる。
とりあえず、訓練をしても強くなれないのなら他の方法を探すしかないと思い、図書室に入り浸っている。これまでに読んだ本は魔物関係と地理、技能関連、世界の秘密ぐらいだ。
僕の適性は無と記載されている。調べてみた結果この無というのはどうやら適性がないという意味ではないようだ。この世界に人ならば必ず職業があり、適性が存在するようだ。属性は火、水、風、土、氷、雷、光、闇の八つからなるらしい。回復や補助というのは属性ではないので違うらしい。
やっぱり無というのは適性がないことを示すのだろうか。だが、僕はプレートをぼんやり眺めている時ととあることに気が付いた。それは、職業は『ない』を示す空欄なのに、適性魔法にはしっかりと『無』と記載されていることだ。
では、僕の適性である無とは何か。
こればっかりはいくら探しても見つからなかった。
推測だが、無というのは召喚された異世界人の身に現れる適性であること、無はあるが希少過ぎること、人族にはいないこと、意図的に隠している、この四つの可能性がある。
最初の可能性が十分に高そうに見えるが、この世界の歪さを知った後では四つ目が一番高いと考えている。だってそうでしょ? 何か不都合なことがあるから抹消してるんだよ。しかも神に対して不都合なことだと思う。
もし、一つ目だった場合僕にはどうすることも出来ないため試行錯誤するしかない。二つ目の場合はまずおかしい。希少だからこそ何かしらの文献が残っていないといけないだろう。三つめも同じだ。敵の能力が分かっていないとかおかしい。四つ目だった場合、どうにかして知らないといけなくなる。今後の展開次第では僕が神に目を付けられる結果になるからだ。最悪世界の敵として魔王討伐の前に殺されるな。
因みに魔法というのは、体内にある魔力を使って発動させるものを言うらしい。その体内に内包する魔力を詠唱と共に体外へ噴出させ、魔方陣を介することで魔法となって発動する。直接魔力を煉る・操ることは普通は無理なようで詠唱が絶対必要なようだ。どうして魔力が直接操れないのかはわからない。この世界では操ろうと考えもしないそうだ。
そして、詠唱は魔法のランクが上がっていくほど長くなり、込める魔力も多くなる。その分威力や効果が上がる。普通は魔法陣も弄ることが出来ない。
ではどうやって魔法の威力を調整するのかというと、魔法陣はいくつもの式からできていて、属性、威力、効果、範囲、距離、魔力吸上げ(これがないと魔方陣に魔力を介せない)がいる。これに新たな魔法式を組み込むことで追尾機能や二重効果を持たせることが出来る。その分難易度が上がり、消費魔力、詠唱が変わってくる。
こう聞けば誰でも魔法が使える気がするけど、実際は職業のようなもので自分の適性外の魔法を使うにはしっかりとした魔法陣と多めの魔力を必要とする。適性のある魔法は魔法式の省略化と消費魔力を抑え、効果を上げることが出来る。
僕の場合は適性が無だから、普通に魔法を使うには一から魔法陣を作り、多めの魔力を毎回払わないといけないということだ。ステータスが低い僕からすれば使えないのと同じだ。
魔法を発動させる魔法陣は三種類に分けられる。
一つは僕が使っている魔法紙と呼ばれる特殊な紙に魔方陣を描いたものだ。いくつも持っておけば戦略として使えるが、使い捨てで威力が落ちる。
二つ目は魔石に直接刻み込むこと。何度でも使える反面、値が張り嵩張るため多くの種類を持っておけない。
三つめは魔方陣を記憶して直接体内で魔法を介して放つ方法。頭の中で魔方陣を思い出し、その魔法陣に体内の魔力を介して、指先や空間から放つことだ。放った瞬間に体にも被害がありそうに聞こえるが、魔方陣が直接魔法となるわけでないから魔法式に体外で発動と加えれば大丈夫となる。
これで僕がなぜ一番の方法を取っている理由が分かるだろう。
僕達はあの後宝物庫に案内されたんだけど、僕は職業に就いていなく、魔法の適性もない、技能もないということで使い慣れている木刀と手の保護グローブ、安物ブーツを貰った。一応鑑定を有効活用して『自己修復』『殺傷能力向上』という効果が付いているのを選んだ。
といっても、僕が作った魔法陣は火種やコップ一杯程度の水、そよ風を吹かせる、石ころを動かす程度だ。それ以上のものをするとメートル単位の魔方陣を描かないといけない。それに魔力が少ないから意味がない。
僕が唯一使える魔法鑑定は僕にしか使えないみたいで少しだけ優越感があったけど、使っていてあまり効果がないと思えた。鑑定したからと言って僕が強くなるわけじゃないからね。相手のことが分かっても十数倍のステータス差があったら何もできないでしょ。あっちの世界ならどうにかなるかもしれないけど、こっちはちょっとね。体は動かし難くなってるし、反応に体が付いてこなくなってるんだよ。
で、今は魔物の生態という本を読んでいる。この本は図書室の奥の方に眠っていた本で、最初は埃が積もって本かどうかわかっていなかった。
とりあえず、最初のページから読み進める。僕は本を読むのが好きだし、こういった興味のある本を読むのはワクワクしていいよね。
何々……。
魔物とは魔力から生まれるものと野生の動物から生まれてくる二種類がいる。前者は魔力溜りや高位魔族以上の魔力保有量が多い者が直接産み出すことを言い、迷宮やダンジョンと呼ばれる中にいる魔物は基本的に魔力溜りから出来ている。後者はそのままの意で野生の動物の狼や兎等が大量の魔力を吸収して起こる、突然変異のようなものだ。元が野生の動物であるため、前者の魔物よりも若干弱く、地上にいる魔物は基本これだろう。
魔物には魔石と呼ばれる核があり、この核が魔物の魔力供給源となっている。また、魔石は第二の心臓であるため生きている内に抜き取られても死にはしないが魔力が供給されなくなり、衰弱死してしまうだろう。この核を使って魔方陣や杖、魔道具等が作られ、そのままでも使えるが砂状にして魔法陣を組むことで効力が上がる。魔石にも等級があり、高いほど多くの魔力を保有しているため、多くの魔力を込めることが出来る。
「ふむ、魔石というのはこれのことだな。『鑑定』」
僕はボックスに入れていたスライムの核を取り出して鑑定を使った。鑑定を使うとプレートに説明が表示される仕組みになっている。
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名称:魔石
魔力を含んだ石のこと。これを加工して使うことで誰でも効率よく魔法を発動させることが出来るようになる。等級はF。スライムの核。
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鑑定は名称と簡単な説明が絶対に出てくる。
この魔石が良質なほど有効的に使われるが、保持している魔物は強力な魔法を使ってくる。それだけ保有する魔力が多いということは魔法に割く魔力が多くなるということだ。
また、魔物は適性というものを持たない生物として有名だ。
「ん? ならどういうやって魔法を使っているんだ?」
僕はその一文に食いつき、食い見るように次を読む。
魔力には属性がないものであり、魔方陣を介することで属性というものが付く。(詳しいことは魔法大全で調べてみてくれたまえ)そのため、魔力から生まれてくる魔物は適性というものを持たない。野生の動物からなるものも例外ではなく、魔力が体の組織を変異させるため適性がなくなる。人は神が世界の創造と共に創られた生物であるため、聖を受けたと同時に適性を授かる世界の理の一つだ。逆に魔物は世界を創った時の副産物で生まれたため神の手が加わっていないので適性が存在しない。『神に見放された生物だ』
「……僕も神に見放されたっていうことかよ。本当にこの世界は僕に厳しいな。……だけど、適性がない魔物が魔法を使っているということは何かしらの方法があるっていうことじゃないかな? それなら僕も強くなれるかもしれないし、技能が増えるかもしれない」
なのに、なぜ神に見放された魔物が魔法を使うことが出来るのだろうか。それは人族や魔族、亜人族にはない技能、『魔力操作』と呼ばれる魔力を操作する技能を持っているからだ。
『魔力操作』とは、文字通り魔力を直接操作する技能のことだ。魔力操作を使うことで直に魔力を操り魔法にする。例えば、スライムの技能『消化』は魔力で溶かし、ドラゴンのブレスは火炎袋の炎を魔力で拡大させているようだ。こういった技能を固有技能や固有魔法と呼ぶ。
固有技能は一つに付き一種類の効果しか持たないが、詠唱や魔方陣を必要とせず魔力の多さで魔法を調整することが出来る。これは魔力操作を持っている魔物だから出来る芸当だ。
「ということは、僕もその『魔力操作』っていうのを覚えれば魔法を使えるようになる。いや、それ以上のことが出来るようになるのだな。だけど、魔物固有の技能なのか……」
魔力操作についてもっと知ろうとしたが、これ以上のことは本を読み進めてもわからなかった。だけど、これから推測できることがある。
・適性『無』というのは魔力のことではないのか。
これは『魔力には属性がなく、魔方陣を介することで属性が付く』という文から推測したものだ。この無というのが適性なしでも、無属性でもないとしたらそうなる。
そう考えると無が異世界から来て力を宿す異世界人が持つ適性であること、無が希少であること、三種族の中にいないこと、資料がないことが一致する。神に見放された生物の適性だとしたら、そりゃあ文献にも残らないだろうし、魔物の生態がわかっていないのだから残しようもないだろう。しかもそれが『魔力操作』があるため、という結論になっているからね。多分、魔力操作があるから固有技能が使えるのではなく、無という適性があるから魔力操作が使えて固有技能が使えるのだろう。
「よし、今後の目標が出来たぞ。とりあえず、『魔力操作』というのが出来るようになろう」
僕は本が置いてあった場所へ戻し、図書室の司書さんに頭を下げて出て行くが、司書さんに舌打ちされ若干不愉快になった。
朝食のメニューでわかるだろうけど、この一カ月で僕がお荷物だということが周知されてしまったのだ。何とか生かしてもらってはいるけどいつ捨てられるかわかったものではない。それに、あんな食事では体を壊すし、肉もないから栄養バランスも悪い。しかもお腹がすごく減る。
でもそれは外の訓練が始まることで解消した。僕だけが使えるボックスがあるおかげで魔物のお肉を保存することが出来る。しかもこのボックス、生き物は入れられないみたいだけど中に入れたものは時間が停止するみたいで魔物の肉を腐らせずに保存できるんだ。
座学で魔物の肉は非常に不味く体に悪いと言っていたけど、一か月も肉を食べられなかったのと極限まで食事を減らされた僕は、日頃の特訓に実践訓練も加わりお腹の空き具合が半端じゃなかったんだ。だから、そんな状態の僕の前に魔石を取り除かれたウルフの死体等が放置されていたら食べたくなるじゃん。
まあ、空腹には不味くて体に悪い肉だとわかっていてもおいしそうに見えるんだよ。しかも見た目は普通の肉だからね。グロイけどね。それに体が悪くなっても僕は最弱だから戦えなくなっても別にいいでしょ? と、自暴自棄にもなっていた。恐らく、看病をしに白須さんが来るだろうから、食事が良くなるだろうな、という打算もあった。それに、聞いた感じ死ぬわけじゃなさそうだしね。
方法は実戦で外に行った時に誰にも見つからないようにウルフとか食べられそうな肉、森では薪となる小枝と落ち葉、砂が多そうなところでは大量の砂を怪しまれないようにボックスに仕舞う。次に夜中に部屋を抜け出した後、僕が個人練習しているところに行き、近くの池に砂を段が出来るまで敷いて薪を置く。ウルフの肉を木の棒に刺す。その上に火種の魔方陣を描いた紙を使って火を起こして肉を炙る。出てくる煙でばれたら意味がないから、出てくる端からボックスの中に仕舞う。焼けたところで齧り付くということだ。
で、そのお味なんだけど、僕は嘘を付かれていたのかな? とっても柔らかくて濃厚な肉汁と何か隠し味の様な何とも言えない味がするんだ。辛いようなしょっぱいようなね。とってもおいしいし、そこらで食べられるような肉じゃなくて、久しぶりに食べたっていうのもあるから一匹丸々胃袋の中に納まっちゃったよ。
不味いというのは何かの間違いなのか、あのウルフが魔物じゃなかったのかもしれないと思って次の日も試して見たら、同じ味で同じ感触の肉だったんだ。一週間ほど続けたけど、七匹以上食べたのに魔物じゃないというのはおかしいだろ? 体が悪くもならないし、よくわからなかったけど、今ならその原因がなんとなくわかる。
多分、魔物は魔力から出来た生物だから体に悪く不味いんだ。だけど、僕は魔物と同じ適性の持ち主だからその魔力が僕に合ったんだろうね。しかもよく考えれば魔物も魔物を殺して食べているんだからそう考えていいと思う。で、その魔力っていうのがあの何とも言えない隠し味なのだろうね。だって、ステータス見たら魔力量が十倍になっているんだもん。違ったとしても、魔力が増えているのは魔物の肉を食べたからだろうね。
それからは毎日のようにたくさん魔物を食べているんだ。どこまで上がるかわからないけど、ステータスが上がるっていうのがとっても嬉しいんだ。食べただけで魔力が十も上がるんだよ? 他は二日で一だったりするのにさ。うん、うん、誰でもうれしいって感じる。
話は戻すけど魔力操作の練習方法は分からないから試行錯誤するしかない。とりあえず、魔力というものは身体の中にある物らしいから感じることが出来るだろう。っていうか出来ないとおかしくね?
とりあえず、昼間と夜中に買いは静かなところで座禅を組んで体内にある魔力を探してみようと思う。後魔物肉は毎日たくさん食べることにする。なぜなら魔力が増えればその分大きくなるだろうから探しやすくなるだろうね。
僕は部屋の外のカートに運ばれてきた不味い昼食を食べ終わると、ボックスから熱々のウルフ肉を取り出して食べる。現在ボックスに入れられる最大容量は大体五十キロほどで、内二十五キロが生肉、十キロが加工済みの肉、五キロが土、三キロが薪、十グラムほどが煙、残りは原始的な攻撃の石ころだ。普通はこんな使い方をするものじゃないね。




