緊急脱出
この回が帝国編終了です。
また次から週一度更新に切り替えます。水曜日ですね。
ちょっと疲れてきたもので……。
『嵐海龍リヴァイアサン』を倒した僕達は、無事最下層でアーティファクトと古代魔法を手に入れることが出来た。
適性があるもの全ての者が古代魔法を手に入れることが出来なかったのは残念だが、この迷宮で皆のステータスが大幅に上がり、ここでもまた竜の鱗を手に入れることが出来たのでそれで戦力の補強が出来るだろう。
そして、『死水の大遺跡』に最下層で光に包まれて地上へ帰った。
光が消えて目を開けるとそこは初めに見た海岸だった。
まだ迎えは来ていないようだが、迷宮を踏破したことで帝国中に知れ渡っていることだろう。その情報を知ったスティーニャさんはすぐに駆けつけてくれる手筈となっている。
僕はボックスから食べ物と飲み物を取り出し、安堵してお腹が空いた者達に配っていく。
暫く海岸で押し寄せては引くを繰り返す波を見ながら、昂りすり減った心を癒していると後ろから僕達を呼ぶ声が微かに風に乗って聞こえてきた。
「……、――!」
スティーニャさんが馬車の窓から上体を出し、手を振って僕達に向かってきていた。
馬車が近づくと重い体を起こして近づいていく。
「お帰りなさい。あなた達が返ってくるのを心配して待っていたわ。まず、馬車に乗って休んでちょうだい」
モビルさん達がスティーニャさんに報告しようとしたが、疲れているだろうから休みなさい、と促され、頭を下げながら馬車に乗り込んでいく。
僕達もスティーニャさんにお礼を言って先頭の馬車に乗り込む。
ゆっくりと方向を変える馬車から外の風景を見てなごみながら結果の報告をすることにした。
「それで、どうだったのかしら? 踏破はしたのよね」
「おう。だが、アーティファクトと古代魔法は俺達には無理だった。レイヤの言ったように適性と実力がいるようだったぞ」
「そう……」
「だけど、今回の迷宮探索で相当ステータスが上がった。これなら教会の連中には負けないだろう。それ龍の素材もある」
「龍!? 龍ってドラゴンのこと!?」
スティーニャさんは飛び上がらんばかりに驚き、目をくりくりと見開いた。
スティーニャさんが驚くのが珍しいのかみんな面白そうにしている。
「ああ、最後は果てしない海の上で身の丈四十メートルはあるかという巨大な龍との戦闘だった。レイヤ達がいなけりゃあ死んでたな」
「いや、まず一階層目でくたばっていただろうよ」
「違いないですね。いきなり百匹以上を相手にするとか悪辣ですよ」
「最後の方は魔法も効かない、武器は跳ね返る、大変だった」
モビルさん達は手に持つ水を飲みながら疲れた体を解し、僕達に感謝の念を伝える。
モビルさんに至っては僕の首に腕をまき付け、頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
「い、いたっ。僕達も助かりましたよ。注意を引いてくれなければ苦戦したでしょうから」
「私達だけ力を得ちゃったのは申し訳ないですけど、素材に関してはお譲りします」
「王国と一緒」
僕達は馬車に揺られながら談笑し、心地良い風が窓から差し気付いた時には皆眠っていた。
帝国に着くと同時に目が覚め、多くの人達が僕達の帰還を待ち構えていた。
僕とユッカはこの光景を召喚された時と同じだと感じ取ったが、今起きているのはあの時とは違い純粋に偉業を褒めているものだ。
馬車の窓から手を出して振り続け、『食王』の宮殿へと向かっていく。
宮殿の門まで人の列が続き、宮殿の中では役人の人達が列を作って待ち構えていた。
宮殿の手前で止まると各部署の役人たちが集まり、モビルさん達の元へ集まっていく。僕達の元へは門の警備をしている役人さんが訪れ迷宮の話をして盛り上がった。
宮殿の中へ入り、大きな調理上というか食材を置く建物に向かうとそこへ今回の迷宮探索で手に入れた素材を置いていくことになった。
もちろんいくつか貰い受けている。
「上位の魔物とSランク級の魚の魔物、魔人が二体と計測不能の竜種が一体……。良く倒したわね」
スティーニャさんは恐る恐る竜の体を触り、僕達の方を夢でも見ているのではないかといったように、目をぱちくりとさせてみてきた。
僕達も良く倒せたと思っているので苦笑し、骨が折れたことをもう一度伝えた。
「死にもの狂いでしたからね。こいつを倒せば帰れる、目標を達成出来る、死が近くにある、いろいろな感情が渦巻いてました」
「最後の船も持って帰りたかったけど、消えちゃったからね。あそこまで頑丈な船は見たことないよ」
船は残念だったけど、ソフィーが代わりに舟を漕いでいる。
相当疲れているのだろう。ユッカの眼の下にもうっすらと隈が出来ている。早めに休んで明日は疲れを取ることに回した方がいいだろう。
僕達は素材を全て出すとスティーニャさんに休むことを伝え、役人さんに部屋に案内してもらった。
それから二日ほどほぼ眠り続けた僕達は久々に朝早く起き、軽く運動をしたのち朝食を食べに食堂へ向かった。
寝ている間はほぼ食事しかせず、食事をした後は泥のように固まって寝ていたそうだ。
そこにはスティーニャさん達が集まっており、魔物肉の魔力拡散実験が行われていた。この実験はほぼ毎日行われているようで、最近の課題の一つらしい。それも特級に値するもののようだ。
それほどまでに魔物の肉が忘れられないということだろう。
「おはようございます」
「おはよう。もう体の方は大丈夫なのかしら?」
スティーニャさん達は手を止めて僕達に元へ集まってくる。
「ええ、お蔭で元気になりました。そちらはどうですか?」
「レイヤ君の言う通り魔力を取り除けるような装置を作ってみたわ。だけど、まだ出力が足りないみたいで食べられるようにするにはひと月近くかかりそうなの」
いくら魔物の肉が熱に強くても、さすがにひと月も生の状態で置いておくと腐るだろう。
何かいい方法はないものなのだろうか。
「まあ、気長に改良していくわ」
スティーニャさんは諦めてはないけど、と付け足してウィンクを一つ飛ばしてきた。
そのウィンクを笑って躱すと隣の二人は上機嫌になったので、この選択は正解だったようだ。
そっと胸を撫で下ろすとボックスから加工済みの魔物肉を取り出して職人さんに手渡した。
驚きに固まる職人さん達だが、いろいろな反応に分かれた。料理が出来ると喜ぶ者、実験の成功例が見れることに喜ぶ者、食せると涙する者等だ。
調理方法はほぼ一緒なのでそれを伝えるとすぐに調理をしてくれた。
迷宮踏破組のほとんどが起き出し、この日は夜中まで祭りのような騒ぎとなった。
魔物の肉で作った親子丼や唐揚げ、ステーキ、ハンバーグ、カレー、ケーキ、パフェなどいろいろなものを作り大いに盛り上がっていく。
夜が近くなると仕事中にそれを見て羨ましそうにしていた役人たちが集まり出し、さらに大きな祭りと化す。
『食の迷宮』の下層で手に入れた食材をふんだんに使った料理も作られ、僕達は料理人と話し合いながらこの世界にない料理の再現をしていくので盛り上がる。
ソフィーは意外に食べる方なので出来上がった料理を片っ端から食べていく。どれもまた食べたいとお墨付きをもらったので大丈夫だろう。
テェリーナさんがソフィーと競っていたのが一つの余興となりまた騒がせる一因となっていた。
更に別の場所では古代の迷宮が踏破されたと帝国を上げてのどんちゃん騒ぎとなっていた。
価格を抑えられた原価ギリギリの食材が売り出され、それを買った料理人がそれをまた低価格で調理して売りだす。
この祭りはあと三日ほど続き、帝国中の誰もが知る騒ぎとなり、踏破以外にも歴史に残す祭りの一つ『古代の踏破祭』となったのだった。
それから二日ほどして完全に体調を戻した僕達の元へ珍しい人が訪れ、僕達に会いたいと言っているという報告を受けたので会うこととなった。
連れて来られた場所は周りから隔離された一室であり、その部屋は豪華な装飾の施されたところでもあった。
会いたい人はそれなりに有名な人のようだ。
「ここよ。失礼のないように、と一応言っておくわ。多分そんなこと気にしない人だから大丈夫だろうけどね」
よく分からないことをスティーニャさんに言われ、僕達は部屋の中へ入っていく。
部屋の中には三人おり、そのうち二人は背後に立っている豪華で白銀の鎧を着た騎士で、目の前に座っている人は口髭をはやした白髪交じりのおじさんだ。歳は四十前半ぐらいだ。
どう見てもお偉いさんだ。
僕達はどうしたらいいのか分からず待っているとスティーニャさんが先に進んで向かいのソファーに座るよう促してきた。
頭を下げておじさん達の前に座るとおじさんと目が合い、にっこりと笑われてしまった。
「君達が帝国の古代迷宮を踏破した主要メンバーレイヤ殿、ユウカ殿、ソフィー殿でよろしいかな?」
困惑しているとおじさんが僕達の確認をしてきた。
「はい、そうですが……あなたはどなたですか?」
僕が代表して聞くとおじさんは笑い声を上げて謝って来た。
スティーニャさんも微笑んでいることから悪い人ではないようだ。
「いや、すまんな。儂は帝国の王、皇帝だ」
「こ、皇帝陛下でしたか! 知らないとはいえ、すみませんでした!」
僕達は慌てて頭を下げる。ソフィーは僕達が下げたので下げたのだろう。
「よいよい。君達は異世界人であろう? ならば、帝国では王族並に地位の高い存在となる。そう、畏まるでない」
恐らく、王族には建国か初代皇帝が異世界人だと伝わっているのだろう。もしかすると二つとも伝わっている可能性もある。
こういうところはセラも甘いな。
まあ、お蔭で協力が得られやすくなるだろうからこちらとしては助かるけど。
「忘れておった。儂の名はハーバルド・ヒュム・ハイン・イ・イスルギという。知っておるかもしれんが異世界人の血がほんの僅かだが流れておる。五千年も経てば薄くもなるからな」
やはり知っていたようだ。
僕達のこともいろいろと知っているようだし、スティーニャさんが言っていたように皇帝陛下も協力してくれると思っていいのかな?
だとしたら、この会談はお互いの疎通をするためか?
僕達も自己紹介した後軽く話し、本題に入った。
「今日はスティーニャから報告があった君達に興味があったので会わせてもらった」
楽しそうに皇帝陛下は言う。
「君達の事情はある程度スティーニャから聞いているが、君達の口からオーレライ王国の国王にした話をしてくれるか? 信用していないわけではないが、本人の口から聞きたい」
皇帝陛下は真面目な顔で真実を知りたいと言った。
恐らく薄々は教会の歪さに違和感を覚えてはいたのだろうが、世界がそういう物だと成り立っているのだから気が付くのは無理だったのだろう。
「わかりました。皇帝陛下がどこまでご存知であるのか知りませんので、初めから説明させてもらいます」
僕はユッカとソフィーに手伝ってもらいながら詳しく話していく。
この世界に召喚されたこと、ランバルドの言いぐさ、王国と教会、『ボルボナ大空洞』での出来事、その最下層で知った真実、魔族の在り方と現在の体勢、王国への襲撃、その後の教会のやり方、王国での話し合い、あとは帝国で起きたことを話す。
やはり皇帝陛下も男の子なのか、迷宮や襲撃による戦闘を詳しく聞いてきた。
全てを話し終えると皇帝陛下は腕を組んで話を整理しているようだ。後ろの騎士達からは兜で表情は読めないが、困惑しているのが伝わってくる。
「……わかった。君達は訳も分からないところに召喚されただけでなく、壮絶な戦いに巻き込まれてしまったのだな」
「いえ、確かに辛いことばかりですが、楽しいこともいろいろとありますから大丈夫です。それに、力が無ければ辛いでしょうが力はありますし、帰還方法もしっかりとあるそうですから、とりあえず悲観はしていないですね」
「そうか……」
皇帝陛下は少しだけ済まなさそうな顔をして目で頭を下げてきた。
「皇族にはご先祖様達が書かれた日記が受け継がれてきた。もう擦り切れ、ほとんど解読も出来ず、ボロボロとなっているが、その中に『自分達と同じように召喚された者が現れれば協力してやってほしい』と、一番丈夫な表紙の裏に書かれておる」
織田さん以外の異世界人も薄々は気が付いていたのかな?
まあ、人の人生は百年もないだろう。その中でも戦えるのは十歳から四十から五十ほどのおよそ四十年間だ。
四十年で魔族を倒し切るのは確実に無理な話だ。
そのことに気が付いたのが帝国を作り始めった頃だろう。
僕も戦って気が付いたが、魔族もドラゴンと同じくステータス以上に強くしぶとい。
基礎である身体が強靭なのだろう。
「だから、と言うわけではないが、スティーニャからもお願いされたので帝国は極力君達に協力することにした」
「そ、それは、ありがとうございます」
皇帝陛下が言うからには帝国全体が協力してくれると取ってもいいのだろう。
教会が僕達に近づいてこないようにしてくれるだけでもこちらは動きやすくなるからな。
「君達はスティーニャに基本的な協力と教会の情報、意思通達を願ったそうだな」
「はい。今のところ教会が一番邪魔であり、脅威ですから。その動向だけでも知ることが出来れば対処ができるので願ったのです」
「では儂達も同じようにしよう。更に王国と協力体制を築こうと考えておる」
王国と協力体勢……。
僕達としては有難いけど、いいのかな?
教会に目を付けられそうだし、聖王国は黙っていないだろうし……。
「気にしなくていいぞ。元から国交はあるし、数日前王国から密使が届き、二か国会談を開きたいと打診があったからな」
王様はいろいろと動いてくれているんだ。
王国を出て一カ月以上が経つけど、涼風さんやロイ団長は元気にしてるかな?
早く終わらせて会いたいよ。
ユッカも涼風さんに会いたいだろうし。
「今回は君達を見極める、という意味もあった。まあ、実力は申し分なく、人柄も良い、話し合いで信じるに値する、と結論を出す」
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
「ああ、こちらもよろしく頼む。君達からはドラゴンの素材を受け取ったからな、迷宮で力を得られなかったのは残念だが、大幅な強化が出来る」
「力になれてよかったです。僕達はずっとここにいられませんから」
皇帝陛下は嬉しそうな顔を真剣であり、困ったような顔に変えた。
腕を組んで背をソファーに預けると困ったように言う。
「だが、ドラゴンの鱗を加工できる者が少なく、使える状態にするまでに時間がかかりそうなのだ」
「え!? では、王国でも同じですか?」
「そうだろうな。君達に身様な心配は掛けたくなかったのだろう。まあ、全く加工できないわけではないから安心しろ。ただ、人員と設備の無さが原因なだけだ」
人員と設備か……。
僕達にはどうすることも出来ないのかな?
ドラゴンの鱗を加工か……簡単に切れるけど、それではダメだろうし、それに準ずる鉱石も……。
そういえば、ずっとボックスの中に入れていた鉱石があったな。
しかも小説で御馴染のミスリルやら日緋色金やオリハルコン、アダマンタイト、魔鉱石など色々と五十層辺りやそれより下の階層で手に入れていた。
「もしかしてですが、ドラゴンの素材を固定する鉱石とかが足りないとかありますか? 設備の耐久度も足りないとかですが……」
僕がそう訊くと皇帝は驚いたように頷いた。
これも心配かけないようにしてくれていたのか。
「ああ、足りていない。いや、持っていないが正しいな。王宮にある鍛冶工房や有名どころならば大丈夫なようだが、圧倒的に数が足りん。皆を加工するのに数年単位で掛かる。だが、そこは気にしないでくれ。そこは儂達でどうにかしようと思っているからな」
多分、これ以上は頼れないと思っているのだろう。
だけど、僕達は鉱石を持っていても使わないから肥しなんだよね。
「いえ、以前迷宮で手に入れた鉱石を持っているのですが、見ての通り僕達は鉱石を使いませんから有効に使ってほしいと思ったのですが……」
「だが、そこまでしてもらうと……」
「いいじゃないの、受け取っておけば。その分彼らに協力してあげればいいでしょ? 彼らは何よりも協力が欲しいでしょうから」
確かにその通りだ。
僕達が欲しいのは協力だ。
それが何であれ、僕達に協力してくれるのなら有難いことだ。
鉱石を渡せば戦力が増える、死者も少なくなる。
いいこと尽くめで悪いことなんてほとんどないだろう。
「そうですね。僕達も協力が欲しいです。それでもダメなら何か通信出来る魔道具か何かをいただけませんか?」
「それなら構わんが、他にも何かないか?」
「他は……聖王国方面の砂漠に存在する『灼熱のラビリンス』について調べておいてくれませんか? 僕達は話し合った結果、次に向かうのは西大陸にしようと思っています。聖王国は現在僕達のことを指名手配しているでしょうし、ほとぼりが冷めるまで西大陸の迷宮を攻略しようと思っているのです」
確か亜人がいる西大陸は特殊な結界が張られているためセラからその動向を監視されないはずだ。
そうなればいつ出てくるかわからないだろうし、力を付けるのにも最適だ。
「亜人の大陸に行くのか……。わかった、そちらに関する情報をすぐに持って来させよう。聖王国に関しても邪魔を入れてやる。食材の出来が悪いとか言ってな。どうせ、教会の連中にはわからんことだからな」
皇帝陛下はいたずらを考えているような、子供のような顔で笑って了承してくれた。
「では後で鉱石を出しておきます。それと、国王様が来られた時に同じ量を渡しておいてくれますか? 恐らくあちらも同じだと思うので」
「ああ、いいだろう。今はお互いにいがみ合っている場合ではないようだからな。しっかりと半分渡す」
「ありがとうございます」
そのあといろいろと話し合いが行われ、結果スティーニャさん達と同様の協力と聖王国と教会の戦力ダウン、帝国に巣食う悪教会の排除、戦力強化などを行ってくれるそうだ。
通信の魔道具は人族の大陸内ならどこでも使えるらしいが、他の大陸に足を入れると使えなくなるだろうと言われた。
予備も含めて数個貰い受けることになった。
それから数日後。
西大陸のことが書かれている文献を帝国の大図書館で閲覧し、亜人の種類、特徴、生息魔物、危険地帯、古代迷宮の場所、地図などいろいろと手に入れた。
だが、迷宮についてはほとんどわからないためあちらに行って調べるしかないようだ。
リオンについては迷宮を踏破した後にすぐ迎えをよこしたのだが、一週間以上も一人にさせてしまったのはかわいそうだった。
おかげで一日中散歩と狩りに付き合い、毛繕いをし、お昼寝をし、僕の傍から離れようと一切しなかった。
今度からリオンを近くに連れて行こうと心に誓ったのだった。
さらに数日経ったある夜。
ある程度準備が整い、話し合いも終わったことでそろそろ帝国を出て西大陸に行こうとした日、僕達の元へ急ぎの伝令が回って来た。
「夜分すみません! 現在教会の勢力と聖王国の竜騎兵が帝国に向かって進行中とのこと! レイヤ殿達は直ちに出発してくださいとのことです!」
僕達は飛び起きて準備を整えると伝令係の人から詳しい位置を聞き出す。
「現在、敵勢力は帝国の北およそ五十キロあたりを行軍中! 竜騎兵も同様とのことです!」
結構近いじゃないか……。
それに来たということはぶつかる可能性が高い。
地図を見ると東と西を分つ山脈の丁度真ん中に渓谷が存在するらしい。
その渓谷を通らない意外に西大陸に行く方法はない。山脈越えは猛吹雪の吹く極寒の山で、標高七千はあるとのことだ。
「人数は!」
「歩兵二万、騎馬一万、竜騎兵五千です! その中に竜に乗る騎士が十名ほどいるようです!」
竜に乗る竜騎兵とはワイバーンのことではなく、ガッチリとした肉体と強靭な足腰、大きな翼を持つ火竜のことだ。
火竜とは限らないが、大きな竜であることは変わらない。まあ、ドレイクやリヴァイアサンよりは弱いだろうが……。
人数も多いな……。
前回のように蹴散らしていくのも無理か……。
「帝国はこれをどうする!」
「すでに軍を動かし、威圧体勢に入っています。こちらには竜騎兵はいませんが、幻獣兵がいますので安心を!」
「わかった! ユッカとソフィーはすぐに荷物を纏めて馬車に準備、僕はリオンに綱と鞍を付ける!」「了解」
「任せて!」
僕達は部屋を出た後、すぐに馬車をリオンが置かれている裏地へ向かい準備を始める。
すぐに準備を終えると僕はリオンに跨り、二人はいつでも魔法で迎撃できるようにさせる。
今回は正面からぶつかることになるだろう。包囲されると厄介なので空を行くしかない。
僕が道を作りながら竜騎兵のブレスを防ぎ、ユッカとソフィーが後続の竜騎兵に牽制する。
この方法しか脱することはできないだろう。
「リオン! 前方の敵に構わず突っ込め!」
「ガウッ!」
リオンの頭を撫でながら強い口調で前方約数キロ先に見える松明を指さして告げた。リオンはひと吠え鳴くと目に闘志を宿して人獅一体と化す。
ボックスから弓を取り出し、前方に向かって剣聖を込めた一撃を放つ。
「て、敵襲!」
小さく悲鳴じみた声が耳に届く。
放たれた矢は闇に吸い込まれるようにその青白い光を小さくしていき、まるでシャワーから水が出ているように別れると勢いを増して周辺の木々を貫通しながら地面へと着弾していく。
着弾した瞬間に魔力の爆発が起き、周囲に爆風を起こし、手前にいた歩兵の足を止めた。
「グォォオオオオァァアアアアアアァッ!」
前方の敵が視認出来た瞬間にリオンが轟く野太い威嚇の咆哮を上げた。
歩兵に恐怖を植え付け、騎馬を脅して落馬させ、竜を威圧して統制を狂わせる。
リオンに気が付いた歩兵達は腰が抜けて立ち上がれないようだが剣を「来るなァッ!」と叫びながら適当に振り回している。
リオンが一番手前にいた歩兵を踏み潰そうとした瞬間に僕の魔法が発動する。
「『マテリアル』」
魔力の壁が歩兵の上に展開され、リオンは天を駆けるようにその上を進んでいく。
誰もがその現象に戸惑い、リオンの放つ神々しい雰囲気が攻撃を躊躇させる。
「……はっ、な、何をしておるかッ! すぐに撃ち落とせッ!」
『は、はッ』
僕達が大分進んだ後に我に返った竜騎兵が怒声を轟かせる。
慌てたように歩兵が矢や魔法を放つが魔力の壁に阻まれこちらに届かない。空から測れるブレスを取り出した槍から雷を飛ばして爆発を起こす。背後から襲って来る竜騎兵や魔法をユッカとソフィーの魔法が辺りのみ込まれ迎撃される。
背後の方では魔力の壁に気が付いた歩兵が乗り込んでくるので、進化した能力で歩兵を地面に叩きつきていく。その後は魔力の壁を消し、こちらに近付けないように制御する。
「……『大車輪』」
三方向から放たれた炎のブレスを槍を高速回転させることで二つを振り払い、最後に手元に引き寄せて付くと同時に爆散させる。
またすれ違いざまにリオンの一撃が見舞われ竜騎兵の一人が地面へ落ちた。
「無に還れ、闇に帰せ、全てを黒く塗り潰せ、全てを包み込む零の世界へ! 『暗黒障霧』」
「全てを飲み込む大いなる風よ、今一度吹き荒れ、全てを吹き飛ばせ! 『大竜巻』」
二人の魔法が同時に放たれた。
ソフィーの魔法は夜の帳に隠すかのように辺り一帯を黒い霧で包み込み、その霧を拡散させるかのようにユッカの魔法で暴風が吹き荒れ、突然の状況に竜達が叫びを上げる。
「そこだッ!」
音を頼りに竜騎兵が手に持っている長槍で突いてくるが、この霧はただの目眩ましではなく、幻覚作用と半実体化して攻撃を跳ね返すのだ。
幻覚の音に槍の一撃を放った竜騎兵は強力なネットのようなもの突いた感覚が伝わり、次の瞬間全身を叩き付けるように跳ね返って来た。
吹き飛ばされた竜騎兵は方向感覚も狂い真下にいた歩兵の上へ落ちた。
他の所でも同様なことが起き、甚大な被害が出始めた。
そこへ魔法師の風魔法が吹き荒れ真っ黒な霧を吹き払うが、既に僕達の姿は消えてなくなっていた。
僕達は既に敵の上空を突っ切り、帝国と渓谷のちょうど半分の地点の森の中まで来ていた。
この森は強力な魔物が出ると言われている魔の森だ。この森まで逃げ込めば追ってはこないだろう。被害を大きくするだけだからね。
僕達は魔力を回復させながら森の中を慎重に進んでいく。
書いてて思うのですが小説の話の中で自分のネーミングセンスを褒めるときとかは勇気が必要じゃないですか?
自分のセンスに自信がないとあまりできませんよね……。




