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迷宮ボス 水龍

名前が長く、打ちにくいのは何度も間違えてしまいますね。

 第五層。

 この階層が『死水の大遺跡』の最後となる。

 この階層には迷宮のボスが存在し、そいつを倒せばアーティファクトと古代魔法を手に入れ地上へ帰還することが出来る。だが、その迷宮ボスはかなりの強さを秘めているだろう。

 今のところ死者は出ていないが、動けなくなり始めている者が半数近く出ている状態だ。

 次の戦いは守りながら戦うというのはきつく、死者が出るだろう。


 もちろん出したくない。

 そのために前の階層で休憩と準備をしっかり行っている。

 魔力の回復は出来るが、道具の補充が出来ない。

 予想以上に遠距離攻撃の敵が多く矢が尽きたのだ。一応ボックスの中に入っているが、僕の弓は矢を必要としないため義賊団が持ってきた矢しか入っていないのだ。

 なくなれば一階層のみでしか使わなかった石を使うしかない。


 ステータス差が数十倍も開けば最早矢も石も変わらないだろう。

 出来るだけ数で攻め、敵の注意だけでも引いてくれればいいとマーマン戦で感じた。

 終始僕に注意が向いていると皆は安全だけど火力がないため意味がなく、僕も避けるときに後ろに気を配らなくてはならなくなっていた。

 その逆ならば僕の意志で動けるので楽だが、皆の危険は増える。


 どちらがいいかはわからないが、僕に注意が向いていなければ急所を狙いやすく、隙の多くなる大技や溜め技を放ちやすくなる。




 三時間ほど休憩を取ると体力はほとんど回復したようで皆立ち上がり再び闘志を灯す。


「いいか! 次が最後の階層だ! 俺達義賊団初の迷宮ボス討伐となる! どれだけ強いかわからん。先ほどのマーマンよりも強大なのは確かだ。だが! そいつを倒せば俺達は力と名誉を手に入れることが出来る! 敵が強いから悲観するんじゃねえ! 最後の敵だからこそ必ず生きて倒し、地上に帰ることを考えろ!」

『オオオオオ!』

「俺達は『赤猫義賊団』! 帝国に巣食う悪を打ちのめす影の守護者だ! 誰も死なすな! 皆生きて地上へ戻るぞ!」

『オオオオオオオオオオォォッ!』


 地鳴りがするほどの雄叫びが第四層に響き渡る。

 僕達もモビルさんの言葉を聞いて暗くなり始めていた心に火が灯り、誰も死なさないと深く刻んだ。


「テメエら! 行くぞォッ!」

『オオッス!』


 武器を掲げ気合を入れ直す。


 階段を降りていくと再び作りが変わり煉瓦状のしっかりとしたものとなった。

 若干湿度が高く湿っているが不快感はない。だが、この状況でこうなると逆に恐ろしく、それだけ強大な敵がいるのではないかと感じてしまう。


 下まで降りると大きな広間の様な場所に出て、目の前の壁には踏破した二か所の最下層と同じく重厚そうで巨大な扉があった。

 扉には巨大な龍の絵が精巧に彫られている。

 竜といっても翼の生えた四足の竜ではなく、蛇型の東洋の龍だ。

 その周りには嵐と竜巻が起こり、雷が降注ぎ、海が荒れている絵が描かれている。


 どうやら今回もドラゴンが相手のようだ。

 もしかすると古代の迷宮は全部ドラゴンが迷宮ボスなのか?


「よし、テメエら準備はいいな?」


 皆が頷くのを確認すると扉に手をかけ、力いっぱい押し開ける。


 真っ暗な部屋の中に想像通り火が灯っていく。最後に正面の台座に巨大な火が灯り、迷宮ボスの姿を露わにした。


「ひぃッ」


 誰かがボスの姿を見て引き攣った悲鳴を上げる。

 ボスの姿は扉の絵と同じく東洋の蛇の姿をしている。海を思わせる透き通った青色の鱗と深緑色の鬣、眠っているのか目を閉じているが口元からはオレンジ色の長い髭が動いている。前脚なのか薄い鰭のようなものがある。

 見上げる状態のため全体は分からないが、恐らく今まで出てきた中で一番大きいだろう。少なくとも体長三十メートルはあるだろう。


 この階層も広く、東京ドームがいくつも入りそうだ。

 部屋は天井がなく灰色の厚い雲が広がりゴロゴロと音が響き、横から吹き付ける風は強くないが髪と服が動く。地面は……ここは地面ではなく巨大な船のようだ。木製の戦艦のようだが、この戦艦には操縦席などはなく、単なる足場のようだ。


 『鑑定』を使った結果、ステータスは平均12000ほどで、どれが高いとは言えないが敏捷が一番高い。技能は水系が多い。

 名前は『嵐海龍リヴァイアサン』という。

 特徴は天と水を司る海のドラゴンであり、船乗りたちの神であり、同時に恐れられる存在だ。攻撃手段は水ブレスや薙ぎ払い、旋回等だな。基本的に皮膚は硬いが雷に弱く、下顎の逆鱗ぐらいだ。そのあたりはドレイクと変わらないようだ。また、寝ているため見えないが、胸元に水色の宝石があるそうだ。それも弱点だな。


 刀を抜き放ち、慎重にリヴァイアサンへ近づいていく。リヴァイアサンは鼻を引くつかせると薄ら目を開け、僕達を視界に収めた。

 その瞬間に体を蠢かし、覚醒するかのように上空へ君臨した。


 体長は三十いや、四十はある。

 皆口を開けて呆けているが、リヴァイアサンは待ってくれないようだ。


「皆、退避!」


 僕の声に皆がリヴァイアサンに背を向けて走り出す。僕は跳躍するとリヴァイアサンの目の前に躍り出て斬り付ける。


 刀の一撃は鱗に阻まれ激しい衝撃と痺れが腕にかけ上り、リヴァイアサンから放たれる水のブレスの方向が変わった。


「ギャアアアアアアアアァァ」


 甲高い声がリヴァイアサンから放たれ、金色の瞳が僕を捉えた。


 僕はすぐにその場から消え迫り来ていた尻尾の一撃を躱す。尾は海面に叩き付けられ巨大な波が起きる。


 戦艦の様子が気になるが、目を離すわけにはいかない。二人を信用して任せるしかない。


 僕は再び顔まで近づき剣戟を浴びせる。


「雲林院無心流剣術……『桜蘭乱櫻』」


 鞘から抜き放つと同時に体を回転させて竜巻を起こし、真空の刃を幾重にも飛ばす。

 エフェクトは桜だろうな。


 それでも鱗に阻まれ傷すらつけられない。

 あの時とは違い刀の切れ味を上げることが出来ていないからだ。


 リヴァイアサンは剣戟の嵐に突っ込み噛み付こうとして来た。僕は空を蹴って逃げるがさすがに相手の方が上空では有利のようで追いつかれてしまう。

 刀を振り抜き気の衝撃波を放つが頑丈な鱗と牙に打ち消されてしまう。


 ならばと逆に突っ込み、口の中に入らないように牙に刀を当て噛みつかれないようにする。

 僕はそのまま吹き飛ばされ戦艦の甲板に叩き付けられた。


「ぐッ」

「レイ君!」


 肺から抜けた空気をすぐに取り込み、近寄って来ようとした二人を手で制す。

 すぐに突っ込んで来ようとしているリヴァイアサンに目を移し、『鬼金剛力』『鬼豪腕』『鬼豪脚』の三つを使い、全身に『硬質化』をかけ、気功術をスカって気を蓄えると刀に送り込む。

 刀が黄金色に輝き十分に気が溜まったことを確認すると目の前まで迫っているリヴァイアサンに一撃を加える。

 皆は離れ戦艦の端から攻撃を加えている。


「雲林院無心流剣術秘剣……『天元』」


 全身のばねを使って放たれた突き技の一つ『天元』はリヴァイアサンの重心の中心を貫き、光線のような一撃が硬い鱗に阻まれることなく肉体を通り内側から破壊する。

 鼻先に当たった一撃は後ろ喉辺りを突き抜け内側から肉が盛り上がり爆ぜた。

 肉片と鱗が舞降り、血の雨が降注ぐ。


 だが、激しい衝撃が腕を駆け巡り骨に罅が入る。肩の関節を痛め、十分に上げることが出来なくなった。


 戦艦の艦尾が上へ上がり戦艦が斜めとなる。皆荒れ狂う海へ落ちないようにしがみ付き、崩れ落ちようとしているリヴァイアサンを見守る。


 僕はリヴァイアサンを見ながら肩に手を当て『錬気』を使い回復させる。体内では腕に気を集め治癒力を高くし、内丹術で気を養い回復させる。

 体が暖かくなり痛みが和らいでいく。

 戦艦が戻るとユッカもすぐに駆けつけ回復魔法をかける。


 リヴァイアサンは海の中へ落ち沈んでいくが、まだ倒し切れていないだろう。

 今のうちに刀を握られるほど回復させなければ。


「ギョオォァァァァアアアアアアァ」


 リヴァイアサンは怒りの籠った方向を上げながら、戦艦の上を飛び越え海に入る。


「もういいよ。ありがとう」


 僕はユッカにお礼を言うとすぐに刀を握り直し、リヴァイアサンを『空間把握』で捉える。

 リヴァイアサンは何度も戦艦の下を行き来し、海上に顔を出すと高圧の水のブレスを吐いた。


 狙いは僕ではなく、義賊団の皆に変えたようだ。


「……『一閃』」


 僕は滑る甲板を蹴り付けブレスを斬り付ける。

 その直後ソフィーの魔法が放たれた。


「『炎獄砲岩』」


 三つの属性が混じり合った巨大な岩の塊がリヴァイアサンの横顔に直撃し、ブレスの方向がずれた。


 勢いをなくした大量の海水が甲板に落ち今度は艦首を持ち上げる。

 義賊団の皆は運よく捕まっていたので誰も放り投げられていないようだ。だが、衝撃で気絶した者が何人かいる。


 リヴァイアサンはこちらを睨み付けると大口を開けて突っ込んできた。

 再び立ち向かい戦艦に当たる前に下顎を上へ蹴り付け軌道をずらし、がら空きとなった首に剣を振るがまだ斬れない。


 蹴りつけた衝撃で爪先を痛めたが戦闘には支障ない。


「気絶した者を起こせ! 海に放り出されるぞ!」


 モビルさんが指示を飛ばし、ユッカは結界を張って応急手当てを始める。

 先ほどの怒りの咆哮で天が怒り、大雨と嵐が吹き荒れる。


 やはりドラゴンの生命力は高く、ステータス以上の力を秘めている。

 体に穴を開けてもすぐに治癒が始まる強力な治癒力、豪雨に竜巻に轟雷と天候を操り、水中も早く天空でも自由に動く。


 こちらは足場が悪く、いってはなんだが足手纏いが多くいる。気配は捉えられるが視界が悪くなりしっかりと見極めるのが困難だ。


 このままでは全滅はしない物の死者が出るだろう。


「ハアァァアアアアアアァァッ」


 引き攣るような方向が轟き竜巻が向きを変えて戦艦に迫って来た。


「ユッカ! 一か所に固めて結界を! ソフィーは戦艦の保護!」

「了解」

「皆こっちに集まって!」


 怪我人をすぐに集めユッカは結界を施す。

 魔力が残り少なくなり始めているのだろうか息が荒く、顔色が悪い。

 ソフィーはまだ大丈夫そうだが、極大魔法は二発ほどしか放てないだろう。


 僕は海へ躍り出ると海上を走り、激しい水の弾丸を刀で斬り伏せる。塩辛い水が口の中に入るが今はそれどころではない。


 高波を超えるとすぐに落ち、飲み込まれそうになる津波を横に一閃して水へと戻し、突き技で大穴を穿って突き進む。


 これらは全てアニメで見てきた技だ。

 この世界は死の危険性が無ければどんなことでも技能と魔法でやり切ることが出来る。

 僕も小学生の頃まではいろいろな技を見ては使えないか特訓をしたものだ。


 まあ、ほとんど無理だったのだが……。


 近づくにつれて風が強くなり体が宙へ飛ばされそうになる。風を『風刃』で切り裂き、刀の風圧で押し返す。


 竜巻の中央まで到着すると中腹まで飛び上がり、気を蓄えた拳を振り抜く。


「……『烈波剛衝拳』」


 空気を殴り付けることで竜巻を横殴りにすると、竜巻は折れ曲がるように形を変え、霧散するように強風を孕んで消えていく。


 僕はその風に乗ったまま戦艦へと戻る。




「やらせない。『双岩爆砕』」


 ソフィーは両手を広げると戦艦ほどの大きさの岩が二つ出来上がり、両手を打ち鳴らすことで岩はリヴァイアサンの身体を挟み込む。

 固い鱗に阻まれほとんどダメージを与えられていないが、ソフィーは戦艦を守るためにリヴァイアサンの動きを封じる。


「続けて。『牢岩』」


 ソフィーは体の中から魔力が抜けるのを感じ取り、ふら付きそうになる足を気合で持ち越す。

 リヴァイアサンの身体は頭まで岩で包み込まれ、完全に視界を封じる。


「シャァァァアアアアアアァ」


 再び甲高い方向が轟き、今度は無差別の水の弾丸が降注ぐ。戦艦は何か魔法でも掛かっているのか着弾しても軋むだけで壊れることはないようだ。

 ソフィーは避けながら水の弾丸を打消し、更なる魔法の詠唱に入るが邪魔をされて集中できていない。


「『聖壁』」


 そこへユッカの結界魔法が届き、一瞬の安全な時を得た。

 ソフィーはその時を無駄にせず、詠唱を素早く唱え極大魔法を放つ。


「五芒星、赤は燃え盛る地獄の業火、青は全てを飲み込む大いなる津波、緑は命を刈り取る死神の刃、黄は世界を枯らす困窮の大地、黒は全てを無にする絶対の力、全ては合わさり一つと化せ! 『混沌魔法・へブル』」


 想像魔法より作られたソフィーの持つ五つの適性を合わせた魔法、混沌魔法。

 放たれた魔法は空間を歪めながら水の弾丸を飲み込み、風を打ち消し、雨も無制限に飲み込む。

 生きとし生きる者の生命を奪う最強の魔法だ。


「ギャアアアアアアアアァァ」


 リヴァイアサンは咆哮と共に水のブレスを吐き閉じ込めていた岩から顔を出す。体についていた岩は暴れることで剥がれ落ちていく。


 そこへ先ほどの混沌魔法が岩を飲み込みながらリヴァイアサンに当たるが、リヴァイアサンは水の膜を作り出し混沌魔法に持久戦を挑んだ。


 溢れるように出てくるリヴァイアサンの水の膜を次々に飲み込んで消し去っていく混沌魔法。リヴァイアサンは雄叫びを上げて水の量を増やす。更に海水を操り混沌魔法にぶつける。


「ソフィーちゃん!?」

「だ、大丈夫」


 ソフィーは維持するだけで魔力を持っていかれる。

 ユッカが崩れ落ちそうになるソフィーを抱き留め、口元に魔力水をあてる。

 小さな白い喉が上下に動き、零れた魔力水が雨に当たって垂れていく。


 魔力が少し回復したところでソフィーは気丈に立ち上がり、両手に力を込めて突き出した。


 それに習うかのように混沌魔法は進む勢いを増し、全ての水を飲み込みながらリヴァイアサンの水の膜に衝突した。水の膜に衝突すると吸収する量が一気に増え膜が薄くなり始める。


 リヴァイアサンは不利と悟ったのか海水を混沌魔法から割き、皆のいる甲板に向けて突き出してきた。

 水は蛇のように動き戦艦に向かって突き進む。


 さすがのこの質量と勢いではユッカの結界も紙と同じだろう。

 ユッカも魔力水を飲み魔力を回復させるがいくら魔力を注いでも数秒堪えるだけが精いっぱいだ。

 魔力水も一気に回復させるための代物ではないため魔力が枯渇して逆に危なくなる。


「ハアァァアアアアアアァァッン」


 水の蛇がユッカの張った結界にぶち当たり戦艦に大量の水が降注ぐ。戦艦は重さに耐え兼ね軋む音が鳴り響き、徐々に海の中へ埋まるように沈んでいく。


 ユッカは両手を上へ突き出して踏ん張るように結界を持ち応えさせるが、魔力が減り結界の強度がなくなってきたため罅と亀裂が入った。

 結界の罅から欠片が落ちそこから大量の水が噴き出す。義賊団の面々は結界の中央へ入りユッカを支えると共に、リヴァイアサンに魔法を放ち意識を逸らそうとするが、リヴァイアサンは歯牙にもかけない。


 次第に水の威力が増したのか罅が一気に入り強烈な水が戦艦に、ユッカに迫って来た。


「『マテリアル』」




 僕は空中を蹴りつけ高速で跳び出すとまずは状況を確かめてやばそうな戦艦と水の蛇の隙間に魔力の壁を作り出し防いだ。

 それでもあまり防げないと感じ取った僕は逆に戦艦の下に斜めの魔力の壁を作り、戦艦を後ろの方へ移動させた。


 上空の魔力の壁が砕かれ水の蛇が海中へ突き進んでいく。大きな津波が起きるが斜めに張った魔力の壁が防ぎ切り、戦艦は海の上へ無事戻った。


 混沌魔法は水の膜を突き抜けリヴァイアサンの身体に当たり、鱗を削り取り始めた。


「キシャァァァアアアアアアァ」


 リヴァイアサンは目を見開くと維持していた全てを消し去り、体をくねらせ翻る。混沌魔法は鱗を削り取りリヴァイアサンの胴体に小さいが半月の跡を残した。


 リヴァイアサンは身体を傷付けられたことに怒り、天に上ると大口を開けて戦艦に突っ込んでいく。


 ソフィーとユッカは既に魔力が枯渇し、甲板に座り込んでいた。目にはまだ死ねない、まだやる、という闘志で燃えているが、魔力の枯渇による体のだるさには勝てない。

 僕はすぐにリヴァイアサンと戦艦の間に入り込み刀を握り締めると下から上へ斬り上げた。


「キシャアアァァ」


 今度も硬い感触が伝わってきたが鱗に阻まれることなく肉へと到達し、口に縦の傷跡を残した。リヴァイアサンは突っ込む勢いをなくし、痛みに顔を上げてしまった。


 僕はその隙に体へと接近し、刀を右下に構えると半月を描くように斬り上げる。柔らかそうなお腹の白い鱗が切り裂かれ、夥しい量の真っ赤な血が噴き出る。更に体を仰け反らせるリヴァイアサンはそのまま僕を睨み付け、尾の一撃を後ろから浴びせてきた。


 僕はそれを『空間把握』で読み取り、更に『先読み』で次の攻撃を直感的に悟ると横ではなく後ろへ下がり、下から噴き出してきた大量の海水から逃れる。尾の一撃を刀で受け止め、食い込んだ肉を刀の刃を上にすることで鱗にひっかけ、鋭く硬い鱗と鋭い棘のついた尻尾を切り裂いた。


 宙に舞う尻尾は空中を回転し、海の中へ沈んでいった。


 未だに硬い感触があるがこいつの鱗を切り裂くまでには切れ味が上がったようだ。

 これならいける!


「シャアァァァアアアァァ」

「はあああッ」


 自慢の尻尾まで切り裂かれたリヴァイアサンは怒り狂い、空中にいる僕に向かって噛みついてきた。

 僕は急降下することでその範囲から逃れ、空中を蹴りつけてがら空きとなった胸の宝石に近づき刀を振るう。


「……『魔・刺紫電』」


 リヴァイアサンの胸元に刀の剣先が突き刺さり、そこを中心に飲み込まれるように刀が押し込まれ大きな罅と欠片が落ちていく。


 リヴァイアサンの弱点を突いたことによる悲鳴の声が耳元で鳴るが、好機を逃さないと更に魔力を込めて押し込む。

 バキンッ、と悲鳴よりもなぜかよく聞こえた宝石が砕ける音は大きな欠片となって海の中へ落ちていく。


 派手な水飛沫を上げる宝石を見ながら、僕は苦しみに体をくねらせているリヴァイアサンを見つめる。


 これで後少しだ……。


 再び空中を蹴りつけると天高く伸び切っているリヴァイアサンの顎に向かって接近する。

 今度はがら空きとなっている顎の弱点――逆鱗を剥ぎ落そうと刀身に先に左手を添え、右手で捻り上げながら切り上げる。


「……『飛翔閃』」


 顎に目を見張り、鱗が逆に生えている一列目に刀の刃を喰いこませ、刀を捻り上げながら上へ斬り込んでいく。

 人体にこの技を使うと斬り込んだ肉を抉りながら、上へ斬り伏せることになる。


 逆鱗は剥がされ、血肉と一緒に飛び散っていく。

 リヴァイアサンは既に怒りに身を任せる力もないのか痛みに息を荒げているだけだ。


 僕はこれが最後だと気持ちを新たに入れ替え、皆が無事か一瞥すると天高く飛び上がり刀を片手に飛び降りる。

 空気圧が起こり耳鳴りが起きるが些細なことであり、刀の先をリヴァイアサンに向けて構える。


『いっけええええええええぇッ!』


 皆の声が大合唱となって迷宮ボスの部屋に轟く。

 リヴァイアサンは竜の意地というか、ボスの意地というか、震える身体を無理やり起こし、海水を操って最後の一撃を食らわせてきた。


 いくつもの海水を避け向かう僕に今度は巨大な塊が飛んできた。更に横からは海水の蛇が噛みついてくる。

 ここは突っ込むしかないか……と、考えたところへ苦しいだろうに援護射撃が飛び、目の前に穴が開いた。


 助かった。

 と、感謝の念を送ると海水のトンネルを大気を切り裂き、一つの隕石と化した僕が風切り音を鳴らしながら突き進む。

 海水のトンネルを抜けるとリヴァイアサンの大口を開けた頭が近くにあり、僕はそのまま口の中に入り内側から突き破ってリヴァイアサンに止めを刺した。


 穏やかになり始めていた海面に再び大きな波が起こり、皆の乗り戦艦を揺れ動かす。

 目の前ではピクリともしないリヴァイアサンが静かに金色の瞳から光を失い、ゆっくりと瞼を閉じながら海の中へ倒れ込んでいく。


 いつの間にか嵐と竜巻もなくなり雲の隙間から差し込む太陽の光は、あれほど死の恐怖と怒りを露わにしていた破壊神への後光の光となり、幻想的で神秘的な終わりと始まりを描いているようだった。


 誰もが先ほどまで棺桶に片足以上を突っ込んでいたとは思えないほど穏やかな気持ちとなり、並で揺られる戦艦に吹く風が心地よいと感じ取った。


 僕は海中の中を移動して戦艦の後ろから浮上するとゆっくりと甲板に降り立ち、刀を拭いて鞘に戻す。


 今回の戦いは相当きついものがあったな。

 戦闘方法もだけど、実力もだ。

 いくらステータスが高くてもそれが身体に伴っていないと意味がないと痛感した。

 どこかでステータスが高いことを安心していたのだろう。


 僕は皆の元へ向かいユッカとソフィーに抱き付かれながら、ボックスからポーションなどの道具を取り出し今にも死にそうな人に緊急手当てを施す。

 二人には神緑の苗木の雫を飲ませて体力と魔力を回復させる。

 それでもすぐには回復しないため安全となった甲板に座っている。


 僕も少々ふら付くが今は重傷者の手当の方が先だと考え、気功術の中でも回復力増進作用のある、戦闘でも使った『錬気』と体に安心作用を与える『快気』を使う。

 顔色が蒼くなっている人は赤みが差し、炎症を起こしかけている人は毒素が消え苦しみから解放されていく。


 皆何故か僕のことを拝みそうな目で見ているが、僕がやっていることは気功術があれば誰でもできるのでそこまで凄いことではない……はずだ。


 今回の最後の戦闘でも死者は出なかったが、回復魔法でも治せない負傷者が出てしまった。

 とりあえず死者が出なかったことに安堵するべきだろう。

 幸い帝国なら戦闘が出来なくとも生きていくことはできるだろうし、迷宮の攻略者ならばそれなりの保護を受けられるだろう。

 彼らがいなければもっとつらい戦闘になっていたはずだからな。


 暫くすると周囲に変化が訪れ始めた。


「こ、今度はなんだ!?」

「もしかして次の階層が現れるのか!?」

「ば、馬鹿言え! ここが五層で、迷宮ボスの扉を潜っただろうが!」

「だが、一体何が起きようとしているんだ……」


 辺り騒々しくなるが、考えられることは恐らく一つしかない。

 このままでは帰れないので迷宮の核のある部屋が現れるのだろう。


 目の前に巨大な渦が現れ、吸い込まれるように笠が減っていくが、不思議と戦艦とリヴァイアサンの亡骸は巻き込まれずにその場にいる。渦の波の影響すら起きないということは、これは迷宮の不思議の一つなのだろう。


 渦が消えると同時に周囲に明かりが消え四方に壁が現れた。それと同時に戦艦が静かに地面へと消えていき、僕達は久しぶりと感じる地面に腰を下ろした。

 目の前には古めかしくも新しい扉が現れ、とうとう二つ目の古代迷宮『死水の大遺跡』を踏破したという実感が昇って来た。


 更に海へ沈んでいったと思われた尻尾や逆鱗などリヴァオアさんの素材が丸々目の前に横たわっていた。


 ここからは皆テンションと歓喜の気持ちに舞い上がり、我先にと扉の奥へ駆けて行った。僕達は一度見ているのでゆっくりと負傷者を運びながら扉の中へ入っていく。




 今回の核は水色のクリスタルだった。

 あの時と同じく右側に地上へ帰還する転移陣があり、反対側には金属ともとれる重厚な扉があった。


 この先に二つ目のアーティファクトと古代魔法がある。

 さて、誰が適性者だと認められるか……。

 それとほんとうに僕の存在が必要なのかも確かめなければ……。


 一頻りクリスタルを眺めた後は目的の一つである扉の眼に立つ。

 扉をよく見ると下へ降ろすレバーが二つあり、このレバーを下すと扉が開く仕掛けのようだ。


「……考えていても仕方ねえ。試しに下してみるか」


 モビルさんがそう言って一歩前に進むとれ場を両方持って下へ落とした……が、レバーはビクともせず、モビルさんの全体重が乗っても動かなかった。

 いくら疲れているといってもこれはあり得ない。

 やっぱり適性者でないと無理なようだ。


「やはり適性者のみが先に行けるようですね。とりあえず全員やってみましょう」

「そうだな。こんだけいれば誰かが開けるだろ」


 義賊団のみ長崎にやっていくが誰も下すことは出来ず、水の適性を持っている者が挑むと、


『水の適性を確認しました。……残念ですが、ステータス不足です』


 と、アナウンスが流れた。


 そういえばあの時は急いでいたから気にしなかったけど、同じようなアナウンスが流れたな。

 情報から水の適性持ちで、ステータスが足りていれば入れるようだな。


「てぇと……お前達しかいねえな」


 義賊団の皆がこちらを向く。


「僕とユッカは水の適性持ちじゃないからソフィーだね」

「うん」


 ソフィーが試すとレバーは落ちたが片方が落ちず、『無の適性者の確認ができません』と、アナウンスが流れた。

 どうやら僕もいるようだな。


 今度は僕もレバーに触り同時に下すことで『水トムの適性を確認』と、アナウンスが流れ、僕達は先に進んでいくが、後ろの人は何やら壁に阻まれ入って来れないようだった。

 まあ、普通そうだよね。


 目の前にはあの時と同じくこの世界にはあり得ないほど高度な機械が置かれている。

 右手にはソフィーのア―ティファクトだろう杖と左手には宝玉が二つ埋め込まれている。


「あの杖はソフィーのだから貰っておきなよ。能力については帰ってから調べるからね」

「わかった」


 杖は黄色が差した白色の持ち手に銀色の石突、先端は蒼と紫のクリスタルが嵌め込まれ、それを左右から挟むように黒い羽根のような飾りがついている。

 見ているだけでアーティファクトだな、と思える代物だ。


 次に宝玉に触って古代魔法を覚える。

 二つあるということは、片方は僕のものかと思い触ってみると、案の定僕専用のようで『マテリアル』が進化したのが直感的にわかった。


 宝玉を好感してみたが何も起きず適性者用の魔法だと確かめた後、すぐに皆の元へ戻りどうだったかと質問の嵐を頂いた。


 因みに杖は『ウィズダムワンズ』といい、大気中から集めた魔力を変換し、持ち主が魔法を放った際に消費魔力を下げさせる、また魔力を変換し回復させることも出来る。僕の刀と同じく『叡智(ウィズダム)』ということで手の中に戻ってくる。破壊不可能の武器だ。


 魔法についてはソフィーが重力系の魔法で僕は『マテリアル』を飛ばせるようになった。

 結界と同様に固定しか出来なかった『マテリアル』だが、今回の進化で槍の形状にして飛ばすことも、武器として創り上げて使うことも出来るということだ。


 今後も進化するとなると面白い魔法かもしれない。


 僕達は質問をやめ地上へ帰還することにした。


 三十人余りが一人ずつ転移陣の中へ入っていき、地上へと帰っていく。最後に僕が入り完全に『死水の大遺跡』が踏破されることとなった。

 このことは帝国全土の広がりどんちゃん騒ぎとなったのを知るのは地上に帰って暫くしてからだ。


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