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いざ、『死水の大遺跡』

今日は忘れませんでした!

 デザートを食べ終え、僕達は居住まいを正した。


「それで、合格でしょうか?」


 器を全て片付けて判定を聞いてみる。

 手応えはバリバリあるから、情報と協力を得られるだろう。


 スティーニャさんは腕を組み、足を変えると、真剣な目で僕達を見渡す。

 幹部の五人はそれに合わせて大きく頷いた。


「……満場一致ということで、あなた方に協力しましょう。確認するけど古代迷宮『死水の大遺跡』の情報、教会の動向・報告、『赤猫義賊団』との繋ぎ、この三つでいいのよね」


 スティーニャさんは三本の指を立てて言った。


「はい、それだけで構いません」

「皇帝陛下との繋ぎはいらないのかしら?」

「ええ、既にご存知かもしれませんが、僕達は異世界人です。現在、元の世界に戻る方法を第一に考えて行動しています」

「知っているわ。詳しいところまでは分からなかったのだけれど、王国で召喚された異世界人だというのはカレーを食べた後、すぐにわかったわ。そこから辿っていくとあなた方の置かれた状況もある程度理解したわ」

「なら、話は早いですね。僕達の目的である元の世界への帰還はセラを倒さなければなりません」


 僕達はセラについて知っている情報を隠さずに伝えた。

 この世界が遊びの世界であること、魔族の戦う理由。教会の真意等々。

 まだ、ソフィーが魔王だということは伝えていないが、情報は入っているだろう。


「……ふぅー。聞いてみると信じがたいのだけれど、あなた方が嘘を付くとは思えないわね」

「そう言えば、教会が何やら不穏だというのは何年も前から掴んでいる。ここ最近はその行動が激しくなったな」

「それは僕達が起因しているでしょう。王国を去る際に教会と聖王国の竜騎兵に攻撃されましたから」

「聖王国もか……」


 重い空気が辺りを彷徨う。


「聖王国とはまだ接触していませんが、あそこは宗教国家です。近づくだけで、追手が来るでしょう」

「だから、帝国に来たんだな」

「はい。帝国は教会の勢力がそれほど強くないと聞いたので。あと、人が作り上げた国でもあると」


 皆腕を組んで考える。

 僕達は、協力はえられるのだろうと思っているが、どのような協力体制にすればいいのか分かりかねていた。


「なら、なおさら皇帝陛下の繋ぎがあった方がいいのではないかしら」

「それは、伝手があった方がいいですが、もう時間がないのです。休憩した後、情報と協力を得られればすぐにでも迷宮に挑みたいと思っています。人族の大陸――東大陸にいれば確実に教会の追手が来るので」

「それまでに『死水の大遺跡』を攻略しておきたい、せめて迷宮に入り込みたい。そう思っているのだな?」


 モビルさんが纏めるようにそう言った。


「はい。迷宮の中に入ればステータスを活かして進んでいこうと思いますから」

「わかったわ。それでは、私の方から皇帝陛下にお伝えしておきましょう。踏破者が出たことは既に皇帝陛下も掴んでおられるでしょうし、踏破者が招かれるのは当然だと思うわ」


 どうやって知っているのか分からないが、長年踏破されていない迷宮が等はされれば王宮に招かれるのもわかるな。

 迷宮ボスの素材も欲しいだろうし、人材としても確保したいだろうからな。

 まあ、僕達はそう言うわけにはいかないから仕方がないが。


「皇帝陛下も教会の勢力には頭を痛めておられるのよ。代々続けてきた食材の統治がここ最近乱れ始めてね。恐らく原因は王国の勇者召喚でしょうけど、あなた方の話を聞けば王国にはそれほど非はないようね。王国も教会の勢力に反発していたようだし」

「はい、一応協力を得られるようにしましたが、あそこは神が創ったと言われる国です。何が起きるかわかりません。教会の勢力も大きいですし」

「皇帝陛下にもそう伝えましょう。王国とやり合うのは難しいかもしれないけど、食材の調達と阻害、協力は得られるようにするわ」

「頼みます」


 スティーニャさんともう一度僕達は握手をして、協力体制が得られたことを再確認した。




「ところで、先ほどの肉は何だ? 頼むから教えてくれ」


 ファナスさんは今にも掴み掛ってきそうなほどそわそわし、目を血走らせている。


「いいですけど、怒らないで下さいよ」

「怒る? どうして」

「まあ、しっかり加工して処理済みなのでどうといったこともありませんし、体に害が出ないことも確認済みなので安心して聞いてください」


 僕が真面目な顔でそう言うと五人も真剣な顔になり頷いた。

 ユッカとソフィーは何肉か知っているので苦笑している。

 この先のビジョンが思い浮かぶのだろう。

 僕も浮かんでいるのだから。


「いいですか? この肉はどこにでもいる『魔物』に肉です。使った肉は『ボルボナ大空洞』の七十層辺りに出るサーペントウルフの肉です」

「……は?」

「ですから、『魔物』の肉です。推定ランクS? の魔物サーペントウルフの肉です。もう一度言いますがしっかりと加工済みなので体に害は在りません」

「……魔物? …………」


 ボックスから取り出した魔物肉をテーブルの上に置いて確かめてもらう。

 僕と肉を何度も見て目をぱちくりさせると大きく息を吸いこんだ。


『ええええええええええええええええええぇぇッ!』


 ドラゴンの咆哮もここまでの威力があったかという大絶叫が応接間に轟く。

 何事かと部屋の外が騒がしくなり、地位の高いものが確認に来るが未だに叫んでいる五人を見て困惑している。

 僕と目が合ったので何でもないです、と一応伝えるとそうですか、と言って退室した。

 叫んでいるだけだと判断したのだろう。


「ほ、ほほほほほほんとぉぉに、あの肉は魔物の肉なのぉぉッ!?」


 揚げる声をやめたスティーニャさんが僕の胸ぐらを掴んで言った。


「ええ、正真正銘あの肉は魔物の肉です。しっかりと加工済みなので、味も、体調も大丈夫でしょう?」

「そ、そう言われれば……」


 解放された僕は地面へ着地する。

 どこにこんな力があるのだろうか。

 意外にステータスが高いのかな?

 『鑑定』を女性に使うと二人に何か言われそうだからやめておこう。

 したってスリーサイズとかはわからないのに……。


「だが、魔獣の肉といえば過去何回も挑戦した者がいるが、加工するのも、解明するのも、食すことも出来なかったんだぞ?」

「お前はどうやって加工したんだ? 味は通常の肉よりも濃厚で、肉汁が滝のように溢れ、ほのかに独特の締まる味がある。伝えられている魔物の肉の味と真逆だ」

「私も味をしたことがある。だけど、舌を焼くような不味さで、腹痛、眩暈、嘔吐、いろいろな症状が出た」


 テェリーナさんの言葉に周りの人が「えっ!?」と驚いている。

 どうやら何年も一緒にいるのに知らなかったようだ。


「魔物の肉には通常はない物があるのです。その物を取り除けば誰でも食すことが出来るようになります」

「家畜にはなく、魔物にはある物か? それは一体なんだ?」

「それは、『魔力』です。もっと言えば、魔物は膨大な魔力の塊から生まれます。持って生まれた膨大な魔力を処理せず食べることで体に害を及ぼすのです。味が悪いのは魔力と体が受け付けないからでしょう」


 実際は無属性であることが一番の原因となるのだが、魔力さえ取り除けばいいのでそこは伝えなくてもいいだろう。


 僕が言った事を聞いた五人は深く考え始める。

 普通は肉に魔力感知や探知、比べよう等と思わない。

 思ったとしても魔物だからで片づけられてしまうだろう。


「理屈も意味も分かった。実際に食べたのだから本当だと信じれる。だが、どうやって加工するのだ?」


 ファナスさんが腕を組み、片手を向けて聞いてきた。


「先ほども言いましたが、その魔力を取り除けばいいのです」

「どのような方法なの?」


 今度はスティーニャさんが身を乗り出して訊いてくる。

 『食王』として新たな食材に興味があると言ったところか。


「教えてもいいですが、僕にしか使えませんよ? もしかしたら似たような道具を作れるかもしれませんが……それでもよろしいのですか?」

「ええ、そこを考えるのが私達だからいいわ」

「では言いますが、僕の技能に『魔力拡散』と呼ばれる魔力を拡散させるものがあります。その技能を使って肉内部にある魔力を拡散していくのです」

「『魔力拡散』? 初めて聞く技能ね」


 それはそうだろう、だってこの技能を三種族の中で使えるのは僕だけなのだから。

 しかも、此処まで派生させている魔物も少ないだろう。


「長くなるので簡単に言いますが、魔物が使う技能『魔力操作』の派生形となります」

『えっ!?』


 再び驚きに固まる。

 ユッカとソフィーは不安そうに僕を見る。


「そ、それは一体どういうことだ? お前は人間だろ? どうして魔物のだけの技能が使えるんだ?」


 混乱しているのかいくつもの疑問をぶつけてくるモビルさん。


「僕が特殊なだけだと思ってください。これも召喚された者の恩恵の様なものでしょうか。いえ、同じく召喚された人の中でも、僕しか使えません」

「異世界人の特性か……。それなら仕方ないか」

「だけど、似たような方法があるのよね?」


 スティーニャさんは僕が言ったことを思い出して再度訊ねる。


「はい、方法としては三つあります。一つ目は僕が加工させておくことです。ですが、これはお勧めしません」

「そうだろうな。お前達にはやりたいことがあるだろうし」

「ええ、なので無理です。二つ目は魔物なら絶対に『魔力操作』を産まれたときから持っています。その中でも長寿であり、育成でき、従順な魔物を使役することです」

「ああ、わかったわ。その魔物に『魔力操作』を使わせて派生させればいいのね」


 スティーニャさんが僕の先に答える。

 僕はゆっくりと頷き世界だと伝えた。


「はい。ですが、僕自身もどうやったら派生するのか分かりません。僕は少々稀な状況に陥ってしまったので参考になりません。強いて言えるのは使わなければ派生しません。あと、魔物のランクが高い方がいいですね」


 傍にいる二人が何のことを言っているのか気付き、体が強張るのが分かった。

 僕だって二度とあんな目に遭いたくない。


「まあ、そうだろうな。俺達だって技能を派生させるのにそれなりの努力と年月が必要だ。すぐには出来ないな」


 何十年単位の育成になるだろう。

 しかも魔物が死んでしまえばまた最初っからだ。


「最後は先ほども言ったように似たような道具を作る方法です。これが一番簡単で、時間もかからず、費用も少なくて済むでしょう」

「まあ、それなら作れるだろうが、どうやって確認するんだ?」

「それは『魔力感知』で出来ます。ほとんど感知できなくなるまでするといいです」

「そうか、そんな技能があったな」


 モビルさんは頷く。


「道具は魔法を打ち消す魔道具があると聞いたことがあるので、それを改造して魔力を打ち消す魔道具を作れるのではないですか?」

「あっ、魔石から魔力を取り出せるのなら、その逆も出来るんじゃない? 空になった魔石に魔力を注入する感じかな」

「魔石のようにも使える、かも?」


 ユッカとソフィーもアイデアを出し、両方使えそうだ。

 スティーニャさん達はそれを聞くと真剣な目つきになり話し合いだした。


「今まで見向きもしなかった魔物の肉だけど、今一度研究を始めてみるわ。あなた方が言ったようにまずはこの魔力を操作する道具を作ってみましょう」

「ああ、それが出来るだけでも大きな戦力になる。魔力がない空間についても調べないといけないだろうからな」

「そうですね。魔物の肉を食べてみてはっきりしました。もう一度食べる為にはこれが大切なことだと」


 嬉しそうに話し合うスティーニャさん達。

 暫くして話し合っていたことに気が付くと慌てて僕達に向き直った。


「ごめんなさいね。新しい食材が手に入ると思ったら、つい」

「いえ、僕も新しい食材には興味が尽きないのでわかります」

「助かるわ。仕切り直して、報酬の件に行きましょう」


 場の空気が静かに変わっていく。


「まず、『死水の大遺跡』についてだけど、私達でも詳しいことは分かっていないの。ただ分かっているのは迷宮には魔物の存在と罠がないことね。いえ、罠はあるのだけれど、階層自体が罠になっているのよ」

「階層自体が罠ですか? それは天上が落ちてくるみたいなものになりますか?」

「ええ、階層の天井がゆっくりと落ちてくる感じね」

「シュン達も調べたのなら知っていると思うが『死水の大遺跡』は深海にある。迷宮の外は海ということだ」

「もしかして、壁が壊れやすいのですか?」


 それなら、帰還者が出ないことも理解できる。

 地上への転移陣が存在するのが最下層であれば、途中で壁でも壊せば溺死してしまうだろう。

 それに上の階層を壊せば、下に着いた時は階層自体が水で支配されているかもしれないのだ。


「ああ、そうだ。付いて行った時に入り口で少し見たんだが、壁は壁でも頑丈な膜だと思った方がいい。少なくとも一層目はそうだった。普通の剣ぐらいなら跳ね返すが、強烈な斬撃や火魔法や殺傷度の高い魔法はダメだな」

「階層がどうなっているかは見えましたか? 大部屋だったとか、迷路状だとかですが」

「そうだなぁ……確か、大部屋だったはずだ。恐らくだが、モンスターハウスなのだろう」


 そういう形式の迷宮なのか。

 魔物は恐らく壁には攻撃しないだろうが、攻撃を避けて壁に穴を開けることがあるだろうな。

 難易度が上がったな。

 攻撃はいなすだけではなく方向を考えて弾くか、立ち向かわないといけない。魔法も打ち消すか、叩き付けた方がいいな。


「わかりました。魔物についてはどうにかできそうです」

「二つ目の教会の動向だけれど、これはあなた方が泊まっている宿に人を送ることにするわね。皇帝陛下の件もその時に伝えましょう。今の教会はどれほど目立った動きをしていないから安心していいわよ」

「ありがとうございます」

「あなた方が出て行った後も教会の動向はチェックしておきましょう。その方法はこちらでどうにかするわ」

「わかりました」


 ここまでしてくれるとは思っていなかったな。

 それだけ、スティーニャさん達は教会を良く思っていないということだろう。


「最後の『赤猫義賊団』の居場所だけれど、もう一度確認するわ。迷宮の最下層にあるアーティファクトと古代魔法は、適性とシュン君、あなたがいなければ手に入れることが出来ないのね?」

「はい。確実に、とは言えませんが、恐らく僕がいないと無理でしょう」

「それも、異世界人の特性ということかしら」

「はい、そう取ってもらって構いません。それも恐らく僕だけでしょうが」

「あなた達はどう思う? 私はいいと思うのだけど」


 スティーニャさんは幹部四人を見渡して訊く。

 四人は眉間に皺を寄せて深く考える。


「私はいいと思いますよ? 料理がおいしいというのもありますが、異世界人であり、目的がはっきりしているので申し分はないと思います」

「そうだな、俺も賛成だ。実力はあるだろうし、異世界人といえば俺達よりも強いと聞いたことがある」

「私も賛成。こんなにおいしい料理を作る人が裏切ることはないと思います」

「最後は俺か。……俺も賛成だな。理由は言わなくてもわかるだろ?」


 最後にモビルさんがスティーニャさんに笑いかけて言った。

 スティーニャさんは苦笑して頷き、僕達の方を向いた。


「皆一致ね」


 スティーニャさんがそう呟くとユッカがやっぱりと口にした。

 僕もそういう予感がしていたからスティーニャさんにある程度の事情を話したんだ。

 ソフィーもわかっているのかよくわからないが、首を傾けていないということは勘付いているのだろう。


「薄々気が付いていると思うけど、『赤猫義賊団』は私を頭領に据えた『食王』の幹部達が組員の帝国の特別部隊のことよ」

「知っている者は俺達幹部とその配下だけとなります。街中で流れている噂はこちらで流したものです」

「皇帝陛下も知らないとなっているが、ご存知だ。普通は居場所くらい見当がつくものだろう?」


 それは御尤もだな。

 皇帝陛下も知らないというのはちょっとおかしいと思ってたんだよね。

 普通は何かしらの情報を掴んでいるはずなんだ。

 それが全くわからないとかおかしいし、帝国のトップが義賊団といえど放置するのはどうかと思うしね。


「教えてくれたということは、僕達が協力してもいいということですね?」

「ええ、こちらからもお願いするわ。それと、『赤猫義賊団』に教える情報というのを詳しくお願いするけどいいかしら」


 スティーニャさんは妖艶に微笑んで足を組んだ。


「情報と言ってもほとんどのことは言いました。それの詳しいことと僕達の状況を説明します」


 僕達は今まで言ってきたことを詳しく説明していく。

 『ボルボナ大空洞』で起きた事件から最下層での出来事、ソフィーが元魔王であることと現魔王の体勢、王国の襲撃と教会の対応等だ。


 やはりソフィーが元魔王であると言ったら驚き青褪めていたが、王様が知っていることと実際の魔王の成り立ちと世界の成り立ちを説明していくうちにどうにか収めることは出来た。

 だが、信頼は出来ない様で僕達が何かあった時は止めることと常に一緒にいることになった。

 これ以上広めることもなければ、ソフィーから離れようと思わないから大丈夫だ。


「ソフィーちゃんは魔王だったのですか……。普通の人間と変わらないのですね」

「魔王種の祖先の外見は人間だった。だから私も人間の外見をしてる」

「ほう、そういうことでしたか。では、他の魔族も祖先が影響している……。では、亜人族はどうなんでしょう?」


 ソフィーはヒューストさんの質問に口数は少ないがしっかりと返している。

 ヒューストさんは学者肌なのか、興味のあることに没頭する人みたいだ。


「まあ、すぐには信頼できんが、すまんな」

「いえ、仕方ないです。今は僕も背中を預けていますが、最初の頃はお互いにぎこちなかったですから」


 僕達は情報をお互いに交換しながら、この後どうするのか話し合っていく。


「では、明日から二日間を休息・準備期間とし、三日後に迷宮へ挑みましょう」


 スティーニャさんがそう締め括り、僕達は宮殿を後にした。

 宮殿を出ると既に日が傾き始めていたので宿屋へと帰り、昨日の疲れもとるために寝ることにした。




 次の日。

 僕達は遅く起きると疲れが取れていることを確認して迷宮へ向かう準備をすることにした。

 聞いた話では壁が脆いとのことなので、壊れた際にどうにかできる道具を持っていった方がいいだろう。

 幸い僕にはボックスがあるので大荷物でもどうにでもなる。


 この日は迷宮の準備の他に二人とデートの様なひと時を過ごした。

 別に迷宮で死ぬ可能性があるからというわけではないが、迷宮では壁が壊れた瞬間にパニック状態になる可能性もあるのでリラックスしておこうと思っただけだ。


 二人が行きたいところに着いて行き、何でも欲しいものを買っていく。


 二日目は外に出て体を動かし、『食の迷宮』に人を連れて行き転移陣に記録した。その後は明日に備えることとなった。




 当日。

 僕達はスティーニャさんが送ってくれた人から集合場所を聞くと準備を整える。

 集合場所は食王通りの入り口だ。

 その後全員揃い次第、『死水の大遺跡』へと続く海岸の洞窟へ向けて出発する。


 その間に出てくる魔物達で連携を取る練習をし、お互いの戦闘スタイルを確認することになるだろう。

 恐らくだが、僕達三人は各自で動くようになるだろう。

 全五層ということだからそれほど強敵が出るとは思えないが、迷宮ボスはファイアードレイク並だと思っていた方がいいだろう。


 集合場所へ走って行くとすでにスティーニャさん達が集まって馬車に荷物を運んでいた。

 普通の探索者は僕のようにボックスを持っていないため、アーティファクトの無限指輪や袋、荷物持ちなどを持って行く。


「こっちよ!」

「はい! いこっか」

「うん!」

「頑張る」


 スティーニャさんが僕達を見つけ、大きく手を振って呼びかけた。

 僕は後ろにいる二人の手を取って引っ張ると駆けだした。




 馬車で一時間ほど移動すると太陽の光を反射してキラキラと光っている広大な海が見えてきた。


「私は帝国に残らないといけないからあなた達頼むわよ」

『オッス!』


 スティーニャさんの声に集まっている人達が気合いの声を出す。

 『食王』としての仕事と皇帝陛下との話し合いがあるそうで、この迷宮探索に加われないとのこと。

 まあ、スティーニャさんが万が一加わって死なせてしまった場合、帝国のあらゆる流通が滞ってしまうだろうから仕方ない。


「あなた方もくれぐれも死なないように気を付けてね」

「はい。全員が生き残って帰れるように頑張ります」

「うん! 誰も死なせないよ。回復は任せて」

「攻撃は私が頑張る」


 僕達もスティーニャさんにしっかりと答える。


「それでは頭、行って参ります」


 モビルさんが代表して頭を下げる。


「ええ、期待して待ってるわ」


 スティーニャさんはそう言って踵を返すと馬車に乗り込んで帝国に帰って行った。

 死ぬかもしれないというこの状況でも絶対に帰ってやる! という闘志を『赤猫義賊団』全員から感じる。


 モビルさんは一歩前に出て僕達の方を向くと大声で皆の身を引き締めさせる。


「帰還者ゼロ、踏破者ゼロ、迷宮の地図なし、出現する魔物の種類未知……。俺達は帝国に存在する迷宮をたくさん挑み、最高の結果を出した。だが、今回はそんな迷宮が赤子に見えるほどの難関さだ」

『…………』


 モビルさんは横に歩き全体を見渡す。


「俺達の目標は迷宮を踏破し、教会を抑え付ける力を得ることだ。戦力は乏しく、恐らく踏破できる可能性はゼロに近いと言われていた」

『…………』


 モビルさんは歩みを止め僕達の方を向き「だが……」と付け加えた。


「寸前のところに強力な助っ人が加わった! 王国に存在する最長の迷宮『ボルボナ大空洞』を踏破し、先日『食の迷宮』を踏破した猛者の三人だ! 名をレイヤ、ユウカ、ソフィーという!」

『…………』

「実力はドラゴンとやり合えるほどらしい! お前達もその実力の一端を見たはずだ! こいつらに背中を預け、俺達は援護に着く! 壁の修復、雑魚敵の始末、視線誘導……いろいろある。強力な魔物はシュン達が倒してくれる! 俺達は最後まで生き延びることだ!」


 モビルさんはそこで喋るのをやめ息を吸うと、睨めつけるように全体に闘気を飛ばす。


「テメエら! 気合入れろ! 今から、未だに踏破されていないと言われる古代迷宮『死水の大遺跡』に挑む! 腹ァ括ったかァッ!」

『オオオオオォ!』

「誰も死なすな! 生きて生きて生き抜いて、皆揃って帝国に帰還する!」

『オオオオオオオオオオオオオオォッ!』

「行くぞォッ!」

『オウよォッ!』


 熱気が噴き出すほどやる気に満ちた『赤猫義賊団』の戦闘を歩いていく。

 入った瞬間に魔物がいた場合、僕達が対処するために戦闘にいる。

 僕達の役目は強力な個体と魔物の殲滅だ。


 僕達は海岸の端に見える洞窟に入る。

 未知との遭遇は数えきれないほどこの数か月で体験した。

 もう、恐れることはない。

 全てを護って、無事帰還するだけだ。


 最後に身と気を引き締めた


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