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幻の食材調理

すみません。

今度は曜日を間違えていました。

 二人に引き摺られるように地上へ戻った僕は着いた瞬間に二人へ謝り、二度とこのようなことがないように言葉に気を付けようと心に刻んだ。

 周りの目が無ければ土下座をしていただろう。おいしい料理とデートに行くということで何とか機嫌を宥めることに成功した。


 その後は疲労が溜まって体が重いためすぐに宿屋へと戻り休憩することとなった。

 迷宮にいる間一層ごとに休憩を挟んでいたが、それでも相当な疲労が溜まり、地上に帰ったと安心すると余計に疲労が出てきていた。


 宿屋まで無事に帰るとお風呂に水を張り鬼火で無理矢理温めた。普通なら火属性の魔石で温めるのだが、今はすぐにでも体を休めたいので仕方がない。疲労は溜まっているが魔力は回復しているので大丈夫だからね。




「はぁ~。気持ちよかった」

「うん」


 ユッカとソフィーが濡れた髪を拭きながらバスルームから出て僕の隣に座った。


 湯上りで火照って上気した肌と魔法の石鹸で洗われもっちりとした肌、長い髪が濡れ一纏まりとなった先から鎖骨を通り谷間へと流れ落ちる雫が、僕の心臓の鼓動を早くし頬を熱くする。


 女性は男性の視線に敏感だというが正しくそうだろう。目を離してしまった瞬間に胸を両手で押さえて強調、もとい隠したのだから。


 ソフィーははっきり言えば子供服のような柄付のパジャマを着ている。やや大きめで袖口を掴んで寝たり、目を擦るのは反則だろ。もしかして狙ってやっているのか。


 密かに戦慄しているとユッカがタオルを首にかけて艶っぽい声を出して話しかけてきた。


「はふぅ~……。それでレイ君、一体何の料理を作るの? 見た感じデザートだよね」


 僕の目の前、台の上には集め終った七つの食材が置かれていた。


「これを全部使って作るとなると確実にデザートだね。何がいいだろうか」

「そう言えば、この世界ではデザートはあまり流行していなかったんだよね」

「そんなこともあったね。そうか……氷もあるからアイス系かな」


 僕は【オーロラ天然氷結晶】を撫でながらそう言った。

 またしてもソフィーには理解できなかったようだ。


「アイス? 魔法?」

「希少適性の氷にそう言う魔法があるけど別物だよ。僕達がいったアイスは食べ物のことで、冷たく、甘く、口の中で溶ける、幸せのひと時を過ごせるデザートだよ」

「おいしそう」

「私もアイスでいいと思う。さすがにこの世界には存在してないはずだよ」


 アイスも食べなくなって半年以上経つのか。そろそろ作ってあげたい時だな。


「よし! これを全部使うとなるとあれしかないだろう」

「あれ?」

「そう、あれ。長細く上に開いたグラスに、コーンフレーク、ヨーグルト、果物の果肉(ジャム)、生クリーム、スポンジ、アイス、果物、チョコレートが乗ったデザート、『パフェ』だ」

「パフェ! そっか! それなら、この食材を全部使って作ることが出来るね。私も食べたくなってきたな」

「たくさん甘い物が乗ったデザート……。食べたい」


 二人も僕の意見に賛成してくれたので、氷から手を離し後ろ頭を撫でてバスルームへ向かった。


「明日十時頃に出発するから今日は早めに寝ようか。スティーニャさんには黙っておこう。驚かしたいからね」

「「うん(了解)」」


 僕は凝った体を解しながらお風呂へ入り、今日まで溜まった疲れを癒す。


「パフェか……。それだけっていうのは味気ないような気がするな」


 普及もするしおいしいだろうからいいと思うけど、氷が問題なんだよね。溶けないといっても長い年月をかければ溶けるし、砕けばなくなる。普通に氷を作る魔道具でも作って貰うように一応言っておくか。

 後はデザート以外にも何か欲しいよなぁ。

 だけど、それに合う食材がないんだよねぇ。せめて肉類か野菜類でもあれば……いや、待てよ。あの肉なら合うんじゃないか……。


 二人ほどではないが僕も疲れが溜まっていたようで、溺れかけてしまった。




 次の日。

 僕達は少し早めに起きてパフェの内容を決めておいた。『鑑定』で食材に間違いがないことを確認済みなので後はスティーニャさんに合格を貰うだけだ。


 残念ながら作り方が今一分からないヨーグルトを作ることは出来ないという判断を下すことになり、その他のアイス、ジャム状果肉等は何とか作れるという結論になった。

 幸いチョコレートも中身をそのまま使えばいいので問題ない。




 僕達は二週間前に一度訪れたことのある食王通りを通り、スティーニャさんが待っている宮殿まで向かった。


 食王通りはこの前と変わらず活気に溢れている。

 すれ違う人たちが僕達のことを見て話をしているのが少しだけ気になるが、この前言われた目立っている、というやつなのだろう。

 中には僕達に事を見ない人もいるからそれで会っていると思う。


 宮殿まで着き身体検査の列に並んでいると、僕達の所へ先日カレーを食べさせた門兵が息を切らせて駆け寄ってきた。


「はぁ、はぁ、お待ちしておりました。既に応接間にて『食王』が待っております。付いて来てください」

「検査はいいのですか?」

「はい。あなた方のことは『食王』から聞かされております。詳しい事情は『食王』が説明するとのことです」

「わかりました。――二人とも行こうか」


 どうやら、スティーニャさんはいろいろと調べたみたいだな。

 まあ、僕達のことを口止めしたわけでもないし、帝国の入国検査でソフィーを入れるために王印の入った身分証明書も使ったしな。

 少し調べれば王国から来たことが分かり、さらに手を伸ばせば異世界人だと理解できる。更に僕達が話した情報を加えると確証が得られるというわけだ。


 詳しいことは教会に知られないように王様がどうにかしてくれただろうけど、一体どこまで知られただろうか?

 まあ、知られたからと言って困ることはないし、逆に知ってくれた方が協力を得られるかもしれないな。




 宮殿内に入るとこの前と同じ部屋に招かれた。


「失礼します」


 僕達は挨拶をして入ると、中にはすでにスティーニャさんが足を汲んで優雅に座っていた。

 台の上には紅茶があり、部屋の中をほんのりと甘い匂いを漂わせている。


「久しぶりね。その様子だと無事手に入れることが出来たようね。さ、座って見せてちょうだい」


 スティーニャさんは微笑んで急かすように僕達に座るよう促す。

 目の前に座り、いきなり本題に入る。


「昨日、幻の食材の七つを全て手に入れて来ました。まずは一つ目【ワンダーエッグ】」


 僕はボックスから布に包んだ一つの卵を取り出した。


「この匂いと人――いえ、万物を惹きつける吸引力、まさしく幻の食材の一つね。記憶にあるのと一致するわ」


 スティーニャさんに合格を貰ったところで次の食材を取り出す。


 【ジュエルフルーツリー】、【アーモンドウッドの実】、【マウント牛のミルク】、【オーロラ天然氷結晶】、【純白小麦】、【隠し味】……。


 全てを取り出すと紅茶の匂いで満たされていた部屋が浄化されるかのように甘く涼しい匂いに変わっていく。

 光り輝く果物の甘い匂い、チョコレートとミルクの独特な香り、氷の涼しさが隙間風で漂い、粉が少しだけ舞、絶妙な隠し味が効いて空気が調理されていく。


「どれも本物のようね。匂いを嗅いだだけでここまで食欲を掻き立てるとは思わなかったわ」


 確かにこの匂いは迷宮で嗅いでいた香りの数十倍はおいしく感じる。

 これをまた調理して料理にすると想像もできないおいしさの……いや、おいしいでは表現できない味の料理になるだろう。


 自然と涎が垂れてくるのが分かり慌てて拭い去るが、次々に溢れ出てくる。

 ソフィーが「おいしそう……」と呟き、ユッカとスティーニャさんが同調するかのようにコクリと頷いた。


「それではここの調理場を貸すから調理をお願いするわね。カレーをあそこまで作れるのだから、料理は得意なのでしょう?」

「ええ、趣味程度には出来ると思います」

「人数は私とここの幹部が四人の計五人でお願いするわ」

「五人ですね。わかりました」

「ええ、期待しているわ」


 台の上に出した食材を全てボックスに仕舞うと、スティーニャさんに連れられ調理場へと向かう。

 匂いが部屋から漏れていたようで、出た瞬間に皆がこちらを向いて唾を飲み込んだ。




「ここが調理場よ。帝国で作られた最新式の設備が全て揃っているから大丈夫だと思うけど、何かいるものがあったらいつでも言ってね」


 調理場は見たことはないけど高級レストランの調理場よりも大きく、百人ほどの人が入れそうだ。

 設備もよく見れば日本までとはいかないものの、いろいろなものが作れそうだ。

 さすがに専用の調理器具はないが、似たようなものと魔法で代用できるのでいいだろう。


「完成したら傍にいる誰かに連絡してちょうだい。その後は応接間に運んでもらうから」

「わかりました」

「それじゃあ、昼食を抜いて待ってるわ」


 スティーニャさんはそう言って手を振ると出て行った。

 残された僕達はまず水魔法で手を洗い、ボックスから七つの食材を取り出す。


「まずユッカにはこの前と同じように生クリームの製作を頼むね」

「わかったよ。バターと砂糖だったよね」


 ユッカはそう言ってボウルにミルクとバターを入れ、指先に風魔法を纏わせて混ぜる。


「ソフィーにもこの前と同じ作業をしてもらう。それに加えてヘタだけを取ったイチゴのジャムを作ってほしい」

「ジャム? パンに塗るやつ?」

「そうだよ。あれは果物に砂糖を入れて潰しながら作るんだ。火は強火で果肉が少し残るくらいでやめてくれたらいいよ」

「水はいらない?」

「水はいらないよ。イチゴと砂糖だけでいいよ。あと、アクセントにレモンの汁を少し入れるくらいかな?」

「了解」


 ソフィーはそう言ってナイフを持ち、イチゴのヘタを切り始めた。


「僕も作業をするか……」


 二人から離れるとミルクを入れた鍋を弱火にかけ温める。ボウルに卵を割り卵黄を適量入れ、砂糖も少し控えめに入れると白っぽくなるまで混ぜる。

 沸騰する前に火からおろしたミルクに先ほどの卵黄を混ぜる。

 全体が混ざったら再度火にかけ温めていく。

 混ざり終わったところで火を止め、砕いた氷で熱を取りながら掻き混ぜる。

 混ぜていくと次第に液体から滑らかな個体へと変わっていく。

 これで後は溶けないように氷に保管しておく。


 バニラアイスの完成だ。


 二人の様子を見るとユッカはまだ生クリームを掻き混ぜ、ソフィーはジャム作りに入っているようだ。


「次はチョコレートだな」


 身を割ると中から出てきたチョコの素をボウルに移し、ナッツの方を別のボウルに入れる。

 チョコの素に『鬼火』で火をかけチョコレートにしていく。

 適量器に加えると砂糖とバニラ、お湯を加えてチョコレートシロップを作る。


 残りのチョコを溶かすと先ほどと同じ手順でアイスを作ると、バニラのエキスに変わりチョコレートを混ぜる。

 出来上がった所で同じように氷に入れて保存する。


 次はスポンジと製作だ。

 このスポンジはこの前ウェディングケーキを作った時と同じ手順だ。

 違うのはほぼ完成しているソフィーのジャムを混ぜてイチゴのスポンジを作るところだ。

 他にもチョコを混ぜたスポンジも作る。

 これはあとでケーキにもなるので多めに作っておく。


「レイ君、生クリームできたよ」


 ユッカがそう言ってボウルを見せてきた。


「じゃあ次はチョコを混ぜてチョコクリームを作って。チョコケーキを作るから」

「それはおいしそうだね」


 ユッカから生クリームを受け取る。


「レイヤ、こっちも出来た」

「わかった。冷ますからボウルに入れ替えておいて」


 生クリームを溶かさないように氷に保管し、ジャムを冷ますためにまずは置いておく。

 ソフィーは果物のカットに戻った。


 僕は小麦粉と調味料を混ぜて生地を作る。

 これはポッキ〇のようなものとクッキー作りだ。


 皆の作業がある程度できたところで氷の器作成に移る。

 『風刃』で削りながら、『水刃』で濡らし加工していく。細かいところは『鉄爪』でカリカリと削り取る。


 器が完成した頃には二人の作業も終わっていたので盛り付けを頼むことにした。


「二人には盛り付けを頼むよ。僕はデザートの前に食べる料理を作るからさ」

「何を作るの?」

「唐揚げ、シチュー、親子丼とかかな?」

「親子丼! この世界にはどんぶりがなかったね」

「米使う?」

「そうよ。炊いたご飯の上に卵と肉をタレで煮込んだものを乗っけるの。たれがご飯に染み込んでおいしくなるんだよ」

「それは楽しみ」


 ユッカはそのおいしさを表現し、ソフィーはおいしそうだと喜ぶ。


 僕と二人は作業に戻った。




 出来上がった所で厨房の外で涎を垂らしながら待機している役人に声をかけた。

 ボックスの中に調理した料理を仕舞い、応接間へと移動する。


 調理中にいい匂いが漂っていたようで厨房から出てくる僕達をこの場にいる全員が覗き見ている。

 来た時よりも人が多いのは昼間になったからではなく、匂いにつられたからのようだ。

 皆一様に涎を拭う仕草をしているのだから。


 応接間に入るとスティーニャさんはまだ来ていなかったので座って待つことになった。

 暫くするとスティーニャさんと厳つい人が四人入室してきた。

 厳ついと言っても雰囲気がそうであるだけで、筋肉隆々の男と優男ながら冷徹な目、朗らかだが纏う気は荒々しい男、無表情だがこちらを値定めしている女性。

 いかにも食材を熱めに行く人達のように見える。


「お待たせ。まずは自己紹介からしましょうね。こちらにいる筋肉はモビル。集まった食材の運搬や配送をしているわ」

「モビルだ。お前達は『食の迷宮』を踏破してきたのか?」


 モビルさんは厳つい声でそう訊いてきた。

 だが、含みは興味津々のようだというのが伝わる。


「はい。最下層までいかないと【隠し味】がありませんでしたから。ついでに迷宮ボスも倒してきましたよ。もちろん核は破壊していません」

「そうか。踏破した物が出たというからお前達のことなのだろう。実力は申し分ないようだな。――改めてよろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」


 差し出された大きな手を握る。

 モビルさんは見た目よりもいい人のようだ。


「次はヒュースト。怖い顔だけど根は優しいから怯えてあげないでね」

「ティーは少し黙っていてください。――紹介に預かったヒューストです。私は基本的に食材の整理や処理を行っています。人柄もよさそうですね」

「それは、ありがとうございます」

「踏破されたということは、他にも食材をお持ちなのですか? あなたはどこかに保管できると聞いたのですが……」


 ヒューストさんは僕の技能の方に興味があるようだ。


「ええ、あとでお見せします。食材に関してはそれほど多くありませんが持って帰ってきました」

「よろしければ譲っていただけませんか? もちろん対価もお支払いします」

「対価を貰えるのであればいいですよ。あと、食材を持って帰れるように誰か連れて転移陣のマーキングをしておきますか?」

「よろしいのですか!?」

「ええ、僕達がずっとここにいれればいいのですが、そうもいきませんからね。それに溜まるのが魔物であればいいのですが、使われない食材というのはかわいそうですからね。使われ、食べられ、が食材だと思います」

「ええ、ええ! ありがとうございます」


 冷めた目を精一杯喜びに変え、僕の手を取って何度も振る。

 食材を持ち帰るわけではない迷宮のマーキングに行くだけなら一日もあれば行けるはずだ。

 転移陣のある方向も覚えやすいしな。

 魔物も幻の食材に近づかなければそれほど多く出ないからそこを注意しておけばいいだろう。


「次は調理と採取担当のファナスよ。彼も見た目と違うから気を付けてね」

「ははは、そうだよ。僕は結構荒々しいみたいだからね。まあ、戦闘をしたことがあるのならわかると思うけど、食材を手に入れるのは命がけだから仕方ない」


 ファナスさんはそう言って憮然と構える。


「ええ、そこは今回しっかりと学ばせてもらいました。蜂蜜入手のために蜂の大群と戦い、黄金米を手に入れるためのワンダコンダと戦い、氷を手に入れるために集まった数百体の魔物を全滅させ、締めに十メートル級の巨人でしたからね」

「あははははっ、面白いなお前。見ただけで相当な実力者だと思ったが、想像以上だなこれは」

「あなたも強そうです」


 ガッチリと握手をすると、手の皮が厚いことに気が付いた。

 これは料理だけでなく、戦闘もしっかりこなせる証拠だ。


「最後は外交関係と味見のテェリーナよ」

「味見ですか……」


 僕がそう言った瞬間にクワッと目を開いて僕に詰め寄って来た。

 な、なに!?

 僕何か悪いこと言った?


「味見のどこが悪いというのですかッ! 味見が無ければうまい料理かわからないのですよ! 味見あっての料理の完成、味見なしでは料理を完成したとは言えません!」

「そ、それはそうだけど……。担当を決めるほどなの?」

「ええ、私は舌には自信がありますから。私がやらなくてどうするのですか」


 自信満々に言い放つテェリーナさん。

 胸を張っているが薄い。

 凹凸はもちろんあるが小山が二つ。

 つい隣を見ると山が二つと山脈が二つ、正面にはエベレストが二つあった。


 そこまで考えたところで両脇から思いっ切り抓られた。


 ご、ごめんって!

 な、なんで気が付いたの!?

 僕は見たけど胸を見なかったはずだよ? それにチラリとしか見てないからそうでもないはずなんだけど……。

 やっぱり女性は男性の視線に敏感だというのは本当なのだろうな。


「それじゃあ、自己紹介も終わった所で試食に入りましょう」


 スティーニャさんが先を促す。

 僕はまず、昼食となる親子丼と唐揚げとシチューを取り出した。

 おいしそうな匂いが再び応接間を満たす。

 全員が鼻をひくつかせて蕩ける顔になった。


「おいしそうじゃない。でも、これは幻の食材じゃないわよね? 味が強いから普通の料理には向かないと言っていたし、出来てもデザートよね?」

「確かに、肉と食材はなかったはずだ」

「では、この肉は何の肉なのでしょうか」

「見た目も普通の肉と変わらないようですが……」

「まあ、そう言わずに食べてみてください。この肉は特殊な肉で、しっかりと加工済みなので体に害もありません」

「ちょっとひっかかるが食ってみよう」


 そう言って五人はどんぶりを手に取り齧り付くように食べる。

 僕達も昼食として唐揚げの方を口にする。


 いつも以上に濃厚な肉汁が迸るように溢れ、この肉独特に味が【ジェルフルーツリー】と【純白小麦】と【隠し味】と合わさり、究極の味を出している。

 親子丼は【ワンダーエッグ】の濃厚で柔らかい身が肉を包み込み、【隠し味】が調和させている。黄金米は少し劣ってしまうが、米に味が付きそれほど気にはならない。

 シチューは【マウント牛のミルク】に【純白小麦】を混ぜて【隠し味】を入れる。肉と下層の野菜を入れて出来るだけ味が整うようにしたものだ。


 思っていた通り、あの肉は幻の食材に合い、おいしいという言葉がちんけに思える。


 探し出せば他にも幻の食材があるかもしれない。

 今回の探索で幻の食材がどういったものか大隊理解できたからな。


「う、うめええぇ!」

「何この柔らかくて独特な味がある肉は! 食べたことない食材だわ!」

「い、一体この肉をどこで手に入れた! そこらの飼いならしている食用の肉じゃねえ!」

「(ハムハム、ガツガツ、ゴクンッ……)」


 五人はそれぞれ感想を言うと丼を片手に(むさぼ)り食い、ひょいっと手が伸びては唐揚げを齧りつく。

 どこかの料理アニメを見ているような光景だ。


 瞬く間に目の前に置かれた料理がお腹の中へ収められていく。

 ユッカとソフィーもニコニコと嬉しそうに至福の時を過ごしている。

 量はしっかりと調整されているため、デザートが入らないということもないだろう。

 問題はこの肉の正体を知って冷静でいられるかということだ。


「……ふぅ~。ご馳走様」

「ああ、旨かった。いや、言葉では表せんな」

「ええ、おいしいのですが……何と言っていいのか」

「この肉は一体なんだ? 頼む! 教えてくれ!」

「ずっと味見したい……」


 まずは満足してもらえたようだ。


「レイ君、良かったね」

「これが親子丼……。また作って」

「ははは、いいよ、いくらでも作ってあげる」


 ソフィーの頬っぺたに付いた米を取って上げると恥ずかしそうに俯く。

 ユッカがその米を見て自分もしたそうに眺めていたが、プライドが許さなかったようで息を吐いた。


「では、次にデザートです。幻の七つの食材、全てを使用して作った特製のパフェです」


 僕がそう言うと待ってましたとばかりに喜んだが、やはりパフェというものを知らない様で疑問符が浮かんでいる。

 僕は悪戯が成功したような笑みでボックスから人数分のパフェとケーキを取り出した。


「「「「「おおおおおぉッ!」」」」」


 五人は台の上に置かれた冷気が淡いカーテンのように下へ降り、虹色に光り輝き辺りを照らす特製のパフェに目を惹き付けられ、揃って感嘆の声を上げた。

 作った僕達から見ても食べ物というより宝石、芸術作品と言った方がしっくりくるのだから尚更だろう。


 皆の前にスプーンを置き、どうですか? と聞く。


「……これは、本当にデザートなの?」

「ええ、正真正銘デザートです。まずは、一口食べてみて下さい」

「え、ええ、そうさせてもらうわ」


 部屋にいる八人全員がパフェの器を手に取り、食べたいところを掬って口に運ぶ。


 パクリ……。


 口の中に運び噛んだ瞬間に全ての時が止まったかのような錯覚に陥った。

 冷たい食感が舌を駆け巡り、淡い雪のように溶けていく。果物から溢れる様な果汁とほのかな酸味がアイスの甘味と合わさり極上の味わいとなっている。

 【オーロラ天然氷結晶】から作られた器がアイスを溶かすことなく閉じ込め、オーロラがデザートに乗り移る。


 七つ全てを合わせて作られたデザートはもはや何と言っていいかもわからない。


『…………』


 食べる手を止めたにも拘らず、誰も言葉を発しない。

 次の一口さえも掬おうとしない。


 作っている最中はそれなりにおいしいだろうと思っていたけど、ここまでおいしくなっているとは……。

 完成品を味見していたら大変なことになっていたな。


『ゴクリ』


 と、誰かが喉を鳴らし飲み込むと、皆目を見開いて音を置き去りにするかというスピードで食べ始めた。先ほどの比ではない。


 ダンッ、カラン、ランッ……。


 テーブルの上に食べ終えた氷の器を叩くように置いた。

 スプーンが器の中で踊り、軽快な風鈴の()の様な音を立てる。

 一人が食べ終えるとまた一人と増えていき、出たお腹を擦って蕩けるような笑みになる。


「どうでしたか? 一応、この世界にはない料理を考えてみたのですが」


 恐らく、アイスはないと踏んで作った。

 まあ、全てを使おうとしたらパフェぐらいしか思いつかなかったのだがな。


 皆、僕の話を聞いているのか分からない状態のようだ。


「……ええ、私も知らないデザートよ。恐らくこの世界には存在しないのではないかしら」

「ああ、数多くのデザートが帝国にはあるが、その中でも冷たいデザートとなると王族でも食べたことがあるかどうかだろう」

「踏破する実力といい、旨い肉といい、冷たいデザートといい……何も申し分はないな」


 暫くしてゆっくりと吐き出すように感想を口にした。

 ユッカとソフィーを見ると綺麗になった器が見え、女性は甘いものに目がないというのがよくわかる。



伏字をしないといけない範囲はどこまでなのでしょうか?

お菓子に伏字はいりますか?

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