その頃3
最近、キャラがよくわからなくなってきました。
おかしい言動を取っている時は教えてください。
修正します。
時は遡って零夜達が王国を追放されるかのように去って行った頃、決闘で瞬殺された遊馬達五人は騎士団の拘束されていた。
遊馬達を示唆したランバルトはそそくさとその場から逃げ、聖王国から訪れた竜騎兵の元へと行っていた。
ロイ団長もランバルトに詰問したかったのだが、立場的にもそういうことは出来ず、零夜達が言っていたように教会は敵だと改めて感じ取っていた。
国を救った英雄を理由もなしに捕まえようとするなどあり得ないことだ。
そのことは国王にも伝わり、改めて教会対策と零夜達の協力を付けることとなった。
遊馬達五人は謹慎処分を言い渡され、自室で誰とも関わらないように見張られている。
勇者にこういうことをするのは前代未聞だが、さすがにやり過ぎだと国の上層部が決定した。
そして、謹慎後この五人に言い渡される処分は零夜の願いというか、決闘の勝利条件と国の決定も含め最前線で戦うことと零夜達との関わりを断つことだ。
これを破れば処刑もじさないと判断された。
遊馬達の奇行は国のメイド達の間でも囁かれており、城下でも急速に広まりつつあるのだ。
この処分でも甘いと考えているものも少なからずいる。
生徒思いな大沢先生は生徒が戦うということに反対していた。そこへ零夜の置き去りや遊馬の奇行などの情報が伝わった。
大沢先生自体は戦闘をしていないが、自らの技能と教師としての思いを奮い立たせて王城に残っている生徒を纏めていた。
零夜のことに関しては無事が確認されたということで安堵したが、零夜の置き去りが遊馬達のせいだという話が流れ、また頭を抱えることとなっていた。
精神的にも壊れ始めている遊馬達は大沢先生の話を聞かず、どうすることも出来なかった。
不甲斐なさに歯を食い縛る中、同時に遊馬達がしてきた行いを知り納得している自分もいる。
今は謹慎処分だが、何時かは最前線に送られると聞いている。
怒りを買った国の決定を覆すことも出来ず、遊馬達の罪はそれほど軽くないことも知っているため大袈裟に庇うことも出来ない。
ただただ無事でいてほしいと願い、皆で生きて帰りたいと誰もが思う。
ここは遊馬が謹慎させられている部屋。
綺麗に飾られていた装飾はボロボロにされ血がこびり付き、タンスや本棚は破壊され、窓ガラスは格子で塞がれ、ドアは鍵と固定な魔法がかけられている。
部屋の外には誰も通さないようにと命令された二人の兵士が立っている。例えそれが教皇でも通すなと厳命を受けているそうだ。
横に視点を変えると同じように二人の兵士が立っている部屋が四つある。
兵士は仕事だと割り切り憮然としているが、兵士も人だ。中から聞こえてくる物音と奇声に困惑と恐怖が出てくる。
「ぐぎゅあああああああああぁッ! くそおおお!」
またも破壊音が部屋の中から聞こえてくる。
静かになったと思えば再び起こるのだ。
それはどの部屋でも同じで監視をしている兵士から苦情が出るほどだった。
どうにか防音の結界を張ることは出来ないか、とロイ団長に泣きついた者までいるとのことだ。
クラスの皆は遊馬達が謹慎処分を言い渡されたことで安心していた。
零夜が戻ってきてくれてことに戸惑う者や困惑する者が多かったが、心のどこかでクラスメイトが死んだと思っていた恐怖心が薄れていた。
そんな状況でクラスメイトは零夜が出て行ったことを知り、再び困惑と自己中な行動に怒りをぶつけていた。白須や謎の可愛い人物も連れて行ったことも拍車をかけているのだろう。
虫のいい話だが遊馬達のことは既に見限っており、魔物と魔人を殲滅し、魔族を瞬殺した零夜に傾いていたのだ。
そんな中詳しい事情を知っている涼風は一人ではクラスを纏めるのは無理だと感じ、ロイ団長と国王に相談したところ天宝治に打ち明けることとなった。
「……何か用ですか?」
天宝治は国王に呼ばれ執務室に来ていた。
この場には国王、ロイ団長と副団長、涼風、大沢先生の五人がいた。
部屋に入った瞬間感じ取った重苦しい空気に一瞬空気が詰まったが、どうにか平然と訊いた。
「テンホウジ殿、だったな」
「はい。俺、私の名前は天宝治豪太といいます」
「うむ。テンホウジ殿、貴殿をこの場に呼んだのはレイヤ殿の行動と真実を知ってもらいたいと思ったからだ」
天宝治はピクリと眉を動かし、どういう意味か大沢先生を見たが首を振られ、次いで涼風を見た。
涼風は国王に黙礼すると国王は頷き返し、一歩出て詳しいことを話し始める。
「天宝治君、大沢先生もですが、私とクラス全員を纏めるリーダーとなってほしいのよ。役割は違うけど、大沢先生には王城に残る生徒を纏め、私と天宝治君は外に出る生徒を纏めるわ」
「それがどう零夜に関わるのだ? 俺も零夜が帰って来たのには驚き、さらに強くなっているのには混乱した。だが、同時に心強くも思った。これで人族を救えると。なのに、あいつは俺達を見捨てるように出て行った。遊馬達が気に食わないのもわかるが、相談くらいしてくれてもいいのではなかったかと思う。クラスの中には不満以上に零夜を恨む者もいる。俺達があいつにしてきたことを思えば当然かもしれないがな」
自分で話していながら零夜にしてきた行動を顧みたのだろう。
今思えば零夜は何を言われようとも自身が弱かろうとも、諦めずに訓練をしていたのだ。
自分達が急激に強くなったことでそこのところをしっかりと見ていなかった。
「今から話すことはこの場にいる人しか知らないことだから誰にも言わないこと。天宝治君も大沢先生もよろしいですね?」
二人は涼風の真剣さに喉を鳴らしながら頷く。
涼風は一度目を瞑って深呼吸すると零夜の目的から話し始めた。
「まず、雲林院君の目的は私達を元居た世界――地球へ帰還するための旅をしているわ」
「どういうことだ? 俺達は人族を救えばセラ様とかいう神様が還してくれるのではなかったのか?」
天宝治は怪訝な顔で涼風に訊き返す。
大沢先生は目を閉じ深く考えているようだ。
そして、口を開く。
「そういうことですか……」
「先生? 何がそういうことなのですか?」
「はぁ、天宝治君、いいですか? 私達が人族を救えば還れるというのは嘘です。いえ、嘘かどうかはわかりませんが、恐らく不可能なのでしょう。実際は確約してもらったわけではありませんし、ランバルトさんもセラ様が還してくれると断言はしていませんでした」
「か、還れるのが嘘? それこそ嘘だろ?」
天宝治は狼狽える。
「いえ、嘘ではないわ。雲林院君は迷宮の最下層に辿り着きその証拠を手に入れてきたの」
涼風は零夜から聞いた話を二人に話す。
だんだんと驚愕に彩られ、青くなっていくとセラへの怒りが募り赤く染まった。
「では何か、俺達は遊び道具として呼ばれたってのか!?」
「そうよ。もちろん魔族から人族を救うというのは間違いではないわ。だけど、セラからしてみれば人族が負けようがどうでもいいのよ。だって三つの種族を創ったのはセラで、面白ければいいと考えているのでしょうから」
「まるで子供じゃねえか……」
天宝治は歯を喰い、拳を血が滲むほど握りしめる。
「雲林院君の行動は教会の連中に筒抜けになっているわ。なんてたって教会にはまさしく神の眼が付いているのだから」
「じゃ、じゃあ、零夜が俺達に何も言わずに出て行ったのは教会の連中や神から俺達を護るため……」
「そうよ。それでも、私達の行動も筒抜けでしょうけど、雲林院君が神をも殺すことが出来るアーティファクトと古代魔法を手に入れている最中はそちらに付きっきりで安全でしょう」
「では、白須さんを連れて行ったのはなぜですか? 二人の関係はなんとなくわかるのですが、危険なら連れて行くべきではなかったのではないですか?」
大沢先生は不思議だ、という顔で涼風に訊ねる。
「優香を連れて行ったのはセラから護るというのもありますが、遊馬達から優香を護るというのが一番です。天宝治君は遊馬達の奇行を目のあたりにしているわよね? 大沢先生も遊馬達の奇行を聞いていると思います」
「ああ、その話と遊馬の行動を見れば白須を連れて行ったのが正解だったと頷ける」
「そうですね。雲林院君は白須さんのことが大切だったのですね。では噂の女の子というのは誰でしょうか?」
涼風は二人が騒がないように詳しく正体を伝えた。
「はぁ~、何か、あの美少女は元魔王で、今は長い年月で忘れられているが魔族の目的はセラ打倒で、零夜と共に魔王へ返り咲かせて魔族を仲間にしようとしているのか」
「魔族は敵ではなかったのですね。亜人族も仲間にできるのでしょうか」
「詳しいことはまだわかっていないわ。でも、雲林院君達は私達のために行動してくれているのは変わらないの」
「その話を聞いたときは我々もどうしていいのか分からなかった」
「だがな、先日国を救ってくれたウジイ殿を無理矢理捕えようとした教皇の指示はおかしい。完全にウジイ殿が言ったことが正しい気がしておる」
再び重い空気が流れ始めた。
短い時間の沈黙だが、この場にいる六人には長くつらい時間のようだ。
「アスマ達五人は最前線へ行ってもらうこととなった。我々としてもこの騒ぎを収めるにはこうするしかなかったのだ。教会側から反発があったが、レイヤとの決闘を十分に使わせてもらった」
「あんな奴になった遊馬だけど、見限られても一応勇者をしていた人物がいなくなるとクラスの中に亀裂が入ると思うのよ」
「そこで、私は王城へ残る生徒を纏め、教会の連中や情報収集をしてほしいのですね? 天宝治君は涼風さんと同じく、何が起きても良いように実力を付けると」
大沢先生の言葉に天宝治を除く四人が頷く。
天宝治も成り行きが分かり始め、無言で先を聞く。
「王国はウジイ殿に出来るだけ協力することとなった。大きな協力は出来ないが、教会の勢力を削ぎ落とすことやもしもの時の支援、情報の伝達等だな」
「まだお前達に教えていなかったが、レイヤからは最高の武具となるドラゴンの素材を提供してもらった。最終決戦までにはどうにかして使える様にしようと思う。もちろん教会の連中には渡さない」
国王とロイ団長は完全に零夜に協力するようだ。
大沢先生と天宝治も頷き、生徒達に通達することを話し始める。
とりあえず、零夜の目的と帰還方法、自分達がすることを伝えることにした。
教会については薄々勘付いているだろうが、まだ伝えるには早いと判断した。詰め込み過ぎても混乱するだけというのもある。
夜中となったが、部屋の中では未だに奇声と破壊音が聞こえている。
「くそ、くそ、くそおおぉッ!」
遊馬は壊れたタンスの残骸を踏み付けながら、涎を垂らして発狂する。
頭の中には『自分より弱い』零夜に負けたこと、『俺の』白須を奪われたこと、『伝説の勇者』である自分の思い通りにいかないこと。
それらが頭の中で都合のいいように渦巻き、現実を見ようとしていない。
元々の性格が自分を中心だという自己中心的だったが、この世界に来て自分より下だと思っていた零夜に負け、自分のものだと思っていた白須が奪われ、地球のように自分の思い通りにいかない苛立ちが増幅させている。
戸間達四人も同様だが、全ての怒りが零夜へと向かっていた。
零夜がいなければ、戻ってこなければ自分達は最強のままだった……。
零夜が存在しなければ白須は自分に向いていた、傍にいた……。
零夜がいたから計画を潰され、監禁されている……。
この状況を作ったのは零夜のせいだ。
零夜さえいなければ全て上手くいっていた。
零夜が邪魔だ……。
零夜が憎くて、憎くて、堪らない……。
だが、力が足りない。
零夜を超える……いや、零夜を殺す力が、欲しい。
俺をこんな目に合わせたやつを殺す力が欲しい。
全てを殺す力が…………ホシイ……。
「はぁ、はぁ、はぁ……。レイヤァ、レイヤアァ、レイヤアアアアァァ! 死ね死ね死ね死ね死ねシネェェェェェェッ!」
もはや、遊馬達は自分達がどのような状態なのかわかっていない。
零夜よりも強いという自尊心がどうにか壊れない精神を保っていたが、あの決闘で瞬殺されたことにより崩壊してしまっていたのだ。
更に自分達にとって理不尽な監禁により、全てを憎み始めていた。
遊馬は暴れていたのをピタリと止めると、格子の隙間から見える月を濁った瞳で覗き、徐に歩き格子を掴んだ。
「スベテ、零夜のセイだ。アイツを殺すチカラが、ホシい。ナンでもくれてヤル。だから、オレに……全てをコロス力を!」
格好はおかしいが、まるで神にでも願うかのように、恋い焦がれるかのように月に向かって願い始めた。
これは遊馬だけでなく、同時に戸間達四人も同様の行動をとっていた。
まるで、何かに操られているようだ……。
「ダレでもいい……。オレにチカラをくれェェェェッ!」
『いいじゃろう。そちの願い、叶えてやる。妾に何を願うかえ』
遊馬が叫んだと同時に月が光り、美しい声が脳内に響いた。
「だ、誰だ! どこから話している!」
遊馬は狼狽えるように辺りを見渡す。
『おほほほ、そちの眼に妾を見ることは出来ぬ。妾の名はセラ。唯一神にして絶対神、世界の創造神して人族の守護神なるぞえ』
謎の声はセラと名乗り、遊馬は目を見開いて考えた。
本物なのだろうか、なぜ声をかけてきたのか、なぜ俺なのか、力をくれるとは本当なのか。
『本物も本物、正真正銘神なるぞえ』
遊馬は心を読まれたことに驚愕する。
「な、なぜ俺に話しかけた! いや……」
それは俺が勇者だから、やはり選ばれた人間だからだ。
と、歓喜する。
『おほほほ、傲慢よのぉ。だが、そこがよい』
「そうか!」
こいつは本物だ、俺は選ばれた存在だから声をかけられた、俺はやはりすごい! 完璧なんだ!
遊馬は歓喜に震える。
『そう騒ぐでない。勘付かれても知らんぞえ?』
「知るか! 早く、早く俺に力をくれッ」
『おほほほ、妾は神だというのに何と傲慢な』
「力をくれるのだろ! 早く俺に力をくれ!」
遊馬の耳には何も入らず、力をと連呼する。
涎は撒き散らし、少量の汚物を垂らし、目を血走らせる。
『そう焦るでない、小童。そちの願いはなんぞえ? 力と言ってもいろいろある。そちは妾に何の力を望むのかえ?』
「俺は、俺は! あいつを殺す力を、彼女――白須を取り戻す力が欲しい! 全てを支配する力が欲しいぃ!」
拳を握りしめ、高らかに突き上げた。
『白須とは、零夜とかいう忌々しい適性者に奪われた女子のことかえ?』
「ああ、そうだ! あいつは俺の彼女を奪いやがったァ! 雑魚の分際で、勇者である俺の女を奪いやがったァッ!」
『いいじゃろう。代わりに零夜とかいう小童を殺めよ。これは取引じゃ』
「いいだろう。なんだってやってやる! 零夜だろうと、魔族だろうと、神であろうと殺してやる!」
『おほほほ、神をも殺すかえ? 面白い小僧よ』
セラは本当に面白そうに笑う。
遊馬も自然と口角を吊り上げ、この先に待つ歓喜に震える。
『では、力を授けるぞえ。神の力、死ぬでないぞ?』
「神の力……上等だ! 俺は伝説の勇者だ! こんなところで死ぬわけがない!」
『では……【神威】』
月の光が増し、遊馬に降り注ぐかのように格子から差し込み、遊馬の体の中へ吸い込まれていく。
「お、おお、おおおおおおお!」
遊馬は漲っていく力に喜ぶ。
筋肉が膨張し、血が膨大に流れ脈打ち、焦点がぶれ、体の組織が作り変わっていく。
吠える声は次第に苦痛へと変わり、声すら出なくなっていく。
『その力に飲み込まれる手は終わりぞえ。耐えて、妾の願いを叶えよ。では、さらばじゃ』
月が一瞬神々しく光ると脳内に響いていた声が掻き消えた。
遊馬はそんなことに意識を割けているわけにもいかず、のた打ち回るように力に対して逆らっている。
ただ、零夜を殺したいがために……。
セラは戸間達四人にも同じように力を与え、五人ともまんまとのせられてしまった。
神の駒となるとも知らずに……。
それから数日、零夜達が『食王』と邂逅し『食の迷宮』に挑んでいる頃、王城では帝国の密偵から手紙が届いていた。
「ウジイ殿は帝国にいる『食王』と邂逅し、協力を仰ごうとしているようだ。帝国は教会に対して快く思っておらんから、ウジイ殿に協力すると踏んだが良いように進んでいるようじゃ」
国王は手紙を読み嬉しそうに言った。
帝国が協力体制を取れば、教会の勢力を低下させることが出来るだろう。
帝国と教会は脅威から守るために食材を提供する、北大陸から最も遠いから豊富な食材を人材の代わりに送るというような関係だ。
それも数か月後には変わっているかもしれないが。
「レイヤは今何をされておられるので?」
「ウジイ殿は現在『食の迷宮』に挑んで居るようじゃ。やはり古代の迷宮は情報がないからのう。その情報集めに時間が掛かっとるようじゃ」
「それは仕方がないですな。古代の迷宮は各所に散らばり、大陸に二つずつ分かれておりますから情報を得られません」
「そうじゃのう」
二人は少し笑って手紙から目を離す。
「それでそちらの方はどうじゃ」
「はい。こちらはスズカゼとテンホウジを中心にまとまっております。魔物の襲撃で怖気づくかと危惧していたのですが、レイヤ達の奮闘がうまい具合に聞いたようで強くなろうと励んでおります。また、レイヤの旅の目的を知ったこともあるでしょう」
「そうじゃな。帰還方法が迷宮にあるとすれば強くなるしかないからのう。それに、まだ有耶無耶なものに頼るより明確というのもあるだろうな」
涼風は女子を引き入り、天宝治は男子を引き入る。その二人を纏めているのがロイ団長だ。
まだまだ危なっかしいところもあるが順調にステータスが上がり、その危なさも訓練と実践の中で薄れていっていた。
逆に王城に残っている生徒は大沢先生を中心に道具作り等の支援や知識を得て道具の開発などをしていた。
やはり、心のどこかで力だけでは無理だと勘付いているのだろう。まあ、生産チートがしたいという生徒もいるのだろうが。
「こちらはな、異世界の技術と魔法を合わせた道具を開発中じゃ。魔石から魔法を放つことを利用した魔法銃、魔石に膨大な魔力を込めて衝撃と共に爆発する魔爆弾等じゃな」
「聞いただけでも恐ろしいのが分かりますな」
「そうじゃが、同時に契約もしておる。特級レベルの契約書で異世界の技術を含んだものを今回の争い以降使用しない、とな。例外は存在するが、兵器となると別じゃ。恐ろしすぎて使う気にならんよ」
「契約の違反はどうされたのですか?」
「それは王族の命、と言いたいが、それは拒否されてのう。違反すると兵器にセーフティーがかかり、一生使えんようになると言っておった」
ロイ団長は意味が理解できず、聞き返した。
「恐らく魔方陣にそうなるよう組み込んだのじゃろう。オオサワ殿が言っておったが通信の魔道具の技術と隷属魔法を応用したとな」
「それは……」
まず、どの魔法陣にも通信の魔道具と同じように回線を繋ぐ。その回線は契約書の魔方陣に繋がっており、契約違反とみなされた場合その魔法陣が消え、回線を辿って兵器の魔方陣を消すようになっているのだ。
また、開発に関わっているものは契約で後世に伝えることを禁止され、誰にも伝えることが出来ないようになっている。
これで、未来になってもこの兵器が使われることはない。
また、異世界の技術が入った回復用の魔道具や次元袋、音楽を録音・再生する魔道具等危険のない物は含まれない。
多少の危険は仕方がないと割り切っているのだ。
それよりも今をどうするかの方が大切だということだ。
「それは、凄いですな。後世に残したくなりますが、これを残すということは、我々の手で生き物を絶滅させる一歩となる可能性もあるのですから言うとおりにした方がいいでしょう」
「儂もそう思っとおる。まあ、それでも漏れるだろうがな。そのあたりはこちらでどうにかするしかないじゃろうな」
「そうですな」
ロイ団長と国王は疲れたように笑って、今後の方針を決めていく。
涼風と天宝治は迷宮に挑むのをやめ、各自の訓練によるステータス上昇と地上での戦闘でレベルを上げることにした。
やはり、迷宮にはいい思い出がなく、トラウマを呼び起す可能性があるからだ。
現在生徒達は図書館へと訪れていた。
「武器は振り回すものでも、振り回されるものでもないわ。自分に合ったものを使うのはもちろんだけど、特性を理解し、自分の手足のように扱い、同時に恐怖もしなくてはならない」
「技能があるから自分に合っている武器だと思うが、まずはその武器について詳しく知れ。俺の武器である斧ならば切るものではなく、重い一撃と力任せに叩き切るという感じだ。また突くことも出来る等だ」
クラスメイトは二人の話を聞いて自分の武器を手に考える。
剣を撫でる者や長さを考える者、槍の種類を考えたり、自分に合った専用の弓を作ろうとする者等たくさん現れ始めた。
「良い傾向のようね」
「ああ、自分専用の武器を作るというのが一番いいかもしれん。使い勝手もわかるだろうしな」
二人の武器は宝物庫から貰ったものではなく、レイヤが置いて行った物だ。
どれも五十階層以下と誰も到達していないところの装備品のため、熟練者でない限り武器に遊ばれてしまうだろう。
涼風も剣道をしていたといっても零夜ほどの剣術を持っているわけではない。
天宝治は斧の使い方をこちらに来て初めて知ったのだ。
二人が使えるようになっているのは弛まぬ努力のおかげだろう。
「それぞれの特性を理解したところで、次にその武器を実際に使ってみる。使うことと扱えるは全く違う」
「刀や剣でいうと重さに振り回されないことがまず大事よ。それには筋力がもちろん大事だけど、それ以上に力の入れ方と持ち方、重心の取り方が大事なの」
「もちろんそれはどの武器でも同じだ。体重が乗った一撃、体捌きによる反撃、防御体勢等がいい例だ」
生徒達は納得する。
こういったことは少しでも武道を齧った者やそういった本やアニメなどを見た者は知っているだろう。
知らなくとも体験ぐらいしたことがあるはずだ。
例えば重い方が降りるシーソー、走る時も上体が低い方が速く、手押し相撲などもいい例だ。
「まずはこの一か月で武器を扱えるようになる。せめて振り回されないように頑張ろう」
「あとは自身の技能の使い方をしっかり理解しましょう。危険察知だけでも熟練度を上げて範囲や察知能力を上げる等ね」
二人の指導と騎士団の訓練により、以前よりもステータスの上昇が良くなっていた。これも涼風が零夜からいろいろと聞いていたのが幸いしたのだろう。
それでも一日も時間がなかったため基礎の基礎しか聞いていない。
現在の生徒の平均ステータスは1000を超えたぐらいだろう。
これで下位魔族には負けることがなく、中位魔族でもグループを組めば戦えるだろう。
手のほら返し、虫のいい話ですね、本当。




