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食の迷宮2

また忘れてました。

 幻の七つの食材に内二つを手に入れた僕達は三つめの食材【アーモンドウッドの実】のある密林の中に来ていた。


 この密林は基本的にすべてが大きく、地面に生えている雑草さえも脛の高さまである。木々は見上げるほど高く、葉の大きさは頭サイズ、出てくる蟻や蜂の魔物は人間サイズだ。

 まるで自分達が小人になったかのような場所だ。


 アーモンドウッドとは別名『チョーク』と呼ばれる巨大な木で、その身にアーモンドのような形の実がなっている。その実が【アーモンドウッドの実】で、その実を割るとチョコレートの様な果肉が出てくるそうだ。

 包んでいる殻も栄養価が高く、薄皮を剥いで乾燥させてパンと一緒に焼いたり、野菜と和えたり、ケーキなどのデザートにも使える万能な植物なのだ。


 そんな【アーモンドウッドの実】がこちらも味と香りが強烈で生半可な食材では相手にもならない。特に香りと甘みが強く、デザート向きだとのこと。

 中にある果肉は一度温めて液体化させることで植物の繊維がなくなり、冷やして固めた時にパリッとした感触になるのだ。もちろん液体化した状態でミルクに混ぜたりしてもおいしく飲めるが、甘みが強すぎて砂糖のような物を直接食べているような気分になる。




 この階層は思っていた以上に広く見渡しが悪いためチョークを探すのに時間が掛かっていた。

 更に密林には巨大な虫型の魔物が多く少し進んでは遭遇している。特に虫の魔物は触覚で察知するため遠くからでも感知し、繁殖に能力が高く数で攻めてくる。


 この辺りの魔物ならば簡単に倒し切ることが出来るが、さすがに一気に視界を埋め尽くすほど来られると攻撃を食らってしまう。耐久度が高いためほとんど攻撃は通らないが、反動は来るためよろけて更に攻撃を食らってしまう。中には状態異常を起こさせる魔物もいるため気を付けなくてはならない。


 そのおかげでユッカのレベルが相当上がったのでいいだろう。僕とソフィーはすでに200近くにあるためそれほど上がらず、ステータスも一撃で沈められるためそこまでの大きな上昇はしていない。


 蜂がいるということは蜂蜜が採れるのでは、と思い蜂が来る方向へ進んでいくと、体長数十メートルもの巨大な蜂の巣がそれよりもまた大きな巨木にくっついていた。


 さすがの僕達もそれには絶句し、蜂蜜は諦めてさっさと求めている食材を探そうと考え引き返そうとしたその時、匂いで察知でもしたのか空を埋め尽くすほどの蜂の大群が一斉に襲い掛かってきた。


 僕達は血の気が引き冷や汗を流しながら即座に逃げようとしたが、木々を避けながら進んでいる内に蜂に追いつかれ、撃退することになった。

 僕はボックスから『雷槍ボルティアランス』を取り出し、魔力を注ぐと上空へ飛び上がり、蜂の大群が押し寄せている方向へ撃ち出す。

 二人は背中合わせに杖を構えて近づいてくる蜂を片っ端から魔法で倒していく。火魔法を中心に使いたいところだが、此処は植物が生い茂っている密林の中であるため無理だ。


 雷を撃つ度に空が光り、轟音が轟く。蜂が焦げ、感電しながらぼとぼとと落ちていく。

 地面からは強風が起き細切れになったり、水で羽根がやられ落ちたり、岩石が飛んで穴だらけになっている。


 暫くすると蜂も無理だと悟ったのか散り散りに空の彼方へと飛んで行ってしまった。


 僕は地面に降り立ち槍を仕舞うとへたり込んでいる二人を優しく抱き込んだ。二人は相当怖かったみたいで肩が少し震えていた。

 安堵と共に一息つくともう二度と蜂を見たくないと心の底から僕達は思った。だが、蜂もどこかに行ってしまったのでチャンスだと思い、蜂が戻ってくる前に蜂蜜の採取をすることにした。


 蜂の巣まで行くと一か所を破壊して中に入り、蜂蜜を頂く。

 蜂蜜は六角形の孔が並べられたハニカム構造で、光が辺り黄金色に輝く宝石が入っていた。この液体の宝石が蜂蜜だ。


 指で巣食って食べてみると口の中で滑らかに溶け、程よい甘さが染み渡るように広がっていく。

 二人もこの口どけのいい滑らかな蜂蜜を気に入ったのかニコニコと嘗めている。やっぱり女の子は甘い物が好きなんだね。


 僕は満足そうな二人を見ながらボックス内に入れている瓶に蜂蜜を詰めていく。流れるように入って行く蜂蜜にはゴミ一つなく、五リットルほどの瓶三つに入れて蓋をすると蜂の巣から出ることにした。


 蜂が返ってくる前に飛び出ると地面に倒れている蜂の魔物を冒険者ギルドで売れるかもしれないと思いボックスの中に仕舞っていく。お金に困っているわけじゃないが、こういった魔物の甲殻は硬く武器や防具となる。


 この辺りまで来ると魔物が強くなり、この世界の人のほとんどが倒せないのだ。倒せないということはこの辺りに来る探索者が減り、食材が地上に流れず希少となる。魔物の素材も出回らず、一向に探索者も強くならずに食材が出回らない。強くなった人は現役ぎりぎりで数年で引退してしまう。

 この循環がずっと続きいつまで経っても食材が出回らず、探索者が強くならない。


 だから、この甲殻を持って帰り冒険者ギルドに売れば食材も出回り、探索者全体の強さが上がるかもしれない。

 更に言えば帝国の強さが上がり、将来僕達の味方になったら心強くなる。今の状態、教会嫌いのままならば敵対することはないだろうから大丈夫だろう。




 蜂蜜を回収した僕達はいつまで経ってもチョークを見つけられないことに苛立ち始めていた。


「レイ君、どこにもないね」


 ユッカが疲れたように肩を落としていった。


「レイヤぁ。疲れたぁ」


 隣にいるソフィーは目を半分閉じて眠そう僕の身体に寄りかかる。


「むぅ」


 ユッカはそれを見て腕を僕の腕に絡めて寄りかかる。


 僕も疲れては来ているがこれは精神的なもので、二人よりも体力があるのでそこまで疲れてはいない。だが、半日以上歩き続けて見つからないとすると一体どこにあるのだろうか。


 それから少し違う方向へ歩いているとソフィーが急に顔を上げて鼻を鳴らすと目を開いて指を刺した。


「あっちから甘い匂いがする」


 指差したほうを向いて匂いを嗅ごうと意識するとほんのりと甘い匂いが漂ってきた。この匂いは蜂蜜や果物の匂いではなく、チョコ独特のほんのりとする匂いだ。


「お! この匂いはチョコの匂いだ!」

「チョコ?」

「そうだよ。チョコっていうのは甘いお菓子だね。基本的に焦げ茶色で独特の甘みがあるんだ。探しているものも予想ではチョコだと思っていたからこの匂いがする方にあると思う。ソフィーのおかげだね」


 僕はそう言ってソフィーの頭を撫でる。ソフィーは気持ちよさそうに目を細め、ユッカがジト目で僕を見る。

 すぐに手を離すと二人の手を握って匂いのする方向へ進んでいく。


 草を掻き分けて進んでいくと甘い匂いが徐々に強くなり始めた。それと同時に魔物の数も増え、確実にこの方角に幻の食材があることが分かった。


 最初から魔物がいる方を行けばいいと思うが、こうも感知できる魔物が多くては意味がない。先ほどの蜂の巣の様な場所もあるからだ。


 甘い匂いに引かれるように進んでいくと草の大きさが小さくなり、木々も普通サイズになっていくのに気が付いた。

 不思議に思って辺りを見渡すと出てくる魔物以外はすべて元のサイズになっていた。後ろを振り向いて確認するとどうやらここだけが元のサイズになっているようだ。


 前方を確認すると里依紗な森の様な場所を発見した。そこが匂いの発生源のようで、よく見ると赤っぽい実が樹にぶら下がっている。

 どうやらあれが求めていたチョークであり、赤い実が【アーモンドウッドの実】のようだ。


 この地帯はドーナツ状の普通エリアで、その中心の穴の部分にチョークがたくさん生えているようだ。


 早速そこに近づき採取を開始した。


 一つもぎ取り匂いを嗅いでみるとアーモンドの渋い匂いとチョコの甘い匂いがした。割ってみると中から半液体状、スライムの様な黒い果肉が現れ、『鬼火』で少し加熱して液体化させて食べてみた。


「おお! これはチョコレートだ! 半年ぶりに食べたよ!」


 僕は日差し振りに食べたチョコの味に感激して叫んでしまった。

 二人は驚いて僕の方へ近づくと僕の手から実を奪い去り指で掬って嘗めた。


「んん~! この味、匂い、舌触り。本物のチョコレート! おいしいよぉ」

「ん! おいしい! これがチョコ……」


 ユッカは久しぶりに食べた懐かしい味に涙し、ソフィーは初めて食べたチョコに頬を綻ばせた。

 カレーと同じくチョコは人を惹きつけ虜にさせる料理の一つだ。更にチョコレートをカレーに混ぜればコクが増すな。帰ったらチャレンジだ。


「さて、さっさと採取しようか。早くしないと魔物が来そうだし」


 僕は魔力感知で近づいてきている魔物を察知した。

 二人も感知したようで真剣に頷くが、指が口の中に入っているため和ませる。


 これはおやつにもなるということで大量にもぎ取ってボックスに仕舞った。多分この実はこの迷宮でないと採れないだろうというとスピードが上がり、もういいと言っても持ってくる始末で、僕は呆れながら二人の気が済むまでボックスに仕舞い続けるのだった。




「じゃあ、今日はここまでにしよう。歩き疲れているし、早く帰って休もうか」

「歩き疲れちゃった。ふくらはぎパンパンだよ」

「疲れたぁ」


 チョコを食べてエネルギーを回復した二人もさすがに充電切れで疲れがピークになっているようだ。

 明日は休日にした方がいいな。


 僕はそう思いながら上空へ飛び上がると次の魔方陣がある方向を探し出し、二人を抱きかかえて飛んで行った。


 ここで初めから飛んで探さないのかと思うが、先ほども言ったが空中で戦闘になった場合、僕は二人を抱えているためユッカとソフィーの二人で戦わないといけなくなる。

 更に空中では身動きがとり難くいのに敵は取りやすいという不利な状況になり、少しでも僕が怯んでしまった場合墜落だ。危ないことになるのなら始めからしない、これは大切なことだ。




 地上へ帰ると多めに採った食材をスティーニャさん系列のお店に売り払った。

 どうやら僕達のことが通達されているようで高めの値段で買ってもらった。十層以下はほとんどの冒険者が行かないということなので相当な価格になった。


 そのまま疲れたような足取りで宿屋まで帰り、風呂に入ると泥のように眠った。


 次の日。

 僕達は一昨日と同じように帝国内を物色し買い物や二人へのプレゼントを買うなどをして過ごした。

 服屋の前を通ると先日のことを思い出してしまったが他は良好で、久しぶりに英気を養った気がする。




 更に次の日。

 僕達は『食の迷宮』へ戻り、黄金米のある十五層に来ていた。この階層は豊かで長閑なところで、田舎という文字がお似合いの場所だ。


 目の前には黄金色の稲が見えていることから恐らくあれが黄金米なのだろう。

 地面はぬかるみ身動きがとり難く、滑り易い。何かが通ったような、引き摺ったような跡があることから、ここは聞いたワンダコンダという蛇の魔物のテリトリーなのだろう。


 蛇はピット器官と呼ばれる特殊な察知器官がある。

 ピット器官を簡単に言うと赤外線、温度を測れる器官だ。その器官を使うことで遠くにいる敵から隠れている敵まで、何でも探し出し仕留めてしまうのだ。多分この世界の蛇は独特な進化をしているだろうから魔力用のピット器官もあるだろう。


「二人とも気を付けて。すぐにここの主が来るだろうから」


 僕はボックスから刀を取り出して言う。


「ワンダコンダがいるんだっけ?」

「蛇の魔物。とても大きい」

「蛇かぁ……。虫よりはいいかなぁ」

「うん。蜂よりはいい」


 二人も僕の背後で移動して杖を構える。

 こういう時は無暗に動かず、辺りの音を拾って待ち構えていたほうが先制攻撃を取りやすく、身構えることが出来る。


 待っていると何かを引き摺っているような音が聞こえ始めた。重く擦れるような音も聞こえ始めたことからすぐ近くにいるだろう。

 こういうところでは地中に潜ることもある蛇だが、引き摺っている音から察するに地上に出ているのだろう。


「レイ君! あそこ!」


 ユッカが目の前を指さし僕に報告する。

 目を凝らしてみると百メートル先の林の中から大きな蠢く物体が近づいて来ていた。

 体は暗く毒々しい黒紫色で、体表に紫色の縞がある。それが余計に毒々しく気持ちの悪さを連想させ、僕達を見ているのか怪しい顔からは細長く二股に分かれているチロチロと表現していいのかというデカさの舌が出ている。


「結構速いな。二人は近づいたら魔法を当てて。僕はその瞬間に飛び込むから」

「わかった」

「了解」


 既に七十メートルを切ったというのに未だに体は林の中から出てきている。どれだけの長さなのだろうか。


 二人はすぐに詠唱を始め、すぐに魔法陣が展開できるようにした。

 僕も刀を握り直して戦闘準備に入る。


 ワンダコンダも僕達を視認し、その大きな口を開け広げ鳴き声を発する。鋭利な歯を打ち鳴らし、口を閉じると先ほどよりも速いスピードで近づき始めた。


「射程内に入った! 『風斬刃』」

「了解。『大爆炎』」


 二人の魔法が放たれた瞬間に僕は風を切る勢いで駆け始め、ワンダコンダに肉薄する。


「キシャアアアアアァ」


 風切り音を鳴らし飛んで行く刃は鱗を剥がしながら肉を裂き、それを意に返さず突き進むワンダコンダの下から大爆発が起き上半身が浮き上がった。

 悲痛の声を上げるワンダコンダの上へ飛び上がり、大口を開けこちらを飲み込もうとするワンダコンダの頭に着地する。


「『剣槌』」


 右手に持っている刀の剣先を上に柄を握り込むと『鬼金剛力』と『鬼豪腕』を使い、大地を粉砕する勢いで鼻先を叩き落とす。


「キシイイイイィィァァ」


 大地に叩き付けられたワンダコンダの身体が波打つように尻尾の方へ衝撃が広がっていく。砕かれる破壊音の中から微かに漏れる様な悲鳴が上がる。

 空を蹴って二人の元へ着地すると僕の脇から魔法が放たれた。


「くらえ! 『風流槍』」

「とどめ。『大地――』」


 舌を垂らし延びているワンダコンダの身体に風の槍が突き刺さり風穴が開く。目を覚ましたワンダコンダは痛みでのた打ち回り、そこへ周りから浮かんだ岩石が集まり出す。


「『――爆砕』」


 ソフィーの声と同時にワンダコンダの上半身を飲み込んだ岩石は凝縮して肉を押し潰し、内側から爆発した。

 岩石の隙間から血が滴れ落ち、まだ生きている下半身は地面の上を転げ回る。


 いくら蛇の生命力が高くともこのまま放かっておけば絶命するだろう。

 だけど、だけど……。


「……もうちょっと考えて魔法を使おうよ」


 (おびただ)しい量の血が大地に流れ真っ赤に染め上げているのは……はっきり言ってグロイ。

 ああ、岩が落ちていって、潰れた肉と押し潰された上半身が出てきたよ。


「……」


 ユッカは厳しい顔をしているが言葉も出ないほどショックのようだ。実行犯のソフィーは慣れているようで僕の方を向いて可愛く首を傾げていた。


 戦闘終了後、ワンダコンダをボックスの中に仕舞い黄金米を採取することにした。幸いワンダコンダの血の被害を受けた黄金米は少なく、数トン分収穫することが出来た。後は地上に帰ってから脱穀するとしよう。


「腰痛い」


 採取を手伝っていたソフィーは眉を細めて腰を叩いた。僕もそれを言われて腰と足が痛くなっていることに気が付き、そろそろ休憩を入れて次の食材を手に入れに行こうと考えた。




「あ~、気持ちいい」


 ユッカが温かな風が吹く芝生の上に寝転がりながら気持ちよさそうに目を細めて言った。

 ソフィーも僕の隣で丸くなっている。


 エネルギーを分け与えるかのような太陽に光が当たり体の底からポカポカとし、心地よい風が眠気を誘う。眼下に見える牧場からお目当てのマウント牛が長閑な鳴き声を上げている。


「疲れが取れていく~」


 ソフィーの頭を優しく撫でてユッカの手を握ると目を閉じて疲れを癒す。


 この階層には攻撃しなければ危険性の少ない魔物しか住んでいないようだ。真っ白で甘いミルクの匂いがするマウント牛やピンク色でふさふさもこもこのウールラビット、風を切って野を駆けるクイックドッグ等だ。


 愛玩動物も多くいるようで僕達の周りには兎や犬、猫などの小動物が近づいてきている。


「レイ君、何か上げられるようなものないかな?」


 ユッカは僕の方に体を向けながら、胸元に抱いている小動物を撫でている。


「魔物は基本雑食だから何でもいいよね。野菜でいいかな?」

「うん。この子は兎だからニンジンかな」

「わかった。はい、ニンジン」

「ありがとう」


 僕はボックスの中から取り出した『甘人参』をユッカに手渡した。

 ユッカは嬉しそうに受け取ると兎を膝の上に置いて口元にニンジンを持っていく。兎は警戒して髭を動かすと近づいて匂いを嗅ぎ始めた。安心だと理解すると小さく(かじ)り、おいしいと理解したのか(かぶ)り付く様にカリカリと食べ始めた。


「可愛いぃ」


 可愛いのはユッカもだよぉ。


 と、思いながら小動物と戯れているユッカを見て僕も安らぐ。

 次第にユッカの周りに兎やハムスターの様な小さな動物が集まり始めた。お腹でも空いているのかと考え、ボックスから何種類かの野菜を取り出してかごの中に置いた。


 動物たちが僕達の周りに近づいて野菜に顔をくっつけて食べ始める。人が訪れないこの階層では僕達が珍しかったのだろう。だが、食べ物をくれるということで安心して近づいてきたということだ。


「ん、んぅ~……」


 ソフィーが寝返りを打って僕のお腹の上に頭を置いた。軽い衝撃が襲ってきたが可愛く幼さの残る顔が目の前に突然やって来たためそちらの方で息が詰まる。

 何度見ても可愛いと思うし、愛おしいとも思う。

 ユッカと似て可愛いけど方向性が全く違う。そこがまたいい。




 数時間ほど和んで過ごしていると動物達もいなくなり、マウント牛の元へ向かいミルクの確保をした。

 初めは牛の乳搾りの仕方が分からず四苦八苦していたが、三十分ほど経った頃何とか普通に搾り出すことが出来るようになった。


「甘くていい匂いがするね。普通に飲んでもおいしいかな?」


 ユッカは瓶の中に入れた【マウント牛のミルク】の匂いを嗅ぎ僕に訊いてきた。


「普通のこの後熱処理とかするんだろうけど、『鑑定』したところ普通に飲めるみたいだよ。程よい甘味と濃厚な舌触りが特徴だって」

「本当! じゃあ、ちょっと飲ませて」

「いいよ。ちょっと待ってね、コップに注ぐから。ソフィーもいる?」


 隣で自分も飲みたそうに僕を見ているソフィーに聞くと頭が取れそうなほど激しく頷いた。

 僕は三人分のミルクを注ぐと三人揃ってグビッと一口飲む。


 口の中に広がるくどくない甘味と舌の上に重みと噛めると思わせるミルク。今まで飲んだどのミルクよりもおいしい。


「やっぱりおいしいぃ~! お風呂上りにも合いそうだよ」

「うんうん!」


 二人はぐびぐびと瞬く間の間に飲み干し、お代りを注文した。

 僕は苦笑しながらも気が済むまで注ぎ飲ませてあげる。




 無事四つ目の食材を確保した僕達は次の食材を求めに下の階層へと進んでいく。

 下に行くほど食材が粉物や液体物となっていく。


 この階層には【純白小麦】がある階層だ。

 辺り一面小麦粉や米粉、蕎麦粉、味のついた粉などいろいろとあるみたいだ。『鑑定』が無かったら今頃大変なことになっていただろう。


「二人とも火魔法は使わないようにね」

「うん、粉塵爆発でしょ? あれ怖いよね」

「粉塵爆発?」


 やっぱり小説とかで書かれているように科学が進歩していないようだ。


「粉塵爆発っていうのは空気中に浮いた粉に火が移って引火して爆発することを言うんだ。この階層で火を使うと……」

「大爆発を起こす?」

「そうだよ。恐らくこの階層全体が爆発するだろう。結界や『マテリアル』で生き残れるかもしれないけど最初っから気を付けておいて損はない」

「わかった。水もダメにするから、風と闇にする」

「うん。それなら大丈夫だろうね。もし何かあったらすぐに対処をするから言ってね」

「私は風魔法だね。結界も張れるから任せて」


 ユッカは理解しているようで杖を握って身の安全は任せろと言い、ソフィーは体を震わせると身を引き締めて真剣になった。


 魔物も粉の中を海のように動く魚や雪山に出てくる大男が多くいる。逆に小さな魔物が少なく敵を倒しやすいが、大型の魔物が多すぎ地中からも多数やってくるため戦闘回数が多くなっていた。


 そんな中何とか目的の小麦を探し出した。

 その他にもいろいろな粉類を探すことが出来たので戦闘の多さと差し引いてゼロでいいだろう。




 次の階層は入った途端、肌が凍るような冷気が吹き荒れ背筋をピンと伸ばさせた。


「さ、寒いぃぃ。レ、レイ君、何か羽織るものない?」

「レイヤ!」


 二人は腕を擦りガタガタと体を震わせて詰め寄って来た。

 唇が青くなりかけているのを見てすぐにボックスから厚着の服を取り出し、二人の肩にかける。それでも凍える様な風が吹き抜け身体をブルリと震わせる。


 天然の氷でできた洞窟の様なこの階層は見たところ迷路状ではないが、いくつかの通路に分かれそれぞれの通路に食材のようなものがあるようだ。


「は、早くここから出ようよ。寒くて体が良く動かない」

「寒いぃ」


 僕の感覚ではそこまで震える様な感じではないが、二人は寒さに弱いのか相当寒く感じるようだ。

 いや、僕の技能に全耐性というのがあったな。もしかしたら耐寒というのも加わっているのかもしれない。


 ボックスから松明を取り出すと『鬼火』で火を着けて二人に手渡した。


「これ持ってなよ。僕が戦闘をこなすから、二人には背後から近付く敵に気を付けておいてよ」

「え? 私も戦うよ。くしゅん」


 やる気でいるユッカの可愛い小さなくしゃみを聞いて苦笑すると上目使いで睨まれた。


「いや、無理に戦う必要はないよ。それでも手伝ってくれるのなら援護に徹してよ」

「う~ん、仕方ないか」

「くちゅん」


 ソフィーも可愛いくしゃみをして鼻を啜っている。

 二人の可愛い仕草を見て元気も出てきたのでそろそろ先に行こう。


 出てくる魔物は耐寒を持っている魔物がほとんどでアイスリザードマンやイエティ、アイスロックなどだ。どの魔物も火魔法に弱く、二人の援護のおかげで難なく倒していくことが出来ている。


 しばらく魔物を倒しながら進んでいると虹色の光が漏れてくる通路が見えてきた。


「あ! オーロラだよ」

「あれがオーロラ」


 その光は何度も入れ替わるように変わるオーロラのようだ。恐らく、この奥に求めている【オーロラ天然氷結晶】があるのだろう。


「僕も手がかじかんできたから早速採って次の階層に行こう」


 オーロラの光が漏れる通路に入り身長に向かって行く。


「キシャ、フシュゥゥゥ」

「ぐぎゃぎゃぎゃ」


 やはり幻の食材は魔物が引き付けるようだ。

 岩陰からそっと覗くと通路の先は袋のように広がっており、そこには魔物が多く都会の昼間のように賑わっている。

 それを見た僕達は魔物の多さに頬が引き攣り、作戦を練ることにした。


「ゆうに百体はいるな」

「さすがに多すぎない? 蜂を思い出したよ」

「蜂……。怖い」


 二人は寒さではない恐怖で体を震わせた。

 僕もさすがに苦笑いするしかなく、二人の肩をそっと抱いた。


「それにしてもどうするか……。中に入ると囲まれるから入り口で少しずつ戦うべきだな。幸い壁は頑丈みたいだし」


 僕は壁をこつこつと打ちながら二人に言った。二人も壁を触り硬さを確かめると頷き、僕の意見に賛成のようだ。


「確かにそれなら何とかできそうだね。私達は援護をすればいいかな?」

「それと背後に気を付けておいて。倒して来てるから大丈夫とは思うけど、一応ね」

「了解」

「まあ、このくらいの強さならステータス差でどうにでもなるだろうけど、気を付けていこうね」

「「うん」」


 僕はボックスから弓を取り出し、ひしめき合っている魔物に向けて弦を引き絞る。

 弓を構えて魔力が魔方陣によって吸い込まれると青白い弦が出現し、その弦を引き絞ると一本の青白い矢が出現した。


 二人はこの現象に驚いている。

 僕もこんな様になるとはい思っていなかった。


「それじゃあ二人ともいいね」


 引き絞った弦をさらに引き絞り、濃密な魔力が籠った所で弦から指を離した。

 放たれた矢は分裂を起こし、何十本という数の矢が魔物の群の中に放たれていった。


「キギャアアア」


 次々に魔物の体を貫通して飛んで行く矢は強度である魔力がなくなった所で消えてなくなる。もう少し強く込めていたら食材である氷に傷を付けるところだった。

 冷や汗を流しながらボックスから刀を取り出し、こちらに気が付き憤怒の雄叫びを上げている魔物に突っ込んでいく。


「はあああっ」


 襲い掛かってくる魔物達の急所を狙って切り刻んでいく。仕留めそこなった魔物には二人の魔法が飛び倒される。


「『火炎弾』」

「『岩石弾』」


 虚を突かれる形となった初めの矢の攻撃で半分近くやられた魔物達は瓦解する様に崩れていく。元々匂いにやられて近付いてきた者達ばかりのため連携は全くない。それどころから魔物同士の攻撃が当たり、仲間割れする者もいる。


 逃げるところのない魔物達は僕に襲い掛かるしかなく、背後にいる二人に近づこうとする者もいるが魔法の着弾で怯み、そこを僕に斬られて倒される。


「これで最後ッ」

「グギャッ」


 最後の魔物の首を跳ねて倒し切ると刀の血を拭き取り鞘に戻した。


「レイ君、近くに反応は何もないよ」


 ユッカが魔力感知に寄って魔物が来ていないことを告げた。


「これが氷?」


 ソフィーはオーロラを放っている幻想的な氷を突っつきながら言う。指で突くとそこからまたオーロラの光が洩れ綺麗に輝く。


 僕も試しに触ってみるとひんやりした感覚が伝わってきた。まさしく氷と言った感じだが手で触っていても溶けることがなく、情報と『鑑定』の説明通りだ。


 刀で切り取りボックスに仕舞う。

 硬さは普通の氷と同じようですんなりと切り取ることが出来た。


「残るはあと一つ」

「【隠し味】だね。それにしても安直な名前だよね」

「あははは、それは僕も思ったよ。でも、【隠し味】は使った料理に適した味になるという不思議な食材らしい」

「もっとおいしくなる食材」

「うん。この調味料だけは普通に使われるようだけど階層が階層だから出回らないみたい。場所も最下層みたいだし」

「私達なら大丈夫だよ。レイ君もいるし」

「私も頑張る」


 僕達は求めていた食材を回収すると寒さがまた体を襲いすぐに次の階層へと向かうことにした。


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