食王との邂逅
すみません。
予約するの忘れてました。
次の日。僕達は『食王』が住んでいるという食王通りに来ていた。
食王通りとは『初代食王』が初めて作った大通りのことで、現在は帝国内でも一、二を争う物流量の食材の宝庫なのだ。人口も多く、ほとんどの人が食王傘下の商人だったりする。
こんなところに訪れているのは昨日作ったカレーライスとカレースープを『食王』に食べてもらい、『死水の大遺跡』と帝国や教会の情勢、『赤猫義賊団』の情報、出来れば協力を得るためだ。
聞いた話では帝国の住民は教会に対してそこまで強い思いを持っておらず、どちらかというと自分達の商売の邪魔しかしない厄介者だという。
特に囁かれるように噂されている『赤猫義賊団』は教会を打倒の五文字を掲げているらしく、会うことが叶えば協力を得られるかもしれない。
更に近々『死水の大遺跡』に挑むという。
神出鬼没な『赤猫義賊団』に会うためには、この帝国に通じている『食王』に聞かなければならない。
『食王』が知っていなければ、誰もわからないそうだ。
今後の進展を決めることになるので何としてもこのカレーで『食王』に会い、話を聞かなければならない。
「あそこに見えるスライムが乗った屋根が『食王』の住まいかな?」
僕達の目の前には建物と建物に吊るされたロープに大きな垂れ特売の幕が下がり、新鮮なあらゆる食材が太陽の光を反射して輝き、店先で調理された料理の匂いが漂い客が押し寄せる。
そんな中上を見上げれば、周りの建物のゆうに五倍はあろうかという大きな宮殿のような形の家を見つけた。いや、目に入った。
どっからどう見ても砂漠にある宮殿っていう感じだな。確か、タージ・マハルっていう宮殿がインドにあった気がするけどそれにそっくりだ。もしかして『初代食王』って召喚者か?
「そうじゃないかな? 偉い人が住んでますっていう感じがするよ」
「うん、あれだけ違う」
日差しを手で遮り見上げていると二人も賛同した。
「じゃあ、あそこに行ってみよう。間違っていたら聞けばいいしね」
僕達は食王通りの中に入り、道の奥に見える宮殿に向かって進んでいく。
食王通りには昨日まで見てきた商店とは違い珍しい食材がたくさんあった。いろいろと目移りしてしまうがあちらの都合もあるだろうと考え、早めに『食王』に会いに行くことにした。
宮殿は近づくにつれて大きくなり人通りが少なくなっていき、いるのは高級そうな服を着た人と白い服と帽子を被った料理人、馬車に多くの食材を積んだ商人達だ。
僕達は多少の場違い感とこの服装のままでいいのかと思いながら、宮殿の前に設置されている検査口に向かった。
そこには文官と兵士の中間といった服装の男性と女性が複数人立って検査をしている。
密輸品等が荷馬車にないかの荷物検査、危険物を持っていないかの身体検査、探知系の魔法による人物検査等が細かく行われている。
空港のボディーチェックとかみたいだな。
僕達はその検査の流れを見ながら、最後列に並び検査を待つことにした。幸い、宮殿や『食王』に用がある人は少ないようで並んでいる人は帝国に入る時ほどではない。
三十分ほどすると僕達の番が来た。
「お前達は何をしに来た」
「僕達は珍しい料理を持参してきました。そのことで『食王』にお会いしたいです」
僕はボックスの中から一皿盛っていたカレーを取り出して役人に手渡した。
突如現れたカレーを不思議そうに見ていたが、昼前ということで余計に食欲をそそる匂いと熱々のご飯と絡み合ったルーがテカり、一口大の野菜と肉の凹凸の作りを見て喉を鳴らした。
役人は鼻をひくつかせて匂うと再びゴクリと喉を鳴らす。
「一口どうですか?」
「い、いいのか?」
「ええ。あなた方が食べたことがないと言うのであれば『食王』も食べたことがない可能性が出てきますからね」
「そ、そうか。では、確認のために一口貰おう。毒見も兼てな」
僕は苦笑しながらスプーンとカレーの乗った皿を渡す。他の役人も食べたそうに涎を飲み込んでいるのが見えた。
後ろではユッカとソフィーがカレーを見ておいしそう~、と呟いている。
僕はそれを感じ取って再び苦笑してしまう。
カレーはどこの国、世界でも共通して人を惹きつけていくんだな。
役人はスプーンで掬い冷まして食べると目を見開いて固まってしまった。僕をじっと見るその目からはもっと食べていいかという言葉が聞こえてくる。
僕がまだたくさんあるのでどうぞと頷くと、役人は熱いのもお構いなしにがっつき始めた。
「水をどうぞ」
「(ゴクゴク)……ぷはぁ。旨かった」
「どういたしまして」
口直しのために水をボックスから取り出して手渡すと一気に飲み干した。
「それで、どうでしょうか?」
至福の時を過ごし上の空となっている役人に申し訳ないと思いながら、カレーがこの世界に存在しているのか聞く。
役人は僕の言葉を聞いてこの世界に帰ってくると、目を閉じ眉を細めて唸るように考え出した。
「う~ん、俺は食べたことはないな」
「本当ですか!?」
ユッカがその言葉を聞いて僕の肩に手を置いてそう言った。反対の肩にはソフィーが同じようにしている。ソフィーはユッカが近づいたから自分もやっただけだろうな。
「帝国生まれで、ここでいろんな食材や料理の役人をずっとしてきた俺が食べたことないんだから間違いない。だが、『食王』は帝国以外の料理にも詳しいお方だ。もしかしたら食べたことがあるかもしれん」
「お会いできませんか?」
僕がそう訊くと役人さんは首を横に振った。
「いや、一応珍しければ通せという言葉をいただいている。だから、身体検査をしたのち会えるように取り計らおう」
「それは、ありがとうございます」
僕達は顔を見合わせると喜び役人に頭を下げた。
そのまま役人に案内されて宮殿の中に足を踏み入れた僕達は応接間に案内された。
応接間には王国の王城で見たような物とは違い、装飾のない白壁に四角い穴が空きそこに明かりの魔道具が置いてある。柱には精巧な細工と模様が描かれ、その他のものは木製だ。
「緊張するね。レイ君は『食王』さんってどういう人だと思う?」
隣に座っているユッカがそわそわしながらそう言った。
「私は太っちょでにこやかな人だと思うんだけど」
「僕は、そうだなぁ、以外と細身で小さい人じゃないかな? だけど大食な人」
僕はソファーに体を預けると両腕を組んで考えると、右手の指をユッカに立ててにっこりと言った。
「私はマッチョな人。自分で狩りも出来る」
ソフィーが僕の手を握りながらそう言った。
「それもあるかも」
僕達は『食王』がどのような人なのかという話で盛り上がり、談笑をしながら『食王』が来るのを待った。
しばらく話しているとドアがノックされ、僕達は談笑を止めて居住まいを正した。
「お待たせ。あなた達が珍しい料理を持ってきたという人かしら……どうかした?」
入ってきた人は僕達が想像していた人とは真逆な人で、身長百七十センチ越えの褐色の肌、燃える様な赤色の瞳に艶やかでぷっくりと下唇、鼻筋の通った綺麗な鼻、薄紫色の銀髪を頭の後ろに括ってポニーテールにしている。片腕には炎の様な赤い刺青がされ、大きな胸の谷間には首からかけた宝石が輝いている。恥部を隠す服の上には誘うような薄い布を付け、それがこの女性の妖艶さを最大に醸し出している。
想像とは全く違った人が部屋の中に入ってきたため、僕達は茫然となってしまい心配されてしまった。
え? え!? この人が『食王』?
「えっと、失礼ですが、あなたが『食王』でしょうか」
「ええ、そうよ」
女性はにっこり微笑むと僕達の前に座ると優雅に足を組んで答えた。
僕達はどうしたらいいのかよくわからず困惑していると、女性はクスクスと艶やかに笑いだした。
「私が『食王』に見えないのでしょう? あなた方は他国に人のようだから仕方ないかもしれないけど、『食王』はいつも何かを食べている人ではないわよ。帝国の食材を牛耳る者をそう呼ぶの」
ああ、納得。皆そういうことを言っていたな。
おいしい物を求めているという情報に惑わされたっていうことか。
『食王』は食材の王ということかな?
「それはすみません。想像していた人と全く違ったもので」
僕達が頭を下げて謝ると女性は笑いながら訊いてくる。
「どう違ったの?」
「想像と真逆でした。とても綺麗な方です」
「それはありがとう。だけど、言い方には気を付けないとね」
女性は僕にそう言って僕の左右をちらりと見た。
僕は恐る恐る身を引いて隣を見ると、睨み付けて頬をパンパンに腫らしたユッカと無表情で僕の腕を抓っているソフィーがいた。
「「むうぅ」」
「えっと、二人ともごめん」
僕は引き攣りながら謝り、二人を宥めに掛かった。
女性はそれを見ておかしそうに微笑み二人の機嫌が直るまで待ってくれた。
「改めて挨拶をしましょう。私の名前はスティーニャ・レッディドというわ。世間では『食王』と呼ばれる者よ」
そう言って手を差し出してきたので僕達も自己紹介をして手を握る。
「僕はレイヤ・ウジイといいます」
「私はユウカ・シラスです」
「ソフィー」
「レイヤにユウカ、ソフィーね」
僕達は握手を済ませると本題に入る。
「それで珍しい料理とは何かしら? 舌が肥え料理の審査も兼ねている役人が絶賛するのだからさぞ珍しいのよね」
ある程度はあの役人の人から聞いているようだ。
僕はあの時と同じようにボックスからカレーライスと水を取り出し目の前に台の上に置いた。
良い匂いが部屋の中に漂い、目と食欲を釘付けにする。
「これがそうなのね」
「はい。カレーライスといいます。御一口どうぞ」
「ええ、いただくわ」
スティーニャさんはカレーをじっくり見た後、スプーンで掬うと口に手を当てて咀嚼した。
過去に食べたことがあるか確認するかのように吟味しながら食べるスティーニャさん。僕達はドキドキしながら答えが出るのを待ち望む。
世の中の料理人はこんな気持ちなのかなぁ。
「とてもおいしいわ。熱くて辛さが結構あるけどくせになるわね。これなら帝国、いや、人族の間に必ず流行るわ」
スティーニャさんはもう一度カレーを口に運びながら褒めちぎった。
僕達は顔を見合わせると小さく手を握り締め喜びを表すが、次の言葉に困惑する。
「だけど、私はこれに似たものを食べたことがあるわ」
カレーの盛った皿を台の上に置くと眉を細めてそう言った。
僕達の上がったテンションは微妙に下がった。
「似たものですか?」
「ええ。ここまでおいしいものではなかったのだけれど、柔らかい塩気の効いたパンを香辛料で作ったスープにつけて食べるのよ」
「それは……こういうものですか?」
僕はボックスからカレースープを取り出して手渡した。
それを見たスティーニャさんは匂いを嗅いだ後飲んでみていいかと聞いてきたので了承した。
僕が作ったものにはいろいろと味付けがしてあるため聞いた話の料理とは少しだけ違うかもしれないけど、僕はその料理がカレースープの類だと思っている。
「……ええ、これのことよ。だけど、大分味が整っているわね。パンが無くても飲めるわ」
スティーニャさんはスープをカレーの横に置くと微笑んだ。
「知っているかもしれませんが、このカレーライスとスープは多くの香辛料から作られています。分量が違うだけで作り方は二つとも同じなので似た料理だと思ったのでしょう」
「そうね。珍しい料理と言いたいのだけれど、『食王』としてはちょっと無理かもしれないわね。料理としては完璧なのだけれど」
「そうですか……」
うーん、困ったなぁ。
このまま引いたら情報も協力も得られないで終わってしまうぞ。情報だけでも手に入れておきたいんだけどなぁ。
僕が悩んでいるとスティーニャさんが声をかけてきた。
「あなた達はこのカレーで商売でもするきかしら? それぐらいなら許可できるけれど」
僕達はそれに首を振って答える。
「いえ、僕達は情報が欲しかったのです」
「情報?」
「はい。僕達が欲しい情報は三つ。一つ目はこの付近にあるという古代の迷宮『死水の大遺跡』についての情報です」
僕がそう言うとスティーニャさんは目を細めて身を乗り出す。
「どうして知りたいのかしら? 帝国でいろいろと調べていたのなら知っていると思うけれど生きて帰った者はいないのよ?」
「知っていたのですか……」
どうやら僕達がいろいろと調べていたことを知っていたようだ。まあ、あれだけ大量の買い物をした後に情報を得ようとしていれば目立つか。
「ええ、あれだけ目立つ買い物を個人がしていれば目立つわよ。そういう情報は私のところに来るようになっているから。それに香辛料を大量に買ったという情報があったものね。カレーに香辛料が使われているということで納得いったわ。――それで、どうして知りたいの?」
嘘は許さないという目をしている。
僕は息を吸って溜め息を吐くと、僕達のことを知られるのは時間の問題だろうと考え、ある程度教えることにした。
「もちろんその迷宮に挑むためです。僕達はその迷宮に挑み、最下層にある古代魔法とアーティファクトを手に入れなければならないもので」
「それはなぜか聞いてもいいかしら?」
「すみません。それを言うわけには……。どこに目があるかわからないものですから。決して悪用するわけではないので安心してください」
僕は真剣に言った後に少し微笑んで手を振って答えた。
スティーニャさんは僕の話を聞くと唇を尖らせて目を瞑ると息を吐いた。
「わかったわ。あなた達が手に入れられるかわからないけれど、『食王』としての私が知っている限りの情報は上げましょう」
「それはありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
僕が頭を下げると二人も頭を下げてお礼を言った。
「それで、二つ目は?」
「一つは教会の情報です。これはスティーニャさん達商人が教会のことを嫌っていると思って話します」
「ええ、私達は教会のことが好きではないわ。だから密告なんてしないから安心してちょうだい」
「わかりました。僕達はとある理由により教会に追われています。追手を振り切ってきたのですが、いつまた教会が僕達に気が付き……いえ、必ず追手を差し向けてくるので、教会の動向を知りたいのです」
「それで情報が欲しいということね」
「はい。僕達に近づいたらといいませんが、教会関係者の出入りが多くなった時や怪しい動きを確認できた時だけで構いません。逃げる時も自分達の力でどうにでもなりますから」
僕は隣の二人を見て優しく微笑む。二人も微笑み返し、僕の手を強く握った。
スティーニャさんは首を傾げたがそれくらい大丈夫だと言ってくれた。
「それもいいわ。この国で教会の連中に暴れてもらうわけにはいかないし、騒ぎを犯してしまえば糾弾も出来るかもしれないものね」
「ええ、出来るだけそちらの迷惑にならないようにします」
「三つめは?」
僕は技能を使って辺りに誰もいないことを確認すると顔を近づけて訊く。
二人が僕の手を抓るが仕方ないだろう?
「急にどうしたの?」
「三つめは帝国にいる義賊『赤猫義賊団』の居場所について教えていただきたい」
そう言って体を離してスティーニャさんを見ると目を限界まで細め、足を組み替えると大きく息を吸って吐き出した。
緊張がこの部屋の中に流れ、二人は抓っていた手を離した。
「どうして知りたいのかしら?」
先ほどと同じ問いなのにもかかわらず、酷く冷たく鋭い刃物のような物を突き付けられたような感覚に陥る言葉だ。
馴れている僕はどうでもないが、ユッカはごくりと喉を鳴らしソフィーは僕の体を寄せる。
「それは最近噂となっていることへの助言をしに行くためですね。なんでも僕達と同じものに挑戦しようとしているらしいですが、無理なことがあるのです」
「無理なこと? それは聞いても?」
「ええ、構いませんよ。僕達は困りませんから」
「ではお願いするわ」
「はい。挑戦すること自体には僕達はどうでもいいのですが、その後の手に入れてからが問題です」
スティーニャさんの目が若干細まる。
僕はそれを無視して続きを答えた。
「何でも教会を追い払うつもり見たいですが、その計画には欠点があります」
「欠点? 迷宮を踏破出来ないということかしら?」
「まあ、それもあるかもしれませんが、そうではありません。僕は『赤猫義賊団』が絶対に踏破出来ないとは断言できませんからね」
「では、なんだというの?」
スティーニャさんは顔を顰めて少しだけ不機嫌になる。
「あの迷宮を踏破したとしても最下層にある古代魔法とアーティファクトは選ばれた者しか身に付けられません」
「それは本当なの?」
「ええ、他の古代迷宮を踏破した僕がそう言っているのですから」
「レイ君、それ言ってよかったの?」
「うん。知っている人は少ないし、誰も信じないでしょ?」
僕がそう言うとユッカは納得して座り直し、スティーニャさんは訝しむ目を向けてきた。
「スティーニャさんを信用させるにはそこで手に入れた古代魔法かア―ティファクトを見せればいいのでしょうが、見せてそれが納得できるかどうかわからないですからね」
僕のように鑑定が使えれば簡単だが、この世界の人は『鑑定』の様な便利スキルを持っていないから無理なことだ。
古代魔法の方も結界だと言われてしまえばどうもできない。変わらないものだからね。
「それじゃあ、場所を教えることは出来ないわよ? それに適性ならもしかしたらあるかもしれないじゃない」
スティーニャさんはソファーに座り直す。
「そうですね。ですが、選ばれるには水の適性が必ずいるでしょう。それに単身で魔族とやり合えるくらいの実力も」
「あなた達はそのくらいの実力があるというのかしら?」
「僕に関して言えばそこらの魔族では話にならないぐらいですかね。ソフィーもそのくらいは出来ます。ユッカはまだ発展途上ですが、下級魔族とやり合えるぐらいはありますよ?」
ユッカはそうかな~ともじもじし、ソフィーは若干朱色に染めて嬉しそうにしている。
「これなら証明できますし、証明した後は『赤猫義賊団』の場所を聞けなくとも『死水の大遺跡』に同行できるように話を付けてくれますよね? 強い人がいて文句はないでしょうし」
僕がそう言うとスティーニャさんは胸を強調するように腕を組んで天井を見つめた。ついその強調されたわわな胸に釘づけになってしまうのは仕方ないじゃないか!
だから、僕の頬を抓るのはやめてぇっ!
しばらく抓られているとスティーニャさんが息を吐いて指を立てて条件を付けてきた。
「わかったわ。あなたに『赤猫義賊団』の居場所を教えるわ。だけど、あなた達に力を証明してもらうために条件を付けるわね」
「ええ、話を付けてくれるのであれば構いませんよ」
「条件はただ一つ。『食の迷宮』には幻の食材といわれている食材が七つあるわ。その食材を調達して私を満足させる料理を作ってちょうだい」
『食の迷宮』の幻の七つの食材とは、驚愕するほど栄養価が高く舌触りのいい卵【ワンダーエッグ】、宝石の様なあらゆる果物が成る樹【ジュエルフルーツリー】、甘みのある濃厚でコクのある牛の乳【マウント牛のミルク】、黒い大きな弾丸を撃ったその実は口どけの良い黒い塊【アーモンドウッドの実】、氷層にある常温では決して溶けることのない氷【オーロラ天然氷結晶】、白銀に輝く白い粉が舞降る雪原【純白小麦】、あらゆる味の砂地と泉が広がる大地【隠し味】のことだ。
どれも強力な魔物が護っていたり、階層が深かったりと入手困難である食材で、普通の探索者では採ることが出来ない食材だ。そのため世の中に広まらない食材でもある。
更に希少性を上げているのがその味や香りなどが良過ぎる点だ。単独で使うには個々の能力が高すぎ、一緒に使った食材の味や風味をかき消してしまうのだ。
では、どうやってこの幻の食材を調理するのかというと、答えは簡単で幻の食材は幻の食材だけで調理すればいいのだ。
通常の食材では能力が足りないのであれば、足りている幻の食材同士で調理することで個々の能力に負けることなく料理を作り上げることが出来る。
まあ、調理法や完成料理が決まってくるが同じ料理よりも段違いにおいしくなるだろう。
「幻の七つの食材ですか」
「そうよ。あなた達には『食の迷宮』に入ってもらいその食材を見つけてもらう。見つけた後は私に確認を取ってから調理をしてもらうわ」
「偽りをなくすためですね」
「ええ、一度見たことがあるから虚偽の報告をしてもわかるわよ」
まあ、その点については大丈夫だろう。
見つからないということはあるかもしれないけど、出てくる魔物に後れを取ることはないと思っていいだろう。ファイアードレイク並の魔物が出るとは思えないし。
生息範囲さえ分かれば後は鑑定でどうにでもなる。
調理法も甘味が多いからデザートになるだろうしね。
「調理法は僕達で決めてもいいですね?」
「いいわよ。さすがにそこまでは縛らないわ。でも、おいしいものを作ってちょうだい」
スティーニャさんはにっこりと微笑んで足を揃えた。
「わかりました。その条件を飲みます。なので、情報と『赤猫義賊団』についてはよろしくお願いしますね」
「ええ、『食王』の名に誓って約束は守るわ」
僕達は頭を下げた後握手をするとスティーニャさんとカレーを食べることになった。
ちょうど昼時ということもあり、ユッカとソフィーもカレーを二度見て再び食べたくなったのか賛成した。
やっぱりカレーは誰もを惹きつける魔法の料理のようだ。




