結婚式
次の日僕達は朝早く起きるとおばさんに息子さんへ祝いの料理を送りたいと説明して厨房を借り、ウェディングケーキの製作に移った。
とは言っても、ウェディングケーキをどうやって作るのかほとんど知らない。よって一段のホールケーキをデコレーションして作ることにした。
「では、ウェディングケーキ製作を始めたいと思います」
「(パチパチパチ)で、レイ君何から始めるの?」
「まず、ユッカには生クリーム製作をしてもらいたいと思う。これは指先に風魔法を纏わせて回転させれば出来ると思う」
「でも、生クリームはないよ? 牛乳から作れるんだっけ?」
ユッカは料理をするけど詳しいことを知らないようだ。僕はボックスから仕入れた脂肪の多い牛乳とバター、砂糖、ハーブを取り出す。
「生クリームは牛乳にバターを入れることで出来るよ。ただ、バターの香りが残るからあまりお勧めはしないね。今回は仕方ないのでこれに迷宮で手に入れた甘い匂いのするハーブのエキスを入れたいと思う」
「それで生クリームって作れたんだ。じゃあ、私はこれを入れて混ぜればいいんだね」
「そうだよ。バターは完全に溶かしてから使ってね。じゃあ、任せたよ」
僕はユッカに生クリーム製作を任せると隣で待っているソフィーに向かって指示を出す。
「私は?」
「ソフィーは果物を洗ってカットしてほしい。ナイフはこれで、果物はヘタを取った物と半分に切った物、薄くスライスした物の三つを作ってね。あと、指を切らないように」
僕はイチゴやブルーベリー、キュウイ、オレンジなどを取り出してソフィーの前に置いた。ナイフは小さめの果物用ナイフみたいな奴だ。
「任せて」
「うん、よろしくね」
僕は二人から離れるとボックスから小麦粉とバター、牛乳を取り出し、小麦粉は篩で振っておき、バターと牛乳は加えて湯煎しておく。
その間に湯煎しながら卵と砂糖を掻き混ぜ、砂糖が完全に溶けきったら小刀風の『風刃』を回転させるように作り出しメレンゲを作る。
メレンゲになった所で小麦粉を数回に分けて混ぜるが、泡を潰さないように優しく混ぜることが大事だ。
出来上がったものを湯煎したバターと牛乳に混ぜる。
「よし次は……」
僕は裏手の庭に出るとボックス内に入っている石と砂と石板で即興の竈を作り、それにスポンジの生地を入れて石板の下に『鬼火』を入れてオーブンを作る。
次はバターを溶かして卵黄と砂糖を加えてよく掻き混ぜる。掻き混ぜた後に甘い香りのするハーブのエキスを入れて味の調整をする。
入れた後には手でしっかり混ぜると好きな形に整える。ハート形に丸形、四角形、星形。
出来上がったものを先ほど作った竈に入れて二人の様子を見に戻る。
「生クリームは出来たかな?」
「うん、このくらいでいいよね? 風魔法は簡単で楽だったよ」
ユッカが見せてくれた器の中には真っ白で柔らかそうな塊が入っていた。指で少しとってみると重い感触が指に伝わり、味は濃厚で若干バターの味がするがその後にハーブの香りがするためそこまで気にならない。
「うん、これなら大丈夫だね」
「やった! レイ君に褒められた」
僕はユッカの手を取って褒めた後、その隣で黙々と果物を切っているソフィーに声をかけた。
真剣にやっているから指は切っていないようだな。
「レイヤ。これでいい?」
そう言って見せてくれたのはあらゆる切られ方をしたイチゴと洗われ艶やかになったブルーベリー、薄くカットされたキュウイ、半月に剥かれ切られたオレンジが置いてあった。
「うん、果物もこれで大丈夫だね」
本当ならチョコレートやパウダーなどが欲しいところだけど持ってないし、この世界にはないかもしれないから我慢するしかないな。
二十分ほど経ったところでクッキーを取り出して試食をすることにした。
うん、黄金色に焼け目が付きおいしそうな甘いハーブの匂いが鼻を突き抜けつい手を出てしまいそうにさせるな。
「レイ君、おいしいよ! また作って!」
「うん、おいしい」
味の方も別に不味いわけではないようだ。久しぶりに作ったものだから簡単なクッキーとはいえ不安だったんだよねぇ。
クッキーを冷ますために台の上へ置き十分ほど経ったところで竈からスポンジを取り出し、しっかり膨らんでいることを確認する。
スポンジを枠から取り出して綺麗にすると横に大きなナイフを当てて三つに切り分ける。ここで気を抜くとスポンジにダメージを与えてしまうためしっかりと崩れないように切り分ける。
「よし、これに生クリームを塗ろう」
僕とユッカが生クリームを平らに塗っていき、ソフィーが端から薄くスライスしたイチゴを置いて行く。一段目が完成したところで生クリームをもう一度塗り平らにし、その上にユッカが塗った二段目を重ねて果物を置く。
更に生クリームを塗って平らにすると最後のスポンジを置いて、側面まで綺麗に生クリームを塗って白いホールを作る。次の最終段階へ移る。
「次はこれに生クリームでデコレーションして最後に果物を置いて行こう」
土魔法でホイップの先を作って貰うとそれに布を噛ませて固定し、生クリームを入れて押し出してデコレーションを加えていく。
加え終わったところでイチゴを中心に広がるように置いていく。
「完成だ!」
「やった! 息子さんも喜んでくれるかな?」
「喜んでくれるよきっと。味見もしっかりしたから不味くはないはずだ」
「うん、おいしかったから大丈夫」
ソフィーは生クリームを指で拭き取り口に運びながら答えた。僕とユッカはそれを見て笑い、ケーキとクッキーをボックスに仕舞って結婚式会場に急いで向かった。
「おばさん、間に合いましたか?」
僕達が会場に着いた時はすでに皆が集まっていたのでおばさんをすぐに見つけて声をかけさせてもらった。
「いや、まだ大丈夫だよ。それで何を作ってくれたんだい?」
「それはですね。私達の故郷の結婚式では必ず準備される甘いデザートです。幸せを分け合うという意味があります」
「そうなのかい? それは有難いねぇ。ぜひ息子と義娘に渡してやっておくれ」
おばさんは笑顔でユッカの頭を撫でる。
ウェディングケーキはこれからの祝福をケーキに表し、段に積み重ねることで祈りが天にも届きますようにという願いが込められているんだ。
僕達がおばさんと話していると会場の入り口が騒がしくなり、新郎新婦が入場してきたのが分かった。拍手でその二人を迎え、段状の上にいる村長の元へ行くまで続いた。
「新郎、あなたはいかなる時も、命尽きるまで新婦を愛し護ることを誓うか?」
村長が息子さんに訊く。
息子さんは一度頷いて答える。
「はい、誓います」
「新婦、あなたはいかなる時も、命尽きるまで新婦を愛し護ることを誓うか?」
同様に村長が聞くと新婦も頷いて答える。
「はい、誓います」
「では、此処に二人の誓いが約束された。二人は今日から夫婦となり共に歩んでいきなさい」
「「はい」」
二人の誓いが終了し夫婦となると盛大な拍手が起こり、二人が軽くスピーチをすると両親からの挨拶があった。その後は食事会が開かれるのだが、急遽僕達が持ってきた祝いの品をみんなの前で手渡すことになった。
「では、急遽出席してくださった冒険者の三人から新郎新婦への贈り物をしたいと思います。何でも中身は異国の結婚式祝いとのことです」
進行役がそう説明すると皆は立ち上がった僕達の方へ振り向き盛大な拍手で迎えてくれた。
「なんだか緊張するね」
「う、うん、こんなことになるとは思っていなかったよ」
「行こ?」
ソフィーが僕の服の端を持って先へ行こうとする。
新郎新婦の前に出ると息子さんは僕達に頭を下げ、それを見た新婦が僕達に頭を下げた。僕達も頭を合上げた後ボックスからクッキーを取り出して二人に渡し、目の前の台の上に先ほど作ったケーキを置く。
それを見た皆はどんなものなのかわからず疑問に思っていたが、僕達がおばさんにした説明をすると喜びの嵐が巻き起こり新郎と新婦にナイフを渡して入刀をしてもらった。
その後は参加者全員が食べることは出来なかったが村長と新郎新婦を中心に子供達に食べさせて「甘くておいしい!」と笑顔で絶賛を貰った。
やっぱりおいしいと言われると嬉しいもんだね。
少しすると子供達も疲れが出始め僕達の周りで寝始めた。子供の寝顔っていうのも可愛くていいよね。ぬいぐるみみたいでほっぺと突っつくとそこを擦るんだよぉ。和むし、癒されるし、安らぐから疲れが吹っ飛ぶみたいだ。
「レイヤ、子共好き?」
僕の膝の上で寝ている子供の頭を優しく撫でているとソフィーが隣に来て訊いてきた。
「そうだねぇ、僕は可愛ければ何でもいいよ」
再び僕が子供に目を移して頭を撫でているとソフィーが爆弾を投下した。
「じゃあ、私がレイヤの子供産む」
……ふぇ? ふぇええええええぇぇぇぇぇ!?
ぼ、僕の子供産むぅぅぅぅぅ!? ど、どどどどぉうしてそうなるの!? ソフィーに何が起きたんだ!?
「顔は赤くないし、熱もないみたいだ」
「レイヤ、ダメ?」
いやいやいや、ダメとかそんなんじゃないでしょ! もっとこう根本的なところがいけない気がする。それに僕にはユッカという恋人もいるわけで、此処で了承すると……。
「ちょぉぉぉぉぉっとぉぉぉぉぉぉ!」
声のした方を見てみるとユッカが全力で走って僕に近づいて来ていた。僕は何か拙いと思いながらオロオロするが打開策を思いつけず、ユッカが到着してしまった。
「はぁ、はあ、はぁ、抜け駆けは禁止よ、ソフィーちゃん! レイ君はちょっと離れて!」
こ、怖い……。
「なぜ?」
「そ、それは……」
「ユウカはレイヤ好き。私もレイヤ好き。結婚する。昨日そう言った」
「そ、そそそれはそうだけど!」
ふぇ? ソフィーも僕のこと好きだったの? ……僕のこと好きぃぃぃぃ!? な、なんで!? 僕何か建てたかな? 思い当たることはないけど……いや、迷宮か? いやいや、思い上がるな僕! 今まで彼女以前に女子から白い目を向けられてたんだぞ! で、でも、今本人の口から好きだという言葉が出たな。じゃ、じゃじゃあ、ソフィーは僕のことを……。
「いい? こういうのには順序があるの。いきなりそういうことを言っても今のレイ君みたいに困惑するの。始めは手を繋ぐとか、会話するとかから初めなきゃ」
「うん、わかった」
ユッカはソフィーが僕のことを好きだというのを知っていたんだね。二人だけで話が進んでるけど僕はどうしたらいいのかな?
「ちょ、ちょっといいかな? ソフィーは僕のこと好きなの?」
二人は口論をやめて僕の方を向いた。その目が若干ぎらついている気がするが気のせいだろう。で、あってほしい。
「そう。私はレイヤが好き」
「そ、そうなんだ。知らなかったよ。ぼ、僕のどこが好きになったの?」
「迷宮で助けてくれた」
やっぱりそこなんだ。それは好きじゃなくて吊り橋効果的なあれだよ。
「あとかっこいい。戦っている時は別人みたい。レイヤといると楽しい。ここが嬉しくなって幸せな気持ちになる」
「へ、へぇ~」
あ、あれ~? これって吊り橋効果的なあれだっけ?
「レイ君、本当のことだから応えてあげて。私はどっちでもいいよ。レイ君が好きなように応えてあげて」
「い、いいの? ユッカは怒らない?」
「怒らないよ。ソフィーちゃんに言われたんだけどこの世界は重婚できるんだよ? ソフィーちゃんばかりに気を取っていたらさすがに怒るけどレイ君はそんなことしないよね」
「そんなことしないよ! これまで通りユッカも大事にするし、ソフィーも大事にする」
「じゃあ、真剣にソフィーちゃんに応えてあげて。ソフィーちゃん待ってるよ?」
僕は笑顔のユッカに戸惑いながらも真剣に応える。この世界は重婚できたんだね。そうだとしてもちょっと気持ちがね。
「レイ君が何に悩んでいるかはわかってる。だけどね、その時はその時になって考えればいいんだよ。地球にだって重婚できる場所があるんだから。もしかしたら帰ってくることも出来るかもしれない」
ユッカは僕の手を取ってそう言いきった。僕はその言葉が浸透していくうちにソフィーに対する気持ちに整理をつけ応える。
「わかった。――ソフィー、僕はまだソフィーのことが好きなのかわからない。ただ、ソフィーは可愛いし、ユッカと同じで僕好みの女の子だ。ソフィーが僕以外の人と付き合って結婚するぐらいなら僕と一緒にいてほしいと思うぐらいは好きでいると思う。だから、情けないけど整理がつくまで一緒にいてくれないかな?」
僕はソフィーの手を取って包み込んで応えた。ソフィーはちょっと揺れると口元を綻ばせて笑顔を作ると頷いて応えた。
「わかった。レイヤのことを待ってる。だから、一緒にずっといる」
「ごめんね、優柔不断で。出来るだけ早く整理を付けるから待ってて。――ユッカも、裏切るようでごめんね」
僕は隣で見守ってくれているユッカを見て申し訳なさそうに言ったが、ユッカは嬉しそうに顔を横に振り否定した。
「ううん、私もソフィーちゃんのことは嫌いじゃないからいいよ。この世界にはこの世界のルールがあるんだよ。私達はそんな世界に来たんだから前のルールに捉われ過ぎてちゃいけないと思うの」
「ユッカ……。わかったよ。二人を裏切らないように大切に、楽しく、悲しませないように努めるよ」
「うん、それでいてくれたらいいよ」
ユッカとソフィーを抱きしめて僕は二人の気持ちを嬉しく思い、同時に絶対悲しませないと心に誓った。ユッカとソフィーも嬉しそうに目を閉じて僕に抱き付く。
この日は陽が暮れるまで飲み食いして新郎新婦の結婚を祝った。起きた子供達に何度かケーキの製作を頼まれたので仕方なく一緒にケーキを作ったり、低価格で作れる甘いお菓子などを主婦に教えて感謝されたりした。
日が暮れ始めると片付けが始まり、完全に陽が暮れるころにはお開きとなって僕達も宿屋の自室へ戻り明日に備えて眠った。
眠ってどれくらい経っただろうかわからないが、僕の危険察知に無数の反応を感知した。僕は飛び起きると隣の部屋で寝ているユッカとソフィーに声をかけた。
「ユッカ! ソフィー! 起きて!」
まずいこの村に百人ほどの人達が悪意を持って近づいてきている。早くしないと村の中に入られてしまう。
中から起き出す気配が伝わり、ユッカが目をこすりながら出てきた。服が薄着で肌が透けて見えているが今は気にしている場合ではない。
「村のはずれから大人数の人達が押し掛けてきている。ユッカ、すぐに戦闘準備をして! ソフィーもね」
僕が急いでそう伝えるとユッカはすぐに覚醒してソフィーを揺り動かし、扉を閉めて着替えはじめた。
「外で待っているよ」
「うん、わかった」
村の人に伝えるべきか? いや、折角結婚式でいい気分になったのにわざわざ恐怖を与えなくてもいいだろう。反応からして僕達でも十分に対処できると思うからいいよね。酒も飲んでいたから起こしたら余計に危ないかもしれない。
僕は宿屋の外に出て上空へ飛び上がると百人ほどが近づいてきている方向を確認し、どんな奴等か見極めた。
服装はバラバラだがぼろい奴等ばかりだな。剣や斧とか持っているし山賊か。半分が馬に乗っているところを見ると結構規模が大きく強い分類の山賊なんだろう。奥にいる黒い大きな馬に乗った人物がお頭だな。
僕はボックスから坊を取り出し着地すると宿屋から出てきたユッカとソフィーに見たことを伝えその方角へ進んでいく。
「ユッカ、ソフィー。この方角へ先制攻撃」
「うん! 『火炎弾』」
「了解。『疾風弾』」
僕は夜目で山賊達を視認すると指を指して二人に攻撃命令を出した。炎の弾丸と風の弾丸が木々の陰から放たれ、先頭で馬に乗っていた山賊に当たり何人かが落馬し後続に踏まれて気絶した。
「て、敵襲!」
「はあああっ」
僕は草むらから飛び出し右手に持っている棒を振り回す。一気に三人を落馬させて馬を奪うと馬を蹴って山賊に突っ込み、突然のことで固まっている山賊を薙ぎ倒していく。
「く、くそっ、誰かあいつを止めろ!」
「おらあっ!」
「ハッ! シュッ」
次々に倒されていく山賊達の親分が怒りの形相となり片手に持っている剣を僕に付き付けて怒鳴りを上げた。僕に襲い掛かってくる山賊を次々に捌き落馬させる。地面から馬を攻撃する者もリーチを生かした棒で叩きのめす。
「あいつの周りに近づくな! 囲んで一斉に狙え!」
親分の指示に僕から離れ囲むが今度は外から盛大な魔法が放たれ一角が瓦解する。
「『――大火炎槍』」
「『――流水津波』」
山賊達の頭上から大きな日の槍が降注ぎ、逃げたところへ水が押し寄せ押し流していく。僕はその一角から飛び出して固まっている山賊を殴り飛ばす。
次々に数を減らし半分を切った所で親分が登場し、僕に襲い掛かってくる。
「貴様のせいで!」
「どうしてこの村を襲う?」
襲い掛かる剣を弾いて聞く。
「ハンッ、襲うことに理由がいるのかよ! それに理由があったら襲ってもいいのか?」
「いいわけあるかッ! 『三烈鼓舞棍』」
僕に近づいてくる山賊を三節に分けた棍を自在に操り強烈な一撃を加えていく。更に近づく者には蹴りを加え後方へ蹴り飛ばす。
端を見ればユッカとソフィーも姿を現して魔法を放っている。
「ガキがぁッ!」
ほとんどの山賊が気を失い不利と悟った親分は僕に向かって突っ込んでくる。僕も馬を蹴って加速するとすれ違い様に剣を弾き、棒を横に薙いで親分を馬から叩き落した。そのまま馬から飛び上がると起き上がろうとしている親分の胸の上に膝を叩き付けて気絶させた。
その後は村に向かって行った山賊に追いつき気絶させると引き摺って一纏めにしておく。
これで村には何も起こらない。親分まで来ているということはこの山賊は皆で村を襲いに来たということだろう。先日あった山賊の仲間かな? そうだとしたら僕達にも関わり合いがあったから丁度良かったかもしれない。
「そっちは出来た?」
僕は親分達を紐で纏めてぐるぐる巻きにすると担いで村の出口に置き、近くで山賊を纏めているユッカとソフィーに声をかけた。
「あ、うんできたよ」
「あとちょっと」
僕はユッカのまとめた山賊を親分の隣へ置き、その間に縛り終えたソフィーの山賊を担いで近くに下した。とりあえず逃げられないように手足も縛ったから放置しておいてもいいだろう。
この後はおばさんに連絡をして村長さんと男の人に話を持っていくと感謝をされた。
「旅の方、ありがとうございます。あなた方がおられなかったら私どもは死んでいたでしょう」
「そうです。それに我々が祝いの気分を害さないように考えてくださるとは、なんとお礼を言っていいやら」
「いえ、気分を害されなくてよかったです」
僕達の手を取って感謝をしてくれる村人達。僕達は助けられてよかったと心から思い山賊をどうするか話し合うことになった。
「山賊はここから二日離れたところにある街に連絡して連れて行ってもらいましょう」
その街は僕達は見かけただけで寄らなかった街のことだな。今は王国に近い街へ顔を出すことが出来ないから仕方のないことだ。
朝になるとこのことは皆に伝わり感謝されることとなった。子供達はやはりこういった冒険譚のような物が好きらしく、僕達が戦ったことのある話や迷宮で戦った大型の魔物を簡単に説明したり、竜種との戦いを話したりした。それにはユッカも興味津々で聞いていた。
その後は子供達が僕の真似をして遊んでいたりしていたのが気恥ずかしかった。
食事を済ませるとリオンを馬車に繋ぎ帝国に向けて出発する。
「何から何までありがとうございました」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、また遊んでね」
「うん、いつかまた遊びに来るね」
「一応山賊達は暴れないようにしていますが、監視の方をよろしくお願いしますね」
「はい、わかっておりますじゃ。旅の道中危険がないように祈っておりますじゃ」
僕達は村人全員に手を見えなくなり間で振られながら見送られて出発した。
それから二週間ほど村と村を行き来しながら帝国を目指していった。途中で街に入り込み情報収集すると帝国に近づくにつれて僕達のことを知っている人が少なくなり、安心して帝国に入ることが出来るようになった。
さらに数日すると周りの道が豊かになり始め麦農家や野菜畑等が道の両端に見受けられるようになった。これを見ただけで帝国がどれだけ料理や食材に力を込めているのかよくわかる。
「こっちは満面黄金色だよ」
「こっちは緑色」
太陽の光を反射して黄金色に輝く麦畑から風が吹きいい匂いが鼻を突く。反対方向には野菜や果物の樹が生えていて鮮やかな赤や瑞々しい黄色などが緑色の隙間から点々と見える。
これだけあるのなら料理の方も期待できそうだ。
「帝国も目の先に見えているし、あと数時間で着けるよ」
道の先に空気の層で白くなって分かり辛いがはっきりと大きな建物があるのが視認できる。あれが帝国なのだろう。人通りも多くなり、リオンに驚いて道を譲る者が出始めた。
「リオン、元気出して」
「そうだよリオンちゃん。私達がいるからね」
「リオン。ふかふか」
それに対して僕達は苦笑するしかなく、リオンは悲しそうに鳴くのだった。
恋愛はこんな感じでいいでしょうか。




