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白須とソフィー

恋愛は難しいです。

 教会からの手を撒いてから一週間が経とうとしていた。いくらリオンの馬車を引くスピードが速くても、さすがに王国とは反対にある帝国まで着くのに残り二、三週間はかかるだろう。


 リオンが進む一日の距離は六時間ほどで百キロほどだ。実際にはもっと行けるが偶にすれ違う通行人や馬車とぶつからないようにするためにこのぐらいのスピードしか出せないのだ。リオンは少しだけ不満そうだが仕方のないことなので、休憩中に撫で捲ってご機嫌を取るか夜中に背に乗って狩に行くしかない。


 リオンは幻獣の一種で魔物肉をそのまま食べることが出来る。ユッカにも僕が魔物肉を食べることが出来ることを伝えるとソフィーよりも大げさな反応を示し「ペッしなさい! ペッ」と、僕は幼稚園児かッ! と言いたくなることを言ってくれた。

 そこで改めて僕の無という適性を説明し、ステータスプレートを見せてユッカでも魔力さえ抜けば魔物肉を食べることが出来ることを伝えた。


 最初は半信半疑だったユッカも僕の隣でおいしそうに食べているソフィーを見て勇気を出したのか、「うぅ」と軽く声を漏らして恐る恐る口にしていた。やっぱり毒だと言われている食べ物を口にするのは相当勇気がいるのだろう。

 ソフィーが微妙に上機嫌だったのが気になるが、いつものように料理がおいしかったからだろうな。


 その日からはユッカにも魔力を抜いた魔物肉が出されるようになり食糧関係がちょびっと改善した。やっぱり長旅に肉類を持ってくることが出来ないのは相当きついようだ。乾燥肉などもあるけど、味が決まっているため味気ないそうだ。


 また、魔物肉は微妙に普通の肉よりも食べ応えがあり、肉汁が溢れ出て濃厚で柔らかいそうだ。僕は肉を食べないで数か月経った頃に食べたから肉の触感をあまり覚えていなかったため気付かなかったみたい。


「あ、あのさ、二人とも傍にいてくれるのは嬉しいけど、此処は疲れるから後ろにいたら?」


 僕は御者台に腰を下ろしリオンの手綱を持ちながら両隣で僕に寄り添うように座っている二人に困惑して声をかけた。


 最初の内は後ろでゆっくりとしていたんだけど二日経った頃から急に僕の隣に二人が座るようになったんだ。僕としては美少女二人が隣にいるのが嬉しい反面、二人が何を考えているのかよくわからなくて困惑している。


 二人の仲は悪いわけではないが不穏な空気が流れるときがある。大概、僕とソフィーが料理を作っていたり、ユッカと話していたりする時だ。どちらかがジト目で僕を見て、片方が勝気のような顔をする時がある。

 まあ、中がギスギスしていないから僕としては構わないかな。仲良くしてほしいのは変わらないけど。


 今回のように二人ともいるときも少なからず不穏な空気が流れるときがあるんだけど、それが気になって声をかけても二人は悲しい顔でこう言うんだ。


「え? レイ君は私が隣にいるの嫌なの?」

「レイヤ、私嫌い?」


 って、悲しい顔と上目使いでうるるんと目を潤ませ両手を組んで言ってくるのだから無理に後ろへ行ってとは言えないよ。


「い、いや、二人が疲れないのならここにいていいよ」

『そ、じゃあここにいるね(ここにいる)』


 ユッカはニコニコと笑顔で僕の腕に両腕を絡ませ、ソフィーは嬉しそうな表情で僕の肩に頭を傾けた。

 はぁ~、なんだか気疲れしてきちゃうよ。




 それから数日が経った頃、前方数百メートル先からこちらに向かって来る複数の反応を感知した。人数は十人ほどで中には魔力が多い者がいるようで魔法師がいるのかもしれない。移動速度も速いため馬に乗っているのだろう。


「レイヤ」

「うん、わかってる。リオン、横に避けておいて」


 ソフィーが僕に気付いているのかと声をかけてきた。僕はリオンに端へ寄るように指示を出し、前方から来る人を見極める。


「こういう時は盗賊だよね」

「わからないけど多分そうじゃないかな? この辺りに村でもあればまた変わるかもしれないけど、村にしては馬の数が多いよね」

「うん、村に十頭も馬はいないよね」

「見えてきた」


 前方の丘の上から馬の頭がひょっこり現れると続々と後ろにいた馬が現れていく。上に乗っている人は全員男のようでぼろい装備を付けている。どうやらユッカが言ったように盗賊のようだ。いや、山と森が近いから山賊か?


 僕達はいつでも戦えるように馬車の御者台から降りて身構える。僕は馬車に攻撃が当てられるように棒を取り出し、ユッカは貰った錫杖を持って後ろに立ち、その隣にはソフィーがいつでも魔法を放てるように杖を向けている。


「お! 前方に高級そうな馬車発見!」

「オラオラオラぁ! 金目の物置いてけやぁッ!」

「かわいい子がいるじゃねぇか。えっへへへ」


 等と二人を見て下品なことを言いながら、片手で武器を抜き放ちもう片方の手で手綱を握って涎を拭き取っている。

 それを見たユッカとソフィーは嫌悪感に眉を顰め震えた。僕はそれを感じ取って少し怒りを感じ、この山賊を懲らしめることにした。


 山賊は目の前で止まると馬に乗った状態でリーダー格の臭い男が僕に剣を突き付けて言い放つ。


「ガキ、後ろの馬車と女どもを置いて行けば命だけは助けてやる」


 嘲笑うかのようにげひゃひゃと笑って僕から目線を離して後ろのユッカ達を見る男。僕は棒をリーダー格に突き付けて殺気を宿した眼光で貫き言う。


「お前達こそ逃げて帰るのなら追わない。投降すれば骨を折るだけで勘弁してやる。襲ってくるのなら……動けないように圧し折る」


 僕の殺気に当てられたリーダー格の男は乾いた笑い声を出し恐怖の目を向けるが、後ろにいる山賊は僕の殺気に気が付いていないのか下卑た笑みを浮かべている。


「なにカッコつけてんだぁ?」

「女の前だからって格好つけてもなァ、お前みたいなチビじゃあ」

「そんな人数で俺達を倒すだってぇ? 馬鹿言うなよ!」

「笑わせてくれるなぁ! リーダー、やっちまいましょう!」


 リーダー格の男は先ほどから固まっているが後ろの山賊は僕達と争う気満々でいる。リーダー格は頭を振ると怒りの形相へ変えて恐怖を打ち消すかのように大きな声で指示を飛ばす。


「お、お前達、目にものを見せてやれぇッ!」

『おおおおおおぉぉぉ!』


 リーダー格の男が剣を上げ僕達に向けて振り降ろしてそう言うと、山賊たちが一斉に僕達に襲い掛かってきた。


 ここは森の中だといっても通行量が多いのか道の幅が広く、馬車二台はゆうに通れる広さがある。山賊達はその広さを利用し散開して同時に襲ってくる。


「ユッカは援護を、ソフィーは馬を傷付けないように上に乗っている山賊を魔法で倒して」

「うん、わかった」

「了解」


 僕は棒を片手で回しながら山賊の一角に近づき、飛び上がると剣を棒で弾きがら空きとなった胸の鎧の隙間を棒で突く。落馬した山賊は後頭部を打ち付け気絶する。

 僕は馬の背に乗り近くで驚愕に固まっている山賊の喉に向けて棒を突き放ち落馬させる。


「くっ、こいつ強いぞ!」

「お前達! まずそいつからやれ!」


 あっという間に三人やられたことで我に返った山賊はリーダーの声を聞き、一斉に馬を僕の方へ向けて武器を振り下ろすが背後から魔法が直撃し大慌てになる。


「忘れないで! 『火炎球』」

「『水流球』」


 炎の球と水の球が背中に当たり前のめりになった所を僕は飛び越えると同時に棒を高速で突き落馬させる。


 残り半分となった山賊は力量の差を感じ始めているが虚仮にされている今の状態では冷静な判断が取れないでいる。

 一気にやられたことで頭に血を上らせた山賊は無謀にも僕に突っ込んできた。


「ハッ、フッ」


 僕は二人の援護を受けながら棒を振り回して武器を弾き、突くことで落馬させる。意識を失わないものには頭を打ち据えて気絶させる。


 残りがリーダー格一人となるとリーダー格はこのままではやれられると感じ馬を反転させて逃げ始めたが、僕はステータスを頼りに上空へ飛び上がりリーダー格の馬のお尻に着地すると首に棒を叩き込んで気絶させた。


 そのまま馬の手綱を引いて戻ると山賊全員が地面に伸びて横たわっていた。僕はリーダー格達は大きな樹に背中を預けさせて座らせると、ボックスから頑丈な紐を取り出してぐるぐる巻きにした。


「よし、これでいいだろう! 後は誰かが通れば通報するはずだ」

「捕まえても連れて行くわけにはいかないしね」


 武器を取り上げてボックスの中に仕舞うと馬車に乗り込んで先を進むことにした。馬は自然に帰るように適当に放った。




 山賊に襲われてから数日が経った頃前方に村を発見し、そこで一時的に休憩することにした。

 僕達が村に近づくと門兵が見え始め、リオンに驚いた門兵だがすぐに佇まいを直し訊いてきた。少し気が立っている気もするが村の中は普通のように見える。


「止まれ。何者だ?」

「僕達はオーレライ王国から来た者です。帝国に行く途中で休憩をするために寄らせてもらいましたが、無理でしょうか?」

「いや、それなら構わない。ようこそ、ブルダ村へ。宿屋はここを真っ直ぐ行ったところにある」

「それは御丁寧に。ありがとうございます」


 村の人口は百人ほどで長閑な感じが伝わってくるいい村のようだ。若い人があまりいないような気がするが、こういった世界だと冒険者に憧れて外に行ったりする人が多いのだろう。


 それでも中には子供達が駆け回っているからそれなりなのだろう。働ける村人数人が何やら忙しそうにしているがそれは何かの襲撃がありそうなのではなく、楽しそうに何かの準備をしているようだ。


「何かあるのかな?」

「楽しそうにしてるから危ないことが起きるわけじゃないみたいだよ」

「むぅ~。レイヤ、早く行く」

「ん? あ、うん、わかったよ」


 ユッカと楽しそうに子供達を見ているとソフィーが頬を膨らませながら僕の腕を揺すって先を急がせた。


 門兵に言われた様に真っ直ぐ行くと大きめの二階建ての家を発見した。軒下には宿屋という文字とベッドの絵が描かれた看板が設置されている。入口まで行きリオンに止まるように言いうと僕は降りて宿屋の中に入って行く。


「すみません。泊まりたいのですが」


 中にいたふくよかなおばさんに訊ねた。


「おや珍しい、こんな田舎に泊まりに来るとはね。一泊朝夕食付きで御一人銀貨三枚だよ」

「では三人分の銀貨九枚を。それで、馬車と大きなペットがいるのですがどうしたらいいですか? ペットの食事はこちらで準備するので構わないのです」

「大きさによるけど家の裏手に馬車を泊める空間がある。そこに持ってお行き。ペットは誰にも危害を加えなければ隣で寝かしてもいいよ」

「危なくないですか?」

「寝ているところに手を出して噛まれる方が悪いのさ。だから、安心して家の隣で寝かしな」

「そうですか。一応言い聞かせておきます」


 僕はお金を払うと宿屋の外に出て馬車を裏手に持っていき止める。リオンの手綱も取り去り自由にしてもいいが人に危害を加えないように、と強く言い聞かせておく。


 僕達は宿屋の中へ入って鍵を貰うと部屋に行き、荷物を置いて楽になる。その後合流して今後の話し合いをする。


「あと二週間もすれば帝国に着くと思う。帝国は教会とはそれほど関わり合いのない国みたいだね。それに食材がたくさんあるみたいだ。もしかしたら米があるかもしれない」

「お米かぁ。半年ぐらい食べてないんだっけ?」

「そうだね。もう召喚されて半年も経ったのか。早いもんだね」

「レイヤ、お米って何?」


 二人でこれまでの半年が速く過ぎていったなぁ、と感慨深くしているとソフィーがムッとして訊いてきた。


「米は小さくて真っ白い食べ物でモチモチしているんだ。それが僕達の国の主食だったんだよ」

「そう。食べてみたい」

「そうだね。僕も話していたら食べたくなってきたよ」

「むぅ。ねぇ、帝国に行ったらまず何をするの?」


 今度はソフィーと話しているとユッカが頬を膨らませて話しかけてきた。


「まずはそうだなぁ……情報収集かな? 『死水の大遺跡』もだけど、教会のことも調べようと思う。帝国はなぜ教会をあまりかかわりがないのか、とかね」

「レイ君は何かあると思ってるの?」

「いや、そこまでは考えてないけど、なんで教会はというより神は放置しているのかなぁって思っただけ。人族を支配しているのなら帝国にも手を出さない? 普通」


 僕は帝国の建国に何かが関わっているのだと思う。何も関わっていなくても何かがありそうな気がするのは本当だ。まあ、なかったらなかったで考えよう。


「あと協力者も探さないといけないね」

「教会と敵対する?」


 ソフィーが首を傾げて聞いてきた。


「まあそうだけど、敵対していなくても僕達に賛同してくれればいいかな」


 僕は宿屋の天井を見ながら呟くように言った。


「とりあえず、帝国に行ったら教会の追手に関してと迷宮と協力者に関しての三つはしっかりと調べないといけない。どんな迷宮かもあまり知らないしね」

「そっかー。調べものなら私にもできるね」


 そういえばユッカは僕達よりステータスが低かったんだっけ。迷宮が全て強力な敵が出るとは限らないけど、もし出てきたらユッカを置いて行くか庇いながら戦わないといけなくなるのか。

 異世界人だからしっかりと修行を付ければ、ステータスは僕やソフィーまでとはいかないまでも安全だというところまではいくだろうな。


「ユッカも強くなる? 強くなりたいんだったら教えるけど」

「古武術のこと? でも、私にできるかな?」


 ユッカは強くなりたいけど不安なんだろうな。ユッカはそれほど体を動かすことが得意ではない。普通の女子と比べれば動けるけど、自分からは大きく動かないタイプだったな。


「そうだけど無理に古武術を教えるんじゃなくて、魔法の訓練や防御術や護身術を覚えようって言うことだよ」

「それなら私でもできそうだね。うん、レイ君が教えてくれるのなら私はやるよ」

「私もやる」

「ソフィーもやるの? まあ、迷宮でやった復習だと思えばいいか」


 僕達はそうと決めると宿屋から出て裏手にある広場に向かった。その途中におばさんが何やら大きなものを持って運ぼうとしていたので手伝うことにした。


「ありがとうね。重たくて困っていたところだったのよぉ」

「いえ、これくらいならお安いご用です。何かあるんですか?」

「ああ、明日私の息子の結婚式なのよぉ。門兵をしていただろう? そいつが息子さ。その準備を皆でしてるんだ。ここは人も少ないから祝い事は皆でするのが当たり前でね」


 その時の門兵が息子さんだったのか。気が立っていたのもなんとなくわかる気がする。じゃあ、僕が運ぼうとしているこの箱は食器でも入っているのかな? 飾りかもしれない。


「結婚式ですか? いいですね結婚式。私もレイ君と……うふふ」


 ユッカは何やら嬉しそうに妄想している。ソフィーの方を見てみると結婚式のことを理解していないのか首を傾げていた。


「ソフィーは結婚式を知らないの?」

「結婚は知ってる。女と男が一緒になること。でも、祝うのは初めて。私達はほとんど祝わない」

「そうなんだぁ」


 魔族は結婚はしても祝うことはほとんどしないのか。いずれソフィーも結婚するんだよね。僕の傍から離れちゃうのかぁ。なんだか寂しさ半分、怒り半分といったところだなぁ。いつもでも傍にいてほしい。可愛いから。


「よかったら、明日式に来るかい?」


 僕達が結婚のことを思っているとおばさんがいい笑顔でそう言ってきた。

 結婚式に参加かぁ。僕は地球で社員の結婚式を何度か見に行ったことがあるけど、皆いい感じの雰囲気で楽しそうだったなぁ。


「いいんですか!」

「ああ、いいよ。人数が多いほうがいいからねぇ」

「レイ君!」

「いいよ。僕も見てみたいと思っていたところだから」

「私も見る」


 ソフィーも賛成する。


「では、お言葉に甘えて参加させてもらいます」

「はいよ。じゃあ、しっかりと準備をしてもらおうかね」

「はい、力仕事は任せてください」


 僕達はその後、食器やテーブル、飾りつけを手伝っていく。皆に感謝されていくのは悪い気はしない。僕達も次第に明日の結婚式が楽しみになっていきあっという間に夜となり、僕達は明日に備えて早めに就寝することとなった。


 この世界の結婚式がどういうのか聞いてみたが僕達の世界で言うと西洋式の結婚に近い感じで、牧師の代わりに村長が誓いの言葉を言い二人が誓うことで結婚が成立するとのこと。その後は皆で祝って食べるそうだ。


「ねぇ、レイ君」

「何?」


 夕飯を食べて部屋に戻ろうとするとユッカが僕を呼び止めた。いつもと変わらない笑顔だが何やら考えているようだ。


「結婚式といえば『あれ』だよね? 『あれ』がないと結婚式って言う気がしないの。だから、私達で作らない?」

「『あれ』って白くて甘いやつ?」

「そうそれ! 私も手伝ったけどそれだけで参加するのはちょっと……。だからね、私達からもお祝いっていうことで作りたいなぁって思うの。聞いて見たんだけどそう言うのは知らないっていうから皆驚くと思うし、喜んでくれると思うんだけどどうかな?」


 ユッカが言う『あれ』とはウェディングケーキのことだ。この世界にはケーキというか甘い物があまりないような気がする。もちろん僕達が知らないだけかもしれないけど、ユッカが言うにはクッキーなどのお菓子はあったけどケーキは出たことがないようだ。


 ソフィーもそう言った食べ物を知らない様で首を傾げている。


「ケーキって何?」

「ケーキはとろけるほど甘くてふんわり柔らかいデザートのことだよ。こちらで言うとマフィン見たなものが近いかな? それよりも柔らかい生地にミルクから作ったホイップ、カットした果物などを乗っけたものだよ」

「おいしそう。食べたい」


 ソフィーも賛成したことだし、材料もボックスの中にあるから明日おばさんに調理台を借りて作ることにしよう。作るのに結構時間が掛かるだろうから早めに準備をしないといけないな。氷魔法が使える人をと思ったけど、早く作れてもボックスの中に仕舞えばいいか。


 僕達は明日のサプライズを楽しみに思いながらそれぞれの部屋に戻って就寝した。





「ソフィーちゃん」

「何?」


 白須は無事に零夜と出会えてからここまでの道のりでずっと考えていたことをソフィーに訊くことにした。


「ソフィーちゃんはレイ君のことをどう思っているの?」


 白須はこのことをずっと考えていたのだ。迷宮から無事に帰還してきたと思ったらその隣にはとても可愛い零夜好みの女性がいたのだ、気になっても仕方がない。その好みもちょっとずれているのだが白須には些細なことだった。


 白須にとってはソフィーが零夜のことをどう思っているのかが大事だった。今までの旅で考えた結果は好きなのだろう、だ。まだ確信が持てないでいるのはソフィーが本気でいないからよくわかっていないのだ。


 白須が零夜と話していればちょっと妬いて邪魔をしてくるがそこまで露骨にしてきているわけではない。友達が取られた程度にしか思っていないように感じるのだ。だが時折、白須はソフィーから優越感を感じ取っていたのも確かだ。

 だから、この機会に聞いてみることにしたのだ。


「どう?」

「そうよ。仲間だと思っているの? それとも好きなの?」

「好き? うーん、わからない」


 ソフィーはじっくりと考えていたようだがよくわからないそうだ。だが、悩む程度には自分の心に変化があると感じているようでもある。


「え!? レイ君のこと好きじゃないの? もし私がレイ君と結婚したらソフィーちゃんはどう思う? レイ君とほとんどいられなくなるかもよ?」

「…………それは嫌。レイヤと一緒にいたい」

「結婚したいとか、一緒に手を握っていたいとか、話していたいとか思う?」

「……思う」


 ソフィーは間を空けてじっくりと答える。それに対して白須は大きく息を吸うと溜め息を吐いてソフィーに言う。


「はぁー、いいソフィーちゃん。それは恋よ」

「恋?」

「そう。レイ君のことを考えると胸が締め付けられるようにキュンキュンってなったり、一緒にいて手なんて繋ぐと顔が赤くなって、顔を思い出すだけで頬が赤くなる。それが恋なの。どう? ソフィーちゃん」


 白須はソフィーの目をじっと見て真剣に言う。ソフィーもそれを見返して言われたことを感じてみる。


 確かにソフィーは自分の気持ちを理解できていないが零夜が欲しいのは変わらず、白須に言われたことが自分も同じであると理解する。


「うん、レイヤに恋してる」


 ソフィーは淡々と答えるが頬が微妙に上気していることを見るとレイヤに大分傾いているようだ。それを感じ取った白須は再び溜め息を吐き、キッと目に力を込めるとソフィーに宣言するかのように自分の意気込みを言った。


「ソフィーちゃんには負けないわ! レイ君と結婚するは私よ! 彼氏彼女関係にある私の方が一歩リードしてるもん! ソフィーちゃんは私に勝てるかしら」

「大丈夫、私も結婚する」

「へ? あ、この世界って多夫多妻制だったっけ?」

「うん、だからユウカがレイヤと結婚しても大丈夫。私も出来る」


 白須は呆気にとられたが、こちらの世界のルールなのだからそれはしょうがないと割り切ることにした。また、同時に地球へ還る時になったらどうするかという疑問も出てきたがその時はその時どうにかなるだろう、という結論に達してしまった。


 零夜のことだから迷いながらも離れるという選択肢はないはずだ。連れて行くかこの世界に残るという選択肢しかないが白須はどちらでもよかった。ただ、レイヤと一緒にいられればそれでいいと思っていた。


 家族には戻る段階で誰かに手紙を渡せばいい。それに零夜と結ばれたと知れば家族も悲しみながらも喜んでくれるはずだと。


 ソフィーとの話は一件落着し、これからはギスギスとした不穏な空気が流れることはほとんどなくなるだろう。白須はこの世界で零夜のことを縛ることは出来ないと思ったからだ。だが、不用意に女性を近づけることだけはしないと心に誓った。


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