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追われながらの王都出発

前回2、3日に一回は投稿と言ったのですが、急遽週二回に切り替えます。

混乱させて申し訳ありません。

しっかりと見直すことと矛盾点を無くしていこうと思います。

何かあればご指摘ください。

 まだセラの神託が降りていないのか、それとも王城内だからなのか夜中に襲撃されることなくぐっすりと寝ることが出来た。久しぶりのふかふかふんわりベッドは全身に溜まった疲労と体の凝りを無くしてくれた。


「ふぁ~。っしー、朝練でもするか……ん?」


 ベッドから抜け出そうとして隣に違和感を感じたので見てみれば、ソフィーがいつの間にかベッドに侵入してきていた。まあ、昨日まで一緒に寝ていたしこんな広い場所で一人で寝るのは僕も寂しいと思っていたから別にかまわないんだけど……それでも、ソフィーは僕のことを男だと思ってくれているのかな? 子供だと思われて一緒に寝てるんだったら悲しいよぉ。


「ふみゅ~……れいや~」

「あ~ぁ。可愛いなぁ」


 ソフィーの頭を撫でてみるとムニャムニャと口を動かして僕の名前を舌足らずな感じで呼んでくれた。心の底から(くすぶ)られるようなゾクゾクって幸せな気持ちが込み上げてくる。やっぱり可愛いものは何でもいいね。


 朝練のことをすっかり忘れてソフィーの寝顔を堪能していると幸せな時間の終了を告げる音が部屋に響いた。


「レイ君、起きてる? ちょっと聞きたいこと……」


 部屋の中に入ってきたのは身支度をきっちりとしたユッカだった。ユッカは何やら二つの服を持って部屋の中に入ると僕を見て固まってしまった。僕はよくわからず首を傾げるとユッカも傾げる。僕は首を戻して今していることを確認すると、ソフィーの頬を突っついて遊んでいた。


 あーね、これを見て固まったのかぁ。ちぉょっと拙いかなぁ。


 と、冷汗を垂らしながらユッカの方を見るとその姿はなく僕は幻影でも見ていたのかと思ったその瞬間、僕の両蟀谷(こめかみ)に激痛が走った。


「レイく~ん。ど~して彼女がここで寝てるのかな~? しかも楽しそうに頬なんて突っついちゃってさ~。(私なんて手も握ったことないのに)」

「い、痛い! ソ、ソフィーが起きちゃうよ!」


 チラリと後ろを見ると笑顔の般若がいた。いや、意味わかんないかもしれないけど笑顔の般若なんだよ。って痛いよ! 離して~! 話したら分かるから~! 


 僕がユッカの腕をタップすると腕の力を弱めてくれたので何とか脱出する。そういえば手を握ったことがないって呟いてなかったっけ? とりあえず握ってあげよう。


 僕は溜め息をついているユッカの手を取って握手じゃなく、右手と左手で恋人繋ぎとか言われている腕をクロスさせて指と指を絡ませるやつね。よく分からず混乱しているユッカにニコニコと笑顔を見せて言う。


「手、握ったよ? 握りたかったんでしょ?」

「え? ま、まあ、そうだけど……。納得いかない」

「ん……んん……おはよう~」


 やっぱり騒いでいたからソフィーが起きちゃったじゃないか。


「おはよう。まだ早いからもう少し寝ていてもいいよ」

「うん……やっぱいい」


 ソフィーは寝ようとして僕とユッカが手を握っているのを見てると目をぱちくりとさせ、一気に朝の微睡タイムを中断させて覚醒すると僕の隣に降り立ち手を取って握った。ニギニギと。


「えっとー…………そうだ。ユッカは何をしにきたの? 用があったんだよね?」


 僕はベッドに向かって手を握っているこの状況に困惑してユッカが来た理由を訊ねることにした。


「え? あ、忘れてたよ。そうそうこの服とこの服どっちが似合ってる?」


 ユッカはそう言って手を離すと傍に置いていた服を取って僕に聞いてきた。でたよ、恋人になったら絶対に聞かれる質問。

 一つは真っ白のワンピースの胸元に緑色の花飾りがついているシンプルなもの。もう一つはピンク色のミニドレスと簡易の半袖だね。どちらも似合うだろうから悩むねぇ。


「うーん、僕としては白いワンピースだけど、シンプルすぎない? そっちは露出が多いからダメ」


 と、彼氏としての意見を言ってやった。そうするとユッカは極上の笑みを浮かべてありがとうとくわえて部屋の外へ出て行った。残った僕は未だに手を繋いでいるソフィーを見て、ソフィーも同じ服着てるよねと思いいたり空いた時間で服を作ることにした。


「ソフィーの服は僕が作ってあげるよ」

「本当!?」

「うん」

「わかった。任せる」


 これが正しい選択だったようでソフィーは僕から手を離してくるくると回り出した。それを可愛いなと思いながら見ていると再びユッカが戻ってきて、今度は変な目で見られてしまった。




 美味しい朝食を食べた後、僕達は信用できる騎士の人に連れられて王族御用達の騎獣店に向かった。騎獣店とは僕達がこの世界で初めて見た動物スレイプニルとかの卵を扱っているところだ。


 卵は一応何が生まれてくるのか分かっているが、人気なのはランク制の100個の中からランダムで引き当てるものが人気らしい。その卵の中にはドラゴンやユニコーンなどが入っているらしく、低くても通常の馬よりは強いものが出てくるらしい。まあ、ドラゴンとかはなかなか出てくるものじゃないけどね。卵の大きさは皆同じサイズになっていて専用の器から取り出すと元の大きさに戻るらしい。孵すには魔力を分け与えるだけとのこと。


「ここが騎獣店となります。グラサムさん、いますか?」


 騎士の人が店の中に入って人の名前を呼んだ。奥から一人の男性が現れ、僕らを見て愛想のいい笑顔になって挨拶をしてきた。


「ようこそいらっしゃいました。私の名前はグラサム。そちらがレイヤ様、ソフィー様、ユウカ様ですね。お話は伺っております。では、こちらへお越しください」


 僕達はグラサムさんと名乗る男性に導かれて店の奥に案内された。奥の方へ行くとものすごい数の卵が厳重に置かれた場所に出た。この中から卵を選べばいいのかな?


「この中から選んでくださいと言いたいところですが、この国の英雄様なので国から要望がありまして、こちらに見える卵ランクSのものから選び下さい」

「卵ランクS、とは何ですか? 魔物のランクの様なものですか?」

「ええ、そうだと思ってくださって構いません。違うところは育て方違いで強くも弱くもなるところですね」


 そうなのか。じゃあ、出来るだけ鍛えて強く育てよう。馬車を運んでもらうわけだから強くなくては困るもんね。


「じゃあ、この中から選べばいいのですね? この中にはどれぐらい強いのがいますか?」

「そうですねぇ。私もよくわかりませんが強いのであればレッサードラゴンやスレイプニル、騎獣としてならばペガサスやケルピーがいますね。中には幻獣なんていうのもいるので運が良ければ……」

「そうですか……。では一つ選ばせてもらいますね」


 僕は一歩前に出ておよそ200個からなる卵に反則技を使って馬車を引く騎獣を選ぶ。魔力感知で魔力を調べながら魔力拡散で魔力を拡散させて一気に食べる卵を探す。さすがに卵自身から魔力を感じさせることは出来ないようにされているけど、魔力を吸収できないようにはされていないようだ。


 何個か試していると十数個目で当たりを引いた。一気に吸い込まれる気がして魔力感知で調べると周りに渡していた魔力も食べている卵があった。


 因みに魔力は孵化さえしなければ誰が魔力を与えても大丈夫だ。


「あの卵にします。なんだか強そうなのが生まれる気がしますから」

「これでございますか?」

「ええ、それです」

「それではお取りください」


 僕は厳重に警備されている枠の中に入り目的の卵を器の中から取ると掌大だった卵はみるみるうちに大きくなり、両手で抱えるほどの大きさとなって止まった。大体横60センチ、縦130センチほどだ。


「これはまた、大きくなりましたね。魔力の方は大丈夫でしょうか」

「普通はどのくらい必要なのですか?」

「大体普通の卵(生卵の三倍ほど)だと魔力が100ほどでしょうか。なので、この大きさになりますと……魔力は1000から2000はいるでしょうな。さらに幻獣だと考えますと更に倍入ります。大丈夫ですか? まあ、一度でなくても大丈夫なのですが……時間がないとのことですから」

「ええ、大丈夫です」

「ほほう、さすがは英雄殿。頼もしいですな」


 僕は照れながら卵に魔力を通し始めた。だんだんと激しく魔力を吸っていくこの卵からは一体何が生まれてくるのだろうか? 周りの皆もいつまで経っても生まれてこようとしない卵に期待が膨らんでいく。


 数分が経った頃、卵が微かに動き始め頭の上からピシリと音が聞こえてきたため魔力を切り、ワラの上に置いて産まれてくるのをみんなで見守ることにした。


 次第に罅が大きくなり欠片がワラの上に落ちる。大きく亀裂が入った瞬間、猫のような足がひょっこりと生え、次に片方の手が生え、最後に大きな亀裂を入れながらひょっこりと卵の王冠を被った頭が出てきた。


「おおおおぉ! 産まれたぁ!」

「この可愛いのは何!?」

「魔物じゃない。幻獣」

「ほほう、こいつは確かエルファノライネルと呼ばれる幻獣の一種ですな。ライオンでありながら像のように大きく成長する特殊なライオンです。力も強く、騎獣にもできます。これはいいものを引き当てましたな。英雄殿は運も味方にしますか」

「あははは……」


 僕はちょっと罪悪感を感じながら乾いた笑みを浮かべてエルファノライネルの体を抱き上げる。大きさは僕よりも小さいがやっぱり大きい。これがすぐに大きな状態になるんだよね。本当に幻獣や魔物って不思議だなぁ。


「では、名前を付けてください」

「そうだなぁ……安直にレオっていうのもあるけどもっとかっこいいのがいいな。シシ、レオン、レグル……いや、こいつメスだな。毛がないし。首周りに。じゃあ、レオナかリオンのどっちかのしよう」

「私はリオンかな?」

「私もリオンがいい」


 二人はリオンに票を入れてくれた。こういうときって大概二人が分かれてなんちゃらになるから嫌だったからいいけど。


「よし! 今日からお前の名前はリオンだ! リオン、早く大きくなって強くなろう! そして、一緒に冒険をしよう!」

「かうぅぅぅん」

「ああぁ、かわいいぃ」


 可愛い泣き声を上げるリオンに僕は抱き着いて頬擦りをすると後ろからユッカ達に肩を持たれ離されてしまった。ああぁ、僕の可愛い養分がぁ……。




「またのお越しをお待ちしております」


 グラサムさんに挨拶をして別れると次に車体である馬車を王城に戻り受け取ることになっている。それほど豪華なものではないが、長旅でも耐えられるようにした冒険用の車体を頼んだのだ。


「では、王城に戻りリオン様に合った綱をお付けしましょう」

「はい、早く行きましょう」


 この十分ほどでリオンは歩けるようになり、僕の後ろをヒヨコのように付いて歩いている。通行人が僕とリオンを微笑ましい顔で見て手を振ったり、子供が触りに来たりするから触らせてあげたりと結構楽しく王城まで向かった。




 王城に着くと中庭に数種類の車体が置かれていた。それらがリオンに合うかどうかで出発するかどうかが決まる。


 一つは家形というかなんというか屋根が付いている馬車だ。耐久性はいいだろうけど重そうだ。二つ目はキャラバン風と言うか白い屋根がカーブして付いているものだ。これは一般的だな。三つめは西部劇に出てくるような古い車が後ろについているような奴だ。僕は拳銃を使わないからあれだけど、これは使えたらかっこいいだろうなぁ。


「来たか、レイヤ。すまないがこの三つの中から選んでくれ。とりあえず、頑丈で外から顔が見えないものを選んだ」


 ロイ団長が僕を見つけて真ん中の車体を指さして答えた。僕達はとりあえず一つずつしっかりとみて、これからの冒険でも大丈夫なもの且つ派手ではなくカモフラージュできるものを選ぶ。


 そう考えると三番目の奴はあまり見かけないだろうからやめておいた方がいいかもしれない。一番目は中を見ると普通のようだが、長旅と言うよりは旅行向きの馬車だからやめておいた方がいいかも。となると、二番目の車体になるが、これなら正体のようにカモフラージュできるし、荷物も多めにおける。何より大きいため人数が増えても大丈夫だ。


 その旨を三人に話すと頷いて了承してくれた。


「では、リオンだったか、リオンをこちらに連れて来てくれ。綱を付けるからな。あと、こいつは騎獣にも使えるらしいからレイヤは鞍の着け方が分かるか?」


 リオンの身体に手綱を付けながらロイ団長が僕に訊いてきた。

 鞍の着け方か……。馬のなら知ってるけどさすがにライオンはねぇ、乗ったこともないし触ったのも初めてだからなぁ。


「着け方は馬と同じですか?」

「まあ、大体同じだな。ただ馬のものより頑丈になるだろうし、今は着けない方がいい。これから一気に成長するだろうからな。およそ、一か月で成体といったところだろう」

「なるほど。では、鞍に関しては何時か取り付けようと思います。馬と同じであるのならたぶん大丈夫です」

「わかった。もう少し時間が掛かるから、馬車の中に荷物を入れておいてくれ」

「わかりました」


 僕はボックスの中から商人に見える様なものを置いて行く。まず、武器類でも置いておくか。次に簡単な防具と薬草だな。それから、水とかも入れておいた方がいいかも。あとは半分のスペースを寝る所にしたいから、迷宮で手に入った魔法の絨毯を敷いてその上に毛布を置くと。よくお尻が痛くなるって聞くからあとで枕かクッションを貰おう。


 僕は部屋のカモフラージュをするかのように次々と荷物を出して入れていく。リオンは像ぐらいの大きさになるみたいだから、多少重くなっても大丈夫だろう。


「レイヤ、こちらは着け終わったがそっちはどうだ? まだ時間的には大丈夫だが、早くしないと騎竜兵が到着してしまうぞ」


 ロイ団長は顔を覗かせて僕に急ぐように言う。外でリオンのお世話をしてもらっていたユッカとソフィーにも手伝ってもらい準備を急ぐ。そんなところへお邪魔虫君達が現れ、旅の始まりに嫌な思いをさせる。


「優香! 一体どこへ行くつもりだ? 俺と一緒に迷宮に潜るんじゃなかったのか?」

「そうだぜ白須さん。俺達と一緒に迷宮に潜って強くなろう。しっかり守ってやるからさ」

「手解きもするからさ」

「一緒に強くなって魔族を滅ぼそう」

「なんだったらあちらも……」


 何だ? 外から憎らしい声が聞こえる。まさか、あの五人が来てるとか……。はぁ~、なんでこう来ないでいい時に来るんだろうか。でも、監視するって言っていたのにどうなっているのかな?


 そう思って馬車から顔を出してロイ団長を見てみる困惑した様な顔をしている。と、言うことはロイ団長も彼らがここに来たのが分からないということか。じゃあ、誰が僕達がここにいることを教えたんだ?


「さあ、城の中に帰ろう。一緒に訓練でもしようじゃないか。今回の件で俺達がまだ強くならないといけないと分かったからな」


 そう言ってユッカに近づいて行く。弱いことにやっと理解したのか、ただ単にユッカを誘うために適当なことを言っているのか知らないが、ユッカに触らせるわけにはいかない。


 僕は馬車から飛び降り、アスマの前に立ち塞がった。そこで僕を見た遊馬達の驚きようは範疇を越えていた。


「き、貴様なぜ……。い、いや、雲林院帰ってきたんだな」


 白々しいぃ……。僕が帰ってきている時点でお前が僕を嵌めたことは全員知っていることなんだよ。今更いい子ぶってどうするつもりだ。


「おかげさまでね。死にそうになったけど、力に目覚めて赤鬼も倒したし、迷宮も踏破出来たし、王国も護ることが出来た。もちろん、お前が護れなかったユッカも本人が望んだ僕が助け護ることが出来た」


 僕はそれぞれ五人を見ながら淡々と答える。もちろん皮肉を十分に含んだ言い方で。


 すると五人は一瞬気圧されたように怯んだが、すぐに持ち直して怒りに染まった顔つきになる。ロイ団長達が言っていたように遊馬達はすでに壊れているようだ。


「ああ、安心していいよ。僕は君達をどうかしようとは考えていないから。まあ、憎くて憎くてどうしようもないけど、君達をイジメようとは思っていないからね」

「俺達をイジメる、だと……」

「うんそうだよ。僕と君達ではすでに隔絶とした差があるんだよ。ここで争ったら僕はイジメになっちゃう。僕は君達と違って人に暴力を浴びせたり、蔑んだり、罠に嵌めたりしないから」

「あ、あの時はすまなk……」

「すまないでは済まないよね? 大体今更謝られても困るから。早く僕の目の前から消えてよ。本当に殺したくなるからさ」

「くっ、雲林院はどこに行く気だ?」


 遊馬は気圧されたように後退るとハッとして恨むような顔つきになってそう言った。


「どこに行くかだって? それは君達に言う意味があるの? まあいいや。僕はね、君達の為ではないけど同じ召喚された人が地球へ帰れるように旅をするんだよ。僕がしないといけないみたいだからね」


 僕はユッカ達を馬車の中に入っているように促してそう言った。遊馬達がそれを見て近づこうとするから、僕も一歩近づき威嚇する。


「ちっ、それがどうして白須さんも一緒に行くことになるんだぁ」

「それにそっちの女の子はお前より強いだろうが」

「戦力となるやつは勇者につくもんだろうが」

「そうだな。雲林院がいくら強くなっても俺達より強いわけがない。力に酔っている奴に優香を任せるわけにはいかない。さあ優香、馬車から降りて僕の元へおいで」


 こいつらは本当に何を考えているのだろうか。相手の力量を分かれとは言わないけど、魔力感知が使えるのだから確認位するだろう普通。それすらしないとかどれだけ自分の力に自信を持ってるんだよ。


「お前達いい加減にしろ! 今回の襲撃を終わらせたのはレイヤなんだぞ! それを言うに事欠いて貴様ら何様のつもりだァ! 相手の力量もわからないのかァ! それでもお前は勇者かァ! お前達もだ! もう我慢ならん! お前達は戦場も戦場最前線で戦ってもらう!」


 僕が爆発する前にロイ団長が爆発してしまった。まあ、国を護った英雄だとか言われてるし、ロイ団長も僕に対しては過保護のような感じだからさすがに怒るよね。まあ、僕としては代わりに怒ってくれるのなら嬉しいからいいけどね。


 五人はロイ団長の怒気に当てられ竦み上がるが、納得いかない顔をしている。恐らくロイ団長のステータスが自分達よりも低いからだろう。それでも一対一で戦えばロイ団長が確実に勝つだろう。


「で、ですがロイさん、俺達は見ていません!」

「気絶していたからな」

「そ、それはそうですが……自分の目で見るまで信用できません。それなのに優香を連れて行くなど尚更です!」

「そうは言うが俺から見てもレイヤの方が遥かに強いと思っている。いや、勝てないな。それに、シラスはレイヤの彼女だ。なら連れて行っても文句はないだろ? なぜ彼氏であるレイヤから離れ、お前につかなければならない」


 ああ、ロイ団長それ言っちゃう。ほら見てよ、五人は驚愕な顔になって僕を睨み付けたじゃないか。まあ、今の僕は全く動じない……というよりどうでもいい。元から動じてはなかったしね。


『か、彼女……』

「何をそんなに驚いている? 皆知っていることだぞ。それに彼女じゃないとしても俺はシラスがレイヤについて行くのを拒否したりしない。レイヤは信用できるからな」


 それはどうも、と心の中で感謝した。まあ、この五人の任せるという選択肢はほとんどの人の中にないだろう。


「レイ君、まだ? 早くしないと追手が来ちゃうよ」

「あ、うん。ロイ団長、僕達はそろそろ行きますね」

「おう、何時か安全になったら帰って来てくれ。それまで死ぬなよ」

「はい、ロイ団長も死なないでくださいね」

「ははは、レイヤから貰った鱗があるからな。ちょっとやそっとじゃ死にはせんさ。じゃあな」


 五人を完全に無視してロイ団長と軽く話した後、僕は御者台の足かけに足を掛けて昇ろうとしていた時に待ったを唱える人物がこの場に現れた。


「お待ちください、ウジイ殿」


 この声は……ランバルドさんか。何か僕に用でもあるのか? この人には全く関係のないことだというのに。


「はぁ、なんですか? 僕はすぐにでも出たいのですが」

「いや、何、この老骨めにいい案があるのです。勇者殿はウジイ殿の力を証明しろと言っているのですから一度戦って頂ければわかるのではないでしょうか?」

「何が言いたいのですか? それは僕にメリットがないですよね? 僕は彼らに強いとわかってもらえなくてもいいのですよ? 立つ塞がるのであれば蹴散らすだけです」


 この人と話しているとイラついてくるなぁ。どうせ僕に決闘か何かさせて出来るだけ時間を稼ごうという魂胆だろうな。もう、無視して行くか?


「いやはや、いくらウジイ殿が強いといっても勇者殿よりも強いわけがありません。勇者は人族最強なのですよ? 力に溺れているとはこのことですな」


 今度は挑発するように言ってきた。


「はぁ~、あなたは知らないかもしれませんが僕には相手のステータスが見れるんですよ。僕のステータスと勇者のステータスがどれだけ離れていると思ってるのですか? 段違いではなく、桁違いですよ?」


 僕はイラつきが口調に出始めランバルドさんを威圧し始めていたが、ランバルドさんは涼しい顔をしている。


 試しに鑑定してみるとレベルはそれほど高くはないが、ステータスは600ほどと人族にしては高く、技能に『???』と鑑定できないものや神力と書かれているものまである。字からして神の力を使うといったところか。


 僕は下から睨み付けるようにランバルドを見る。


「おおー、怖いですな。それほど力が離れているのであればメリットなどなくともいいのでは?」

「あなたは対価もなしに何かをするのですか? あなたもお金を貰って教皇として働いているのですよね? それにあなたがなぜ口出しするのですか? もしかして僕達にここを出て行かれると困るとか、足止めしているとかじゃないですよね?」

「そ、そんなわけないでしょう? 私は遺恨が残らないようにしているだけです。旅に出るというのに遺恨が少しでも残るのは支障が出るかもしれないでしょう? ですから私めがお手伝いをしようかと思っただけです。いらぬおせっかいだったようですな」


 好々爺しい笑いで誤魔化そうとしているが、一瞬詰まった所から見るにセラからの神託が降りているとみて間違いないだろう。早く出発して帝国に向かおう。


「それでは話は終わりですね?」

「おいおい、俺達は行ってもいいと言ってないぜぇ? 決闘十分じゃねぇか」

「そうだな、俺達が勝ったら優香を置いて行ってもらおう」

「ま、俺達が負けるなんてありえないが、もし負けたら何でも言うことを聞いてやる」


 今度は五人が止めに入ってきた。僕はそれを無視して御者台に上がったが、ランバルドまで連携して話をややこしくする。


「それはいいですな。メリットがなければしないということなのでしたな。では決闘をしましょう。ささ、ウジイ殿こちらへ」


 ランバルドはそう言って僕を中庭の中央へ誘うが、僕は相当怒っているのでこんな茶番速攻で終わらせることにした。ユッカ達に一言掛けて御者台から飛んでその場に行った。


「ユッカ、ソフィーいつでも出られる準備をしてて。すぐに終わらせるから。その後強行突破する」

「おい、レイヤ別にしなくてもいいぞ」


 ロイ団長が止めるように言ってきたが僕は決闘なら流儀に反しないので徹底的にすることにした。一瞬で終わらせれば大丈夫だろう。もし近くに集まっていたとしてもリオンはこの数時間で大きくなったから馬車を引けるだろう。


「早くかかって来い。一秒で終わらせてやる」


 僕は手招きをしてそう言った。やはり想像通り五人は頭に血を昇らせて武器を抜き放った。


「それでは、両者遺恨の残らないように、始め」


 ランバルドがすぐさま決闘に火蓋を切った。五人はそれよりも早く僕に近づき、武器を振りだしていた。既に反則負けじゃないか。目の端ではロイ団長が止めに入ろうとしているが僕にはどうといった距離ではない。


 腰を落として手に気を溜め込むと五人に向けて撃ち出した。


「雲林院無心流気功術……『遠当て』」

『ぐべぇ』


 連続で放たれた五発の突きから気が放たれ数メートル先の五人の鳩尾にぶち当たり吹き飛ばした。五人は情けない声を上げて地面に落ちるとそのまま起き上がれず気絶した。気が体内で暴れ回ったためだろう。


 僕は残心をすると勝者宣言も聞かずに御者へ乗り込みリオンに出発するように叫ぶ。


「これでいいな! ランバルドに五人! 僕達は行かせてもらう! リオン、邪魔する者は全て蹴散らせて王国から離れるんだ!」

「ガウ!」


 リオンは大人のような声で吠えるとものすごい勢いで馬車を引っ張り出した。僕はロイ団長に後のことは頼みます、と頭を下げて馬車を王国の外へと進ませる。目指すは南の地、帝国領イスルギだ。


「ランバルド様、聖王国の騎竜兵が!」

「クソッ遅い! 早く奴らを掴まえるように指示を出すんだッ!」

「は、はい!」


 背後では上空十数キロ辺りを飛んでこちらに向かってきている聖王国最強の部隊騎竜兵が飛んでいた。地上ではランバルドが真っ赤な顔で周りの神官に指示を飛ばす。


 僕達は馬車から落ちないようにしっかりと掴まり特急で王国の大通りを通って外を目指す。幸い住民が戻ってきていないため人通りが少ないくリオンが思いっ切り走ることが出来る。と、その時馬車の横の地面に火炎弾が着弾した。


「キャッ」

「レイヤ、後ろに竜がいる」

「もう来たのか! リオン、少し頼む!」


 僕は御者台の上に立ち上がり、両手を上空に翳して古代魔法を展開する。丁度竜が僕体の馬車に狙いを定めて口の中に炎の球を溜めているところだった。


「ゴアアアアアアァァ」

「『マティアリア』ァァァ!」


 背後から猛スピードで飛んできた騎竜兵の騎竜ワイバーンの炎の球を魔力の壁を張ってやり過ごす。そのままその魔力の壁を大きくしてこれ以上騎竜兵がこちらに来れないようにした。


「ゴガッ」

「な、何が起きた。ぐっ」


 次々と不可視の壁にぶつかって落ちていく竜騎兵。僕達の馬車のスピードは五十キロほどと自動車と同じスピードが出ている。車体も頑丈な作りなのか軋む音がほとんど聞こえない。


 背後で撃墜する音を聞きながら僕達は王国の外へと姿を消し、完全に教会の手から逃げ去った。


生まれたてのライオンには鬣はありませんが、幻獣にはあるということにしてください。すぐに成長するのもおかしいですし……。

霊○弾ですね。

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