襲撃3
魔人討伐をしていた白須達は披露した状態でも難なく魔物を倒して森を抜けることが出来た。行きよりも魔物が襲ってくる回数と頭数が減ったのも関係している。
「行きより魔物が少ねぇな」
天宝治が魔物を斧で真っ二つにしながら呟くようにそう言った。他の皆もそう思っているようで頷く者がいる。
「恐らく先ほどの殺気が魔物を全て追いやったのだろう」
それにロイ団長がすばやく答えた。何やら確信めいた者が言葉に含まれている。
「それはどうしてですか? 魔人の支配を受けていたんですよね? それに魔族も」
郷原が気丈に振る舞ってそう言った。
「だが、そうとしか考えられまい。それほど先ほどの殺気は凄まじいということだ。それに我々にはそこまで被害がないだろう?」
「そう言われれば、竦みはしたが気を失いはしなかったな」
「恐らく、魔物にだけ当てたものなのだろうが、範囲が広すぎて漏れ出したんだろうな。仕方のない奴め」
ロイ団長は頬を綻ばして最後に付け足した。それを近くで聞いた白須と涼風も自然と笑みが浮かぶ。その他の人には理解が出来ず首を傾げるだけだった。
白須達は平原を突っ切り王国の壁を沿って正門まで向かった。正門に到着するとみんな一様に口を開けて正門の前に置かれた物体を見た。体は何色だったのか分からないまで焼け焦げていて、体には何個もの穴が空き原形を留めていない魔人らしき物体があったからだ。
その周りには生徒達がへたり込むように座り、恐怖に取り付かれた感情を吐き出しているところだった。若干生気のあるやる気のある顔を見れば大丈夫だと覗える。
ロイ団長は復帰すると近くの生徒に何があったのか説明を求めた。
「ちょっといいか? ここで何があった? あれは魔人か? 誰があれをやった? お前達か?」
ロイ団長もまだ混乱しているようで矢継ぎ早に質問をしてしまった。生徒は軽く苦笑をすると正門から反対方向を見て震える指で指差した。ロイ団長はその方向を見て絶句する。そこには無造作に手を掲げ魔法を乱発している少女の姿があったからだ。
全ての魔法がとは言わないが、どれもが上級以上の威力持っていると思わせる破壊力の魔法に誰もが言葉を失ってしまう。特に魔法師の郷原は目を高速で瞬きして頭を挙動不審気味に振っている。
「あの子が僕が殺されそうになっているところへ魔法を放って倒してくれたんです。しかも二発ですよ? 未だに信じられません」
ロイ団長が聞いた生徒はどうやらソフィーに助けられた生徒だったようだ。既に顔色は元に戻りかけているため大丈夫のようだが、夢でも見ているのかと言った目で目の前の光景を見ている。
「ま、まあ、あれを見ればわかる。だが、何者だ?」
「それは僕達もわかりません。何を聞いても答えてくれませんから。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「ただ、お願いされたから、と言っていました」
「お願いだと?」
生徒はそう言って目の前の少女に視線を合わせた。それに合わせてこの場に到着した討伐隊全員も視線を合わせた。
未だに魔法を撃ち続けているソフィーは疲労の顔を一切見せず、上級レベルの魔法を魔物の群に撃ち続ける。この辺りまでは殺気が来ても効果が薄くそれほど逃げ出さなかったようだ。それでも最初のころと比べればまだなましな方だろう。
横に視線を変えると冒険者達が森の中から出てくるのが分かった。皆が不思議そうな顔をしている。
「どうした? そっちも何か起きたのか?」
ロイ団長は肩を借りて歩いている冒険者に訊ねた。冒険者は何が起きたのか分からないと言った顔で、ソフィーの姿を見てもあまり納得出来ていないようだ。
「い、いや、先ほどの殺気もそうだが、森の中の魔物と魔人が大量に殺されていてな、誰がやったのか皆で話していたんだが……」
「彼女ではないのか?」
「いや、彼女のように魔法でやれば焦げたり濡れたりしているだずだが、俺達が見てきたのは穴が開いていたり、首が取れていたり、体の骨が折れていたものが多かった。それ以外に外傷が全くない綺麗な状態でな」
冒険者は彼女の姿を見て余計にわからなくなったと言った。ロイ団長達もよくわからず彼女の姿を見守るだけだった。
魔物が減り始めあと少しで相当できると言ったところで彼女が魔法を放つのをやめてしまった。それを不思議そうに見たロイ団長達は首を傾げるが、彼女が上を見たので皆それにならって上を見てその理由が理解できた。
「あ、あれ……は、ま、まま魔族……」
誰かが震える声でそういった。空には濃い紫色の体毛に口元から白い毛が腹までびっしり生えている狼のような姿をした魔族が浮かんでいた。その脇には蝙蝠の様な羽根と紫色の身体の魔族と上半身が人間、下半身が牛のような体をした魔族が控えていた。
「あ、あいつは爆炎のディライ……」
ロイ団長がそう声を漏らすと狼の魔族が口角を吊り上げ凶悪な笑みを浮かべた。
「そうだぁ、俺が爆炎のディライだ! 魔族軍第三将軍でもある。こっちは配下のガーゴイルと牛魔族な」
「怪魔族のサティアと申す」
「牛魔族のラライだ」
魔族は空から降りてくると一人ずつ名乗り、魔力を解放し威圧した。誰もがその強力な魔力に当てられ恐怖に顔を歪める中、平然と歩き魔族の前へ立ち塞がる者がいた。
「……邪魔。帰れ」
「おお、これはこれは、お久しゅうございます。あそこに閉じ込められ、生きて帰れたので?」
「……現に此処にいる」
「それは御尤もで。……それでなぜ私どもの前に? まさか、人族を助けるとでも? それにあなた様が私どもに勝てるとでも思っておいでですか?」
「(コクン)」
ソフィーは無表情だが、自信満々に頷く。それだけ零夜に修業を付けてもらい、自信が持てるほど成長したと思えるのだ。それに迷宮を踏破することが出来たのだ。自信を持てなくてどうする。
「ほほう、ではお手並み拝見と行きましょう。サティア、相手をしてやれ」
「ははっ」
サティアはそう言って一歩前に出ると口元を歪めニヤつき、ソフィーを手招きする。元魔王を挑発するとは子のサティアという魔族は相当自身がるようだ。いや、ソフィーが弱かったというべきか。だが、今のソフィーは魔族の中でも上位に着く実力を持っている。
「私を……嘗めるな!」
「グ、ガッ、ガフッ」
ソフィーは地を蹴り付けると猛スピードでサティアに突っ込み飛び膝蹴りを顔面にぶち込んだ。サティアの顔が歪み、鼻が曲がり、歯が何本か折れ、出血する。そのまま十数メートル吹っ飛び地面をバウンドして止まった。
「……サティア? サティアァァ!」
ディライは今起きた現象を理解するのに時間が掛かったが、サティアが一瞬で吹っ飛ばされたのを理解すると大声で叫び額に青筋を浮かべた。
「なかなかやるようですね。迷宮から出てきたということはそれなりに強くなっているようで。ラライ、お前も加われ! 絶対に殺せ!」
「ははっ」
ラライは地を爆散させてソフィーへ突っ込む。ソフィーはそのままステータスのものを言わせて逃げまくる。時には魔法を放ち、習った体術で投げ飛ばす。
「何をしている! そんな奴直ぐに倒せ!」
「狼野郎! お前の相手は俺だ! 『聖光剣』」
「お、おい……」
遊馬は白須をちらりと見ると頬を吊り上げディライに斬りかかった。未だに白須のことを諦めていなかったようだが、既に零夜が近くまで来ているのでその思いが一生成就することもなければ、いなくても話しかけられることすらなかっただろう。
ガキイィン
「嘗められたものだな。俺様にそんなカスい攻撃が効くわけないだろ? もっと力を付けてこいやァ!」
「がふっ、ゴホゴホ、おえっ、ごふっ」
剣は素手で止められ反対に腹部に強烈な一撃を食らい城壁に吹っ飛ぶと打ち付けられ、咳き込むと嘔吐する。誰とも合わせるという行為をしなかった遊馬を誰もカバーに回ることが出来ず、吹っ飛んだということにしか気づけなかった。それだけのスピードが出て飛んだというのもある。
「あれが勇者ですか? 弱いですねぇ。中級魔族にも満たないじゃないですか。これが人族の希望ですか? ああ、情けない。我々魔族の宿敵がこんな弱いやつだとは」
「き、貴様ァァッ! 殺す、絶対に殺してやる!」
「アスマ! 頭を冷やせ! 怒ったら相手の思うがままだぞ!」
ディライは大袈裟に被りを振って言い放つ。それを聞いた遊馬は頭に地を昇らせて激昂するがロイ団長に窘められ向かうのをやめた。だが、顔は汚れながらも怒りで真っ赤に染まり、剣を握る手は血が滲んでいる。
「クソッ、俺は弱くねぇ! 絶対に俺は弱くねぇ!」
遊馬は吠えるように自分は弱くないと連呼する。それを聞いたディライは再び凶悪な笑みを作り、遊馬を挑発する。
「それでは私はもっと強いということでしょう。しかもあなたが強いうということは魔族のほとんどがあなた異常ということになりますがね? アーハッハッハッハッ」
「ぐっくぅー、クソがァァァァッ! 『神罰ノ剣』ィィィィ!」
「おい!」
近くの冒険者が体を抱いて引き留めようとしたがやはり遊馬の方が筋力が高いようで簡単に振り払われてしまった。そのまま遊馬は赤鬼に使った剣技をディライに放つが、ディライは少し本気の顔になると軽く飛んで剣の柄を足で捉え蹴り上げると遊馬の手から剣がすっぽ抜け、がら空きとなった腹部に逆の足の回転後廻蹴りが突き刺さった。その直後爆発も起き、二重のダメージを与えた。
「ぐ、くっあっ。……おいアスマ、大丈夫!」
「……ぅ、ぁ。ぉれ……つよ、ぃ……」
今度はロイ団長が反応して飛んだ方向に周り抱き留めたが遊馬は生きていたが白目を剥き、これ以上の戦闘は無理な様子だ。ロイ団長は眉を細めると遊馬を隅へ置き、皆に指示を飛ばす。
「アスマの二の舞になるなよ! ディライは爆発と火魔法を得意とする! 不用意に近づかずに隙を突いて背後から攻撃するんだ!」
『オオオオオオオォォォ』
野太い雄叫びが響き武器を構えると警戒態勢を作り、いつでもディライの隙を突いて攻撃できるようにする。ディライは不敵に笑ったまま動こうとせず、じっと佇んでいる。
「何をしているのです? さあ、かかってきなさい。俺様が全て蹴散らしてくれる!」
「くっ、嘗めたことを! 魔法師は魔法で援護を! その他の奴は背後から奇襲を掛けろ! 俺と涼風は正面から奴を引きつける! いいな!」
『おう!』
「ええ!」
ロイ団長と涼風はディライに正面から斬りかかっていく。その背後に白須が控え、すぐに回復できるように準備している。他の冒険者達は二人の攻撃の合間に魔法を放ち、爆風で見えなくなった瞬間に背後から奇襲を掛けているが、ディライの肌は鋼のように硬いのか全く刃が通っていない。
「鬱陶しい! 全く効いていないのが分からないのか! 『火炎爆掌』」
ディライは両拳を握りしめると指を組んで地面に叩きつけた。その瞬間地面が爆ぜ爆発し、突っ込んでいった冒険者を爆炎で吹っ飛ばす。自身は鋼のような肉体で護り切り傷一つ付かない。
白須達回復職はすぐさま爆破で被害を受けたものを癒していくが、人数が多いため間に合わない。この状況は赤鬼の時と同じだが今回は白須のレベルがったことで広範囲回復魔法を放てる。
「天から降る光よ、聖なる光のベール、祝福の風、傷付きものに等しく癒しを…… 『天光治癒』」
対象と認識した物の上から光が降注ぎ即座に傷を癒していく。その代り白須は魔力を大分使い切ってしまった。魔人討伐で使い果たしていた魔力をさらに使ったため目の前が霞んできているのか、その場に座ってしまった。
「これは……彼女ですか。もう魔力がないようですが、回復職を先に倒すのは戦闘の常識。もう無理なようですが殺させてもらいますよ」
「行かせるかァァァッ! 『抜刀・瞬剣』」
「ウオオオオオオォォ! 『ソニックスラッシュ』」
地面をから近づいた涼風は瞬速の抜刀術を下半身に放ち、ロイ団長は数メートルジャンプすると剣を上段に振り被り音速を超える勢いで振り下ろして衝撃波を飛ばす。
「邪魔だァァァァッ! 『紅蓮脚』」
ドガアアアアアァァァァン
ディライは脚に炎を纏わせると涼風に肉薄して踵落としを食らわし、そのまま飛び上がるとロイ団長が放ったソニックを蹴破って逆足でロイ団長の胸を蹴り付けた。
涼風はどうにか避け致命傷は避けたが、ロイ団長は剣で受け切ったがもろに当たり吹き飛ばされる。空中で一回転すると剣を地面に突き刺して無事に着地したが、胸元から焦げた匂いと煙が上がっている。顔にも脂汗が浮かびどれだけのダメージを受けたかわかる。
「死ねぇぇぇぇ! 『火炎衝撃』」
更にディライは地面に着地すると同時に火魔法を放ち円形の炎の衝撃を巻き起こした。近くにいた冒険者もそれに巻き込まれ皆が焼かれていく。逃げ切ったものはディライから離れすぎたため再び近づくまでに時間が掛かる。
白須はもう一度立ち上がり広範囲回復魔法を唱えようとするが、膝が笑い立ち上がることが出来ずそのまま唱えようとしたがディライが地を爆ぜさせて接近してきた。
「させるかァァァァァッ! 『熱波掌』」
今度は拳に炎を纏わせて殴り掛かってきた。涼風達が立ち上がり守りに入ろうとするが、距離が離れすぎて間に合わない。
白須は前に似た状況を思い出し、その時に感じた思いがまた噴き出す。今度は助けに来てくれるかわからないが、今出せる最大の声量で思い人の名を叫ぶ。
「レ、レイくぅぅぅぅーん! 助けてぇぇぇぇ!」
「助けが来るわけねぇだろうが! 死ねええええ」
「させるかァァァァァッ!」
ディライの拳が顔面に突き刺さる瞬間、横から声が届きディライの身体が水平に吹っ飛んでいった。白須はハッと吹き飛ばした人物を期待してみるとそれの人物は零夜には似ても似つかない遊馬だった。だが助けてくれたことには違いないのでお礼を言う白須。
「あ、ありがとう、遊馬君」
「いや、どういたしまして。すぐにあいつをやっつけてあげるからな。――貴様よくも優香を狙ったなァ! さっきのようにはいかねぇ! 俺もあいつのように力が湧き上がってくる! これならお前に勝てる! いや、勝って見せる! 優香のためにも!」
遊馬は吹き飛ばしたディライの方を指さしかっこよく決め台詞を吐く。鼻から血がダラダラと流れている状態で言っても残念王子のようで情けない。
ディライは身体を猫のように動かして空中で受け身を取ると地面に悠々と着地し、冷めた目で遊馬を見た。そのままゆったりと手をぶらつかせながら歩くと、背筋が凍えるような錯覚を覚える冷たい声を出す。
「お前、殺す」
「ハッ、俺がお前を殺すんだよ! いいから掛かって来い!この犬っコロ!」
「(ぶちっ)ああ? 今なんつった? 犬っコロだ? 嘗めてんのかテメエ! いいだろう俺から行ってやる! 後悔するなよ! ガキがァァ!」
ディライは怒りの形相になると両手足に炎を纏わせて遊馬に突進する。
遊馬が強気な理由は新しい技能限界突破を覚えたからだ。技能を覚えることはほとんどの確率でないが切っ掛けや神の力でいくらでも就くことがある。今回は勇者が死にそうだから力を貸したのか、それとも瞬殺されて死にかけたことで更なる力を欲して目覚めたかのどちらかだろう。
限界突破は自身のステータスを十分ほど倍にする技能だ。これで遊馬の平均は2000となったが、これでやっと中級魔族を倒せるようになっただけだ。しかも十分間だけという猶予つきで。
だが、ディライは魔族の中でも番号持ちの中でも上位の実力者だ。ステータスで言うと8000近くあるだろう。遊馬の四倍はある計算となる。力に溺れている遊馬は力に酔い痴れ完全にディライを嘗めきっている。このままでは無残に殺されるのがおちだろう。
遊馬はディライの本気の接近に反応することが出来ず、ディライの接近を許してしまった。ディライは遊馬まで近づくと攻撃を加えず目の前で急停止し、遊馬を見下ろして言い放つ。
「お前、どこが強くなったんだ? たかが限界突破で俺に勝てると思ったのか? 笑わせるな、ガキがァァァァッ」
「ひ、ひいいぃぃぃぃぃぃぃ」
遊馬もまた赤鬼戦でのトラウマがあるのだ。普段は巧妙に隠しているが強者と戦うとなるとこうもダメになるとは……。
遊馬はディライの怒鳴り声に身を竦ませて再び汚く汚物を撒き散らす。もう見ていられない。そのまま気絶するかと思ったがここで根気を見せつけた。
「く、くぞぉ、じねぇぇぇぇぇ! 『聖光剣』」
「グッ、フンっ! 不意打ちとは、やるじゃねえか。俺の身体に傷を付けるとはな。だがこんなもん掠り傷にもならんわァァ!」
「グハッ……」
期待外れに目を外そうとしたディライに遊馬が剣を振り上げ光り輝く聖剣を振り下した。剣は肩に深々と突き刺さったが、ディライが筋肉を膨張させると剣が跳ね返り、首筋には赤い線が出来ているだけで全くの無傷と変わらなかった。そのままディライは回転する力を加えて腹部を殴りつけた。
遊馬は再び気を失い盛大に吹っ飛んでいく。
「きったねぇ。……よぉ、次はお前の番だ、嬢ちゃん。覚悟はいいか?」
「い、いや……レイ君、助けて」
白須は手に持った杖を足代わりにして立ち上がると後退りながら杖をディライに向けて構えた。遊馬のおかげで涼風達が間に合い攻撃を仕掛けるが片手であしらわれ、ディライの歩む足が止まることはない。
「そのレイ君とやらは誰だ?」
「レ、レイ君はレイ君だもん。きっと私を助けに来てくれる。約束したんだから。あなたよりもずっと強い。レイ君さえ来てくれれば……」
白須は睨み付けるようにディライに言った。ディライはそれを聞くと「ほほう」と呟き、構えると一気に地を蹴り付け接近してきた。
「なら、来る前にテメエを殺さねぇとなァァァァ!」
「助けてぇぇぇぇぇぇ! レイくぅぅぅぅぅぅん!」
白須は目を強く瞑って零夜の名前を叫んだ。今度こそ私を護って、約束通り私を護って、強くなった姿を見せてという思いを込めて……。
「来るわけねぇぇぇだろうがァァァァァ!」
ディライが御馳走を前にしたような凶悪な笑みで右拳を引き絞って白須に放つその瞬間、今度は上から声が響き渡り、その拳を普通に受け止めた。
「手前ぇ、誰の女に手を上げてんだぁ!」
パシンッ ズガアアアァン
乾いた音が辺りに響き渡り、殴った衝撃が白須の両脇に流れて破壊音を轟かせた。そのまま声の主は上段に蹴り上げ、ディライの身体を宙に浮かすと腕を両手で持って振り回し投げた。
「ユッカ、遅れてごめん。でも、約束は守ったよ。これからは僕が護るから安心して」
白須はその声を聞いて弾かれるように上を向いた。そこには最後に見た服装とは違う服装をしているが、毎日のように見て覚えた優しげな瞳と白須のことを第一に考えてくれる、私のために強くなって護ってみせる、その時になったら再び告白をしてくれると約束してくれた雲林院零夜の姿があった。
期待を一回裏切る屑勇者登場。力を得たがそのまま瞬殺される。二回目で本人登場。
これもテンプレみたいなものですね。