襲撃2
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神子を更新しました。
日数に関して質問がありました。勇者一行は迷宮から脱出するのに半日、そこから王国へ戻るのに三日となります。行きに五日もかかったのは魔物を倒しながら行くことと旅をしたことがないのでかなりゆっくり進んでいたからです。
魔物の襲撃は砦のようなところがあり、そこから伝令が伝わり丁度勇者一行が戻って来る半日前ぐらいに襲撃が始まりました。なので住民の避難は済んでいます。
この話の説明は後書きにあります。
あと、計算間違いをしていました。魔人が十体を、十体が『百体』を使役しています。魔人は十体ではありません。それ以上います。使役しているのが十体です。
魔人討伐隊が王城を出て後再び魔物達が王国を攻めてきた。三十人ほどの生徒と騎士団、兵士や義勇兵、冒険者が一丸となって立ち向かう。人数はおよそ二千人。魔物も三千から三千五百ほどと何とか倒すことが出来る範囲にある。更に続々と迷宮から冒険者が集まってくるため援軍が到着するまで間に合うだろう。
だがそれはこのままいけば、である。現在は魔人しか凶悪なものは出ていないが、目撃情報の中に魔族が複数にいることが確認されている。また、『爆炎のディライ』という火魔法に長けた魔族がいることが分かっている。
ディライとは先の戦争で人族に多大な被害を与えた魔族の中でもトップクラスの実力を有し、名前通り火魔法と爆発系統の魔法を好んで使う。また、魔族軍の中では魔族軍第三部隊隊長兼将軍の地位に就いている猛者でもある。
他にも魔族が目撃されていることから、魔族が出てきた時点で戦況が変わる恐れがある。
「くっ、重いッ!」
天宝治は大きな牛型の魔物の突進を大盾で受け止め、唸るように歯を喰い締め踏ん張る。背後から身軽な剣士や戦士が飛び出し牛を斬り付けるがほとんど分厚い皮と筋肉に阻まれダメージが通らない。唯一勇者組の攻撃が通っているくらいだ。
「ぬあああああッ『大盾強打』ッ」
吠えた天宝治が大盾の持ち手をグッと握りしめ全身を光らせると死を踏み締めて大盾を押し返した。牛に激しい衝撃が伝わり、弾かれるように後方へ飛ぶ。そこへ涼風が抜刀術で追い打ちをかける。
「イヤアアアァッ『雷閃』」
神速の抜刀術が鞘から放たれ牛の角を切り裂き、そこから血飛沫が上がる。牛が涼風を狙い頭を回転させると後ろから遊馬が切りかかる。
「よそ見すんじゃねぇッ『聖光剣』」
上段に構えて飛び上がると剣から目をチラつかせる光量の光が発せられ、そのまま落ちるスピードも加わり牛の胴体へ深々と剣が突き刺さった。その後剣から光が牛へ流れ光属性のダメージを与える。
彼らが戦っているのは『甲土獣ベヒーモス』という名前の魔人だ。ネームドではないので零夜達が戦っていたものよりも弱い分類に入るが、それでも国とやり合える強さを持つ。現に迷宮組が全力で戦っているのにもかかわらず中々倒れないところを見ると、魔人の名は伊達ではないということだ。
「ウモオオオオオオォォォォォォッ『憤激大突進』」
ベヒーモスは四肢を踏ん張ると一気に飛び出し体当たりをする。まるで水平に飛んでいく大きな弾丸のようだ。十メートルほど気を薙ぎ倒しながら飛ぶと地を滑りながらこちらを向き同じように攻撃してくる。
標的となっているのは迷宮組だ。その他のものは自身にダメージを与えられないときが付き、先に自身にダメージを与えられるものを倒そうと考えたのだろう。知能が高いゆえの作戦だ。そしてその間に巻き込まれるものがいれば大万歳と言ったところでもあるのだろう。先ほどから人が重なったところを狙っているようだ。
「クソッ、デカブツが! おとなしくしやがれ!」
遊馬が逃げながらそう口にする。誰もが思ったことでもあるため何人かが頷き賛同していた。
何度か逃げているとみるみるうちに体力がなくなったベヒーモスはその場から動かなくなり、ゆっくりとこちらを見て息を荒くしている。
「チャンスだ! 皆でかかれ!」
ロイ団長が腕を振り下して合図を送った。総勢十人弱がベヒーモスの身体に剣を突き立て、斧を振りかぶって叩き、弓を射る。ベヒーモスが息を吸い込みかち上げをしようとした瞬間に皆はすぐに離れ、その直後に後衛組の魔法が炸裂する。
「「「燃え盛る化身よ、煉獄の炎よ、全てを破壊し無と期せ! 大爆炎」」」
激しい爆発音が鼓膜を響かせ顔を顰めさせるが、誰一人としてベヒーモスから顔を背けない。
「ブモオオオオオオオォォォッ!」
『――ッ!?』
ベヒーモスは焼け爛れた状態で爆炎の中から飛び出し突進をしてきた。虚を突かれそうになった皆だが、何とか目を外さずにいたことが功を期し躱し切ることが出来た。
ベヒーモスはそのままさきほどのように急停止すると再び向かって来るのかと思わせたが、体をグラつかせて膝から崩れ落ちるかのように足をふら付かせていた。
「あと少しだ! 皆踏ん張れ!」
ロイ団長がベヒーモスに切りかかりながら皆に声を掛ける。
『ウオオオオオオオォォッ』
雄叫びを上げる冒険者達に触発されて生徒達も雄叫びを上げてベヒーモスに最後の攻撃を放つ。剣士が爛れて防御力の低くなった肉を狙い、戦士がその切り口に斧を叩き付け、弓が肉に突き刺さり、魔法がさらに肉を爛れさせる。
「うおおおおおおぉぉぉッ『聖光剣』ッ」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォッ」
最後に遊馬が光り輝く聖剣で心臓を一突きしてベヒーモスの命を刈り取った。皆が荒い息遣いでその成り行きを見守り、ベヒーモスが体をグラつかせて地に伏したとたんに雄叫びが再び轟いた。
「よし! 怪我をしたものはすぐに回復を! それ以外のものは警戒と次の準備を! 素早く行え!」
ロイ団長が皆に指示を出し皆がそれに合わせて迅速に動き次の行動をする。白須は怪我をした冒険者を癒し続け、遊馬や涼風は武器の手入れや警戒をする。
ベヒーモスの他にも魔人を二体倒していた。これでもまだ六千体近くの魔物がこの辺りをうろついていることになる。
魔物にはランクがあるがそのランクは冒険者が数人で相手をして倒せるのが基準となっているため、魔物と同じ人数では負けてしまう可能性があるのだ。現在は六千と二千で圧倒的に不利だが、襲い掛かってくるのが千体ずつとどうにか倒すことの出来る範囲になっている。これが魔族の罠なのかもしれないが今は援軍が到着するまで持ち堪えるしかない。
「次はどこだ!」
「魔物は続々と王国へ侵攻中! 一番近くの魔人でも数キロ離れています!」
「そいつで構わない! どこにいる!」
「王国から数キロ離れています! 場所は此処から南東に二キロ! 敵は恐らく巨人種だと思われます」
「わかった! 準備は出来たか! 次に向かうぞ!」
斥候と魔法師の魔力感知で戦況を見ながら魔人のいる場所を探し出し倒していく。
ここは王国周辺の生徒達が踏ん張っている東門付近だ。一人一人の戦力が低いがそれでも一般兵士よりも高いステータスを有しているため、最前線で戦い続けていた。
また、赤鬼と比べても数十段もレベルが低く葬っていくことが出来るため、生徒達は戦意をなえさせることなく戦い続けることが出来ていたのだ。
「これくらいなら屁でもないぜ!」
「そうよ! あの怪物に比べればスライムと同じよ!」
「そりゃあ心づえぇ! 坊主に嬢ちゃんここは任せたぜ!」
「おう、任せろ!」
「ええ、王国を護ってみせるわ!」
『おおおおおおぉぉぉ!』
生徒総勢二十名ほどが王国の城門の前に広がって魔物が街中に入らないように布陣を敷いていた。中には戸間達四人もいた。
王国にやってくる魔物は冒険者達が打ち漏らした低ランクの魔物が多く数は多いが生徒達で十分倒し切ることが出来ていた。
生徒達もレベルが上がりステータスの補正が付き始め戦闘が次第に楽になってきていた。それで気が抜けていたのか伝達が疎かとなり、魔人の侵攻に気が付くのが遅れてしまった。
「グヒャグヒャグヒャッ。オデ、ニンゲンクウ。ビミビミ。ソンデ、モットツヨクナル」
「キャアアアアアアア」
「うわあああああああ」
「ま、魔人だああああ」
気づいた時には魔人の姿が間近にあり、硬直した数人の生徒が目に涙を浮かべてへたり込んでしまった。戸間達はその姿を見て気絶しかけている。
魔人の姿は苔色の肌につるりとした頭が太陽の光を浴びて光り、木の巨大な棍棒を肩に担いで涎を垂らしている。名前は『暴君トロールキング』といい、個体名は『大食のビッチェス』というのだが、零夜でなくては鑑定をすることが出来ないため名前を知られることはない。頭も悪そうな魔人のため名乗ることすら思いつかないだろう。
「坊主達! 魔人が行ったぁッ! ロイさん達が来るまでどうにか持ち堪えてくれぇ!」
一人の冒険者が森の方から大声で状況を教えてくれたが、それは遅くビッチェスは棍棒を振り上げて近くにいた生徒を潰そうとしていた。
「た、たす……け、て……」
「「「全ての源よ、真っ赤に燃える紅の炎よ、我が手に集いて力と成せ! 火炎球」」」
炎の球が数発ビッチェスに向けて飛び、そのうち何発かが上手くビッチェスと棍棒に当たり爆発を起こした。軌道のずれた棍棒が襲われた生徒の直ぐ横に落とされ地を盛大に吹き飛ばし大きな穴を穿った。
「ぺっ、ぺっ」
「早くそこから退くんだ! 「「全ての源よ、吹き抜ける烈風よ、何者も切り裂く刃と化せ! 風切刃」」」
今度は男子生徒が土を被った生徒に逃げろと指示を出し、すぐに風魔法の詠唱を開始して風の刃が放たれた。
ビッチェスの身体にあたった風の刃は何事もなかったかのように弾け消えたが、棍棒にあたった風の刃は切り込みを入れあと何発か当てると完全に折れてしまうだろう。
「い、行けるぞぉ! 俺達なら魔人を倒せる!」
「そ、そうよ! あの時とは違ってここは広いわ! 皆、離れて魔法主体で戦うのよ!」
『おう(ええ)』
リーダー的立場の二人が皆に指示を飛ばし、魔人ビッチェスから離れて戦う魔法主体のスタンスに帰る。皆は最低でも十メートルほど離れ、いつでも避けられるように囲んでいる。また囲んでいるのは十人でその他の住人は正門を護っている。魔人だけでなく他の魔物もいるからだ。
「ウオオオオオオォォッ! ニンゲンンンン、クウウゥゥゥ! 『体当たり』」
ビッチェスは両手を高く上げ雄叫びを上げるとそのまま大きな腹を突き出して走り出した。走るたびに地面が揺れ動き上手く動けなくなる生徒達だが、ビッチェスのスピードが遅いため難なく回避できている。そして、背後から魔法を放つ生徒達。
「「「煉獄の炎よ、滾る焔となりて、我が手に集い来れ! 火炎矢」」」
「「「母なる大地よ、穿つ雨となり、我が言葉に従え! 落岩石」」」
ビッチェスの背中を焼き、大人大の岩石がぶつかり昏倒させると盛大に頭から地面に倒れ抉る。その間に再び詠唱を始めて魔法を放とうとすると粋な地ビッチェスの身体が赤いオーラが纏い始め、生徒達の中に恐怖が湧き始めた。
「あ、ああのオーラは、あ、赤鬼の……」
「ま、また来るぅぅぅぅ!」
「こ、今度こそ終わりだぁぁぁッ」
生徒達は赤鬼が使った鬼の怪力や鬼無双のオーラが脳裏に焼き付いているため、ビッチェスが使った狂人化と間違っているのだ。それでも酷似した技なので間違っても仕方がないが、違う点は痛みを感じなくなり力が倍増する代わりに意識がなくなり殲滅するまで止まらなくなるところだろう。
だが、そんなこと知らないセントたちにはどちらも同じような技であり、無差別に攻撃してくる分こちらの方が被害が大きくなるだろう。現に隊列がなくなり思い思いに逃げ惑っている。
のっそりと体を起こしたビッチェスは赤いオーラをどす黒く変化させて白目を剥き、口をにやけさせると涎が先ほどの日じゃないほど溢れ出し舌で舐めとる。ジュルリ、と音が鳴り背筋が凍るような感覚にとらわれる生徒達の動きが止まり、さらに動けないようにビッチェスは威圧と雄叫びを上げた。
「ボオオォォォァァァアアアアアアァァァ!」
『ひいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ』
竦み上がって足腰が悪くなったかのように崩れ落ち、その場に蹲ってしまった。ビッチェスはそれを確認できたのか知らないが本能で知ると今度は飛び上がってプレスをしてきた。
その場にいた生徒は顔面を涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃにし、表情は諦めと恐怖が入り混じった青白い顔色になっていた。影が段々とその生徒に近づき、影が到達すると大きく濃くなっていく。
誰もがこれでこの生徒は死んだ。ぐちゃぐちゃのミンチになった、と思い目を背けたその時、森林と繁みの方から女性の声が轟き、魔法がビッチェスの身体を射抜いた。
「大地に眠る怒りの焔よ、今こそ来れ逢魔が時、悪魔に売りしこの魂、今ここに開放する! 獄炎上」
黒と赤が入り混じった高温の炎がぶち当たると共にビッチェスの身体を横に吹き飛ばし、下敷きになろうとしていた生徒を助けた。生徒は一瞬何が起こったのか理解できずにポカーンとしていたが、すぐに自分は助けられたのだとわかると魔法が放たれた方を確認した。
そこには魔法を放った姿、片手を突き出した状態で佇んでいる身長百六十弱で無表情であり、白銀に輝く長髪を風に揺らし、血の様に真っ赤な双眸でビッチェスを射抜き、肌は雪のように真っ白で且つ生気が見られるすべすべの肌に髪が絡む。この戦場に似つかわしくない女の子だった。
誰もがその姿に見惚れる中、ビッチェスは黒い炎に身を焼かれ大暴れしていた。この黒い炎はなかなか消えることがなく、相手を燃やし尽くすまで消えないとさえ言われる地獄の炎なのだ。
「ボオオオオオオァァアアアア、グゾオオオォォ」
ビッチェスは熱さで狂人化が解け通常に戻ったことで、女の子――ソフィーに狙いを定めた。
「ギ、ザ、バァァ……。ヨグボ、ヨグボ、バッデグレダナァ! ユズザン! 『体当たり』」
「あ、危ない!」
「キャアアアア、逃げてぇぇぇぇ!」
ビッチェスは体の筋肉を膨張させると腕をボディビルのように組んで体の側面を当てるように体当たりをしてきた。生徒達は先ほどの光景に呆気にとられていたが、この見目麗しい少女がミンチにされるところでも想像したのかすぐに退避の声を出したが、少女はそのままビッチェスに向かって走り出した。
「広大且つ凶悪な大地よ、その怒りを体現し我と共にあれ、魂すらも貫くその一撃、身をもって知るといい! 土針欠泉」
「グ、ガ、ガガ、ガク……」
少女が走りながら詠唱をし地に両手を付いて地魔法を放つと、迫り来るビッチェスの下から土の針の山が間欠泉のようにいくつも突き出しビッチェスの身体を宙に浮かし穴だらけにした。
突き出した端から引っ込みまた更に大きな針が出てくるその凶悪な魔法に生徒達全員が呆気にとられ恐怖したが、助けられたことにも安堵し少なからず感謝した。
ソフィーはその場で佇みこの場にいる生徒ではなく誰かがいるのかあらぬ方向を見ている。恐らく零夜がいるのだろう。
時は少し戻り、零夜達が地上に戻った頃。
「何やら慌ただしいね。もしかしてもう侵攻が始まってるとか?」
「わからない」
「とりあえず聞いてみようか」
僕は懐かしい中央広場の前に転移させられると目の前の冒険者達が何やら騒がしくしているのに目に入り、この状況は何が起きているのか誰かに気ことにした。
「ちょっといいですか? なぜこんなに騒がしいのですか?」
僕は物を仕舞い店仕舞いをしようとしているちょっと恰幅のいいおじさんに訊ねた。
「ああ? それはな、王国に魔物の大群が攻めてくるんだってよ! 中には魔人や魔族もいるんだと! だからみんな避難してるのさ! 冒険者は皆ギルドの規約に従ってその魔物を倒しに行く準備中さ! ほら分かっただろ、どいた、どいた!」
「あ、ありがとうございます」
僕はおじさんに追い出されるように話を打ち切られ、ソフィーの元へ戻った。
「どうやら侵攻が始まっているらしい。ソフィーがどうにかすることは出来ないかな?」
僕は元魔王だった彼女にどうにかできないか訊いてみたが、答えはやっぱり無理だった。
「無理、皆私を敵だと思ってるから」
「ごめん。……仕方ない、僕達もその侵攻を食い止めに行こう。これ以上セラの思い通りにさせて堪るか」
「うん」
僕とソフィーは王国のある方角へ走り出した。
「ソフィー、ちょっと失礼」
「な、キャッ」
馬車では間に合いそうにないと判断した僕とソフィーは走って行くことにしたのだが、やはり僕とソフィーにもスピード差があり、さらに僕には縮地があるため余計に遅く感じてしまうのだ。
だから僕はソフィーの身体を横から抱き上げお姫様抱っこをした。ソフィーは可愛く悲鳴を上げてしがみ付き、僕をじとーと睨むが僕は微笑んでスピードを上げるから舌を噛まないように、と注意をする。
「一気に駆け抜けるから舌を噛まないでね。『縮地』」
「えっ、あ、キャアアアアァ」
僕は周りに人がいないのを確認すると一気にスピードを上げて王国まで超特急で走り去る。途中に冒険者が山のように乗った馬車や全力で走っている冒険者を目撃しながら追い越し、時には飛び越えて進む。
冒険者達は強風に煽られてこけそうになったり、尻餅をついて目を剥いていたり、悲鳴を上げたりしていたのであとで謝らないといけないかも、でもどうやって……等と思いながら先を急ぐ。
数時間走り続けると王国が見え始めてきた。ステータスが平均一万を超えているため数時間走り続けてもほとんど体に疲労を感じない。こういうのは地球よりもいいと思う。
空に向かって立ち昇る黒い煙が見えてきたところでスピードを落とし、魔力感知で状況を確認する。恐らく魔人だろうが、何体か強力な魔物を確認できたが迷宮であった魔王の刺客ほどではない。魔人一体には複数の反応が囲んで倒している。これが魔人を討伐するなにかなのだろうか? 王国の方へ感知範囲を広げるとその中でも強力な魔人が近づきつつあった。
「助けに行った方がいいかも。ソフィーは王国を護ってくれる? 僕は魔人を倒してくるからさ」
恐らく魔人を討伐している部隊かわからないがあの中にユッカがいるだろう。懐かしい魔力を感じるし、その中に前に感じた温かく包まれるような感覚があるから。その近くにはイラつく奴の反応もあるが……。遊馬だろうな。
「わかった。レイヤ、気を付けて。魔族は強い」
「うん、了解。ソフィーも魔力には気を付けてね。一応これを渡しておくから」
僕はソフィーにボックスから出した木製の小瓶を渡した、その中には神緑の苗木から採れた雫が入っている。どんな傷でも状態でもたちまちのうちに直してしまう雫だ。魔力も回復させていたから丁度いいだろう。
「じゃあ」
「うん」
僕とソフィーは一言だけ交すとソフィーは王国へ、僕は森の中にいる魔人を倒すために向かって行った。
「グアアアアアアアアアァァ」
森に轟く断末魔。その声を聞いた千体ほどの魔物が塵尻になり元の住処へと帰って行った。
「はぁ、はぁ、はぁ。っんぐ、はぁ……これで四体目か」
両膝に手を当てて荒く息を整えている冒険者の一人が辛そうにそう言った。何人かがそれに呼応するかのように頷き、また荒い息遣いへ戻る。
今倒したのはサイクロプスと呼ばれる魔物が進化して魔人となった『隻眼のサイクロプス』という魔人だ。個体名はなくネームドモンスターではなかったようだ。
「つ、次はどこにいる」
さすがのロイ団長も疲労が見え始め息を荒くしている。それに応えた魔法師が魔力感知で近くの魔人を探る。数十秒目を閉じて周りの魔力を感知して目を開けると急いだ口調で警戒を促した。
「王国に強力な魔人が進行中! 数は一体! 異世界の方々が戦われています!」
「何!? い、急いで加勢に行かなくては! あいつらは魔人に恐怖を抱いている!」
ロイ団長の言葉をしっかりと理解したのは白須達だけだ。冒険者も意味は理解できているが深いところまでは知らないので理解できていない。
皆が立ち上がって王国へ戻ろうとすると魔法師が停止の声をかけ更に情報が加わる。今度はいい方へと加わった。
「たった今撃破されました!」
「どういうことだ!」
魔法師のその言葉に皆が浮かそうとしていた腰を止め、魔法師の方を疑わしい目で見た。魔法師は若干顔を青褪めさせて報告をする。
「誰かわかりませんが強力な魔力を持つ人物が現れ一瞬で倒しました! 異世界の方々に死者はいません!」
「強力な魔力の人物? そいつは……誰かと聞いてもわからんか……。とりあえず、一度確認に行こう。我々もこれ以上は無理だ。一度王国へ戻って回復に努める!」
ロイ団長はそう言って皆に指示を出し、王国の方へ戻っていく。
「もしかして……」
白須が重たい体を起こしながら何かに気が付いたように呟いたのを涼風は見逃さなかった。
「どうしたの? もしかして、優香もその人物が雲林院君だと思ってる?」
「ど、どうして!」
涼風は安堵したように笑って言うと、白須は過剰に反応する。まあ、大好きな人と三か月も会えず、過酷な場所で生死不明となればそうなるだろう。
「まあ、なんとなくかしら。でも、優香もそう思っているのならそうなのかもしれないわね」
涼風は白須の腕を持って抱き起すと優しい笑みを浮かべてそう言った。その瞬間、辺りに凄まじい殺気が襲い掛かった。
ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾォォーッ!?
「な、なんだ今のは!? 殺されるかと思ったぞ!」
「(ガタガタガタガタっ)」
「ま、魔族か!?」
皆背筋を凍るような感覚に囚われ、心臓をじかに握られ、さらにナイフを首筋に突き付けられたような錯覚も訪れた。ランクの高い冒険者ほどその殺気を強く感じ、昏倒しかけたものさえいる。
そんな中、この殺気に眉を細めるものと青褪めながらも嬉しそうにする者がいた。それはロイ団長と白須と涼風だ。この三人は以前零夜の殺気を受けているため懐かしいというか、この殺気を疑ったのだろう。
「ね、ねぇ、香澄ちゃん。い、今のってあの時のだよね……」
「そ、そうね。だけど、あ、あの時より強すぎじゃないかしら」
「いや、もしあいつが帰還しているとしたらこのぐらいになっているかもしれんぞ。あいつがいた場所は魔物の掃討が行われていない、魔物がひしめき合っているところだっただろうからな」
ロイ団長は二人に手を差し出しながら冷や汗を流して嬉しそうにそう言った。二人もその声を聞いて喜びに頬を緩め早く持ち主に合いたいと心を弾ませる。それを傍で聞いていた遊馬は驚愕と共に怒りに感情を染め上げ、同時に恐怖も抱いていた。
「グオオオオオオオオォォ!」
「遅い!」
「キャウンッ……」
僕は森を突っ切りながら魔人を探し拳術で仕留めていく。出てくる魔人の強さは覚醒状態の僕よりも弱く、赤鬼よりも弱いため簡単に仕留めることが出来る。拳を打ち、裏拳を放ち、手刀で切り落とす。時には蹴りで頭を爆破させ、爪先蹴りで風穴を開け、蹴り飛ばして骨を折る。
魔人以外にも今の僕にその辺の魔物と変わらない強さの魔物が次々に襲ってくるのを苛立ちながら倒していると、一ついい技能があることを思い出し使うことにした。
「はあああぁぁ『威圧』……『殺気』……」
グアッ!? キャウンキャウンキャウンッ
僕を中心に凄まじい殺気と圧殺するかのような威圧が迸り、強風が吹くかのように草木を揺らして広がっていく。それに勘付いた魔物達は身体をびくりと震わせると悲鳴を上げて弾むように逃げ出した。それでも逃げずに立ち向かってくる魔物や魔人はいるため、森の中を縦横無尽に動き回り仕留めていく。
一段落ついたところで、魔力感知で先ほど感じた懐かしい魔力を探ると王国の方へ向かっているのが分かった。そしてそこにも強力な、魔人よりもはるかに強い個体が近づいているのが確認できた。
やばい! あれが魔族か!
僕は直感的に魔族と判断し空へ空歩で飛び上がると王都へ向かってまっすぐ向かった。
新たに出てきた聖王国ですが、この国の説明は国勢と一緒に後日行います。
協定の様なものを組んでいると思ってください。
迷宮の場所は大陸ごとに二つずつです。(無は除けています)
あと、王国にもっと強いやつはいないのかと思いますが、その人達は最前線で食い止めていると考えてください。それと王国最強がロイ団長の800程度です。次点で600ほどかと思います。ですが、技量があるため、実質はその倍ほどあると考えてもいいかと思います。倍は言い過ぎかもしれませんが……。