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世界の秘密と王国襲撃

励ましありがとうございます。

ダメになるまで思いついたことを書き続けたいと思います。

 扉を潜ると予想していた通り地上へ転移するための魔方陣と迷宮の核であるクリスタルが特殊な装置の中に入っていた。これを壊せばこの迷宮は徐々に崩れて行き消滅してしまうだろうが、僕達はそれが目的ではないため鑑賞してやめておいた。


 次に目の前に目を移すと古めかしい作りの木製の扉があった。その扉からは懐かしい日本独特の何も装飾がなく『和』という一文字が漂ってくる不思議な扉だった。


 僕はこの扉の奥に行かなくてはいけないような、中から呼ばれているような感覚が全身を覆い、どうしても確認してみたくなった。中を覗かないと一生後悔するかもしれないという気持ちも出てきていた。


「なんとなく気になるから奥に行ってみてもいいかな?」

「うん、私も行く」


 僕達は扉まで歩き、錆びて立付けの悪くなったノブを神が折れるんじゃ……という感覚に囚われながらゴリゴリと回し、扉を潜って奥の部屋に入って行った。




「ライト」

「ありがと。何がある……ん、だ……!?」


 部屋の中は真っ暗で何も見えなかったため、すぐに気を利かせたソフィーが明かりを出してくれた。部屋の中がぼんやりと照らし出されたものを見て僕は息を飲んだ。今まで多くの魔物を殺し、人間に近い者まで殺してきた僕だけど、さすがに人の死体を見るのは初めてだった。それに服で隠れているからわからないが、服はボロボロで部屋には腐敗臭もしないところから見ると数十年は前の人間だろう。踏破したものは未だにいないと聞いていた迷宮なのになぜこんなところに死体があるんだ? それに迷宮に吸収されずに。


「骨がある」

「あ、うん。他に何かないかな?」


 部屋には椅子の上で眠るように座っている白骨死体とその隣には木製の机が一つ、あとはその逆隣りに金属製の扉があるくらいだ。簡素であり、質素でもある、いやすぎる部屋だ。これでどうやって生きていったのだろうか。


 と、考えているとソフィーが僕の袖を引っ張り白骨死体を指さした。


「何か持ってる」


 そう言われて白骨死体の手元を見ると服に隠れてよく見えなかったが、何やら黄ばんだ紙の様なものを両手で大事そうに持っていた。


 僕はまず骨の前で手を合わせて黙とうするとすみませんと思いながら、手を除けて手紙を抜き取った。手紙は今にも朽ちてしまいそうなほどボロボロで、骨も軽く想像よりもずっと前に死んだ人のもののようだと確認できた。


「何、書いてある?」

「ちょっと待ってね。何々……『私の名は織田(おだ)(まさ)(はる)先代無の適性者でもある』……って何!? 日本語だと!? それに日本名だから地球人!? それに僕と同じ無の適性者だと!?」


 僕は初っ端から驚愕に目を見開かされ、大声を上げ手紙を破りそうになった。


 それにしても僕たち以外にも日本人が来ていたとは……。いや、この白骨から僕達よりも遥か前の時代から来たに違いない。名前も学校では聞き覚えがないからな。無の適性者というのも気になる。とりあえず先を読もう。


「これを読めるということは君も私と同じこの世界の神によって召喚された者だろう。誰かは知らないがこの手紙には私が知りえた真実が書かれている。どうか最後まで読んでくれると有難い。まず、私が召喚された時代は1950年代だ。授業中に光に包まれたかと思ったらこの世界に召喚されていた。君達から何年離れているかわからないが恐らく数千年は前だろう」


 僕は知らず知らずのうちに声に出して読んでいたようだ。


「まず、私が召喚されたときの様子を離そう。と言っても理由は恐らく君と同じだ。長年争い続けてきた人族の宿敵魔族が力を付けてきたため人族が滅びそうだから召喚されたと言ったところだろう」


 同じだ。僕達もランバルドさんからそう言われたはずだ。じゃあ、この人も僕達と同じ理由で呼ばれたということか。


「召喚された後は教皇と名乗る人物がこの世界と国の説明をしてくれた。そして君も持っているであろうプレートで自身のステータスを知ることとなった。そこでとある事件が起こった。私には職業が存在せず、ステータスは一般レベル、さらに適性は無だった。それからは悲惨な人生を歩んだ。何をしても力が入らない私は皆から蔑まれ、お荷物扱いを受けた。君がもし私と同じ無の適性者なら同じ目に遭っているはずだ」


「そんな私を毎回庇ってくれていたのが親友である勇者だった。彼は地球にいた頃よりも数段と弱くなった私を見捨てずにいてくれた数少ない友だ。だが、それも良く思わない者が多くいた。それが爆発したのが迷宮で力を付けようと話が出たときだ」


 僕はこの人と同じような人生を送っているのか?

 ぐっと力が入った僕にソフィーが気付き、優しく手を握ってくれた。それが何やら心に安心を感じ、続きを読むことにした。


「迷宮に入ってから数日経った頃、私に不満を持っていた者全員が転移の罠と呼ばれる罠に渡しを嵌め、私を死んだものとしたのだ! 私は自分で言うのもなんだが剣道の腕前はそれなりだと自負している。そのためかステータスが低いわりには魔物を倒せていた。それが気に食はなかったのか分からないが先ほどのようなことになったのだ」


 僕と同じだ。


「君がどうやってここまで来たのか知らないが、私はいきなり個々のボス部屋と呼ばれる部屋に転移させられた。なんとか命辛々逃げ切りこの部屋に入ったのはいいが、地上へ帰るための転移陣はボスを倒さなければ使えないようなのだ。ああ、迷宮は数千年単位で作り替わるから私と君が同じ罠でここへ来たのかわからない。その時の私は絶望したと同時にこんな目に遭わせたやつを全て殺したいとも思った。だが、私には無理な話だ。試練を達していればそうでもなかったのだろうが、私は試練を達成できなかった」


 試練というのは僕の称号のことだろう。僕はなんとなく達成してしまったからここまで自力で来ることが出来た。だけど、この人は達成することが出来なかったのか。


「試練とは代々無の適性者の身に与えられる覚醒のための神々の試練だ。この神々とは私達、君達を召喚した神とは別もので魔族と亜人族の神だ。なぜ試練を与えるかというと神々はその神をその力で倒してほしいと願っているからだ」


 それはソフィーから聞いた話のことか?


「私のは変わり者の魔族の知り合いがいてな、そいつからいろいろな事を聞いた。この世界の成り立ち、魔族の戦争理由、亜人族の立て籠もり理由、召喚理由いろいろとな。そいつの名はバルディア・ア・ドラン・ラ・オードラル・ガドボルグランと言って、次期魔王候補と呼ばれるものだ」


 へ? ガルドボルグラン? それって……。


「私のお父さん」

「やっぱり? 次期魔王と呼ばれていたのは何年前かわかる? 生きているのなら一度会ってみたいのだけど」

「無理、もう死んでる。呼ばれてたのは大体5000年前」

「5000年も前なの!? やっぱり魔族って長生きするんだね。じゃあ、ソフィーも、痛ッ……ごめん」

「レディーに歳を聞くのはいけない」


 腹を殴られてしまった。


「この理由とかはソフィーが言っていたやつだよね?」

「多分そう」

「やっぱり本当だったのか……。いや、信じていなかったわけじゃないよ」


 また殴られそうだったので、すぐに否定して難を逃れる。


「私達を召喚した神はセラというのだが、そいつはこの世界と種族をお遊びで創り上げた。まあ、それはいいだろう。だが、この後つまらなく感じたセラは三つの種族を争わせ世界戦争を起こし、数で大いに優っていた人族が勝利し、セラは人族に肩入れするようになった。それからセラは属神に二つの種族を任せた。属神達はこの所業に激怒したが力でははなから勝てず、魔族には初代魔王を呼び、亜人族には隠れ住むように言った。そして、人族を内側から破る者こそが無の適性者となる」


「無の適性者は元の世界で力を有し且つ何かしら敵意を持たれていた者が為るらしい。力を有していると言っても単なる力ではダメだ。そういう奴は勇者か上位職になるだろう。この場合の力とは精神と肉体が強固な者だ。君も無の適性者ならば武道を習っていたはずだ。次に敵意はこの世界に召喚された神を恨むようになっている。ステータスのせいでさらに敵意が増した自分はこの世界に召喚した神を恨むようになるだろう。力も神から贈られるようなものだからな。まあ、ならなくてもこの世界に干渉しなくなるだろう」


 そうだな。僕もこの世界よりもユッカ達を護ることを優先する。まあ、見て見ぬふりをするわけではないが。それは武道に反してしまうからね。


「ステータスのダウンは覚醒と共に強くするための副作用の様なものらしく、覚醒した時のステータスは元の世界の強さも反映され数十倍になるだろう。今代の無の適性者がどのような試練か知らないが、試練は自分に関わるものらしい。私に試練は友を慈しみ、一人も出立ち向かうことだったのだろう。私は強かったが常に誰かと一緒にいたからな。そこを克服しろ、ということだったのだろう」


 じゃあ、僕は自分に自身を持てって言ったところになるのか? でも、未だに僕は後継者には程遠いと思うんだけど……。それにこちらで強くなっても地球で強くなくちゃあ意味ないし……。


「無の適性者は異世界人つまり召喚された者しかならない。まあ、流れでわかっただろうが言っておくな。セラにとっては人族が滅んでもどうでもいいと思っているはずだ。肩入れするから面白く、魔族が侵攻してくるから面白く、肩入れした人族が滅びそうになるから召喚という形で肩入れする。召喚された私達もこの世界の魔族も参ったものじゃない。魔族はそれを阻止するために神打倒を掲げて進行しているのだ。人族の危機になり、勇者さえどうにかすればセラが出てくると信じてな。それに召喚は何回も使えるものじゃない。神も力は有限なのだ! 召喚された今こそがセラを倒すチャンスなのだ! 君には悪いと思うが私と友バルディアの願いを聞き入れてくれ! そしてもう誰もお遊びで召喚されるものが出ないようにしてくれ!」


「……ふぅー。やっぱりセラは許せない。僕達以外にも召喚し、それがお遊びだなんて……許せん! 織田さん、バルディアさん、その願い、雲林院零夜が聞き入れた! 必ず、達成して見せる! 黄泉の国で見守ってください」

「私も初代様の夢、お父さんの夢、私の夢を達成する」


 僕とソフィーは天にいるであろう人達を見てセラ打倒を掲げた。


「……レイヤ、裏何か書いてある」


 僕が片手を話してグッと握りしめると神が裏面になったのを覗いたソフィーが言った。僕は裏面に返してその文字を読んだ。


「本当だ」


「ここからは無の適性者だけでなく召喚された者全てに関わるものだと思ってくれ。無の適性者が読んでいれば絶対に実行してくれ。まず君が知りたいであろう帰還方法だが、一つだけ存在する」


 セラに頼むのか? まあ、お願い(ぼうりょく)すればいいか。


「君はセラに頼る気だろうがそれはやめておけ。召喚して力がないと言っただろう? 今頃立ち上がる力もないだろうな。不思議に思うかもしれないが召喚に力を使うのではなく、自身が管理していない世界に干渉するのに力を使うのだ。まあ、それで帰還方法だが、この世界には神々が作ったこの迷宮を入れて七つの古代迷宮がある。探索者に訊けば大概知っている。その迷宮の最下層にあるそれぞれの属性の古代魔法とア―ティファクトを手にできる。その二つを全て揃えることで異界への門を作り上げることが出来るらしい」


 確か図書室でそういった話を見たなぁ。確か、『断罪の大雪原』『轟雷の巨塔』『灼熱のラビリンス』『市水の大遺跡』『暴風の天空球』『魔竜の巣窟』だったっけ? あれ? 六つしかないけど……この迷宮っていうけど何も聞いたことがないぞ?


「疑問に思っているだろう。その疑問に答える前に言わなければならないことがある。それぞれの古代魔法は覚えられるものが決まっている。まず適性だ。これが合っていない者は無理だ。次に魔法が適性者を決める。誰でもいいわけではない。最後に無の適性者が必ず一緒にいることだ。これは無が全ての根源であるからだ。魔法を呼び起すには無が必要だと思えばいい」


「疑問の最後の迷宮は此処、無の迷宮だ。無はセラを倒すために生まれた適性だ。セラがそんな適性者を野放しにすると思うか? 思わないだろう。だから神々は上に迷宮を作りその下に無の適性者用の迷宮を作り上げたのだ。さらに初代魔王の力を借りたのが無らしい。まあ、無の適性者は普通に隣の扉を潜るだけだが、覚醒していなければ通れないから気を付けろ。そして、全てを揃えた七人で南の孤島に行きセラがいる天界まで行くのだ。そしてセラを倒した後その場でア―ティファクトと古代魔法を使うことで異界への門が開かれるだろう。これらは神々から死ぬ前に私に気付き教えられたことだ。今の神々も疲弊し、力がほとんど残っていないから自分で切り開くしかない。……次代に残そうと思って書き記した」


 そう言うことだったのか。結局地球に還るにはセラを倒さなければならないって言うことになるのか。それに属性に合わせて仲間を作らないといけない。しかも、僕達と同じ意志を持った者が。人族には到底無理な話だな。魔族と亜人族でどうにかするしかないか……。


「あと、わかるだろうが、無の適性者である者が死んだら帰還は叶わない! 絶対にだ! 私達の代では私が死んだためこの地に骨を埋めたか戦場で散って逝っただろう」


「ここからは良く聞け! 特に君が無の適性者なら尚更だ! 此処から生還できたとしたら確実に君はセラに命を狙われるようになる! 神兵が襲い掛かり、人族が敵対し、仲間が裏切ることもあるかもしれない! だが、君は絶対に死んではならない! 元の世界に帰りたいのなら尚更だ! セラに騙されるな! 信じられる裏切らない仲間を作れ! そして、セラを倒してくれ!」



 最後に殴り書いたように綴られていた。僕は手紙を綺麗に折り畳むとボックスの中に収納し、織田雅治さんの遺骨を収納していつか地球の遺族の人に渡してあげようと思った。




「地上に帰ったらまず仲間集めをしよう。少なくとも雷と氷は時間が掛かるだろうけど、希少だから噂があるかもしれない。その人に願ってみよう」

「魔族にもいるかも」

「そうだね。いつかは北大陸に向かわないといけないだろう。その時は道案内を頼むよ」

「任せて」


 僕はこれからのことを決めて転移陣に向かおうとするとソフィーが「あっ」と口に出し、僕に慌てた声でいった。


「忘れてた。もう攻めてるかも」

「え? どういうこと?」

「実験も兼て、魔物を王国に攻めさせると言ってた」


 ……え? ええええええぇぇぇぇぇ!?

 何だって!? じゃあ、早く地上に帰って確認しないと! ユッカが危ない!


「早く帰らないと! ソフィーはどうする?」

「私も行く。セラを倒すと決めたから。……(それに、レイヤといたい)」

「わかった。じゃあ地上に戻ろう」


 最後に何かぼそりと言ったような気がしたがいつもと変わらない様子だから気のせいだろう。


「っと、その前に扉の奥の魔法とア―ティファクトを取らないと」


 僕は踵を返して速足金属製の重厚な扉を開けると認証用かわからないが光が当てられ、『無の認証、OK、所持を認めます』というアナウンスを聞き流し、目の前にある黒く渦巻く宝玉に触れて体に何か流れていくのを感じ、目を動かして小手を見つけると引っ掴んで今度こそ転移陣に乗って地上に戻った。



          ◇◆◇



 時を少し戻し、零夜探索から二か月と半月が過ぎた頃、白須達は再び迷宮へと戻り三五層の魔方陣を調べていた。四九層では下へ行く階段が見つからず、地上でもそんなことはあり得ないとなっている。最後にできるのはこの魔法陣を調べ上げることのみなのだが……はっきり言って状況はそれほど芳しくない。


 魔方陣の周りうろうろしている白須は一向に落ち着く様子がなく、いち早く零夜の元へ向かいたいのだろう。だが、魔方陣をいくら調べても新しいことは分からない。というより、片方が破壊された状態では転移陣が繋がることはまずあり得ないのだが。


「どうだ?」


 ロイ団長が魔方陣を解析している国お抱えの魔法解析職に聞いたが、答えは首を横に振ることで帰ってきた。


「ダメです。恐らくもう使えないでしょう。こちらは大丈夫なようですが、片方の魔方陣に何かトラブルが起きたのでしょう」

「破壊されたとかか?」

「ええ、壊れている可能性が高いでしょう。聞いた話では狭い部屋で激闘を行っていたのでしょう? なら、衝撃で壊れている可能性がありますね」


 解析職は難しい顔でそういい、ロイ団長も腕を組み唸る。


「どうにか使えるようにならないのですか?」


 それを聞いた白須が詰め寄って訊くが、出来ないものは出来ないのだ。白須本人もわかっていることなのだが恋は盲目と言ったところだろう。


「優香、さっきもそれを聞いたでしょ? 無理なものは無理なのよ。それよりも四九層に穴を開けて下の階に行った方が速いわ」


 そうなのだ。四十九層に穴を開けようと案は随分前から出ていたのだが、いくら掘り返しても下に行けず諦めた方法なのだ。だが、絶対に下の階に行けるとは思っている。恐らく空間が捻じ曲がり、数キロ分あるのではないかと考えられている。


「伝令、伝令! 団長、緊急事態です!」

「どうした! 何か起きたのか!」


 部屋の中で皆が難しい顔をしているとボロボロになった一人の兵士が飛び込んで出来た。その顔は青白くこの世の終わりを見ているかのようだ。伝令は魔物を倒さなければならないため複数にいたはずなのだが、一人しかおらずボロボロでその表情では相当ひどい伝令なのだろう。


「く、国に、ま、魔物が……」

「落ち着て話せ! 国に魔物がどうしたのだ! まさか……」


 ロイ団長はキーワードだけで何かに気が付いたようで目を見開いて油汗を掻き始めた。誰かが喉を鳴らす音も聞こえるほど部屋の中が静まり返る。そんな中域を荒くした騎士が息を整え捲し立てるように報告する。


「く、国に魔物の大群が攻めて来ました! 数は一万! 魔族を数人目撃! 指揮を取っている模様! 中には『爆炎のディライ』も確認されています! そして、陛下よりロイ団長並びに勇者様方は直ちに王国へ戻り、魔物の殲滅を頼みたいとのことです!」


 張りつめた空気がさらに張りつめ誰かが咳き込む。突然のことに誰もが言葉を失い、頭の中が真っ白になるがさすがは団長というところだろう。ロイ団長はすぐに皆に指示を言い渡す。


「皆、良く聞け! 零夜の探索を中止し、直ちに王国へ帰還する! 早く荷物を纏めて地上へ帰るぞ! 白須、いいな!」


 ロイ団長は不満そうな顔をした白須に再度声をかける。白須も今の状況を理解しているので真剣な顔に戻って頷いた。


 向かってくる魔物を斬り倒し解体することなく三十層の転移陣まで向かう。誰もが顔に緊張と真剣さを帯びさせ、これから起こるであろうことに恐怖をする。特に異世界組は恐怖の方が優っている。


 遊馬達もこの場にいるが最近は鳴りを潜め、何を考えているのかわかったものではない。




 地上へ帰るとほとんどの冒険者が大慌てで王国へ向かって行く。こういう事態になった場合、戦線に立つ義務があるのが冒険者だ。次々に馬車や馬にまたがり、時には走り出し王国へ向かって行くが、どう早く行っても三、四日はかかる。


 白須達は休憩することなく宿屋に戻ると生産職の皆が馬車に準備を整えていたらしく、すぐに王国に向けて馬車を進ませた。


 進むにつれて冒険者の数が多くなり、それだけ緊急事態だということが分かる。出てくる魔物はスライムやワームなどの低ランクからオーガや朱鬼等の高ランクの魔物もいるそうだ。さすがに零夜が倒したドラゴンはいない。いればすぐにわかるだろう。


 王国までの道すがら行きはそれ歩でもなかった魔物の出現回数だが、現在は数十分おきには出てきている。それもランクが高い魔物が一緒に出てくるので時間が掛かってしょうがない。一番高い魔物はドラゴンフライと呼ばれるワイバーンを一メートル級にした最も小さい竜種だ。それでも簡単に人間を食い殺すから油断ならない。


 それから三日ほど経つと王国が見え始めいくつか黒い煙が立ち上っているのが分かる。馬車に乗る者全てから殺気や緊張、不安、恐怖の感情が沸き起こる。特に生産職の生徒は赤鬼戦の恐怖が尾を引いていて体が強張っている。


「あと少しだ! 今の内に闘志を滾らせておけ! まず、魔物を倒しながら王城を目指す! 王国内の仲間と合流しだいまた指示を出す! それまでは誰も死ぬなよ! いいな!」

『はい!』


 ロイ団長が近くにいた魔物を一太刀で斬り伏せてそう言った。その雄姿に触発され皆にやる気が少しだけ沸き起こり、不安な気持ちを払拭した。


 更に数時間後。王国に到着し馬車から飛び降りるとみんな一斉に王城へ目指して走り出した。隊列はロイ団長や遊馬、天宝治を中心とした前衛を扇状に固めその後ろを後衛職がさらに後ろを騎士が守ると言った感じだ。


 黒い煙の数が多くなっているがどうやら住民の避難は整えていたようで誰一人住民を見かけない。見かけるのは魔物を倒す冒険者や騎士団の人、兵士、義勇兵、そしてすでに死んでなくなっている人のみ。生徒全員が目を伏せるが「目を伏せるな! お前達はこれから何度もこういった戦場に立つんだ! これが嫌なら出来るだけ多くのものを救え!」というロイ団長の言葉に伏せていた顔を上げた。


「すげぇ……」

「三か月でここまで差が出たのね」

「俺も行けば……いや、怖くて無理だ」


 次々に魔物を倒していく零や探索・迷宮組に生産職の皆が感嘆の声を上げた。涼風が斬り伏せれば黄色い声と「お姉様~」という歓声が上がり、遊馬が倒せば若干未だに取り巻いている女子生徒が声を上げ、天宝治が斧で叩き付けると「主将!」とドスの利いた声が轟く。


 大通りを突っ切り、半壊してあらぬ方向へ水を噴き出している噴水を通り、魔物が少なくなると見える家が大きく豪華となり貴族層だとわかる。固く締められた城門を開けて抜けると王城組の生徒達と騎士団達が集結していた。


 よく見るとあちこち傷だらけで一度戦いに行った後なのだろう。白須達が返ってきたのを目撃すると表情が明るくなる。やはり残留組では荷が重いと思っていたのだろうが、迷宮組が戻ってきたとしても一万体もの魔物を倒すのはきついだろう。四日ほどの長旅で疲れてもいる状況で絶望的だ。


「現状を!」


 ロイ団長がそう声をかけると弾かれた様に騎士が動き出し現状を報告する。


「魔物は拡散してきている模様! 魔人がそれぞれ十体を使役し、さらにその十体が百体を使役しているとのこと! 魔族はその魔人数体を使役しているようです!」

「現在、一体の魔人を撃破したところ千体ほどの魔物が散り散りとなり逃げて行きました! 恐らく、統率のとっている魔人を倒せばある程度は時間を稼げると思います!」

「また、隣国聖王国より聖騎士の派遣の準備が整っているとの情報もあります! あと二日もすれば聖王国の騎竜兵が到着するとのことです! 更に四日後に聖騎士の軍も到着するとのこと!」


 複数の騎士が敬礼をしたのちに報告をしていく。効いた限りでは隣国の聖王国が援軍を出してくれるようだが、四日以上もかかるとなると王国はどうなるかわからない。


 最高戦力である騎竜兵でもずっと戦い続けることは出来ない。竜はあの巨体を飛ばしているのだ。その分体力の消耗が激しく、長時間の飛行を得意としない。特にワイバーン種を騎竜にするが、体力が竜種よりも少なく、より消耗が激しい。聖騎士軍も最高と名が高いがやはりそこは人間であるため他に国と変わらない。


「わかった。とりあえずお前達は傷を癒せ! それまでの間は我々が役目を果たす! 回復次第前線に復帰し、魔物を殲滅せよ! 俺は陛下の元へ行く! 遊馬と白須、それから涼風と天宝治は一緒に来てくれ。恐らく魔人討伐になるだろう」

「わかりました(コク)」

「了解です(頑張ります)」


 五人は城の中へと入って行き、近くの兵士に国王の場所を聞くとすぐにその場所へ向かって行った。




 会議室。

 ここではこれからどうするか白熱した議論が交わされていた。といっても、中には見捨てて逃げろだとか、勇者が返ってこないことを罵る者等馬鹿な奴がいるが、教会関係だったりするため何も言えない。


 バンッ


「だ、誰だ! 今は会議中だぞ!」


 扉が内側に激しく開けられ外の状態が皆に見えるようになる。そんな中近くにいた男性がどもりながら虚勢を張るが、入ってきた者はつかつかと国王の元へ行き頭を下げる。


「陛下ただいま帰還しました」

「おお、ロイ帰ってきたのか! 後ろにいるのは勇者様方だな。ロイよ、どこまで聞いた」


 先ほどまで難しい顔をしていた国王は明るい顔でロイに声をかけた。


 その後、魔人討伐隊が組まれ魔人がいるであろう場所に向けて出発していった。


 魔人討伐隊は勇者であろう遊馬を筆頭に涼風、天宝治、ロイ、高ランク冒険者である前衛組六名、後衛の郷原や白須、冒険者等の魔法・回復職の十名だ。


世界については分かったでしょうか。セラは屑で、勇者は下種、戸間四人はカスだということです。この後も屑くさせていきますがやり過ぎな場合は教えてください。

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