新たな旅立ちと出会い
第二ヒロインが出て来ます。
パラパラパラー……
「ん……んん、うん? ハッ、赤鬼! って首を切断して殺したんだった」
脆くなった天井から砂が落ちてくることで目覚めた僕は、隣が血溜りとなり舌を垂らして白目を剥いている赤鬼の生首に過剰反応してしまった。まあ、そのおかげで飛び起きて目が覚めたからいいけど。
僕は変な寝相で気絶していたため凝り固まった体をほぐしながら、この後のことを考える。
「とりあえず、お腹が空いたから肉を食べよう。後は赤鬼をボックスに入れて……おお、ステータスプレートの確認をしよう。さすがにこんな怪物を……」
倒したんだから相当上がっているだろう、と続けようとプレートを覗くとそこには想像以上の結果が記されていた。
雲林院零夜 レベル:68 経験値:295639
職業:武道家
筋力:4500
魔力:6700
体力:4100
耐久:3000
魔耐:2800
精神:4900
敏捷:5300
魔法属性:無
技能:魔力操作≪制御、圧縮、放出、遠隔操作≫、雲林院無心流、気功術、気配察知、気配遮断、危険察知、魔力感知≪索敵≫魔力遮断、威圧≪殺気≫、速読、先読み、金剛力、豪腕、縮地、夜目、家事、全耐性、全属性耐性、物理耐性、自己回復≪体力、魔力、高速≫限界突破、模倣、ボックス、鑑定、隠蔽、言語理解
称号:異世界人、覚醒者、無職だった男、雲林院無心流継承者、武道の達人、武道の極み、無の使い手、魔人殺し、ネームド殺し、試練を受けし者、試練を合格せし者、魔物を喰いし者
「なっ!? こ、これは上がり過ぎだろ……。でも、職業に就いているぅぅぅ~! 武道家かぁ~。てっきり古武術使いとか武芸者とかと思ったけど違ったのかぁ~」
僕は職業に就けたことが地番嬉しくて地面に転がってゴロゴロと転がっていた。多分顔を筋肉が緩み締りのない顔をしているだろう。
一頻り転がり終えると転がるのをやめてプレートに書かれた内容を読んでいく。
ステータスは高すぎる気がするけど放置だな。考えてもどうにもならないし、魔力が多いからこうなったのだろう。
技能はいろいろと増えてるなぁ。魔力操作とかはまあ、いいとして雲林院無心流とか気功術とか今まで使っていたものが現れてるのはなぜだ? 職業に就けたからかな?
察知や感知、遮断系を実際にやってみると自分でも感じることが出来なくなったり、この部屋の外にいる魔物を把握することが出来た。続々と集まり出しているのを把握すると、威圧というものを使い追い払うことにした。多分僕と赤鬼の戦闘が終わったことで近づいてきたのか、赤鬼が死んだのを察知してきたのだろう。僕の威圧でも逃げない魔物が少なからずいるな。こいつらは倒さないといけないだろう。まあ、二つの意味でおいしいからいいのだけれどね。
そこからの戦闘用技能は、速読は試せないから地上に戻ってから試すことにして、先読みは此処を出てからの戦闘、次の金剛力と豪腕は金剛力が全身の強化で豪腕が腕の筋力アップだ。縮地は高速で走ることで、夜目はこの部屋が明るく見えるからそういうことだな。家事とかはあれだな。普通だ。
耐性とかは実際に受けてみなければわからないけど、自己回復は僕の身体が治っているのがそうなのだろう。どのくらい寝ていたのか分からないけど結構速いのではないかな? 赤鬼の身体が腐ってないし。魔物が腐るのか分からないけど。限界突破は文字通り限界を突破する技能で、使えば十分ほどステータスが倍になるみたいだ。
最後に模倣だが、これは文字通り相手の技を見て真似ることが出来る技能のようだ。まあ、武道家なら師匠の技を盗んでいくから有っておかしくないな。多分今持っている技能のほとんどが今まで倒してきたり観察してきた魔物の技能なのだろう。剛力なんかは赤鬼の技能だろうし。すごくいい技能なのは間違いないけど、魔物相手だけだろうな。
称号は異世界人がステータスの上昇率の増加、一定レベルごとに増加量アップ。五十レベルでその一定を越えると覚醒者が付くようで、効果は全ステータス300アップだ。雲林院無心流継承者、武道の達人、武道の極みは魔力と魔耐以外のステータスを合計で900アップ。試練を合格せし者は全ステータス500アップだ。魔物を食らいし者は胃袋強化? よく分からん。
称号の効果を引いても僕のステータスって高くね? 普通に平均3000以上あるんですけどー。まあ、これぐらいあっても地上に帰るには足りないんだろうな。だから、此処から出たら階層の魔物を全部倒すつもりで挑み、全て食べる気でモリモリ食べ魔力を増やそう!
「そうと決まればウルフ肉!」
僕はボックスからウルフ肉を大量に出し、焼く準備を整えると焼きながらもう片方の手で食べる。これを一時間ほど繰り返したところでウルフ肉がなくなり、これまでの戦闘で得た魔物を焼くことにした。やはり魔物ごとに微妙に魔力の味に違いがあり、ポムポムはふんわりとした食感と甘い味、スライムは見た目通りひんやりゼリーで各味が違う。リザードマンは燃える様な硬い肉で辛味のある味。スモールバードは普通に焼き鳥、ビッグピッグは焼き豚どれもおいしく食べることが出来た。
こんなに食べられたのは胃袋が強化されたからだろう。吸収量や消化量などが上がったんだろうな。
「ああー、おいしかったー。ちょっとしたら外にいる魔物を借りに行くか。それとここは拠点に丁度いいな。どこか穴を開けてそこを隠して行動することにしよう」
腹ごなしに拠点造りをすることにした僕は、まずこの部屋が壊れないかどうか確かめることにした。天井はそれほど壊れていないけど剥がれ落ちてきそうだ。壁は大丈夫だな。点検が終わるとボックス技能を有効に使いながらまずは瓦礫を隅に掻き集める。広くなった所で赤鬼の着ている装備品ごとボックスの中に入れた。現在の最大容量は十トンほどだろう。前回の二百倍ほどになった。とりあえず今のところ撥ねられる場所が作れたからいいや。
次に魔力操作で何が出来るのか考えることにした。最初は誰でもするであろう魔力を集めて投げてみた。感覚としては空気のボールを掴むような感じだ。すると空間が捩れたボールのような物が現れそれを瓦礫に投げると……。
ボガアアアアァァァン
そっと投げたつもりだったのに相当威力があるようだ。普通のボールと違って炸裂弾というか爆弾というか、とにかく投げるスピード以外にも当たった瞬間に圧縮した魔力が爆発するみたいだな。って、僕は同時に魔力圧縮と魔力放出をしていたのか! そりゃあ威力上がるね。
他にも、親指を人差し指にひっかけて放つ指弾、名前を付けると指魔弾と言ったところか。後は魔力を遠隔操作で操り手を振って強風を起こしたり、拳や脚に魔力を纏わせて威力を上げたり、掌底を放つと同時に魔力を爆発させる魔爆掌、魔力を浸透させて害を出す魔力通等々いろいろと作った。
だけどここであることに気が付いた。それは、属性ってどうやってつけるんだ? である。無は魔方陣を介して魔法を放たないため勝手に属性魔法に変換させることがない。ではどうやって変換しているのだろうか?
「…………うーん、わからん。魔力感知が使えるみたいだから魔物を観察すればできるかもしれないな。よし! そうと決まれば外に出よう!」
僕はクッと体を曲げて腕の力で飛び上がると壁に耳を当てて丁度いい厚さの壁を探した。
コンコン、コンコン、ゴンゴン、コンコン、ゴンゴン
「よしここでいいだろう」
僕は少々分厚い壁に対して木刀を構えて技を放つ。
「雲林院無心流剣術……『四方斬』」
四方斬というのは四方を斬る技ではなく四回斬る技のことを言う。僕は縦二回横二回斬り、剣圧が奥の魔物に当たり絶命した。木刀をベルトと腰の隙間に刺し切った壁を押してこの部屋から外へ出る。
ゴゴゴゴゴオォォーッ
岩と壁が擦れる音が響き鳴りパラパラと天井から砂が落ちてくる。一メートルほど押し出すと光が隙間から漏れ始め僕の目を眩ませる。
「うっ、くぅ~これは陽の光だぁ! ここは迷宮じゃなかったのか? それとも小説みたいに迷宮には季節とか昼夜とかあるのだろうか? まあ、考えても仕方がない。食料と生活物資を調達しに行こう」
僕は一気に岩を押し外に飛び出すと同時に木刀を抜き放ち『回転斬』を放った。
ギャアアアアアアァァァァ
魔物達の断末魔が響き渡る。血飛沫が至る所から噴水のように上がり、火に光を反射していた草と土を赤色に染め上げる。僕の頬に血が飛んできたのを指で拭き取り、魔物を見据えながら血を舐める。口の中に甘美な味が広がり、再び食欲が出てくる。
ここにいる魔物を鑑定で調べると二本の巨大な牙を下向きに生やしたサーベルタイガー、岩石の様な棍棒を振り回すレッドオーガ、丸太のような豪腕のマッスルコング、三メートルはある巨体と白色の斑点があり巨大な鹿の角が生えたバンプディア、小柄な体と真っ白なウサミミの生えた強靭な脚が特徴のソリッドラビット等々数十体ははこびっている。
僕は自然に口角が上がり笑みが浮かんでくる。
久しぶりに力が戻ったことで思いっ切り戦えるのがうれしい。全力で戦っても相手は人じゃないから大丈夫。殺さなければ僕が殺されるし、殺しても僕の力となるから大丈夫だ。
「「「ガアアアアァアアアァァァァ」」」
僕が一瞬で数体殺したことに呆気にとられていた魔物達は全員で僕に飛び掛かってきた。僕はその場から前に走り木刀を振う。的確に首を跳ね、心臓を突き刺し、頭を叩き割る。全ての攻撃を瞬時に把握して急所に放つ。これはお爺ちゃん達との戦いで教わったことだ。熊や猪に襲われたのに余裕を見せるより、最初から全力で相手をして急所を打ち抜いたほうが安全だということだ。
そのためには一瞬で急所と相手の動作を見分けなければならない。別に息の根を止めることが出来なくても首なら動脈を、心臓なら付近に衝撃を、頭は頭蓋骨を破壊すればいい。獲物が木刀だから斬るという方が難しいのだ。
十分後、僕は木刀に付いた血を振って取り除き、腰に差す。その後は切り伏せた魔物を次々に触ってはボックスに収納していく。数えてみた結果全部で十七体あり、サーベルタイガーが一番少なかった。
魔物の強さは平均レベル120前後でステータスは魔物ごとに特化しているため言えないが、平均1100~1300ぐらいで特化しているものは1700ぐらいだ。技能には魔力操作がやはりあり、その他の技能が三つほどあった。
「よし、肉類の食糧確保! 次は野菜だな。この階層は自然エリアみたいだから何か食べられそうな野菜があるだろう。僕には鑑定があるから毒を食べる心配もない。では早速出発だ!」
意気込んで数時間が経った頃、僕は一度拠点へ戻ってきていた。収穫物がなかったのではなく、以外に採れ過ぎてボックスが許容量限界となってしまったのだ。
「ふぅー、結構時間が経ったと思うのに日が暮れないということは、此処のかどうかわからないが陽が沈むことはないみたいだな」
僕は部屋の中に入ると切り取った岩で蓋をして採取した物の選別に入る。まずは野菜類からだ。
「普通にこの世界の野菜は地球のものと同じだったなぁ」
そうなのだ。ここで採れた矢指はたくさんあるがどれも地球で見る物と同じだった。だから、全く面白みがない。とりあえず、野菜を大きな草で作った器に入れて保存する。
次に異世界の定番回復系の草達だ。
体力というか傷を癒す力治癒力を上昇させる草、魔力の回復量を上昇させる草と水、状態異常を治すキノコや草、逆に相手を状態異常にさせるキノコや草、ステータスを一時的に上昇させる木の実や草、などこの辺りまでは普通だろう。
だが、他には『神緑の苗木』という謎の植物を見つけた。この苗木から出てくる雫はどんなに衰弱した体でも完全に治してくれるらしい。それが傷でも大丈夫だ。エリクサーの様なものだが採取できるのは一日一回朝方のみで、使用は一日一回のみ。まあ、瓶に入れておけば持つらしいから別にいいだろう。
他にも十歳は若返ると言われている黄金リンゴ、魔力の通った魔力木、仰ぐと風を起こす風鈴樹の葉、潰すと火が出る火種草、ゴムのように伸びる伸縮蔦等だ。
季節感バラバラでは言えている植物達の中に香辛料も見つけたため、早速魔物肉の骨付き肉以外の料理を作ることにした。
「フンフンフ~ン。フフフ~ン……」
適当に鼻歌を歌いながら石を重ねて行き中に外から拾ってきた薪に火種草で火を着け、上に平らな石を置いてフライパンらしきものを作る。十分に熱されたところで上に今日採った野菜を魔力水で洗い、魔物肉の中でもトロリとした甘みのある魔物肉を使うことにした。
「よし、あとは草の器に盛り付けて完成っと……はい、魔物肉の野菜炒めの出来上がり!」
「いただきます」と両手を合わせて言うと木の棒を削って作った箸で一口食べる。口の中に自然の辛味のある香辛料と魔物肉から溢れ出るトロリと下甘味が合わさって絶妙なハーモニーを奏でている。食が進みすぐになくなってしまった。
その後も何度か料理を作った結果魔物の肉の魔力は香辛料の様なものだという結論が出た。それもその魔物に適した調理をすることでよりおいしくなるのだ。例えばスライムなら果物の汁や砂糖を入れて冷やすと完璧なゼリーになったりするということだ。
後言い忘れていたが、模倣の技能を試してみた。覚えた技能は振った指から風の刃を放つ風刃、空中で蹴ることで空を浮かぶ空歩、空間を立体的に把握する空間把握、足に魔力を集めて蹴り出す豪脚の四つだ。咆哮とかもありそうなのだが何度やっても真似できないということは、真似できない技能も存在するということだろう。
「探索も済んでお腹もいっぱいになったから一眠りするか。明日は下へ行く階段でも探そうかな」
そう考えて僕は大きな葉っぱを五枚を程敷いてその上に転がるとすぐに眠った。
次の日。僕は朝早く起きると昨日造った料理を食べてすぐに探索に向かった。数時間経った頃下へ降りる階段を見つけたが、その後一週間ほど探しても上へ上がる階段が見つからなかった。
まあ、上に上る階段があればいいなと思っていただけだからそこまで落ち込まないけど、どうして上へつながる階段がないんだ? 転移陣は壊したって言っていたからあれだけど、階段がないのはなぜだ? もしかして一層ずつ降りてこないと上へ戻れないとか。
僕はこのまま五十層で迷っていても意味がないと思い五一層へ進むことにした。
五一層は火山エリアのようだ。降りた瞬間に出口で待ち構えていた魔物フレイムフォックスを模倣したことで鬼火を使えるようになった。鬼火と言っても変幻自在で指示を与えなければ青色の球のようになるだけの魔法だ。威力はそれなりにあり、赤鬼にダメージを与えられるぐらいと言えば分かるだろう。
「それにしても暑くないな。これも全耐性という奴なのか?」
僕は火山地帯を歩いているというのに汗一つ流れ出ない。涼しくはないが心地よい春の風が吹いているといった感じで、喉も乾いた感じがしない。
「技能様々だな」
この火山地帯では衝撃で爆発する爆弾石や常時火を噴いている火山岩、金属であろうミスリルやアダマンタイト等の鉱石達、高温のマグマが当たっても溶けることのない熱岩石、割れると光を発する閃光石などいろいろと戦闘で役立ちそうなものが見つかった。
「地上に戻ったらこの鉱石とかで装備品を作って貰おう。まあ、宝箱を見つけて中からいいものが出れば別にかまわないけど、宝箱はなぁ開ける気しないんだよね」
ここの魔物は火に関する者が多く戦うのに苦労した。特にラーヴァゴーレムが出てきた時はどうやって倒したらいいか迷ったものだ。結局さっき採取した爆弾石を核に突っ込んで離れる瞬間に指魔弾で爆破させて倒したのだ。そのラーヴァゴーレムの身体だけど、食べることが出来ない代わりに良い鉱石になるらしいんだ。だからボックスの中に収納中だ。
五十二層。ここは水エリアのようだ。階層の半分ほどが水で出来ている幻想的なエリアだ。出てくる魔物もやはり水に関わるものが多く、水中に逃げられると厄介だから一撃で倒すようにした。次のエリアは土だろうな。
採取できたものは水に着けると水を無限に出す湧石、逆に吸収する吸石、水のような食感の水肉、溶けることのない氷柱結晶だ。水が出てくるのは結構助かる。水は食料以上に必要な物資だからね。
ここでは水刃と呼ばれる水系統の技能を覚えることが出来たが、これは刃を作ったり飛ばすことしかできない。他は水の上を走る水走だ。
五十三層。やはりここは荒野エリアで土の階層のようだ。出てくる魔物も土系が多く頑丈で力強く生命力が強い。
採取できたものはほとんどなく洞窟のようなところで砕いた宝石ぐらいだ。金になるとしか説明が出ないから売ることにした。
ここでは土系統の技能は得られなかったが腕を硬化させる鉄爪、防御力を上げる硬質化ぐらいだ。この二つを組み合わせて雲林院無心流拳術を使うとあり得な威力が出たから、これから頻繁に使うようになるだろうな。
そして五十四層に入ったところで僕の魔力感知に戦闘している反応を感知でき、空間把握に切り替えると何が戦っているのか調べることにした。
此処は未踏破エリアだから誰もいないはずだ。それに、こちらの世界に来て魔物同士が戦っているのはほとんど知らない。いつも同族と現れ、偶に他種族混合の魔物の群が現れるのだ。迷宮は狭い範囲にたくさんいるからちょっと変わってくる。
僕は把握範囲を広くしながら、興味本位でその戦場に近づいて行くとこの先で女の子と魔物が数体戦っているようだった。通路の端に体を隠して覗くように見て鑑定を使う。戦っている魔物の名前はダークウルフとミノタウロス、ジャガーの三体だった。どれも平均レベル140ほどでステータスは1500ぐらいだ。
そして女の子の方は……。
ソフィー・ア・バラン・ラ・ドルチェ・ガドボルグラン 女 魔族 レベル:137 経験値:962438
職業:魔王 種別:魔王種
筋力:870
魔力:3500
体力:1350
耐久:1200
魔耐:2130
精神:2170
敏捷:1680
魔法属性:火、水、風、土、闇
技能:魔化≪魔王化、能力上昇、魔力消費激減、魔方陣不要、魔力吸収≫自己再生≪体力、魔力≫並列思考、合成魔法、想像魔法、全属性耐性、魔力感知
称号:元魔王、魔族から追放されし者
いろいろと突っ込みたいけど、まず元魔王って言うことは話に聞いていた最強の魔王の先代っていうことだよね? 何でこんなところにいるの? いや、追放されたからか……。でもなんで? 女の子だから? それともステータスが低いからかな? だって僕なら勝てるよ彼女に。
「キャアアアアァァ」
困惑している間に戦況が傾き始め、彼女は背中から不意打ちを食らってしまった。悲鳴が迷宮内に響き渡り、奥の方から更に魔物が現れた。今度現れたのは四つの手を持つエメラルド色の体毛のゴリラエメラルコングだ。
彼女は傷付いた片腕から溢れる血を押さえながら逃げ惑うが、魔物は四体となり逃げる隙間がなくなった。
僕はどうするべきなんだろうか。彼女は魔族みたいだけど見た目は人間だ。光り方によっては銀色に見える白銀の長髪に微かに見えた双眸は血のように赤く優しさが見えた。肌は雪のように白いが結構は良さそうで、無表情に見えるが真剣さが伝わってくる。
どうして僕は迷っているんだ? もうこの世界なんてどうでもいいって決めたじゃないか。神を殴りに行くって決めたじゃないか。神の意志なんて知らない。彼女はどこからどう見ても僕と変わらない人じゃないか。なら、答えは最初っから決まっているじゃん。
僕は顔を上げると木刀を抜き放ち、今にも彼女を食い殺そうとしているジャガーに魔力の弾丸を放ち吹き飛ばすと、縮地で一気に彼女とダークウルフの間に入り木刀を一閃する。
「雲林院無心流剣術……『一振太刀』」
片手上段から放たれた一振りの一撃は、神速もかくやというスピードでダークウルフに襲い掛かり体を綺麗に真っ二つにした。ダークウルフは飛び込んできた勢いのまま左右に割け、僕の両隣に内臓を撒き散らして絶命した。
「え?」
後ろにいる彼女からこの場には似合わない気の抜けた声が聞こえた。僕はチラリと背後にいる彼女を見ると、次に仲間がやられて怒り心頭となったか知らないが、激昂して二つの拳で殴り付けてきたエメラルコングに左手一本で叩き伏せる。
「……『羅刹五連貫手』」
「ウゴオオオオオオォォォォォッ」
エメラルコングの額、喉、心臓、鳩尾、膀胱、体縦一直線に放たれた貫手は誰にも見えることなく突き放たれ、エメラルコングの身体に穴を開けて絶命させた。最後に断末魔を上げて仰向けに倒れ伏した。
「ブモォ……。ブ、ブモオオオオォォ「……『連刀飛燕』」オ? ブゥゥゥモォォォ……」
三体が瞬く間に倒されたのを知るとケンタウロスは低く唸りクルッと体を反転させて叫びながら逃げて行ったが、僕は木刀を片手に縮地を使いケンタウロスの横を通り過ぎる瞬間前後に斬り伏せた。
ケンタウロスの身体は三つに斬られ断末魔を上げてバラバラと地面に落ちていった。僕は木刀の血を拭き取りベルトに戻す。そして、背後でポカーンとしている彼女に声をかけた。
「大丈夫? 危ないところだったね」
次は二十時に投稿します。
あと、十万字を越えたので神子の方の投稿も開始しようと思います。