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巻き添え異世界召喚

こちらの作品もよろしくお願いします。

 「クソッ、あいつくだらないことをしやがって! 生きて帰ったら殺してやる! はぁ、はぁ、はぁ。……だが、お前だけは地上に行かせない。僕がここで殺す!」


 破壊し尽くされた狭い部屋の中で僕――雲林院零夜(うじいれいや)は、地球上には絶対に生息していないであろう生物と対峙している。部屋はこいつのせいで破壊し尽くされ、あいつらのせいで僕達はここへ転移させられ、同じ奴らのせいで僕は帰られなくなった。


 先ほどまで僕は多少の苦痛と苦労をしながらも、比較的安全な日々を過ごしていたというのに……。

 なぜこんなところにいるんだ……。

 僕が何をしたというんだ……。

 どうして僕だけがこんな目に……。

 なぜ…………。


 負の感情が再び蓋を開け出てこようとするのを無理やり抑え付け、目の前の怪物が僕にその黄色い双眸を向けて再び絶叫を上げる。意識が完全に飛び標的をミンチにするまで止まらないだろう。こうなったのは僕のせいだが……。


 僕をこいつと対峙させた馬鹿共を恨み、その馬鹿共に日頃の恨みと屈辱を晴らすために絶対に地上へ帰る。それに最愛との約束を果たすために何としても死ぬことは出来ない。絶対にこいつを殺して地上に帰ってやる!


 たとえ腕が千切れようと、足が砕けようと、目が抉られようと、何が起きようとこいつをここで殺す。


 どうして平和に暮らしていた僕が、危険極まりない森の中にいるのか、これまで僕の身に降懸ってきた理不尽の災禍を、これまでの経緯を話そう。




======================




 新しい一日の始まりを知らせる朝日が山の陰から顔を出し、僕を浅い眠りから覚醒させる。

 覚醒したばかりで完全に目覚めていない重い体を安物のベッドから起こし、大きく伸びをすると自然に欠伸が出て目の端に涙が溜まった。


 朝食を食べる前に寝巻から簡易道着に着替え、我が家の離れにある道場に向かい十数年続けてきた朝の稽古を家族と一緒に始める。道場まで行く道程の間に朝の涼しい風が胴着の隙間から入り込み、身を引き締めさせる。


 僕の家は由緒正しき古武術使いの家系で、この街では門下生も多く結構有名な道場でもある。武術は主に拳、拳術を主体におくが他にも剣・刀術、抜刀術、薙刀術、棒術、槍術、弓術、柔術、砲術などいろいろとある。何でも扱うことで有名なためほぼ最強で通っているらしく、開祖は千年ほど前の人物らしい。僕はそんな家系の一人息子で毎日数時間は稽古という名の拷問を受け続けている。


 まあ、他にも趣味を除けばすることがないし、こういった身を護る術というのはこの平和なご時世でもあったほうがいい。……と、思わなければやってられない。

 拷問のような稽古も慣れてしまえばただの稽古だから苦ではなくなる。いやー、慣れって怖いもんだね。


 まあ、その反動で趣味に世界にのめり込んでしまったんだけどね。それで充実しているから後悔はしていない。


 軽く汗を流した後は近くの井戸(ポンプ式)で水を浴び、体から噴き出た汗を綺麗に洗い流す。さっぱりとした後は部屋に戻り、制服に着替え朝食を食べて学校に向かう。


 いつものように遅刻ギリギリで校門を通り、廊下を早足で歩き急いで教室の扉を開けて中に入った。


 一歩教室へ踏み込んだ瞬間教室にいた生徒全員が僕の方を見た。その目は誰が来たのか確認するものではなく、男子生徒から盛大な舌打ちと睨みを受け、女子生徒は僕を無表情で一瞥するだけだが、瞳には友好な光が見えなかった。


 その視線を背中に受けながら僕は無視をして自分の席に向かうが、いきなり目の前に人が現れ進めなくなった。


「よぉう、雲林院! 今日は白須さんと登校していないみたいだな? やっと身の程を弁えたって言ったところかぁ。あん?」

「やっと理解したのか。最初っからお前みたいにひょろくて、馬鹿で、チビが釣り合うわけなかったんだ」


 僕の目の前まで態々来て面白そうに下卑た笑みを浮かべている男子生徒達。僕の周りをきょろきょろしながら声をかけてきたのは戸間(とま)蓮司(れんじ)といい、毎日のように僕にちょっかいを掛けてくる奴だ。その周りで僕の肩を叩きながらメンチを切っている三人は近藤修輔(こんどうしゅうすけ)宇津木湊(うつぎみなと)天樹(あまぎ)洋一(よういち)といい、蓮司の取り巻きのようなもので、大体いつもこの四人で絡んでくる。


 話に出た白須さんというのは僕の幼馴染で、本名を白須優香(しらすゆうか)という。腰辺りで切り揃えた艶やかでふわっとする黒髪、優しげな瞳は笑うと目尻が下がり益々優しく見え、整った鼻筋とほんの類と朱色の入った頬が特徴的だ。小振りな唇もプリッとしていてとても可愛く見える。身長は百六五センチほどで、僕より五センチばかり高い。……悲しくなんかないやい(グスン)。

 慈愛と優しさの籠った笑顔は見る者全てを癒し、救われるような錯覚を覚えるため救いの女神と影では言われていて、男女問わず学年問わず人気だ。もちろん教師もいる。面倒見も良く、真面目で、責任感も強い。更に学校では一二を争うほど人気で女神として通っている。


 そんな有名な幼馴染がいたらやっぱり皆から妬まれるのは当たり前だ。それにその幼馴染が僕にしつこく構ってくるのだ。この四人じゃないけど毎日のように話しかけてきては誰にも見せないような極上の笑みを浮かべる。幼馴染だから無下にするのもどうかと思うし、本当に嬉しそうにしているから突っ放すことも出来ないでいる。その度に僕は周りの男子達から嫉妬と敵意の籠った目を向けられる。


 しかも僕の身体は毎日稽古をしているのにもかかわらず細く、身長は百六十弱ほどしかない。容姿も前髪を目に掛かる辺りまで伸ばしているからそれほど良くないだろうし、学力も趣味を優先しているためそこまで良くない。まあ、あの三人よりは上だけどね。性格もコミュ障とまではいかないけど特定の人物としか話さないし、大人しいが陰気でもない


 僕の趣味はゲームや漫画、小説等所謂オタク関係のものだ。特に可愛いものに目がなく、ラノベの表紙のイラストやぬいぐるみ、フィギュア等が大好きだ。中にはギャルゲー等もあるが僕はあまりしない。


 その趣味も最近ばれてしまって余計に風当たりが強くなっていた。嫉妬と敵意に加え、侮蔑と蔑みの籠った視線まで加わった。


 四人は言いたい放題言うと言い尽くしたのか笑いながら去って行った。


 僕は溜め息をつきながら目の前にある自分の席に座った瞬間どっと気疲れが押し寄せ、朝稽古の疲れもあり瞼が重くなってきた。

 そのまま寝ようとうつ伏せになってウトウトしていると噂の彼女が到来した。


「零夜君、おはよう。今日も眠そうだね。ちゃんと寝てるの?」


 彼女の明るい声が頭の中で響き一気に眠気がなくなった。ニコニコととても嬉しそうな笑みを浮かべている白須さんはそのまま僕の隣に座って、僕の頬をツンツンと突っつき始めた。


 な、何てことすんの!? そんなことをしたらまた嫌な視線が増えるじゃないか! 僕に何で構うのさ。もうやめてくれよぉ……。


 僕は飛び跳ねるように上体を起こして、ぎこちない笑みを浮かべて挨拶を返す。


「お、おはよう、白須さん。ちゃんと寝てるよ」


 と、返した瞬間に突き刺さっていた視線が増え、新たに殺気が加わりぎこちない笑みがさらにぎこちなくなり引き攣る。


 僕が返すと笑みが極上の物となる。背中にダラダラと冷や汗が流れ、毎度何で僕なんかに声をかけるの! と心の中で叫んだ。しかも白須さんには成績優秀容姿端麗スポーツ万能の彼氏がいるんだよ? 余計に僕に話しかける意味が分からないよ。


「昔みたいにユッカって呼んでいいのに」


 白須さんはそう言って頬を赤らめるともじもじして僕の肩を突っついてきた。

 オイィィーッ! 何してくれてんの!?

 そ、そんなことされたら……。


 ビクゥッ!

 僕を刺殺さんという視線が増え、どす黒いオーラを纏った人物達が僕に向けてキルユーしている。


 彼氏の名前は遊馬(あすま)大和(やまと)といって、身長一七五センチ越えで容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の他に、モテるランキング堂々一位、外を歩けば女子が釣れる完璧超人だ。


 透き通るサラサラの茶髪とやや吊上がったかっこいい瞳、引き締まりながらも細い体からはいい匂いがするそうだ。誰にでも優しく、正義感が強いが自分が正しいと思っている人間で間違ったとしても認めようとせず、自分以外は劣っていると考える傾向がある。

 部活はどこにも所属していないがスケットとして入り、その部の大会では常に上位の成績を取っているらしい。他校からは部活荒し王子と言われているとか……。告白も受けるらしいが本人は全く気付いていないというか、何というか。

 いつも白須さんの傍にいて(はた)から見たらお似合いのカップルなんだ。遊馬君も他の女子と話しかけ方が全く違うからね、彼氏彼女の関係なんだよ。


 だから、白須さんがいくら幼馴染だとしても誰にも見せない極上の笑みを浮かべて話しかける意味が分からないし、ましてや彼氏の完璧超人な遊馬君が居るのに僕に恋愛感情を持っているとは思えない。


 僕は学校の皆に古武術使いだということを話していない。理由は幼い頃に白須さんに引かれたからだ。幼馴染の白須さんは小学に入るまでよく一緒に遊んでいたけど、僕が古武術の稽古をする度に蒼い顔をして隣の自分の家まで帰っていた。稽古が終わった後も汗の臭いが嫌なのか近づいてこないからね。

 それに僕は高校時代を捨てるって決めているから。


 将来は親のデザイン会社に入り、僕の趣味である可愛いものをたくさん作るんだ。服のデザインにぬいぐるみ、フィギュア、イラストなんても描いてみたい。思うだけで胸がいっぱいになってくるんだよ。高校卒業が待ち遠しいくらいだ。既に親の仕事の手伝いをしているからすぐに馴染むことが出来るし、その会社の社員の大半が門下生だから仲もいいんだよ。


 僕は授業態度も趣味も何もかも改善しようとはあまり思っていない。それでも真面目に授業は受けているし、成績も平均にいる。だから、余計に白須さんが僕なんかに構う意味が分からない。


 白須さんも天然なのか鈍感なのか、僕に刺さっている視線に気づいていない。だけど、そんなことを言った瞬間に白須さんは泣くに決まっているし、強制的に校舎裏や体育館裏に連行されるだろうな。


「キャアァー!」


 そろそろ話を切り上げてほしいなと思っていると教室内に黄色い悲鳴が響き渡った。この声は彼しかいないな。


「やあ、皆おはよう」

『おはよう、遊馬君』


 爽やかスマイルを浮かべると白い歯がキラリンと光り、その口から甘い声が紡がれた。その声に応じて女子全員(一部除く)が目をハートにして挨拶を返した。こんなことが出来るのは一人しかいない。そう遊馬君一人だ。

 隣に座っている白須さんは彼のことを信用しているのか一瞥もしない。というか、遊馬君に気が付いていない?


 女子生徒は群がるように遊馬君が入ってきた扉の方へ向かった。遊馬君は群がった女子生徒を肩にソフトタッチして掻き分けるようにこちらへ向かってきた。中には触られたことで気絶している女子もいるぞ。まるで漫画を読んでいるようだ。


 よく見ると後ろには白須さんの親友がいる。


「おはよう、雲林院君。今日も大変だったかしら」

「香澄、また彼のお世話を焼いていたのかい? さあ、僕が来たのだから一緒に話そうか」


 僕に話しかけてきた女子生徒は涼風(すずかぜ)香澄(かすみ)といい、百七十センチと僕よりも十センチ以上も高い女の子だ(くぅっ)。実家近くの剣道場に通い、部活動も女子剣道部主将で凛とした静かな佇まいをしている。背筋もピンと伸びているため余計に身長を高く感じる。容姿は少々お胸様が残念だけど、整った顔とキリリとした目が特徴で初めて見た時は怖い人かと思ったけど、話してみると結構気さくで優しくて面倒見のいい女の子だった。涼風さんは可愛い物が好きなようで僕と話が合い、二人で会った時はよく話をしているんだ。まあ、そんな時間も前の二人のせいであまり取れないけどね。


 涼風さんとよく話しているけど、僕の実家が古武術道場だということは知らない。気付かれると白須さんみたいに嫌われるかもしれないからね。特に女子はそういった傾向があるよね。まあ、涼風さんは剣道をしているからそういうことがないと思うけどやっぱり人に嫌われるのは怖いから無理。僕はボッチじゃないけど、僕と趣味が合う人は涼風さんぐらいしかいないから今の関係を壊したくないんだ。


「うん、おはよう、涼風さん。あはは、仕方ないよ。僕が蒔いた種だからね」


 そう涼風さんに苦笑いをしながら挨拶を返すと、「ハア!? お前何涼風さんと親しく話してんだ?」という視線が突き刺さった。涼風さんは男子生徒だけじゃなく、女子生徒からの人気も高い。聞いた話ではお姉様と言われているらしい。


「わかっているのなら直すべきじゃないかな? いつまでも優香の手を煩わせてはいけない。幼馴染でも限度があると思う」


 遊馬君が僕に顔を顰めて注意をする。遊馬君の目は「何勝手に俺の優香の手を煩わせてんだ?」と物語っている。遊馬君の目にも僕は不真面目で向上心のない人物だと思われているようだ。これもまた遊馬君のファンクラブの女子達から視線を受ける原因となっている。「遊馬様が優しく助言をくれているのにその態度は何様のつもりッ!」だ。


 もういいから放っておいてよ! と思わないでもないが、そんなことを言えばどうなるかわかったものではない。男子よりも女子の方が怖いのだ。


 そう言って白須さんを連れて自分の席に向かった遊馬君は少々自分勝手だと思うけど、白須さんは文句を言いながらもついて行っているから彼氏彼女の関係だなぁって思う。


「はぁ~。遊馬には悪気はないと思うの。だから許してやって」

「うん、わかってる。涼風さんも白須さんのことをよろしくね」


 そう言って涼風さんも自分の席へと戻った。


 そうこうしている間に始業ベルが鳴り、担任の大沢先生が教室に入ってきた。僕は再起ほど無理やり覚醒したため先生の間延びした声が子守歌となりこっくりこっくりと舟を漕ぎ始めた。


 それを見ている白須さんがクスリと笑ってさらに僕に対する男子生徒の圧力が増えたことは言うまでもない。




 昼食までの四つの授業をなんとなく寝ぼけている頭に留めることで覚え、教室内が騒がしくなり昼食という言葉が頭に流れ覚醒した。


 僕は舟を漕いでいた顔を上げて昼食のお弁当を開いて食べる。食べながら教室の端を見ると大沢先生が女子生徒と一緒に談笑している。その手には可愛らしいお弁当が見えるので今日はここで食べると決めたようだ。


 大沢先生は僕と同じくらいの身長で、実年齢三〇歳とは思えないほど若く活発で子供らしい先生だ。女子生徒だけじゃなく、男子生徒や男子職員からも人気らしい。先生自身は知らないのようだが……。愛称はリっちゃんとかリカちゃんだ。


 僕は箸を動かしてご飯、おかず、ご飯、おかずの交互の順で食べる。合間にPTのお茶で喉を潤す。

 そろそろあの三人が押し掛けてくる頃だ。


「あ、零夜君! また先に食べ始めてる。前に待ってて言ったよね」


 白須さんは僕を見つけると早足で詰め寄り、プンプンと怒りながら隣に座って手に持ったお弁当を開く。今日のお弁当はキャラ弁のようだ。誰が作ったのかな? 遅れていつもの二人がやってきた。


 周りで談笑しながら食べていた人達から黒いオーラが立ち上り、教室内に不穏な空気が漂い始めた。


 もうやめてー! 僕をこれ以上苦しめないでー!


 僕が断ることなく当然のように食べ始める白須さんを見て遊馬が何か言いたそうにし、涼風さんは僕の目の前に座った。


「いつ見てもレイの料理はおいしそうだな。それに可愛いわね、そのウサギのリンゴ」


 そこへさらに無自覚に爆弾を落とした涼風さん。僕はそれにいち早く気付き逃げ出そうとしたが、丁度その時戸間四人衆が現れ逃げられなくなった。


 まだ見つかっていないようだが、時間の問題だろう。まあ、見つかってもこの三人がいたら近づいてこないんだけどね。いい意味で壁となってくれている。


 だけど、僕はこの漂い始めて空気と視線が耐えられない。誰でもいいから助けてくれぇー!


 僕は食べ終わったお弁当を鞄の中に入れて、この状況から抜け出そうと思考をフル回転し始めたその時、教室内に疑問と悲鳴、怒りの声が起き始めた。


「お、おい! ドアは開いてるのに透明な壁に阻まれて教室から出られねえぞ!」

「何一人でパントマイ……って、本当じゃねえか!」


 教室に二か所あるドア二か所から同じような会話が聞こえ、椅子で殴ったりしているが一向に出られる気配がない。

 誰もがその現象に目を丸くし、焦りの色を濃くし、頭を真っ白にしている。


「キャアアアアアァァァ」

「な、なに!? 一体何が起きたの!?」

「皆さん落ち着きなさい! ま、窓は開きませんか? 後携帯は?」


 一人の女子生徒の悲鳴を皮切りに一斉にパニックが広がり、混乱し始めていた所へ大沢先生が事態を吸収できないまま的確な指示を出す。


「先生! 窓は開きません! ドアと同じです!」

「携帯も圏外です!」

「うお!? こ、今度は何だ!」


 誰もが混乱の渦に苛まれていたその時、事態が急変した。

 教室の中央から突如とあらわれた幾何学模様の陣。それは趣味でしているゲームに出てくる魔方陣にそっくりだ。現れた場所はよくわからなかったがどう見ても僕達を中心になっている。それにこういうシチュエーションは召喚物と決まっている。と、言うことはこの中の四人の誰かが勇者ということだ。


 三人なのは僕じゃないとわかってるからだよ。絶対に僕はサブキャラだ。勇者は絶対に遊馬君だよ!


 そこまで考えられるということは、僕は意外と冷静でいるようだ。パニックに陥っているクラスメイトを軽く見やってこの後起きるであろうことに備える。それは武術でも同じこと。それを日ごろから行っている僕は並大抵なことではパニックに陥らないようだ。

 いやに僕のリアルスキルは高いな。


 輝きを増していた魔法陣が教室全体へと広がり、教室の端まで逃げていた生徒と先生までもが範囲の中に入り、パニックが大きくなった。円形の魔法陣は廊下まで広がったのか分からないが、一度も逃げ遅れ魔方陣の上に立った者は問答無用に魔法陣から出られなくなったようだ。


 結界の次は魔法陣かよ……。


 と思った次の瞬間、魔方陣が爆発したかと思うぐらい輝きが一気に増し、誰もの視界を真っ白に染め上げた。思わず目を庇い、しゃがみこむ。


 どれくらいの時間が経ったかわからないが、教室の外から事態を知った教員が中に入ると既に結界と魔法陣はなくなっていて、そこに残されていたのは倒れた机と椅子、食べかけのお弁当と転がった箸、蓋が開き床を濡らしているPT、窓からは先ほどまでの光景が嘘だったかのようにそよ風が吹き込みカーテンを内側へ揺らしている。

 違うところはそこにはおよそ四十人もの人がいなくなっていたことだ。


 この怪奇現象はあらゆるメディアに取り上げられ、集団神隠しとして世間を騒がせた。

 この事件で行方不明となった人数は三十七人。

 男子生徒二十一名、女子生徒十五名、教職員一名だ。


 詳しく調べられた結果、およそ五十年前にも同じような集団神隠しが起こっていたことが分かり、世間をさらに騒がらせた。



次の投稿は二日後です。

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