俺は世界を守りません
「貴方に頼まれた通り、アレは彼に渡しましたわ」
一つのドアと一つの窓、白い壁と暗闇に囲まれた部屋。
月の光は香ヶ崎水無月だけを照らしていた。
「貴方の状況、彼に語らなくて良いのですか?」
水無月は誰かに語りかけるようにいうが、月の光が届かない聞き手は返事を返さなかった。
「貴方が語りたくないのなら良いのです」
水無月はそれだけ言うと満足したように立ち上がり月の光を独占し部屋を出ようとした。
「どうしました?」
水無月はドアの前で立ち止まった。
「これは……」
一瞬暗闇に消えた水無月の右手が再び月の光を浴びた時、彼女の手には宝石に似た輝きを放つものが握られていた。
「おい、お前ら盗んだもの返しやがれ」
「ルー、ル、ルーク」
マンタポーンを倒してから数週間、モノクロームは日本のどこかにルークズを送り込み、強盗紛いの悪さを行っていた。
その度に俺も日本中を転移しながらルークズを倒しに向かうのだがこのような追いかけっこが始まってしまう。
「仕方ねぇ、王手決めるぜ」
『トキン』
「『レッドブレイク』」
俺はルークズ相手に全力の必要技を放った。
「な、何っ⁉︎」
手応えはあった。しかし、ルークズの数は減っておらず、俺の攻撃は砂煙の中から伸びる片手で受け止められていた。
「悪いけど、毎度毎度作戦の邪魔しないでくれるか? 」
砂煙が落ち着きそこから現れたのはサメの様な姿のモノクローム、シャークポーンだった。
「赤い騎士、お前が噂のレッドナイトか。第一行動隊がお世話になったようだな」
「第二行動隊の隊長だったか?」
「……」
シャークポーンの動きが止まった。
「俺は第二行動隊隊長シャークポーン。スッポーンの様な防御やマンタポーンの様な刀捌きは持ち合わせていないが作戦を遂行する為だけに鍛えたスピードには自信がある」
そう言うとシャークポーンは姿を消した。いや、正しくは俺の目には写らないほどの速さで俺の周りを移動している。
「ルークズ‼︎お前らは作戦を進めろ。こいつの相手は俺様だけで十分だ」
俺の前後左右からその声が聞こえ、ルークズたちはシャークポーンの命令で中断していた作戦を再開した。
「待て‼︎」
「待てと言われて律儀に待つ相手などあるものか」
見えない速度で俺の周りを移動するシャークポーンは俺がルークズを止めようと動くたびに俺に何かしらの攻撃を与えてきた。
「くっ……」
レッドナイトのアーマースーツが火花を散らし始め、それから十秒掛からぬ内に変身は強制解除されてしまった。
「ん?ルークズたちは作戦を済ませたか。命拾いしたな」
シャークポーンは動きを止めてそう言うと今度は完全に姿を消した。
数分後、アーマースーツでも緩和出来ないほどのダメージを受け意識を失っていた勇気は青白い光に包まれ自室に転送された。
「勇気‼︎」
心地の良い声が薄れていた俺の意識を呼び戻した。
「勇気様」
「朔弥、博学さん」
二人の後ろにいるせいで全く姿が見えないが朔弥の小さな小さなメイドちゃん、麗奈ちゃんもいるのだろう。
「勇気様、申し訳ございません」
俺の意識がしっかりと戻ったことを確認するなり博学さんは頭を下げた。
「シャークポーンの事なら謝るな。負けたのは俺が弱かったからだ」
「ゆう、またあの変な怪物と戦ったの?」
「朔弥、呼び方が昔に戻ってるぞ」
頭の中はスッキリしてるのに身体がとてつもなく重い。
「勇気様、しばらくお休み下さい。そんな身体ではシャークポーンと戦うことは」
博学さんがそう言った瞬間、朔弥は博学さんの胸倉を掴んだ。
「勇気がこんなにボロボロになっているのにまだ変な怪物と戦わせるつもり?」
「返す言葉もございません」
胸倉を掴まれても博学さんにはまだ余裕が見えた。
今にも博学さんを光の粒に変えてしまいそうな目をした朔弥を抑えるような声で俺は言った。
「なぁ、博学さん。この身体『では』シャークポーンと戦えないんだよな?」
博学さんと俺が怪物と戦い怪我を負った程度しか知らないであろう朔弥は頭に疑問符を浮かべていた。ただ、朔弥よりも俺に関して知らないはずの麗奈ちゃんは俺の言いたいことがわかっている顔をしていた。
「つまり、シャークポーンを倒す方法があるんだろ?って聞いてるんだ」
「はい、勇気様が意識を失っていらっしゃる間に倒す方法、新たなナイトチップの調整が終わったところです」
「ダメ‼︎こんなにボロボロなのにまたあの変な怪物と戦ったら死んじゃう」
「朔弥、今モノクロームを倒せるのは俺しかいない。わかってくれ」
「お母さんから聞いてるからそれはわかってるつもり。でも、自分の身体を犠牲にしてまで戦わなくたって……」
「確かに、自分を犠牲にしてまで俺が戦う必要はないかもしれない。だとしても俺は戦う。俺は守りたいから」
俺が自分の身体を犠牲にしてまで守りたいのは世界なんて大きなものじゃない。
「朔弥、俺はお前を守るただそれだけのために戦ってる」
俺はレッドナイトに初めて変身したその日、モノクロームに攫われた朔弥を見て腹が立った。
そして、モノクロームを倒す。そう決意した。
「勇気様、モノクロームの反応です」
「朔弥」
「……死なないでね」
「わかった」
「勇気様、こちらが新しいナイトチップです」
俺は博学さんから新しいナイトチップを受け取り戦場へと出撃した。
「勇気‼︎」
「⁉︎」
頰に柔らかい感触と湿り気を感じた。
「さくやさん」
「麗奈ちゃん、ありがとう」
「ゆうきさまはさいきょーのきしレッドナイトですよ、かならずかってかえってきます。しんじてあげてくださいさくやさんのおっととなるおかたのことばを」
朔弥と麗奈は博学の持ち込んだノートパソコンでたった一人でモノクロームに立ち向かう『さいきょーのきし』の姿を見守った。
「キビキビ働け‼︎ レッドナイトがいなくなったからといって気を抜くな‼︎」
シャークポーンは採石場から機械的に黒光りした石を運ぶルークズに鞭打つように叫んでいた。
「誰がいなくなったって?」
「人間の声、まさかレッドナイトか⁉︎」
「何度邪魔されても原作通り作戦を進めやがって。たまにはアドリブで動きやがれ‼︎」
「……」
台本にないアドリブに戸惑っているかのようにシャークポーンの動きは停止していた。
「俺の速さについてこれなかった貴様に俺が倒せると思っているのか?」
「倒すさ」
「威勢だけは良いようだな。一同作業をやめ戦闘体勢‼︎」
「さぁ、対局開始だ」
「総員、かかれ‼︎」
「ルー、ルール、ルール、ルーク」
「ルークルール、ルルールク」
「ルークルー、ルークルルールク」
無数のルークズが変身前の俺に飛びかかってきた。
「速さに自信があるのが俺だけだと誰が言った?俺の兵は速さに自信のある連中が揃っている。と言ってももう聞こえてはいないか」
「速さに自信があるってのは本当らしいな。一瞬でこうなっちまうんだからな」
俺に飛びかかってきた無数のモノクロームは光の粒となって空へ消えた。
「貴様の身体はルークズの速度に追いつかぬ程ボロボロだったはず」
レッドナイトに変身した俺にシャークポーンは驚きを隠せないかのようにそう言う。
「俺には赤星空也程の回復力はないが、今日に限っては赤星空也を超える無限の回復力が、無限の力がある‼︎」
その力はまだ微かに残る柔らかい感触と湿り気から湧いてくる。
「……」
シャークポーンの動きはまた止まった。
「まだだ、ルークズ‼︎」
何処からともなくルークズが集まりシャークポーンの後ろに整列した。
「三手に分かれてかかれ‼︎」
ルークズが数メートルの位置にやって来た瞬間、耳元でツーツーというノイズが聞こえ、原作では使われていたが今までの戦いで一度も使われたことがなかった基地(自室)との通信機能がいきなり作動した。
『勇気様、『ナイトブレイド』と呼んで下さい』
「えっ?わ、わかった。『ナイトブレイド』」
その名を叫ぶと前に博学さんに貸したおもちゃの中にあったレッドナイトの武器の一つ『疾風剣ナイトブレイド』が俺の手元に転送されてきた。
「おぉ」
いきなり現れたナイトブレイドを見て俺に襲いかかろうと近づいてきたルークズが恐れたのか後ろへ下がった。
「ただの剣だ‼︎ かかれ、かかれ、かかれぇぇぇ‼︎」
シャークポーンの口から鞭を打つように出てくる言葉で攻撃を躊躇っていたルークズはヤケクソ気味に襲いかかって来た。
「セイハー」
おもちゃよりも長い刀身を振り回すのは本当に良い気分で、その攻撃を受けたルークズは一体残らず光の粒になった。
「中々やるようだな。だが剣一つ増えたところで俺を倒すことは出来ない。また同じように地に這いつくばり今度は無惨に死ぬが良い」
「言っただろ。倒すって」
俺はナイトチップ『歩』をナイトチェンジャーから外し、新しいナイトチップ、ナイトチップ『桂馬』をセットした。
『桂馬』
ナイトチェンジャーから落ち着いた電子音声が聞こえると赤いナイトフォトンは一瞬で黄緑に変化した。
「風を司る赤き騎士、レッドナイト」
「色の変化で強さが変わるわけが……」
シャークポーンは口を閉ざした。さっきまでの違和感のある閉ざし方ではない。驚きによって言葉を失っていた。
「レッドナイト、いつの間に⁉︎」
「シャークポーン、速さに自信があるって言っていたな。どっちが速いか白黒つけようぜ」
「良いだろう」
その言葉を発した瞬間、シャークポーンは残像を残さぬ速さで姿を消した。
「遅い‼︎」
「いや、遅いのはシャークポーン、お前だ‼︎」
シャークポーンよりも少し速さで上回った俺がナイトブレイドによる一撃でシャークポーンの傷一つない身体に初めて傷を付けた。
「初めて速さで俺を上回り俺の身体に傷を付けた生物が人間、しかも一度俺の速度に負けた奴とは。俺もそろそろ本気を出さねばならないようだな」
シャークポーンは徐々に自身の移動速度を上げ俺の速さ追いつき、そして追い抜かした。
「レッドナイト、貴様はよくやった。自分を褒め称え、そして死ね」
サメが魚を捕食する時のような素早い動きとその動きに乗せた自分の身体を使った攻撃を俺は正面から受けた。
俺は岩肌に埋もれ、俺の手を離れたナイトブレイドは青白い光に包まれて消えた。
「終わったな」
「終わってねぇよ。俺にはまだ、王手が残ってる」
『レッドブレイク』
ナイトチェンジャーの電子音声に対応してナイトフォトンが輝き岩肌が剥き出しの採石場が緑に染まった。
「一度でダメなら二度、三度と攻撃を与えるまで」
数十メートル以上離れた俺とシャークポーンは同時に動いた。
シャークポーンが目にも留まらぬ速さで一メートルを通過した時、俺の拳は俺の全体重とナイトフォトンを乗せシャークポーンの身体に直撃していた。
「バカ、な」
攻撃の反動でさらに十数メートル進み砂煙を大量に上げて俺は停止した。
シャークポーンはド派手な爆発と共に光の粒に変わり例の如くモノクロチップを残していた。
「対局、終了」
「はぁ、疲れた」
モノクロチップを回収後、転送装置で自室に戻った俺は安心したのか眠るようにベッドに倒れた。
「勇気‼︎」
「勇気様‼︎」
「大丈夫」
俺はそう言って俺は心配して顔を覗く朔弥と博学さんの二人にピースサインをして見せた。
「レッドナイトの持っていた剣、マンタポーンの……」
戦いの傷跡が微かに残る採石場で白馬のようなモノクローム、ホースポーンはそんな事を呟いた。
「ルルールク?」
「ルークズ、ルークの遣いか‼︎」
ルークズは首を思い切り横に振った。
「ルーク、ルルールクルーク、ルルールクルルールク」
「シャークポーンの居場所?奴ならレッドナイトに倒された。作戦は失敗だ」
ホースポーンの言葉に驚いたルークズは持っていた綺麗に加工された黒光りした岩を足の上に落とした。
「ルーーーク」
単純な悲鳴を上げたルークズは採石場に悲鳴をこだまさせ、光の粒となった。
「シャークポーンの部下の癖に鈍臭いルークズだな」
ホースポーンはルークズに対して餞の言葉を失笑しながら口にしてそのルークズが持ってきた岩を片手で軽々と持ち上げモノクローム地底基地へと帰った。
黒光りしている岩に写っていたホースポーンはその馬のような姿とは似ても似つかぬ少女の姿をしていた。
これを書いているときはいつも次回の話をまだ決めていない時です。
そして、今回はミスしないようにしようと思っている時でもあります。そう思っていて前回は投稿時間を間違えました。
話は変わって、今回の話はいかがだったでしょうか?
今まで二話を使って倒していたモノクロームを一話で倒すとなると意外と長くなりますね。今後一話完結になるか二話完結になるかは作者にもわかりません。
最後に感想を頂けると嬉しいです。「優等生は劣等生を早く更新しろ」とかで良いので……。
次回は最初にも言っている通りまだ決めてません。ただ、近いうちにレッドナイトサイドもモノクロームサイドも大きな動きがあるでしょう。




