五人の騎士は屈しません
「俺の相手はポーンのチェスモノクロームか」
「『(ただのレッドナイトが相手とは、私を甘く見ないで貰おうか)』」
特殊な力のない基本形態のレッドナイトはポーンのモノクロチップを体内に宿したチェスモノクロームと対峙した。
「ナイトブレイド」
「『(モノクロランス)』」
互いに近接用の武器を呼び出すとすぐさま相手の懐目掛けて動いた。
「どうした? 攻撃してこないのか?」
二人が動き始めてから数分、チェスモノクロームはレッドナイトの攻撃を防ぐばかりで一向に攻撃するそぶりを見せなかった。
「『(そろそろ良いだろう)』」
チェスモノクロームは背後に闇を生み出しその闇の中へと消えた。チェスモノクロームがいた場所には崖の岩肌が見えていた。
「『(形勢逆転と言った所か?)』」
闇を経由してレッドナイトの背後に現れたチェスモノクロームはモノクロランスと呼ばれる槍をレッドナイトの胸目掛けて突いた。
胸を突かれたレッドナイトは首をがくんと落とした。
「『(呆気ない)』」
チェスモノクロームは大口をたたいていた割に呆気なくモノクロランスによって滅されたレッドナイトを嘲笑った。
「手応えもないのによく倒した気でいられるな」
耳元で囁かれたかのように鮮明な声にチェスモノクロームはチェスモノクロームになって初めての恐怖を感じた。
「『(完全に倒せずとも致命傷レベルのダメージは負ったはず)』」
「それは、現実か?」
再び聞こえるその声に恐れを抱きながらモノクロランスの先端を見ると、その先に突き刺さっているはずのレッドナイトの姿は無かった。
「形勢なんて簡単に逆転できるものじゃない」
チェスモノクロームがモノクロランスで倒したはずのレッドナイトは陽炎のように揺らめきながらチェスモノクロームの真横に現れた。
「王手、決めるぜ」
『トキン』
暗い雰囲気には不釣り合いな軽快な電子音声のあと、レッドナイトの持つナイトブレイドが炎を上げるように赤く輝いた。
「ナイトスライサー」
「『(私を甘く見るなと言っただろう)』」
レッドナイトの攻撃が身体に当たる直前にモノクロランスで受け止めたチェスモノクロームだったが、ナイトスライサーはモノクロランスの柄を焼き切った。
そして、威力を落とすことなくチェスモノクロームを一刀両断にした。
「『(私はまだ終わらない、終わりはしないぞ)』」
チェスモノクロームは大きな爆炎と共に儚く散った。
「『(どの貴様が本物なのかはわからないが、全て倒せば同じこと。手始めに貴様から倒させてもらう)』」
「お前もレッドナイトを見ていたならわかるだろ? レッドナイトは簡単に屈する騎士じゃない。それは赤星空也でも、長山勇気でも変わらない」
「『(ならば、貴様もわかるはずだ。モノクロームの諦めの悪さは宇宙一だと。それは私でも変わらない)』」
二人のレッドナイトオタクは刀と剣を無言で呼び出して火花を散らした。それは比喩であり、現実だった。
「『(消え去れ)』」
ナイトのモノクロチップを身体の中に宿すチェスモノクロームが呼び出したモノクロソードで放った斬撃は黒い馬を模し、斬撃をかわすレッドナイト桂馬を追い回した。
「その力、利用させてもらう」
地を駆けて徐々に迫りくるチェスモノクロームの斬撃を背にしたレッドナイト桂馬はその場で足を止め、迫りくる斬撃の足音に耳を傾けた。
斬撃が一歩、また一歩と近づくのを耳と空気から僅かに感じ取れる振動で把握したレッドナイト桂馬は斬撃をバック転で華麗にかわし、斬撃の背に飛び乗った。
斬撃に僅かなナイトフォトンを送り込みレッドナイト桂馬は斬撃で生み出された黒馬を操る手綱を作り出した。
「『(小癪な)』」
自分の斬撃で地を駆けるレッドナイト桂馬に腹を立てたチェスモノクロームは斬撃の黒馬をもう一撃生み出すとその黒馬と融合しケンタウロスに似た姿となった。
「ナイトの最終形態を模した姿か。敵ながら俺とセンスの合う感情がお前の中に入っているみたいだな」
「『(貴様と同じセンスを持ち合わせているのは不本意だが、このような形で出会わなければ良い酒を飲めたのだがな)』」
「生憎俺は未成年だ」
敵同士でありながらも仲睦まじい会話と共に一人と一体は刃を交えた。
刃の混じり合いの中、先に相手の隙を捉えたのはレッドナイト桂馬だった。レッドナイト桂馬は黒馬で颯爽とチェスモノクロームの背後に回り緑色に輝く刃でケンタウロスと化したチェスモノクロームの左後ろ足を斬った。
「『(くっ)』」
チェスモノクロームは悔しさを滲ませる呻き声を吐きながらも三本の足で何とか体勢を立て直し攻撃直後の隙を生んだレッドナイト桂馬に一撃を与えた。
チェスモノクロームの一撃はレッドナイト桂馬が乗る黒馬に多大なダメージを与え、黒馬は煙のように揺らめくと騎手を地に放り捨てて消滅した。
「『(勝負は決まったようだな)』」
チェスモノクロームは地に膝を付け、ナイトブレイドに体重を任せているレッドナイト桂馬にモノクロソードを向け嘲笑うようにそう告げた。
「それなら、チェックメイトと言うべきじゃないのか?」
レッドナイト桂馬は仮面の下で口元を緩めながらそう返し、こう続けた。
「言わないなら、俺が言ってやろうか? 王手、決めるぜって」
チェスモノクロームが勝利を確信したことで油断したと気付いた時にはレッドナイト桂馬の姿は視界から消えていた。
『ナリケイ』
声に気付きチェスモノクロームが空を見上げると緑色の光が竜巻のように渦を巻き勢いよく急降下して来ていた。
「ナイトトルネードクラッシュ」
緑の竜巻に飲み込まれたチェスモノクロームはかまいたちにでも遭っているかのように知らず知らずのうちに身体に刃で斬られたような傷を生み、気が付いた時にはその身体は闇へと変換されていた。
「『(レッドナイト桂馬、敵ながら見事な剣裁き)』」
チェスモノクロームは身体から闇の炎を上げ闇に散った。
「『(消え去れ人間)』」
「お断りだ」
ルークのモノクロチップを宿したチェスモノクロームとレッドナイト香車は互いに譲らず一進一退の戦いとなっていた。
「『(縛り上げろ、モノクロウィップ)』」
チェスモノクロームの一声で蛇のような動きで宙を這い始めたチェスモノクロームの持つムチ、モノクロウィップはレッドナイト香車の死角から這い寄りレッドナイト香車の全身を拘束した。
「剣舞、滝登り」
身動きの取れなくなったレッドナイト香車は手に持つナイトブレイドを唯一自由に動く足に向けて柄を下に向けて落とし、その柄を絶妙な力加減で蹴り上げて全身を拘束していたムチを切り裂いた。その瞬間のナイトブレイドはまさに滝を昇る鯉のような美しさがあった。
「ナイトヒーリング」
レッドナイト香車は拘束されていた部分の痛みをレッドナイト香車の特殊能力である癒しの光で回復させると体勢を立て直すためチェスモノクロームが暗闇によって視覚出来ない距離まで離れた。
「『(逃げても無駄だ、モノクロウィップ)』」
下がるレッドナイト香車に対し間合いを詰めてくるチェスモノクロームは再びモノクロウィップを蛇のように操りレッドナイト香車の身体を拘束しにかかった。
レッドナイト香車は観念したかのようにナイトブレイドを地面に突き刺すと、仮面の下の目を閉じた。
「『(観念したか)』」
その瞬間にモノクロウィップからチェスモノクロームの手にレッドナイト香車を捉えた感触が伝わった。
「『(消え散れ)』」
レッドナイト香車を縛り上げているモノクロウィップを思い切り締め上げると、チェスモノクロームは僅かな違和感を感じ取った。
「『(偽物か)』」
闇に包まれた空間にはいつの間にか無数の大樹が生い茂っていた。そして、モノクロウィップはその内の一本を縛り上げていた。
「『(いつの間にこんなものを)』」
「この土地の自然を香車の治癒能力で蘇らせた」
木々の間から暗闇に隠れていたレッドナイト香車が顔を出してそう告げた。レッドナイト香車の後を追うように土の中からは芽が生えてすぐに大樹へと成長し、それはチェスモノクロームの四方を囲んだ。
「『(自らを追い込んでどうする)』」
「果たしてそうかな? 今の俺にはこの星全体が力を貸してくれている」
その言葉に偽りはなくチェスモノクロームが攻撃を仕掛けるたびに木々たちがレッドナイト香車の周りに集まり強大な盾となり攻撃を防いだ。
「『(煩わしい人間、煩わしい星、ここで消え去れ)』」
チェスモノクロームは周囲の闇を身体に取り込み、キマイラルークのような姿をした巨大な獣に変わった。
「『(滅びろ)』」
チェスモノクロームは口に闇を集め幾度となく放って来た闇の球体を作り出し、躊躇する素振りを一切見せずにそれを放った。
闇の球体を前に木々たちはレッドナイト香車の前に巨大な盾を形成したが、闇の球体が直撃すると盾は闇の球体の威力を軽減させることも出来ぬまま無残にも朽ち果ててしまった。
「ぐっ、はぁっ」
レッドナイト香車は力を振り絞り、闇の球体を真っ二つに切り裂いた。しかし、香車の治癒能力で身体を回復してももう一度同じように攻撃を防ぐのは不可能なほどレッドナイト香車の身体は疲弊していた。
「『(次の一撃で、消し去ってやろう)』」
「ならこっちも、王手決めてやる」
『ナリキョウ』
レッドナイト香車のナイトフォトンが白く輝くと地に突き刺さるナイトブレイドも同じように白く輝き、それは地面を通して木々たちにも力を与えた。
「『(三度目は無い。消え散れ、人間)』」
「俺も、この自然もここで消えたりしない」
チェスモノクロームの口から闇の球体が放たれ、それを前にした木々たちは盾を形成した。一見すると先ほどと全く変わらない光景だったが、今回は木々たちが朽ちることなく闇の球体を防ぎ、闇の球体を浄化した。
「ナイトヒーリングバースト」
レッドナイト香車は地に刺さったナイトブレイドを引き抜き浄化された闇の球体に斬撃を放った。その斬撃は浄化されレッドナイト香車のナイトフォトンのように白くなった闇の球体をチェスモノクロームへと押し返した。
浄化された闇の球体を返されたチェスモノクロームは成す術もないまま地を抉りながら周囲の大樹を押し潰し地に倒れた。
「『(まだ、貴様らは本当の恐怖を知らない)』」
チェスモノクロームは浄化の光を受けながらそう残し、散った。
「『(貴様の作戦に引っかかるとでも?)』」
レッドナイト飛車の蹴りを最低限のダメージで抑えたビショップのモノクロチップを宿したチェスモノクロームは余裕のある口調でそう言い、十数キロ離れた地点にいたはずのクイーンのモノクロチップを宿したチェスモノクロームと合流した。
「全く、厄介な二人が合流したものだな」
レッドナイト飛車は頭を抱えるようにそう告げたが、チェスモノクロームの二体もレッドナイト飛車程ではないにしても同じ感想を抱いていた。
レッドナイト飛車とレッドナイト金将、本来は同時に存在することなどあり得ない二人が二体のチェスモノクロームの前には存在していた。
「自分と戦ったことはあるが」
「まさか、自分と共闘することになるとは」
宇宙で最も息の合う者を相棒に持った者同士の戦いが始まった。
「「ナイトダブルシューティング」」
レッドナイト飛車の水色の銃弾と、レッドナイト金将の黄金の銃弾が二体のチェスモノクロームに向けて放たれた。
「『(闇よ、防げ)』」
「『(闇よ、放て)』」
放たれた銃弾はクイーンのモノクロチップを宿したチェスモノクロームにより闇の彼方へ葬られ、ビショップのモノクロチップを宿したチェスモノクロームによって闇の彼方から数倍の威力で呼び戻されてレッドナイト飛車とレッドナイト金将に返された。
「「防壁」」
レッドナイト飛車とレッドナイト金将は返って来た銃弾を咄嗟にキングとしての力を二重に使い防いだ。
「上級幹部のモノクロチップを宿しているだけの力はあるみたいだな」
「『(貴様らも私が欲するキングの力を易々と使うとは)』」
一対一であり二体二で戦う彼らは互いを理解し敵意を途絶えずに向けながら相手の次の手を探り合った。
「『(闇よ)』」
クイーンのモノクロチップを宿したチェスモノクロームは闇を生み出した。その闇に両腕にモノクロクローという武器を手にしたビショップのモノクロチップを宿したチェスモノクロームが飛
び込んだ。
クイーンのモノクロチップを宿したチェスモノクロームはその後も一定間隔で闇を呼び出し続け、闇に飛び込んだチェスモノクロームはその直線的に敷かれた闇を出入りし、加速しながらレッドナイト飛車とレッドナイト金将への距離を詰め、鷹のように鋭くとがった爪で二人に攻撃した。
たった一瞬の出来事に何一つ対処のできなかったレッドナイト飛車とレッドナイト金将は地面を転がった。
「よし」
「反撃だな」
何事もなかったかのように立ち上がったレッドナイト飛車とレッドナイト金将は先ほどチェスモノクロームがやったように闇を呼び出した。
「『(私達の真似事とは、愚かな)』」
「俺たちは元々レッドナイトの模造品だ」
「それでも、お前たちは俺たちには勝てなかった」
「「その理由を今から見せてやる」」
レッドナイト飛車とレッドナイト金将は同時に闇の中に飛び込んだ。同じ闇に飛び込んだはずの二人はそれぞれ別の闇から出てきた。その度にあちこちに新たな闇を呼び出してはビショップのモノクロチップを宿したチェスモノクロームのように徐々に加速しながら闇を出入りした。
ただ、二人は直線的に敷かれた闇を出入りするのではなく不規則に撒かれた闇から出入りしていた。
「「ナイトダブルラッシュ」」
不規則に並ぶ闇からチェスモノクロームの隙と死角を突いて現れたレッドナイト飛車とレッドナイト金将は二体のチェスモノクロームに先ほど自分たちが受けたダメージを倍にして返した。
「『(自己流、それが貴様らの勝利の秘訣だと言いたいのか?)』」
「『(笑わせる。所詮紛い物は本物には勝てない。それを証明してやろう)』」
クイーンのモノクロチップを宿したチェスモノクロームは不意に仲間であり自分であるはずのビショップのモノクロチップを宿したチェスモノクロームの身体に手を突っ込み闇に変換した。その闇は三か所から倒されたチェスモノクロームのモノクロチップと共にレッドナイトへの恨みが籠った闇を呼び寄せた。
四つの闇は仮面、剣、鎧、籠手に変化しクイーンのモノクロチップを宿したチェスモノクロームに装着された。
「『(五人がかりでかかって来い)』」
再び一体となったチェスモノクロームの前には五人の騎士が集結していた。
「さっきまでとは桁違いだ」
「『(先ほどの威勢はどうした?)』」
闇を自在に駆使し、レッドナイトの前に現れたチェスモノクロームはナイトモノクロチップの力を変化させた『チェスソード』でレッドナイトを切り裂いた。
「グハッ」
たった一度の攻撃でレッドナイトはナイトフォトンを噴き出して闇が揺蕩う地面に倒れた。
「『(所詮この程度か)』」
レッドナイト金将の前に立ったチェスモノクロームはそう言いチェスソードを鞘に納めると、チェスモノクロームに気付きナイトブレイドを向けたレッドナイト桂馬、香車、飛車の三人の身体からナイトフォトンが噴出されて闇に消えた。
「『(レッドナイト、貴様にはもう勝機が無い)』」
レッドナイト金将はその手からナイトブレイドを零した。
おはようございます。こんにちは。こんばんは。そして、あけましておめでとうございます。
新年最初の今回は五人のレッドナイトが活躍しています。その為、少しばかり文字数が多くなってしまいました。
特別編に比べればどうと言う事はないレベルなのですが、書き終えている最終話よりも今回の話の方が若干長いという事態が起きました。
言ってしまえばチェスモノクローム戦は全て最終話のつもりで書いているのでそこまで気にはしていないのですが。
文字数を稼いだところで次回は3話ほど前の後書きで書いた通り少し似た展開の話です。
決して忘れていたから同じ展開になったというわけではないです。←言い訳
さて、残り2話となったこの物語ですが最後まで応援宜しくお願いします。
東堂燈




