希望は絶望に染まりません
人類を殲滅しようとする純粋な闇から来る憎悪や憤怒、嫉妬と言った負の感情はキングの目的達成と共に俺の頭の中から消え去った。
しかし、希望ごと絶望の闇に飲み込まれ闇に染まってしまったために闇から脱出することが出来なかった。
動くことが出来ずにただ朔弥たちの声を聞くだけの像となってしまった俺には何も守れない哀しみと暗い闇の中に一人でいる事の寂しさの二つの感情が頭の中で渦を巻いていた。
「誰か、助けてくれ」
その声は誰にも届かずに闇の中へ落ちて行った。
「朔弥、白馬」
誰でも良いから手を差し伸べて欲しい。その一心で俺は大切な仲間の、家族の名前を口にした。
「白騎」
名前を口にすると走馬灯のようにその人物の顔が浮かんだ。しかし、呼べば呼ぶほど黒く染まって見えなくなっていた。
「黄金院さん」
うっすらとしか思い浮かばなくなってしまった顔、恐らく次で真っ黒になってしまうのだろう。絶望感が俺の頭を蝕んでいく中で俺は最後の名前を告げた。
「長山将飛」
長い事会っていない父さんの名前だった。長い事会っていないから素で顔が思い出せないかもしれないと最後まで名前を呼ぶのをためらっていた結果最後まで残っていた。
ただ、父さんの名前を呼んだときにそれまでとは違う雰囲気を感じた。この雰囲気を何と表すべきか、表せるものなのか。この雰囲気には遠いのに近い不思議な感覚に陥る雰囲気があった。
無理にでもこの雰囲気に名前を付けるのなら『家族の絆』この言葉が合うような気がした。
その言葉を当てはめた途端、俺の頭の中に父さんの顔がそれはもう鮮明に思い浮かんだ。
俺の誕生を喜ぶ顔、俺の育児に疲れ果てた顔、初めて俺を怒った時の顔、初めての運動会で二位になって悔しがっていた俺よりも悔しそうにしている顔、家族写真を撮った時の顔、俺の写真を撮る所を撮られた時の顔、桜将学園初等部の卒業式でどの保護者よりも大泣きしている顔、長い事俺に会えなかったことで少し気まずそうにしている顔、記憶に無い顔も全て懐かしかった。
「父さん、助けて」
その声は、ゆっくりと闇の底へ落ちていくはずだった。
「父さん?」
闇の中に走馬灯での思い出ではない状態で現れた父さんは俺の手を優しく握っていた。
「随分と待たせたな」
「どうして?」
「理由は後だ、皆がお前の帰りを待っている」
「でも俺は闇から出られない」
「そんなの気持ちの持ち方次第だ。闇の中で希望も持たずに朔弥ちゃん達が負けるのを待っているつもりか?」
「そんな事思っている訳無いだろ」
「流石は俺の息子、闇から脱出できたじゃねぇか」
いつの間にか俺の周りは眩いまでの希望で溢れていた。希望は闇に飲まれることも、絶望に染まる事も無かった。
「勇気、お前の『恐れない勇気』で絶望に染められたこの世界を希望で染め直せ」
俺の手の中に一枚のナイトチップが生まれた。
「希望で世界を染め直す」
新たに生み出されたナイトチップをナイトチェンジャーに装填して絶望の中にある希望の中で俺は叫んだ。それはもう全てに響くように。
「ナイトチェンジ」
『ナイトチェンジ』
自我が狂い崩壊し始めたチェスモノクロームに最後の対決を挑むため朔弥たち七人は騎士に変わるための変身コードを叫んだ。
七人が七人とも異なる色を身体から放ち、真っ暗な闇の中に虹を作り出した。
「青き銃騎士、ブルーナイト」
「白き剣騎士、ホワイトナイト」
『モノクロームの女王にしてブルーナイトの妹、クイーン』
「モノクローム最高司令官、ビショップ」
「騎士の光を授かりし騎士、歩」
「闇に生まれ光に生きし騎士、桂馬」
「騎士を生み騎士となりし者、博学白騎」
「『(忌まわしき騎士どもめ、まとめて相手をしてやる)』」
作り出された虹が各々の身体に宿った瞬間、七人の騎士は音もなく動いた。
「行くよ」
「はい、行きましょう」
先制を取ったのは朔弥と歩のコンビだった。
戦闘経験は少ないが、才能は他の六人にも負けず劣らぬ力を秘めている歩が一歩、また一歩と着実にチェスモノクロームへと文字通り歩み寄った。
「『(気配も消さずに正面から現れるとは笑止)』」
「私達を」
『忘れておるようじゃのう』
チェスモノクロームの背後から気配を消していたブルーナイトクイーンが現れ、チェスモノクロームの思考能力が一時的に乱された。
その一瞬を歩は見逃さず槍を地面に深く突き刺し叫んだ。
「矢倉囲い」
歩は地面に突き刺さった槍に紫色の光を注ぎ込みチェスモノクロームを円錐状に囲う檻を作った。
「朔弥さん、クイーン姉さま今です」
「『喰らえ、クイーンズショット』」
青色と桃色が混じり合った銃撃が身動きの取れないチェスモノクローム目掛けて放たれた。ドガッと言う轟音を放ち円錐状の檻を突き破った銃弾は虚空へと消えたが、チェスモノクロームはその程度では倒れるほど軟な敵ではなかった。
「姉ちゃん、歩様、下がれ」
次鋒はホワイトナイトこと長山白馬とその相棒の桂馬だった。
「共闘は初めてだな」
「白馬の動きは頭に入っている。それがたとえイレギュラーな動きでも」
「流石だぜ。相棒」
「そう呼ばれたのは初めてだ」
戦闘中でも仲の良さが見受けられる二人は左右に分かれて一本ずつナイトソードを持っていた。
「鞍上人無く」
「鞍下人無し」
馬を巧の乗りこなす意を持つその言葉の通り、馬の名を冠する二人は白色と緑色のオーラが放たれるほど高まった最大限の力を乗りこなしチェスモノクロームを、
一度、二度、三度、四度、五度、六度、七度と容赦なく斬り裂いた。
「『(クゥッ)』」
流石に連続した最大限の攻撃を直立で耐えられるほどの力は備わっていなかったようでチェスモノクロームは初めて地面に膝を付けた。
「ビショップ」
「白騎さん、後はよろしくお願いします」
チェスモノクロームの近くに居た二人は後ろに大きく跳ね退けた。
「どうです? 強さに溺れ、自らが下等だと信じて疑わなかった相手に劣る感想は」
「『(この私が貴様らに劣るだと? 笑わせる)』」
チェスモノクロームはビショップの煽りを受けビショップへ黒く冷たい闇で包まれた拳を振るった。
ボーンビショップの鎧を纏った白騎を一人取り残し、目にも留まらぬ速さで黒い闇と藍色の光をぶつけ合うチェスモノクロームとビショップ。その力は互角に見えたが、僅かにビショップが勝っていた。
「白騎、今です」
藍色の光が急停止して、黒く冷たい闇を捉えたその瞬間に地面がゴゴゴォと言う雷のような轟音を鳴らし隆起した。
「じっとしていてください」
白騎が告げ終わる前に地面から現れた黄色い光を灯す骨がチェスモノクロームを四方八方から締め付けた。
「勇気様、最後は派手にお願い致します」
白騎は動きを止め、全く動かなくなってしまったキングに向けてそう告げた。
「『(長山勇気は完全に闇に飲まれた。完全に闇に飲まれた者は光には戻れない。そう、私のようにな)』」
チェスモノクロームは拘束を破壊し内に秘める闇を解き放った。
「『(今度こそ、消えてなくなれ人間共、モノクローム共)』」
「させねぇ」
『チップ確認 飛車 金将』
黒く冷たい闇の波動は、赤く温かい光の防壁によって防がれた。
「赤き騎士、レッドナイト。闇より帰還」
赤いアーマースーツに黒い鎧を纏い金色のナイトフォトンが全身に流れているレッドナイトが八つ目の光としてチェスモノクロームの前に現れた。
「さて、最後の対局を始めようか」
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
今回は勇気サイドと朔弥サイドの二つの視点でお送りしました。
この後書きを書いている時点では既に最終話付近を書いているのですが、最終話直前の話で今回に似た描写が出る予定です。
その話と今回の話で異なる部分を楽しんでいただけたらと思います。
くどいようですが、最終話まではもうしばらく続きますのでお付き合いのほどよろしくお願いします。
東堂燈




