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この少女はマジカルです

「ふふふ~ん」


「随分と嬉しそうだな」


 十月某日の土曜日、俺と朔弥は朝の九時から桜将学園内の一角にある専門店街に来ていた。


 昨日からナイトフォンを見ながらにやけたり、妙にそわそわしていたりしたから今日を楽しみにしていたのだろう。


「ここ、私の来たかったお店」


「おもちゃ屋? 朔弥にしては珍しいな」


「麗奈ちゃんとはよく来たけど、勇気とは初めて来たかも」


 桜将学園の施設では割と古い部類のこの店は俺も一人で立ち寄ることがあった。


「麗奈ちゃんが居た時は麗奈ちゃんと一緒によく見ていたアニメがあってね、今日はそのアニメの新しいおもちゃの発売日なんだ」


 朔弥は楽しそうにそして少し悲しそうにそう言いながらそのアニメのグッズが陳列されたコーナーに向かった。


「『マジカル少女スミカちゃん』?」


 朔弥が立ち止ったのは水色を基調とした上半身は浴衣や着物のようなデザインで下半身はこの間の学園祭で俺たちのクラスが行ったメイド執事喫茶のメイドが着用していたスカートに似たデザインの服を着た少女が主人公の女児向けアニメのコーナー前だった。


「そう、このスミカちゃんが可愛くて。それに戦闘シーンではアニメとは思えないほど実写みたいな動きで戦うんだよ」


「そうなのか」


 レッドナイトを語っている時の俺のような朔弥にしては珍しく熱い語り口調に俺は戸惑いを隠しきれなかった。


「ほら、戦いのシーンだよ」


 朔弥が指を指した『マジカル少女スミカちゃん』の予告映像を映すテレビを見ると、朔弥が熱い口調で言っていたような動きで戦うスミカちゃんと思われる少女と敵の姿が目に映った。


 しかし、俺が気になったのはその動きではなかった。


「どうしてこの子の足元には小さな家やビルが立ち並んでいるんだ?」


「スミカちゃんの新しいシリーズでは巨大な敵が出てくるからスミカちゃんも『マジカルスコップ』を使って穴を掘って巨大化して戦うの」


「なるほどな」


 『穴を掘って巨大化』という謎の力が理解できず脳内で整理が追い付かないが、ナイトチェンジャーでナイトチェンジするかマジカルスコップとやらで穴を掘って巨大化するかという違いだけで話の内容はレッドナイトに似ているのだろう。


「それで、朔弥が欲しいのはこれだろ?」


 朔弥の話から予想を立てて俺は『マジカルアイテム01』と全国の『マジカル少女スミカちゃん』を視聴している女児の親御さんを不安にさせる文字が書かれている『マジカルスコップ』の入った箱を手に取った。


「そう、ちょっと買ってくるからそれ頂戴」


 両手を伸ばして俺に『マジカルスコップ』が入った箱を渡すように促していたが、俺は朔弥に渡さずそのままレジに向かった。


「ちょっと勇気」


「何だ? まだ欲しいものがあるのか?」


「そうじゃないけど、こういうのを買ってもらうのは気が引けるというか」


「俺たちの間柄で今更気にするようなことでもないだろ」


「だから、あの」


 どうも歯切れの悪い朔弥に疑問を抱きながらも俺は箱をレジに置いた。


「こちらの商品ただいまキャンペーン中でして合言葉を言うと特製クリアファイルをお配りしております。合言葉はご存知でしょうか?」


「えっと」


「マジカルマジカルマ~ジカル」


「はい、結構です。特製クリアファイルをお付けしておきますね。お会計の方ですが七千八百九十円になります」


 朔弥の唐突かつ破壊力抜群な可愛らしい声に呆気にとられた俺は頭の中が真っ白になりながらも八千円を払いお釣りと特典の付いた商品を受け取った。




 同じ頃、モノクロームの地底基地では正規の手段で朔弥よりも一足早く『マジカルスコップ』を手に入れていたクイーンが遊びに興じていた。


「マジカルマジカルマ~ジカル、マジカルパワーで殲滅しちゃうぞっ」


 女児向け玩具としては少しばかり大きいその玩具を存分に振り回し、女児向けアニメのヒロインの決め台詞とは思えないモノクローム寄りのセリフをクイーンは一人であることを良い事に恥ずかしげもなく叫んだ。


「人間側に居た時は何を思っていらっしゃるのかさっぱりわかりませんでしたが、流石はお姉さま、人類殲滅の為そこまで張り切っていらっしゃったとは。感無量です」


「なぁっ!? び、び、び、び、ビショップ! 主、いつからそこに居ったのじゃ?」


「『マジカルマジカルマ~ジカル』とお姉さまが聞いた事のない呪文を唱えていたときからですが」


「最初から見ておったというのか」


 クイーンはただでさえ白い肌をさらに白く染め膝から崩れ落ちた。


「ところでお姉さま、先ほどから持っていらっしゃるそちらの物はなんです?」


「これはじゃな、いずれ妾と戦う事になるかもしれぬヒロインの武器を複製したものじゃ」


 その武器の複製元を所持しているヒロインとクイーンが戦う事になることなど次元の壁が崩壊しない限り起こりえないのだが、正気に戻ってもまだ少し妄想の海に浸っているクイーンは心の中に秘めていた思いを口に出していた。


「お姉さまといずれ戦う事になるヒロイン(という事は、普通に考えてお姉さまとの因縁があるブルーナイトでしょう。お姉さまが持っていらっしゃる複製の武器もブルーナイトと同じ青系の色という事はおそらく間違いない。流石、お姉さま相手がまだ隠している駒をこうも簡単に手にするとは)」


 妄想を膨らませるクイーンをビショップは大きな勘違いをしながら尊敬の眼差しで見つめていた。


「お姉さまそれをお貸しくださいそれを使ったモノクロームが現れたら奴(持ち主であるブルーナイト)は驚くはずです」


「確かに(一緒にアニメを見ていたから)驚くかもしれぬな。良いじゃろう、(妾の私物で)貴重な物じゃから壊さぬようにな」


「はい、十分承知しております(お姉さまが誰にも言わず手にした貴重な複製品十分気を付けなくては)」


 お互いに勘違いをしながらもかみ合った会話を繰り広げ、ビショップはクイーンから借りた『マジカルスコップ』をモノクロームへと変化させた。


「さぁ、ブルーナイトの住む桜将学園に出向き彼女に一泡吹かせてきなさい」


「マジカルスコップビショップ、行って参ります」


 モノクロームには珍しく女性声のマジカルスコップビショップはルークズやドルークズを従えて地上に出向いて行った。












 『マジカル少女スミカちゃん』を何度か視聴して知っていたらしい桂馬が新しいおもちゃを手にして大興奮の女児(高校一年生)の相手をして遊んでいる非日常的な光景を『マジカル少女スミカちゃん』を知らない俺、白馬、博学さん、歩の四人は保護者のような温かい目で見守っていた。


 そんなほんわかした雰囲気をぶち壊すかのようにモノクローム出現の警告音は鳴り響いた。


「もう、こんな時に。スミカちゃん怒っちゃうんだから」


「ほら、マジカルアイテムは置いて行かないとダメだぞ。『朔弥ちゃん』」


 ごっこ遊びの役柄が抜け切れていない大きな女児の手を引いて俺たちは桜将学園内に現れたモノクロームの所に転移した。


「何だ、あれ?」


「姉ちゃんのごっこ遊びを見過ぎたせいで幻覚でも見てるのか?」


「二人ともちょっと忘れて」


 今回現れたモノクロームの素となったであろう道具がすぐに思い浮かんだ俺と白馬は出来れば幻覚であってほしいと願いながら目を一度こすりもう一度そのモノクロームを見た。


「朔弥」


「姉ちゃん」


「「マジカル少女じゃなくてモノクロームになってしまったのか」」


 俺たちの前に現れたモノクロームは間違いなく朔弥がごっこ遊びに使っていた『マジカルスコップ』素になっていた。


「違うよ。それとさっきの事は忘れて」


 今までボーイッシュな朔弥の乙女な一面は何度も見てきたが、今回はあまりに印象的過ぎて永遠に忘れられそうにない。


 それよりもモノクロームだ。


「何でモノクロームなんかに」


「だから、私は関係者だけど、このモノクロームとは初対面だから」


「じゃあ、どうして姉ちゃんが『マジカル少女朔弥ちゃん』になったこのタイミングでこんなモノクロームが出てきたんだ?」


「なってないし、忘れて!」


 モノクロームを無視して平和な会話を繰り広げているとモノクロームの方から申し訳なさそうに声を掛けてきた。


「あの、そろそろ自己紹介しても良いですか? ビショップ様より生み出されましたマジカルスコップビショップと申します。ブルーナイトに一泡吹かせてくるように頼まれて参りました」


「私に?」


 恥ずかしさのあまりブルーナイトを名乗っているのにもかかわらず顔をレッドナイトのように赤く染めた朔弥はマジカルスコップビショップに聞き返した。


「わたしの素となった武器をお持ちだとかで驚くのではないかと」


「まぁ、驚いたしあなたの素となった物と同じものは持っているけど多分何かを勘違いしていると思う」


「そうですか。では、戦いの方で一泡吹かせようと思います」


「二人とも、行くよ」


「「お、おう」」


 マジカル少女朔弥ちゃんもとい朔弥の乙女さも女児感もゼロの掛け声で俺たちは変身アイテムを取り出し、チップを装填した。


「「「ナイトチェンジ」」」


 博学さんの粋な計らいか、それとも俺たちの幻覚か今日は変身機構が魔法少女のようになっていた。


 まずは全身がそれぞれのアーマースーツの色に変化した。


 続いて両足に『ポン』という石鹸の香りでもしてきそうな泡がはじける音と共にブーツが装着された。


 次に前後左右から地面と垂直に放たれた光がグルグルと時計回りで猛回転しながら身体に近づきアーマースーツのナイトフォトン部分を浮かび上がらせた。


 最後に何処から放たれているのかわからない光が三方向から顔を照らし、攻撃から顔を保護するマスクを装着させた。


「青き銃士、「「マジカル少女」」ブルーナイト」


 名乗り終わると朔弥は名乗り中に小声で『マジカル少女』と言った俺と白馬にナイトブラスターの銃弾を放った。


「赤き騎士、レッドナイト」


「白き剣士、ホワイトナイト」


 俺と白馬は名乗り中も止む事のない味方からの攻撃をかわしながら名乗った。


「もう、マジカルに対局始めるよ」


「良いでしょう。マジカルマジカルマ~ジカル」


 ようやく俺たちのノリに乗ってくれた朔弥を見てマジカルスコップビショップは何かを感じ取ったのか、マジカルスコップを買ったときに朔弥が言っていた言葉を言って穴を掘り始めた。


「ここはルークズさん達にお任せしますね。とりゃっ」


「勇気、私はこっち追うから。待ちなさい」


 先ほどのごっこ遊びを見ていた俺と白馬は穴に飛び込んで行った一人と一体が何処に向かったのかおおよその察しが付き、ルークズたちはいったん無視して何もないはずの空を見上げた。


 一人と一体が穴に飛び込んでから数秒としないうちに空に大きな穴が開きそこから巨大なマジカルスコップビショップとブルーナイトが現れた。


『勇気様、この世には科学で解明できないことがあるのだと初めて知りました』


 まだ現れて一秒も経っていないのに解析が済んだようで、博学さんは感動と呆れが一つになったかのような口調でそう言った。


「白馬、あっちはマジカル少女朔弥ちゃんにでも任せてルークズたちの相手は俺たちが引き受けるとするか」


「仕方ねえ」


 俺と白馬は俺たちが無視していたことを良い事に暴れはじめるルークズやドルークズたちに飛びかかり正義の鉄槌を加えた。




「さて、ビショップ様の命ですからマジカルに倒させて頂きますよ」


「人類殲滅を企むモノクロームがマジカルアイテムを使うのは天や仏が許してもマジカル少女が、このブルーナイトが許さない」


 マジカルスコップビショップにより通常の五倍以上の大きさに巨大化した私は私と比例して巨大化したナイトチェンジャーを装着してブルーナイト角将に超ナイトチェンジした。


「マジカルスコップナイトブレイドバージョン」


 言い方を変えただけで大きさ以外は勇気がいつも使っている物と何ら変わらないナイトブレイドを呼び出した。


「マジカルに超王手決めるよ」


『standby 3,2,1』


「マジカルナイトスラッシュ」


 スミカちゃんの必殺技と同じ水色に輝く光を放つマジカルスコップ(ナイトブレイド)を大きく構えた私はマジカル少女スミカちゃんが必殺技を放つ際に現れる水色の光の柱で拘束されていたマジカルスコップビショップに斬撃を放った。


「一泡吹かせられたのは私でしたか」


 最後にそう告げたマジカルスコップビショップはユニゾンルークの時に放たれていた光の粒が少ないと思ってしまうほど大量の光の粒に変わりマジカルスコップとビショップのモノクロチップを残した。


「マジカルに対局終了」


 巨大だった私は変身を解く際に現れる光に包まれると気が付かないうちにいつもと変わらぬ大きさに変化していた。




「よっと。全く、壊さぬように注意せいと言うたじゃろうに」


 落下してきたマジカルスコップを間一髪で回収したクイーンは小さくなる朔弥を一度見て、闇の中に消えた。

おはようございます。こんにちは。こんばんは。


前回の後書きで言った朔弥の意外な一面はいかがだったでしょうか?

個人的には勇気と朔弥は似た者同士だと思いました。


次回ですが、桜将学園である事件が起こります。それには最近変わった行動を起こすことが多いモノクロームが関係しているとかで勇気たちが推理小説における探偵のように犯人を探しだす話になる予定です。


それではまた次回お会いしましょう。


東堂燈

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