この記憶は解放されます
今回も主人公たちの出番はありません。
「今まで、私は何を……」
「思い出したようね。ポーン」
ポーンの部屋に予定にはない客がやって来た。
「ビショップお姉さま」
「あら、そんなに顔を引きつらせてどうしたのかしら? もしかしてこの私を恐れているのかしら?」
「ビショップお姉さま、また私の記憶を封じるおつもりですか?」
「同じ事をするのは趣味じゃないの。知っているでしょ?」
「はい」
「私がここに来た理由。それは……」
密閉された空間に何処からともなく背筋を凍らせる風が吹いた。
その風は闇を乗せビショップを中心に渦巻いた。
「モノクローム様の代弁者として貴女に話があったから」
普通のモノクロームとは違い光沢のあるモノクロームとしての姿に変わったビショップは先ほどの大人っぽい少女のような姿では感じ取れなかった、相手に恐怖を与える禍々しいオーラを放っていた。
ポーンはそのオーラを感じ無意識のうちにモノクロームの姿に変わり跪いていた。
「モノクローム様の伝言です。『ポーン自身が作り上げた裏切り者ホースポーンを自身の手で処刑しろ』とのこと」
「わかり、ました」
ポーンの言葉はどこか歯切れが悪かった。
「奴の力が圧倒的とはいえ所詮は貴女の作った人形。モノクロームの幹部である貴女が負けるなんて事が無いように」
ビショップは人間のような姿に戻った。
「お姉さま、それはモノクローム様の代弁者としてのお言葉ですか?」
ビショップはポーンの言葉に答えず部屋の扉を開けた。
「姉から出来の悪い妹に対しての忠告です」
振り返らずにそう言った。
「クジ引き、綿あめ、りんご飴、焼き鳥、串焼き……見つけた」
黒い浴衣の少女は出店が並ぶ歩道を歩き自分の考えたリズムに乗ってそう呟きある出店の前で立ち止まった。
「いらっしゃい」
「おじさん、一回やっても良い?」
少女は百円玉を三枚取り出し出店の主人に手渡した。
「はい、丁度ね。お嬢さんカメすくいは始めてかい?」
「動物を救うのは得意です」
「ほう、そうかい。それじゃあ頑張って」
少女は主人から紙の部分がモナカになっているポイを貰った。
少女はそれを使って水槽の中で活き活きと泳いでいるカメをすくった。
しかしカメはポイの上でジタバタと暴れ少女のポイに大きな穴が開いた。
「残念。でも特別にこの子をお嬢さんにプレゼントしよう」
主人は少女の取り逃がしたカメを素手で捕まえビニールの袋に入れて少女に渡した。
「良いの?」
「可愛い子にはサービスだ」
「ありがとうおじさん。お礼に……」
「殺してあげる」
少女は黒い煙に包まれ煙が消えたときには浴衣の少女から異形の怪物に姿を変えていた。
「あ、あぁ」
「私、大好きなんだ。人間から住処を奪われる動物を救うの」
異形の怪物は黒い鞭を思い切り振り主人の心臓を貫いた。
「さぁ、出番よタートルーク」
異形の怪物となった浴衣の少女、ルークは胸に真っ赤な花を咲かせた出店の主人から貰ったカメにモノクロチップを与えた。
モノクロチップから人間態のルークをモノクローム態に変化させたものと同じ煙が湧き立ち小さなカメは主人を取り込み二メートル台の怪物へと変化した。
「それじゃあ」
それだけを呟くとルークは再び黒い煙を立ち込めさせ、その中に消えた。
静けき森の中、俺は地球の生命を感じていた。
「燃えたぎる夕焼け、風に揺れる木の葉、水のせせらぎ……邪悪な闇は不必要だぜ、ポーン様」
天然の自然溢れるこの森で気配を消せるとでも思っていたのだろうか。
「ホースポーン」
無意識に俺の頬の筋肉が緩んだ。
と言っても、今は人間態では無いからただの比喩でしかない。
「俺の名前、知っていてくれたんだな」
「私の作ったモノクロームですから」
「そうだな。俺はポーン様に生み出されたモノクロームだ。あんたが俺を忘れていた間もずっと」
「辛かった、でしょう?」
ポーン様は人間態のまま俺に歩み寄ってきた。
「ずっと一人で寂しかったでしょう?」
俺は否定も肯定もせずただ歩み寄ってくるポーン様を見つめた。
「もう、辛いことはありません」
俺の核であるモノクロチップを正確に狙ったポーン様の攻撃を俺は真っ白な剣で受け止めた。
「ポーン様に俺は倒せない」
俺もポーン様を倒せない。
「そう、ですか?」
ポーン様はモノクローム態に変わり真っ黒な槍を大きく振り回した。
「懐かしい姿だ」
ポーン様のモノクローム態を見たのは初めてのはずなのに俺の口からボソッとそんな言葉がこぼれた。
「貴方を処刑します」
ポーン様の背後には闇が広がっていた。
邪悪なその闇が俺の目には輝きを失った黒い光として写った。
最近はモノクローム側の話が多くなっていますが、そろそろ主人公たちの出番です(多分)。
展開が当初の予定以上に早い気もしますが今後ともよろしくお願いします。
評価や感想など随時お待ちしております。




