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簒奪のスヴァルトアールヴ  作者: 銀丈
第一章 妖精、来たる
2/9

第一話 銀星学園

【一】

 始業前の校舎は静かなざわめきに満ちている。無論、玄関も。

 開かれた下駄箱から、白い封筒がひとつ、こぼれ落ちた。

 しゃがんだ拍子に、幅広の黒いリボンでひとつに束ねられた長く青い髪がしなり、跳ねる。拾い上げた封筒が赤いハートのシールで封をされていることに気付き、下駄箱の主は薄黄色(シトリン)の眼を細めた。

 ラブレター。そのいかにも少女然と整った線の細い容貌には違和感のない贈り物であった。

白郎(しろう)

「あ? 何だ天城(あまぎ)

 呼びかけに横目で応えながら、黒髪を逆立てた目つきの悪い少年が「相模(さがみ)」と記された下駄箱を開き革靴と下履きを入れ替える。

「どうしようか」

「なんでオレに訊くんだよ」

 封筒を示して逆に問われ、うつむき加減のブレザーの背を半ば隠している青い髪(サファイアブロンド)が小刻みに震える。笑っているのだ。

「女の子だったら、存在を完璧に無視されてる「彼氏」の機嫌をうかがうところかな、と」

 そんな言葉に、相模白郎の顔はさっと赤らんだ。

「ばッ……誰が彼氏だ! てめー男だろうが!」

 指摘を呼び水に、抑えはとうとう利かなくなったらしい。天城と呼ばれた少年は腹を抱えて笑い出した。

「あっはっはっはっはっ!」

「オレをおちょくるためだけに話振りやがったな!? きれいな顔しやがって、このトラウマ野郎ッ!」

「うん、まあ、そうなんだけど――俺が白郎を好きなのは確かだよ。そうでもなければ、いつもつるんでるわけないだろ?」

 穏やかな感情のこもった微笑に嘘はなく、その整った造形ともあいまって白郎を再び赤面させるに十分な美しさを帯びていた。事情を知らない者の目にはさわやかな男女関係の一幕に映ったことだろう。二人ともが男子の制服を着ていることを思い過ごせれば、だが。

 言葉に詰まる白郎の背後から、不意に声がする。

青邪(せいや)緋影(ひかげ)がいるのに白郎を誘惑するのは、多分ダメ」

「誘惑はしてないよ碧紗(へきさ)。ただの説明だ」

 のけぞり気味に振り返る白郎の肩越し、天城青邪はそこにいた無表情な少女に応えた。

「誘惑じゃない?」

 小首をかしげ、ウェーブのかかったツインテールを揺らして問い返す少女に、青邪はうなずく。

「誘惑じゃない」

「そう。ならいい」

「いや突っ込めよ藤堂(とうどう)。フォローしに来たのか引っかき回しに来たのかどっちなんだよ」

 白郎を見つめて沈黙、少し考えた風情で、藤堂碧紗は答えた。

「引っかき回しに来た。元気な白郎、好き」

「愉快犯しかいねえッ!? チクショウ、霧生(きりゅう)一条(いちじょう)もいつ帰ってくんだよ!」

 やけ気味な白郎の叫びに、青邪の表情がにわかに陰る。

「そうだな。緋影遅いな」

 つぶやきながらおもむろに白郎の背中へ添うと、胴を両腕で締め上げる。それを「抱き締める」と表現するには、こもった腕力は苛烈に過ぎた。

「……緋影が足りない」

「いてててて放せ天城! てめー美形のくせに胸板固えんだよ!」

 もがいてもびくともしない。青邪とその恋人が日頃一目瞭然のバカップルぶりをさらしているのは白郎もよく知っている。二人とも白郎の共通の友人だからだ。しかし、片割れがいないだけでまさかここまで取り乱すとは。

「つかなんでオレ!?」

「俺、二番目に白郎好きだし」

「オレ男に興味ねーから! いつもおまえ聞き流してっけどオレノーマルだから!」

「前、お風呂で会ったとき、私の裸見て逃げちゃったのに?」

「男湯に平気で浸かってんなバカ! ありゃ誰だって驚くわ!」

「白郎が嫌なら……仕方ない」

 白郎と碧紗の掛け合いもどこ吹く風、青邪はしょんぼりとうつむき加減で白郎を放し、歩き出した。

「ああ、おい、へこむな親友。おまえがいらないわけじゃねえから。霧生もそのうち帰ってくるって」

「うん、もうすぐまた全員そろう」

「ああ、そうだな。ありがとう」

 青邪を追って、白郎と碧紗も歩き出す。始業前ということもあり、廊下をすれ違う人はまばらだ。大半が教室でクラスメイトと話しているのだろう。

 壁はもちろん床に至るまで、一面が木目を活かした木製、そうでないところは白を基調に塗装され、色遣いを含めて調度に気を配ってある内装には語るまでもなく高級感がにじみ出ている。

 私立銀星(ぎんせい)学園。

 富士山麓(さんろく)に構えた広大な敷地に、小学校から大学までの教育機関が揃う全寮制のマンモス学園である。敷地内には、かつて汎用人型作業機械「ガンスレイヴ」を世に送り出した巨大企業、真行寺(しんぎょうじ)重工の研究機関が併設され、一種の学園都市の様相を呈している。

 元はといえば真行寺グループの研究開発機関とそこに勤務する人間のための寮が始まりなのだが、現在ここは全国から様々な人材を特待生として迎え入れ、教育機関としての活動にも力を入れていた。

「そういや最近、特別カリキュラムやってねえな。一条いねえと何か張り合いがねえっつーか」

 何気なくつぶやく白郎に、碧紗が目を向ける。

「私も体がなまりそうな気がしてた。白郎、放課後にでも付き合って」

 さあ、と白郎の顔から血の気が引いた。

「いや、やっぱオレ真面目に課題やるわ」

「私とは、嫌?」

 小首をかしげ、白郎の顔をのぞき込む碧紗。表情の色は薄いが、反応をうかがう様子に無関心な冷たさは見えない。

「嫌っつーか、無理だろ。おまえストレートに仕留めに来るし。相手できるの天城くらいじゃね……って、どうした天城」

 先行している青邪の顔をのぞき込み、白郎は首をかしげた。青邪の顔がいつの間にか困惑の表情に占拠されているのだ。落ち込んでいないのはいいとして、困惑とは。日頃から行動を共にしている白郎の記憶の中でも珍しい表情だった。

「差出人、女の子だ」

 封筒の中にあった便せんから顔を上げ、青邪が振り返る。

「へ? いいじゃねえか。勘違いされるよりは。初めて霧生に妬いてもらえんじゃね?」

 美形も過ぎると厄介らしい。本来女性の専売特許である「美」で並みの女性を超えてしまっている青邪は、基本的に女性から恋愛対象として認識されないのだという。誇るというよりぼやきの形で、白郎は青邪の恋人の口からそんなことを聞いたことがあった。

 脇目も振らないバカップルの間に邪魔が入らないだけなので、実際は誰も困らないのだが。

「いや、俺のことを女だと思ってて、女として惚れてるらしい」

「は?」

「お姉様とか書いてある」

「……百合」

「女好きの女からのラブレターってことか。ひねりの利いた勘違いだなオイ」

「ラブレターを同性からもらった経験はあるけど、こういうのは……初めてだ」

 初めてと聞いて、黒目がちの碧紗の眼が、きらりと輝く。

「……お赤飯……!」

「いらねーよバカ。全然めでたくねえし」

「白郎、さっきから冷たい」

 つぶやきながら、口だけがとがる。表情そのものには変化がないので、真面目に言っているのか、ふざけているのか、一見しただけでは判らない。

「いや、平常運転だろ」

「そう」

 直後、衝撃。白郎の視界から碧紗が消えたかと思うと、肩越しに伸びた両腕が白郎の首を締め上げ、首筋から腰にかけて柔らかな重みがかかった。

「……いい加減オレも慣れたけどな。そういう無防備なのはどうかと思うぜ」

 おとなしく碧紗をおんぶして歩きながら、白郎。無駄なく引き締まった細い体から押し当てられる確かな存在感のせいで、どうしてもその顔からは赤みが失せない。

「大丈夫。キスは迫ってない」

「そうじゃなくて、勘違いしちまうだろうが……」

 噛み合わないやりとりに肩を震わせながら、ふと青邪は顔を上げた。

「そういえば、今日古典の課題提出期限だ、け、ど……白郎」

 浮かんだ苦笑が、言葉が進むごとに深まった。弾かれたように青邪を振り返る白郎の表情は真っ青に凍りついていたのだ。

「教室に着いたら速記大会だな。よく見て急げよ?」

「ありがてえ! 心の友よ!」

「どこのガキ大将だ。それこそ気にするな親友――」

 青邪の語尾を食うように、校内放送の呼び出し音が響いた。

『生徒会執行部、安全保障委員の皆さんは、至急、執務室へ集合してください』

「朝から招集?」

 スピーカーを見上げ、青邪がつぶやく。その左腕には青地に白字で二行「生徒会執行部」「GUARDIANS」と記された腕章があり、白郎と碧紗も同じものを身に付けている。

「たぶん、緋影たちのこと」

「進展があったということかな」

「課題出さずに済むんなら何でもいいぜ!」

「いや、補講は確定じゃないかな」

「チクショウ、古典なんて嫌いだ!」

「白郎、全科目でそれ言ったと思う」

「コンプリートかよ嬉しくねえ……」

 ぼやく白郎の頭に、碧紗の掌が乗る。

「いい子、いい子」

「……ありがとよ」

 歩調はそのまま、三人は始業前のざわめきが漏れる教室の前を素通りした。

 ほどなく着いたのは、生徒会執行部安全保障委員会執務室、と長い木の看板が掛けられた入口。軽やかに開く引き戸の中は、長机と椅子が整然と並び、書類一枚たりとない殺風景な部屋。

 青邪は迷うことなく部屋の奥へ進み、並んでいるロッカーのひとつを開いた。

 それはロッカーの外観に反して広く、そして底に大きな穴が口を開けていた。青邪がそこへ飛び込み、白郎、碧紗も続く。

 無人となった執務室に、ロッカーがひとりでに閉まる音と、ロッカーにあるまじき重厚な施錠音が複数こぼれた。



【二】

 特務機関≪XENON(ゼノン)≫。

 それは世界有数の技術を保有する真行寺グループの力を結集した組織であり、本部施設の大半は地中に建造されている。

 存在こそ公表はされているが、関連施設がどこにあるかを知る者は少ない。まことしやかにささやかれているのが、真行寺グループの総本山である真行寺重工が直接運営する、学園都市の地下にあるという説。

 肯定する者も否定する者もない、そもそも暴露する手段のない都市伝説同然のそれは、事実に対しては下手な情報隠蔽(いんぺい)よりも堅固な目くらましであった。

 そう。それは確かに、そこにあるのだ。

 作戦司令室のモニターの中には土がむき出しの平地が広がり、鋼の体の兵士が三体、整列していた。

 ダークグレイで統一された装甲には装備固定用のハードポイントが複数用意されているが、腰の後ろ側を除きそのほとんどは空いていて、スマートなシルエットがよく判る。

 戦闘用ガンスレイヴ〈アリスⅡ〉。映像が撮影された当時の最新鋭機だ。

 その前に姿を現したのは、つやのない白い装甲が散発的に配された機体。先の〈アリスⅡ〉同様に細身ながら、両肩から後方へ張り出した翼のボリューム感ともあいまって、元々全高が三分の二に満たない〈アリスⅡ〉との間には顕著な体格差を感じさせる。

 ティマイオス〈厭輝(エンキ)〉。ヒトの手で建造された「遺産」の、試作初号機である。

 対峙から数秒、〈アリスⅡ〉が動いた。腰のハードポイントから小銃を引き抜き、躊躇(ちゅうちょ)なく引き金を絞る。轟音と共に砲弾が続けて吐き出された。ガンスレイヴの武装は人間の規格をそのまま拡大したものであり、装甲されたガンスレイヴを砕くためのものだ。

 人体など跡形も残らない、戦車砲に等しい砲撃を前に〈厭輝〉は棒立ちだった。その白い機体が、三方向からの砲撃によって跳ね上がる土と砂埃の中へ瞬く間に埋もれていく。

 撃ち方やめ――一斉に〈アリスⅡ〉が砲撃をやめた。その統制から搭乗者自身の兵士としての練度の高さがうかがえる。

 視界が晴れてゆく。月面よろしくクレーターだらけに変じた地形の中、浮かび上がる白色は五体満足。何か構えを取っている風でもなく、相変わらず棒立ちであった。

 続いて〈アリスⅡ〉の一体が小銃を腰のハードポイントへ戻し前進、這うような低姿勢で疾駆する。それと判る挙動なしに、手には既に大振りのナイフが握られていた。

 高周波振動ナイフ。微細な刃を超高速で振動させ無類の切れ味を生み出す、言わばチェーンソーの進化系。ガンスレイヴの軍事転用と共に生まれた「人型であるがゆえの武装」で、接触さえ可能ならガンスレイヴの装甲など易々と寸断する。

 本来まず行われないであろう零距離戦闘であったが、火器が通用しない以上、これ以外の選択肢も限られていた。

 極小の動きで刃が突き出される。歴戦の強者が搭乗者であることを疑う余地のない、洗練された殺意はしかし、虚空で停まった。

 ナイフの刃は、その延長線上に〈厭輝〉の首筋を正確に捉えていながら装甲に触れることも叶わず、不可視の力に阻まれているのだ。引いて返す刃が逆手から脇腹に閃くが、こちらも急激に減速し、虚空で静止する。

 障壁ではない。しかし、搭乗者の訓練を兼ねて最低限に留められているに過ぎない射程内に収まれば、火器は撃発すらしなくなる。その絶対的な領域を、ティマイオスに(たずさ)わる者たちは【租界】と呼んでいる。

 周囲の物理法則に干渉する「支配権」は、まっとうな兵器では貫通できないのだ。

「司令」

 銀星学園理事長、真行寺厳一郎(げんいちろう)は、聞き慣れた声に、過去の映像データから顔を上げた。折り目正しいダークスーツ姿の妙齢の女性が、書類の束を手に控えている。

妹尾(せのお)君か。ご苦労」

「新たな特待生候補の選抜経過について、報告をお持ちしました」

「うむ」

 椅子に腰を沈めたまま、渡される書類の束をめくり、顔写真や身辺情報に目を通す。再び上げられた顔に浮かぶ表情は、眉間(みけん)に深く刻まれた年季を差し引いてなお苦かった。

「少ないな。そして、素質にも不安がある。一番隊の組織は当分先になるか」

「はい」

 戦車をしのぐ機動性、汎用性を持つ最強の陸戦兵器、ガンスレイヴ。搭乗者の脳から直接意思を拾い上げ機械で再現した人体へ落とし込むインターフェイスの特性上、熟練した兵士の搭乗によってその戦力価値は更に跳ね上がる。

 それに似て非なる別次元の制圧力を有するティマイオスは無敵に見えるが、通常の人間には起動が叶わない。そして搭乗資格者であるチェンジリング自体、ほとんど存在しなかった。希少なだけでなく、ある時期以降に生まれた人間の中にしかその資質が見られないのだ。確認されている限り最古のチェンジリングも、まだ若者といっていい年代でしかない。

「現在〈エレイユヴァイン〉の解析も進展を見せてはいますが、例のシステムは未だ再現できていない状況です」

「結局、年端も行かない若者に頼るしかない。歯がゆいな」

「……ええ」

 ティマイオスという存在は、四年前に突如姿を現した。現在では「女神事件」と呼ばれるそれを皮切りに、世界各地でティマイオスによる破壊活動が散発的に起こっている。

 事件解決の折、ティマイオスは全てのケースで爆発もしくは炎上。搭乗者の身元が判るケースは少なくないが、解決の時点で死亡しているため、証言も機体の解析データも得られない。そして事件同士の関連性はまるで見られないのに、使用されているのは同型もしくは同系の機体。確実に後ろで糸を引いている何者かへ至る手がかりは、未だ世界各地のどの機関もつかめずにいる。

 そしてこの≪XENON≫は、正体不明の脅威に対抗するため発足した、数少ない実戦レベルのティマイオスを保有する対ティマイオス戦闘組織であった。

 沈んだ空気の中、軽い音を立てて自動ドアが開いた。

(れい)番隊、天城青邪。出頭しました」

「呼んだか――じゃねえ呼びましたか司令」

「来た」

 続けざまに入ってきたのは、白いパイロットスーツに身を包んだ青邪、白郎、碧紗の三人だった。

「来たか。朝から苦労をかけるな」

「どうかされたんですか?」

「霧生君から連絡があった」

「――緋影から」

 即座に言葉の続きを要求する青邪に、厳一郎はうなずいた。

「例の件だが、間違いなくオリジナルのティマイオスだそうだ。間もなくこちらへ向けて現地を発つ手はずになっている。ついては」

 厳一郎の目が白郎と碧紗に向けられる。

「相模君、藤堂君。霧生君の〈厭輝(エンキ)二式〉と共に、急ぎ調査隊に合流してもらいたい。今回の件は隠密裏に進めているが、知っての通りオリジナルのティマイオスはオーバーテクノロジーの塊だ。こちらの隠密行動を逆手に取り、どこがどのような強硬手段に出て来てもおかしくはない」

「あ、ああ。任務だし、オレはいいけど……」

 うなずきながらも歯切れの悪い白郎の視線をたどり、厳一郎の目が青邪に戻る。

「天城君」

「分かっているつもりです」

 言いながらも青邪は腕組みをし、目を伏せ気味に言葉を続けた。

「俺は〈エレイユヴァイン〉しか動かせない。それが研究のために封印されている今、戦力は白郎と碧紗だけだ」

「そうだ。だが、一条君からも『ジャバウォック』が最終調整に入ったと報告があった」

 その言葉に、青邪の目が見開かれる。

「D型装備が?」

「近く実戦配備が可能となるだろう。その早期受領を期すためにも、君にはここに残ってもらいたい」

「了解しました」

「最大戦力「だから」出られないって、考えたら変な話だよな」

 青邪と厳一郎とのやりとりに、白郎がつぶやく。

「天城が乗ったら並のティマイオスはぶっ壊れる。オリジナルの〈エレイユヴァイン〉なら動かせる。オレらの機体、マジで劣化コピーみたいだ」

「その通りです」

 白郎のつぶやきを食うように妹尾の言葉がすべり込んだ。

「私達はそんな装備でオリジナルに挑まなければなりません。となれば、今回の任務の重要性も自ずと明らかですね」

「あー、えっと……そ、そっすね」

 静かながらも馬力を感じる語調に、白郎が思わずたじろぐ。

「〈撃震(ゲキシン)〉、〈非天(ヒテン)〉、並びに〈厭輝二式〉は既にゼノアークに搭載完了。出撃可能な状態にあります。発進予定時刻は一時間後。準備完了次第、この司令室へ集合してください。調査隊合流後の作戦行動については相模副隊長を指揮官とします」

「お、オレ!?」

 目をむく白郎に、青邪の声が飛ぶ。

「順位から言えば当然だろ? 隊長の俺がお留守番するんだから」

「天城まで……マジかよ」

 厳一郎の指示以降の落ち着かなげな腕組みを解き、青邪は白郎の目を真っ向から見た。

「緋影と碧紗を頼む」

「……わかった。天城にそうまで言われちゃしゃあねえな」

 青邪に対する白郎の返答にうなずくと、厳一郎は改めて口を開いた。

「≪XENON≫零番隊、出撃準備」

「了解!」

「了解」

 騒々しく走り去る白郎に続き、碧紗も無音で自動ドアの向こうへ消えた。

「ところで」

 沈黙を払うように、青邪が口を開く。

「俺、何をしていればいいですか?」

「メディカルチェックを改めて受けたまえ」

 即答した厳一郎の表情は、またしても苦い。

「霧生君との電話のためだけにすっぽかしたのは把握済みだぞ。……霧生君もそうだが、君は極めて稀少な『完全体』だ。後続のためにもデータ採取をおろそかにされては困る」

「……すみません」

 今回の沈黙は、青邪に払うことはできなかった。


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