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ダンジョン調査中

お待たせしました。


やっと、次回主人公カナタンが登場できそうです(笑)



 今日もアグス村のダンジョンの入口は多くの冒険者が行き交う。ただ晴天だったはずなのに、ダンジョンの周囲は怪しい霧が立ちこめていた。


「今日はどうも蒸し暑いな―。変な霧もでてるし。…あ、どもども冒険者の皆さん、ギルドカードの呈示と通行料を…。え?通行料をまけてくれ?だめですよ―。私達門番が入口を取り締まってるから不穏な輩が探索中に襲ってこないし、未熟な冒険者が危険をおかしにいかないでしょうに。……はぁ、ダメなものはダメです。どうしてもと仰るならギルドマ、ーーえ?極悪非道鬼畜ギルマス?

…ほぅほぅ、そのように伝えておきましょう。ええと、貴方の名前はっと…」


 ダンジョンの入口で、冒険者と門番の通行料を巡る口論をジッと見つめる視線があった。しかしその場には、若い冒険者と厳つい顔の門番しかいなかった。いや、正確には霧に扮した神崎がその場にはいたのだ。


ふむ、ギルドカードと通行料ですか。システムとしては悪くないですが、ちょっと面倒ですね。そもそもギルドカードは持ってませんし…。仕方がありませんね、霧のまま入って、人のいない所で変身を解除しましょう。


ビュー――ゥ

ビュー――ゥ


 突然強い風がふき、に怪しい霧は風に乗ってダンジョンに入り込む。門番が気づくと怪しい霧は立ち消え、空は青く晴れていた。



コツコツコツコツ

コツコツコツ


 神崎はエルフの姿に戻り、茶色いフードを深く被り、ダンジョン内を歩いていた。魔物に襲われている冒険者を観察したり、宝箱の中身をチェックしたりとダンジョン内を評価して回った。しかし神崎は一度も魔物と戦わずに地下1階、2階、3階と降りていった。何故なら神崎が模していたのは、ただのエルフではなかった。金の瞳に銀の髪を持ち長く先が尖った耳を持つ、この世界でたった1人の古代ハイエルフだったのだから。自我を持たないノーマルモンスターは、本能で適わない敵には挑まなかったのである。


「ふぅ、流石にハイスペック過ぎましたか。ノーマルモンスターは私を恐れて襲って来ませんし、魔物合成の評価がしづらいですねぇ。さて、次は問題の地下6階ですか。………おぉ!こ、これは!」


 地下6階に足を踏み入れると、赤黒い灯りで照らされた家屋や柳・川などが見える。おどろおどろした不気味な音が遠くから鳴り響き、川底からは恐ろしい呻き声が聞こえてくる。家屋に目を向ければ、半透明の人が出たり入ったりしては、怪しく笑っていた。

 どうやら地下6階はお化け屋敷のようだ。村での情報では図書館とのことだったから、最近ダンジョン改変されたのだろう。それにしても、不気味だ。


「ふふっ、ダンジョンの中なのにお化け屋敷とは。実に良い発想ですね。ですが見た目だけじゃだめですよ。中身はどうなのでしょうね。…あ、どうもこんにちは、ゴースト君。そんなにビクビクしないで下さいよ。取って食うなんて事しませんし。ふむふむ、君はアレと合成されてるんですねぇ。なるほど…」


 呻き声がする不気味な川の橋を渡り、テクテクと様々な家屋の横を通り過ぎる神崎。様々な場所から飛び出る幽体に挨拶しては観察し、合成具合を確認していく。お化け屋敷もそろそろ終盤だろうか、と思い始めた頃、視界の端に2人の冒険者と幽体が口論している姿が映った。


「おや、あれはバルーさん達ですねぇ…」


 怒った表情で幽体に詰め寄る冒険者は、ナーシェとバルーの2人だった。


「ちょっと、アンタもあのブラックフェアリーと同じような魔物なんでしょ?」

「魔物は斬る!」

「ぼ、僕は良い幽霊です!封じ込められてた宝石を見つけてくれたお兄さん達にお礼として下の階へ、お」

「あの女狐と同じパターンだわ!」

「し、知りません!」

「問答無用!」


 紅に輝く宝石を核とした幽体が、どうやらこのフロアの責任者のようだ。宝石から強い魔力が感じられる。バルーが剣に炎を纏わせて幽体を切りかかると、幽体は咄嗟に赤いバリアを張り攻撃を防ぐ。


「やっぱり力を隠してるのね!」

「うっ、でも僕は非戦闘員です。」

「俺の攻撃を防いでいながら言い訳か?」

 バルーは蒼火を幽体に繰り出しながら切りかかり、ナーシェはこの階で捕らえた土属性の幽体ロックゴーストと《ナイトスケルトン》を召喚し攻撃を命じた。紅宝石の幽体は攻撃に対して防御に徹するも、徐々に苦悶の表情を浮かべていった。


「うぅ、止めて、いたいよ。痛い痛い痛いいた…」


 幽体の呻き声は次第に大きくなり、宝石から禍々しい紅色の光が溢れでる。幽体の周囲の魔力が膨れ上がり、バルー達を呑み込む勢いがあった。


「痛い痛い痛いいぃぃぃぃ…。赦さない赦さない赦さないぃぃぃぃぃ…」

「こ、こんな馬鹿な魔力ってアリなの?」

「逃げろっ、ナーシェ!」


 2人に逃げる隙も与えず光が呑み込もうとした瞬間、辺りに叫び声が響き渡った。


「ギャァァァァァァ」


 張り裂ける様な叫び声をあげたのはバルー達ではなく、優勢だったはずの幽体だ。強い魔力を発していた宝石にヒビが入り、幽体は全身に駆け巡る痛みに苦しんだ。禍々しい魔力の光を浴びるはずだった空間には、清らかに光るドームが形成され、2人の目の前に幽体から守るように立つ人物がいた。


「どうやら間に合ったようですね。大丈夫ですか?」


 2人を助けたのは、神崎だった。最初は観察に徹していた神崎だったが、このパーティならボス部屋まで行くだろうと考え、急遽助けに入ったのだった。


「「アキラ!?」」

「とりあえず話は後にして、目の前の敵を倒しましょう。私の力では本体にヒビしか入れられませんでしたから。止めは、バルーさん、お願いしますね。」

「本体?」

「あの幽体は宝石を核にしています。ですから宝石を割ってしまえば倒せるはずです。この階の幽体は皆、何かの物質に宿ってるにすぎません。私の魔法で守りますから、はやくっ」

「わ、わかった。」


 幽体は痛みに悶絶しながらも、再び魔力を膨らませ始めていた。


「光よ風よ、森の民の声に応えよ。血に汚れた闇を吹き飛ばせ《ホーリーストーム》。光よ集え、闇に打ち勝つ聖なる加護を我らに与えよ《天使エールの歌声》。」


 神崎は呪文を唱え、聖なる風で禍々しい紅い光を飛散させ、光属性の衣をバルー達に纏わせ続けるために、神秘的な歌声を披露した。歌っている時の神崎は、男性なのに女性のような美しいソプラノ声。歌いだす前にはなかった華やかさを放ち、母のような温かさと父のような逞しさを同時に発していた。神崎の体は光輝き、背には鳥のような白い翼をもち、歌いながら浮いていた。


「な!光と風の混合魔法!しかも続けて、憑依魔法まで!」


 神崎が天使エールを憑依させて歌い、ナーシェが驚き呆けている間にバルーは宝石を剣で砕いた。


「ギィァァァァァァァァァ!」

「終わったな。」

「赦さない赦さない赦さない…。後で覚えてろよぉぉぉ」


 宝石が砕かれ力を削がれた幽体は捨て台詞を吐いて消え去った。幽体が去ると同時に神崎の憑依魔法も解け、元に戻ると呆けていたナーシェも正気に戻ったのだった。


「アキラ、助かった。感謝する。」

「…アキラ~ナニアレ!光属性は驚いたけど、エルフだからって事で百歩譲ったとしてもよ。混合魔法に憑依魔法ですって?まさに私達が探し求めていた高位の魔法使いじゃない。ねぇ、正式に私達のパーティに入らない?」

「…俺からも頼む。」

「え―と、そうですね。……大変魅力的なお話なのですが、エルフの里の任務でこのダンジョンを調査しに来ただけですので。」

「そっか、残念だわ。」

「……今日限定で、臨時パーティを組むのは構いませんよ。」

「本当か!?それでもいい。助かる。」

「とりあえず、今日だけだけどよろしくね。」



 神崎が臨時だがバルーのパーティに入った事で、高位モンスターの脅威は大部減った。神崎は高位魔法でパーティ員を守ってくれるだけでなく、魔物の弱点に合わせた属性魔法の補助魔法で助けた。そのおかげでバルー達は安心して戦えたし、2人だけの戦闘より楽に敵を葬れた。


「やっぱ、魔法使いがいるといないとじゃ全然違うわ―」

「確かに清々しい気分だな」

「そういっていただけて嬉しいです。さて、やっと10階ですね。」

「ボスはやっぱりさっきの宝石少年なのかな―」

「アキラ、守りは頼んだ!」


 3人はスイスイと階段を降り進め、ボスのいる地下10階へ降り立った。バルーとナーシェには同じみで屈辱の階である地下10階。祭壇があるだけのフロアには、少女がいた。


「あら?いらっしゃいませ。私の大事な大事な坊やを悲しませた酷い御方たち。歓迎しましょう。」


 地下10階へ降り立った3人に背を向けていた少女は、そう言って振り向いた。少女は1メートル程の身長しかなく、色白でまるで人形のようだった。美しく艶のある黒髪は腰まであり、額に菱形のエメラルドの宝石が填まり、唇には紅がうっすらと塗られていた。服装もこの世界では見かけない鮮やかな着物で、バルーとナーシェの目には奇異に映った。


「ふふふふっ」


 少女は笑みを浮かべて笑いだし、宙に浮かんだ。そして少女は、バルー達の足元を指差し指を振った。すると少女の指の振りの動きに合わせたかのように、地面が揺れ、地面に裂け目が走った。


「無詠唱で地震ですか。さすが、ボスですね。でも…」


 地面の裂け目にバルー達が落とされそうになるも、神崎は無詠唱で3人の背に半透明の翼を与え、体を浮かせた。


「あら、随分と高位の魔法使いがいたのね。ならこれで、どうかしら?」


 少女の周囲に様々な色の宝石が浮かび上がると、少女はその内の1つを選んで掴み何やら呟きながらバルー達に向けて放った。そうして現れたのは1匹の鋼鉄の龍だ。


「「何?地龍!?」」

「……あれはシュードラ。地属性の龍で高位に属し、アーシュラ神から名を賜る程の実力を持つ。鋼鉄の体をもつにも関わらず軽やかに宙を舞い、口から高熱の炎を吐き出せる。」

「そうよ、頼もしい龍でしょう?…にしても、貴方博識ね。」


 シュードラの目がギョロリと動き、バルー達を鋭く睨んだ。鉄分の色だろうか、漆黒と言える程の色濃い黒の瞳から、肩がすくむ程の殺気が放たれた。それだけでバルーとナーシェは萎縮してしまった。


「バルー!ナーシェ!」

「「はっ、あっ。」」

「しゃんとして下さい。シュードラは確かに強敵です。ですが、バルーの蒼火でなんとか勝てる相手です。ナーシェと協力して倒して下さい。私の相手は」「私ね。ふふふっ」



 対シュードラ戦では、ナーシェが複数の魔物を召喚しシュードラの足留めを担った。ナーシェがつくった僅かな隙をついて、蒼火を全身に纏い闘うバルー。シュードラの体は硬いが、純度が高い蒼い炎によって少しずつ傷がつき、それが積み重なって大きなダメージを与えた。


「はあぁぁぁぁぁ!」


 ダメージが大きく少しよろけた隙を見逃さず、バルーは渾身の力で剣を振った。

 一方の神崎と少女は無詠唱魔法や高度な魔法の短縮詠唱を互いに繰り出し、バルー達がシュードラを倒した頃には祭壇は更地と化していた。


「はぁはぁはぁはぁ、やるわね貴方。」

「ハッ、それはこちらのセリフですよお嬢さん。地属性だけで、私とここまで闘える魔法使いに久々に出会えて僥幸ですよ。」

「フッ、アーハッハッハッ」

「何がおかしいんですか?」

「私が地属性しか使えないなんて、誰がいったかしら?」

「ま、まさか!」

「ふふふふっ。……アグスの地に宿る風、水、火、地の精よ、集え。混ざれ。唸れ。放たれ!」


 少女の精霊への呼びかけで、4属性の魔力が辺りから集まりだし、集まる力が止む気配はなかった。魔力が少女の体の2倍程集まると、混ざり始め、段々と禍々しく力強い圧力をバルー達に与えた。


「バルー、逃げて下さい。これだけ大きな魔力の爆発は危険です!」

 神崎は体をガクガク震わせ、蒼白な表情でバルー達に訴えた。そんな神崎であったが、彼は演技派トリッパーなので、脳内はバルー達とは反対に明るかった。彼は能力を抑えて闘いながら、少女に好敵手が現れて嬉しいと平然と嘘をのたまった。そして闘いながら少女の弱点を既に発見していた。神官職か、サイレントスキルを持ってれば一撃なのにねぇ、と。


 少女は彼らに逃げる隙を与えず、魔力の渦が破裂した。バルー達は吹き飛ばされ気絶すると、ダンジョンの仕組みに則った処理をされ外へ送り出された。


「ふぅ、しつこくて粘っこい冒険者達でしたわね。さて、戦利品を回収回しゅ!」

「どうも~」

「な、なんで?生きてる!」

「あ、そうか、変身解除。」


 生きていたのは、勿論神崎である。驚いて目を大きく開いている少女の様子に構う事なく、マイペースにエルフの状態を解いた。変身が解かれて現れたのは、サラサラな短髪で黒髪な人間。端正な顔だちで、スーツをビシッと着こなしている。少女が見惚れていると、胸ポケットから名刺を取り出し、少女に差し出した。


「この度は素晴らしい戦闘を披露して下さりありがとうございます。私、株式会社トリッパー日本支局長の神崎と申します。我々がこちらへ派遣しました、田中彼方氏のダンジョン作成経過を評価しに伺いました。貴方の主人である彼の所まで、案内していただけますか?」

「はっ、わっ、えっ?…はわわわわわっ!えええぇ――」



 その日のダンジョンを探索した冒険者から、不思議な奇声が下層からこだましていたとかしていなかったとか、酒場のネタになっていた、とさ。

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