御主人様と私
とりあえず予約投稿第1弾は、今話でおしまいです。
私が生まれて初めて目にしたのは、まん丸の真っ黒な瞳。私を創造して下さったマスターである、田中 彼方様。創造者であるのに、全く驕った雰囲気もなく、私は直ぐに打ち解けた。
マスターは最初、カナたんと呼ぶようにと仰ったけど、そのテンションについていけず、私はマスターと呼ぶ事で何とか納まった。マスターをカナたんと呼びつつ、手の平の上で転がすミネア様を尊敬するわ。御姉様、私一生ついて行きます!
あら、話が脱線しちゃったわ。……私はマスターが初めて創られた合成モンスター。マスターから文字を戴いて、カナイという名前。マスターのネーミングセンスの悪さには、脱帽したわ。でも、結構気に入ってるのよね―。ダンジョンには魔物としての名前があっても、固有名詞をつけられた者は少ないから。あぁ、でもダンジョンの階が増えれば、私のような魔物も増えていくんだけどね。
「ん?カナイ、どーした―?変な顔して。
も、もしかして女の子の日か?」
「………。」
「やだぁ、カナたんたら~デリカシーな・さ・す・ぎ!
………オィ、後でしばくぞ、オラ!」
「みーちゃん、待った待った!冗談だって!お願いだから、その包丁しまって!」
こんなのが私のマスター、なんて理不尽な世の中なんでしょう。……なんちゃって。軽い冗談を言って従者に怒られてるどうしようもないマスターも、好きなんだよね。それに、6階での子どもキャラと10階でのお姉さんキャラの使い分けが、日々の楽しみだったりする。最初はね、マスターに無理難題だされたって思った。でも、冒険者達との関わりが楽しくて、演技にもつい熱が入っちゃったりして。このダンジョンで廃業したら、女優になろうかしら。
そういえば、あの魔法騎士さん、ついにパーティーを組んでたわね。でも、変な子なのよね―。
あの魔法騎士がソロを辞めて、探索しているってダンジョン通信に記載されてたから、どんな人を仲間にしたのかと、期待して6階で待ってたの。
そして来たのは鞭を持った、平凡な町娘ってとこかしら。何もない地面で転んでは、魔法騎士に謝って、どんだけドンクサイのよ。魔法騎士に手を取って貰って、頬染めちゃって、初々しいこと。対する魔法騎士は全く気づいてない様で、乙女の敵だわ―。
「ナーシェ、気をつけろ。この階は休憩所もあり、魔物も少ない。だが、人間を騙す妖精がいる。」
「妖精族ですか?私、見た事ないです。」
「正確には妖精族ではないそうだがな。」
「でも―、バルー様は以前その魔物の力で下の階に行ったのですよね?」
「あぁ。だが10階で一度会ってしまったからには戦闘を避けられないだろう。」
「はい!」
「やっほ―」
「出たな、諸悪の根源!」
「可愛いお姉さん、騎士さんの彼女~?」
「え?や、そんなぁ~うふ。」
「誤解だ!」
「そうそう、誤解してるよん♪私には創造主様がいるから、諸悪の根源じゃないよーだ!」
バルーとカナイは口喧嘩でもしているかのような雰囲気である一方で、ナーシェは恋の期待を真っ二つに切られ落ち込んでいた。
「先日の屈辱を、今日こそは果たしてやる!」
「う~ん、騎士さ―ん、私この階じゃ力が制限されてるから全力だせないよ。それでもい―い?」
「なんだと?……なら尚更闘おうじゃないか!この階でお前を倒せなければ、10階踏破は夢のまた夢だろう?」
「…何、このバトルジャンキー。暑苦しいなぁ―」
「ナーシェ、君を頼りにしている!行くぞ!」
「!?………はい!」
結局、バルー達とカナイは戦闘する事になった。ナーシェはバルーの一言で、復活した。恋する乙女は、落ち込むのも復活するのも早かった。
「闇に属せし我の駒。召喚、ナイトスケルトン。目の前の敵を葬れ!」
「蒼き焔よ、剣に纏い、我が力となりて。」
「あらら~、水と土よ、鉄よりも硬く焔よりも強き壁にて、我が身を守れ!」
ダンジョンで使役した魔物を召喚したナーシェに驚きつつ、咄嗟にコンクリートの壁を作り守りに入ったカナイ。
「う―ん、召喚には召喚よね!」
「ちっ、なんだこの壁は!」
「スケルトンちゃんが~。なら……。土を喰らう大地の魔蛇よ、我が魔力を糧に現れよ。召喚、アーススネーク!」
「北国に住まわし氷の姫よ、契約に従い、我が身を守りたまえ。召喚、雪姫Lv20!」
「何!精霊召喚だと!」
ナーシェが召喚した蛇がコンクリートを食べている時、カナイは雪女を召喚した。現れたのは真っ白な着物を身につけた、色白の美少女。氷のような冷たい瞳に、触れた自分が凍るかねような白い肌、この世の者と思えない銀の髪の少女。
カナイは魔法使いのエキスパートのような者。たとえ能力が制限されていようが、レベルを落として使えば良いだけなのだ。
「どこまで規格外なんだ!」
「マスターはチートって言いますね。」
「あんなの勝てないわよ……」
闘いは続くものの、雪姫の守りを打ち破ることのできないバルー達。雪姫がうっかり殺してしまわぬように、カナイは雪姫を守りにしか命じていなかったが。
「で、どうします?負けを認めて引き下がるのと、闘いを止めて素直に下の階へ送られるのと、どちらがいいですか?」
「…最後まで諦めるものか!ナーシェ!俺の前に立って闘え!」
「あらあら、恋する乙女を盾にするなんて酷い男ですね―
雪姫、やっておしまい!」
「愚かな人間よ、その若さそのままに、凍らせてさしあげよう。」
雪姫が舞う。吹雪が辺りに舞う。視界は白銀の世界に包まれ、吹雪の音が耳を塞ぐ。音が止むと、そこには氷のオブジェができている、………はずだった。
「な!何故生きている?」
「ん~、もしかして、お姉さんもチート?」
「…やった!生きてる!ありがとう獣神様!」
「獣神?………カナイ様、恐らく獣神の加護で魔の力は効かぬ模様です。役立たず、申し訳ない。」
「ユッキーの舞いは素晴らしかったわ。それにあんな方法で逃れたなんて、馬鹿にしてるわ~!ぷんぷん!ユッキーの仇はとっとくから、雪姫返還!」
「ふっ、今の内に、反撃だっ!」
雪姫の攻撃が防がれ、劣勢に立ったカナイ。そこにバルーの剣がカナイを襲う。
「ちょこまか逃げるなっ!」
「逃げ、なきゃ、痛い、でしょ!」
「ナーシェ!」
「はい!召喚、ナイトスケルトンズ!」
バルーの攻撃から逃げるカナイの退路を、ナイトスケルトン達が塞ぐ。これで逃げ道はなくった。
「「あとは、叩きのめすだけ!」」
「くっ、ならば!天に住まわし聖なる神、アーシュラ神の使徒よ。契約に従い我を守り、敵を倒せ。召喚、ミエルLv20!」
「「は?」」
カナイが召喚の呪文を唱え終わると同時に、カナイの周囲を眩しい光が注がれた。闇に属するナイトスケルトン達は、ボロボロと崩れ去り、バルーの剣を纏っていた焔は蒼から橙に変化した。光が止むと、カナイの横には、教会の壁画に描かれる金髪で羽を持つ天使がいた。
「な、なんで、て、んしが?」
「え、魔物、なんでしょ?この妖精…。」
「詳細についてはノーコメントで。ミエルぅ~、私ね、今、スゴい腹立ってるの。獣神の加護なんて、ミエルには関係ないよね?」
「そうですね、聖なる攻撃は流石に防げないでしょうねぇ。
…くっくっくっ、お主も悪よのぅ。」
「アナタ、そのセリフ言いたかっただけでしょっ!」
結局ナーシェとバルーはボコボコにされて、地上に送り返されたのであった。
「ってな事があったの。ね、だから、マスター?なんか対策立てて?」
「う~ん、神の加護かぁ…
神崎さんに問い合わせてみるかな―」