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村娘と冒険者A

 ここはアーシュラ王国の東に位置する辺境の村。名をアグス村という。小さな村だか、近くに古代神殿がある名残なのか、高位神官を輩出する事で知られている。それ以外は何てことのない、のどかな村。神官様の御力もあって、不作知らずの畑があり、食べ物には困らない。だがこれといった特産物はない。名物はないが、高位神官がいるため、神官に癒しを求めて遥々やってくる人もいる。村の結界の外はソコソコ強い魔物がいるので、冒険者ギルドも村なのにある。

 そんなアグス村で生まれ育ち、特に都への憧れもなかった私。18歳で成人し、母の勧めでギルド受付嬢になって早5年、ベテランと呼ばれるようになった今日この頃だ。

 明くる日、私は運命の出会いをする。あの日から私は変わった。いや、目まぐるしく忙しくなったとも言うのかもしれない………。



 あれはまだ暑い乾期の半ば、1人の赤髪の冒険者が訪れた。彼は魔石が填まった防具に身を包み、熟練の戦士を思わせる圧力を周囲に放っていた。


「すまない、この依頼を受けたいのだが…」

「え?あ、はい。ギルドカードをお願いします。」


 切れ長の瞳に、細身なのに程よくついた筋肉、心地好い低音。受付嬢の好みを体現したような美形が、彼女の至近距離で話し出す。それだけで胸の音が速まり、惚けてしまう。


「えっと、魔法騎士のバルー様ですね。依頼は神殿遺跡の地下探索で、間違いありませんね?………では、手続きは完了です。」

「ありがとう。」


 硬派のバルーは滅多に笑顔を見せないことから、表情筋が固まっていると友人からからかわれるほどだ。しかしふとした瞬間に魅せる笑顔に落ちては、後々涙する女性は数知れず。

 受付嬢もふいに魅せられた笑顔に落ちてしまった。とんでもない破壊力である。


「あ、あの!」

「何か?」


 手続きは終わったのに、声をかけられ怪訝な顔をするバルー。


「あ、あ、あの!その探索終わったら、探索の話、お酒飲みながらでも教えてくれませんか?」

「わかった。」


 すんなりデートの約束を取り付けた受付嬢は、その日使い物にならないほど蕩けていた。一方のバルーは、とんちんかんな事を思っていた。


「そんなに探索が気になるなら、受付嬢なんて辞めて冒険者になればいいのに。変な子だな………。」


 恋人いない歴=年齢のバルーは、鈍感で残念な美形だった。彼の友人は彼のいない所で、話のネタにしていたのは言うまでもない。

 愛しの素敵な魔法騎士バルー様が、遺跡に探索しに行って2日目。そろそろだろうか、ギルドに来たら、お帰りなさいって私が出迎えるんだから。朝から私は、ドキドキわくわく落ち着きなく、仕事中も上司に怒られて散々。でも、彼とのデートって御褒美があるから挫けない。




なーんて淡い思いを抱いてた、あの時の私。恥ずかしくて逃げたしたいわ。

あの日から、もう1ヶ月。


「おい、手を休めるな!」


 あぁ、どうしてこんな事に?私は今頃バルー様とアバンチュールを楽しんでいたはずなのに。忌々しいダンジョンめ!


「いったーい。もぅダメぇ~」

「今更可愛い子ぶっても無駄だ。仕事しろ仕事!」

「そんなぁ~ギルドマスターの横暴~」


 あの日、バルー様はボロボロの姿でギルドに現れた。ボロボロでもカッコイイと、惚けている間に、バルー様はギルドマスターの部屋へ行ってしまう。

バルー様は長々とギルドマスターと話し込んだ後、ギルドを出ていった。慌てて私はバルー様に声をかけたのだった。


「バ、バルー様?」

「ん?…あぁ、受付嬢か。何だ?」

「あ、あのこないだ言ってたお食事の件な…」

「あぁ、探索の事なら全てギルドマスターに話ししたからマスターから聞くとよい。」

「え!?」

「それと、これから暫く修行で裏の山に篭るからマスターによろしく頼む。」

「え?ええぇ―――」


 その後、私は石化状態だった所をギルドマスターに発見され大きな拳骨をもらう。痛みを抑える暇もなく、昼夜ギルドで仕事に明け暮れている。



 あの日バルー様がギルドマスターに、新ダンジョンの存在と危険性、レアアイテムや高位モンスターの存在を明らかにした。直ぐ様マスターは全ギルドや王宮に通達をだした。その結果、多くの冒険者が探索に訪れ、仕事は毎日山積みである。


「ああぁ~のどかでゆったりしたギルドが、こんなに人で溢れるなんて。」

「ふん、その分昇給だからいいではないか。」

「でもそのお金使うだけの休みがないじゃないですか―」

「そうかもな。」

「人員増やしません?マスター入れて5人じゃ、捌ききれませんてコレ。」

「人件費が惜しい。」

「えぇ―」

「使い勝手がいい幻獣や使い魔がいればな―。あ!お前確か服従のスキル持ってたよな?」

「え、まさか―」

「ダンジョンにはリザードメイジや妖精といった人型もいるそうじゃないか。」

「えっと―………」

「捕獲に行くならその時間も有給にするぞ。」

「う―………」

「そうそうバルー殿が受付嬢が探索に興味を示していたとか、探索にいくなら応援するとか仰ってたな―」

「バルー様が!応援!……やる!やります私!」

「じゃ、この紹介状持って教会に行って、適正職と加護もらったら冒険者登録するから、さっさと行ってこい。」

「バルー様、待ってて!」


 奇声を上げながら、受付嬢は元気よく教会に駆け込んだ。その後ろでギルドマスターは、黒い笑みを浮かべていた。



 アグス村で一番大きな建造物は、教会である。教会は神々しい光を放つ柱で支えられ、最奥の祭壇では神官長が祝福を与えてくれる。神官長へ紹介状を渡したら、祭壇へ上るよう促された。


「汝、ギルド専属の探索者になることを望むか?」

「はい。」

「その覚悟、しかと確認した。汝にアーシュラ神の祝福を与えよう。アーシュラ神よ、彼の者に探索者として最も相応しき職能と加護を与えたまえ!」


 神官長の祈りに応じたのか、天から祭壇に光が注ぐ。温かい光が、私の体に浸透していく。


「さて、無事に職と加護を得たようだ。ステータスを確認してみよ。」

「はい。……我が身の力を示せ、ステータスオープン!」

「ふむふむ、こ、これは珍しい!」

「ナニナニ?

調教師Lv1、支配者の資格を持ちし者?

スキルは、召喚Lv:1・檻作成Lv:1・認識阻害Lv:max・獣倉庫作成Lv:max・服従の鞭操作Lv:max・他種言語自動翻訳Lv:23・服従の言霊Lv:23・調教魔具作成Lv:1。

加護は、獣神の加護:獣や魔獣の攻撃を全く受けない。


…これってどういうこと?」

「これは大変珍しい。これならレベルが低くても安心です。貴方にアーシュラ神の祝福を。」

「はぁ。」


 ただの村娘のはずが、何故か流されて調教師になってしまった。とぼとぼと歩いてギルドへ帰ると、満面の笑みでギルドマスターに迎えられた。

「で、どうだった?………ふっ、見込んだ通りだ。一般人が服従のスキルを持ってる時点で、オカシイと思わなかったか?」

「でもぉ―………」


 カラン カラン


 ショッキングな結果に受付嬢がうなだれていると、ギルドに人がまた1人訪れた。それはボロボロにやつれたバルーだった。


「バルー様?」

「あぁ、受付嬢か。」

「どうなさったんですか?」


 バルーはパーティーを組まずソロで地下10階に到達したことを伝えた。


「わ!流石です!まだ誰も10階へは到達してないんですよ―」

「そうか、だか、地下10階にはボスモンスターがいてね。全く相手にされなかったよ。まさかあんな魔物がいるなんてな。」

「どんな魔物だったんですか?」

「おい!傷をえぐるな!」

「いや、構わない、マスター。他の探索者のためにも伝えとこう。妖精に擬態した全属性の上級魔法を操る魔物だ。」

「「全属性!?」」

「手も足もでなかった。地下10階以降は、ソロでは厳しいだろう………」

「っ―――

なら!なら、私も一緒に連れてって下さい!」

「君を?」

「そいつは今日からギルド専属探索者として、教会から祝福もらった所だ。魔物の攻撃を一切受けない加護と、魔獣を使い魔にできる調教師のスキルはぜってぇ助けになるぜ。」

「調教師……」

「お願いします!」

「………わかった。いいだろう。よろしくな、ええと…」

「ナーシェです。バルー様、よろしくです!」

「バルーでいい。」

「え!じゃ、バ、バ、ババル―」


 こうして冒険者Aは仲間を見つけた。


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