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妖精とマスターと冒険者A

 最近、アグス村近くの古代遺跡に新しいダンジョンが発見されたという。最初に探索したベテラン冒険者が語るには、地下に行くほど奇妙な構造でハイレベルの魔物が現れるらしい。それでも市場で流通しないようなレアアイテムや魔物の部位を得られると、探索者は絶えない。


 そんなダンジョンの地下6階を支配する魔物が一匹、今日も任務をこなしていた。


「今日はやばかったわ―。本当に妖精族?なんて凄んでくるから、誤魔化すの大変だったし。あ、でもそろそろレベルも貯まってきたし、新しいスキルでなんとかならないかな~」


 地下6階にて呟くのは、妖精族を模した魔物。妖精族である云々は全くの嘘だった。ダンジョンメイカーにより本と合成されたピクシーである。


「えっと、あったあった、黒い本。さ―てと、ステータス表示!

………ナニナニ?

人工妖精ブラックフェアリーLv30、スキルポイントは残り50。んで、新しいスキルは―っと、あったあったコレコレ!妖精擬態Lv80へスキルアーップ!これで魔法使いが来ても平気ね!」


 低レベルのままだと、妖精族を知る高レベルの魔法使いに、正体を見破られる恐れがあった。幸いまだそのような探索者はおらず、先手を打つ必要があった。それに、もし正体が見破られたら戦闘しなくてはいけない。だから彼女はせっせとレベル上げに努めるのであった。 そんな彼女の元へ訪れる男が1人。ダンジョンメイカーの田中 彼方、彼女を生み出したマスターである。


「スキルアップおめでと~」

「マスター!感激です、わざわざ祝いに来てくださるなんて!」

「まぁまぁ、君には期待してるからね!………それに10階ボスに辿り着く探索者もそろそろ現れるよ。」


 そう、ブラックフェアリーは地下6階のフロアマスターであると同時に、地下10階のボスモンスターなのである。地下6階では、わざと能力を制限するアクセサリーを身に付けているのだ。


 ビー――――


「あ、警報鳴ったね!ボス行ってらっしゃい~」

「じゃあ、分体を置いてっと。いってきまーす。」


 俺は、とうとう此処まできた。あの屈辱の敗北から、およそ1ヶ月。パーティーを組む事も一瞬頭をよぎったが、ソロ専門は変えられなかった。対策に対策を練って、スピリットナイトを突破した地下8階。仕掛けを幾つか組み合わせて道を拓いた地下9階。そして辿り着いた地下10階は、まるで神殿の祭壇だ。祭壇には1人の女が遠目に見える。人間だろうか。


「お、お前は!地下6階の妖精族!」

「はぁい、ブラックフェアリーでーす。」

「…ブラックフェアリー?」

「ええ、妖精族じゃないです。」

「妖精族じゃない?つまり魔物!」

「ええ、この階のボスモンスターですが?」

「この階の……?」

「それ以外は内緒です。まずは私を倒さないと次へいけませんよ!」

「なら倒すのみ!」 

「光よ彼の者の視界を遮り、刃となりて、降り注げ!」

「な、魔物が光属性を!?」

「この地に宿る銀よ、糸となりて、彼の者の足を捕らえよ!」

「な、地属性も!?

…くっ、捕まってたまるか―」

「あら残念。風よ、彼の者の剣を奪え。」

「そうはさせるか!蒼の焔よ、我が武具を守護せよ。」

「ならば、蒼の焔よ、彼の者の令を破棄せよ。」

「な、俺よりも上位の火属性だと?」


 この世界では一般的に魔物は闇に属するモノであり、光属性で滅することができる。故に魔物が光属性の魔法を使うことは、本来あり得なかった。さらに冒険者を驚かせたのは、ブラックフェアリーが多属性を使った事だ。3属性の魔法を使えるだけで、王宮に仕える事ができるぐらい特別なことだからだ。

 しかし、ブラックフェアリーは違った。ダンジョンメイカーにより本と合成された魔物。本は本でも、ただの本ではない。全属性の記述がされた上級魔法書であった。つまり、ブラックフェアリーは全属性の魔法使いである。前代未聞の魔生物であった。

 そしてこの世界の魔法は、同属性同士の攻撃魔法は意味を成さない。だが、一方が片方よりも上位の属性魔法の使い手なら、片方の魔法を破棄できるのだった。ブラックフェアリーが冒険者の魔法を破棄できたのも、その法則に則ったものである。


「貴方が上位の火属性である事は、ダンジョン記録から明らかです。でもね、私は上位のオールマイティー。そんな私に勝てる?」

「な、オールマイティーだと!」

「これで最後よ。

地獄の闇よ彼の者を包め、神の裁きよ雷の剣となりて彼の者を切りさけ!」

「うわぁぁぁぁ―――」


 バタッ


 またしても力尽きて倒れる冒険者。数分後、緑の光に包まれて地上へ送られた。祭壇には1人、ブラックフェアリーが溜め息を吐いた。


「ソロでボスに挑むって、勇敢なんだか、馬鹿なんだか…。ま、ソロでも倒せない訳じゃないけど。騎士職って時点で上位魔法種に勝とうとか、無理あるわ―。」


 ブラックフェアリーは冒険者Aを冷たく評価し、地下6階へ戻っていった。

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