ダンジョンをつくろう
「目が覚めたら知らない天井だった。天井、というか剥き出しの岩みたいだ。夢かな、と思い二度寝してみる。なんてこったい眠気がこない。もう一度目を開けてみる。天井は白い、なんてことない土色だ。」
「って、もういいから!しつこい!…みーちゃん、お願い、やめて~」
「あら、てっきり好きなのかと思ってました~テヘッ」
「カワイイ―…って違うから! 」
猫耳をヒクヒク、尻尾をブンブン振りながら話すミネアは彼方にとって悩殺ものだった。
「さて、今日はダンジョンを作ってみましょう!予習はしてきましたか?」
「予習?何ホレ―、ワッカナイ~」
「カナタンって、ホントダメ主人ですよね―」
「ガーン!」
彼方が落ち込んでいる間にミネアはサッとスーツ姿になり、黒板等の授業セットの用意を済ませた。彼方が立ち直ってすぐ、目の前で行われたミネアのお着替えシーンを見逃した事でいじけた。そんな彼方をスルーして、ミネアは授業に入るのであった。
「では授業を始めます。田中君、チュートリアルの10ページを開いて。」
「ぐっすん、……ふぁーい。」
「まず最初に注意事項を1つ。ここは大事ですよ。
………ダンジョンメイカートリッパーはチートではなく、スキルアップ制を採用しています。ですので、異世界トリップにありがちな始めから最強、なんて事はありません。」
「まじすか―!」
「まじっす!
………級なし状態では、殆どのスキルがLv1です。と言っても、全て最弱ではやってはいけません。チュートリアルの最終ページを開いて下さい。現時点のスキルなどのステータスが記載されています。随時内容が更新されるので、適時チェックして下さいね。」
「わぁーお!本当にLv1ばっか!
んん?チートなのは、蘇生魔法Lv:max・アンデット作成Lv:max・自動回復速度max・強運・家庭具作成Lv:max?」
「蘇生魔法はダンジョンで死んでしまった冒険者を地上に送り返すのに必須です。死んでしまったモンスターにも必要ですけどね。自動回復は、一応ダンジョンメイカーはダンジョンの裏ボスなので、もし戦闘になった時のための能力です。まぁ、滅多にないそうですけど。」
「家庭具作成って、役に立つの?」
「さぁ?聞いたことないスキルですね。………あ、でもオリジナルの家具や日用品を作れるので、部屋が華やかになりますよ!」
「俺って一体!ついてないなぁ…」
「でも運は強運なんですよね。」
「何故だ、何故なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―」
またもや落ち込みモードに入った彼方を白い目でみて、ミネアはお茶でも入れるか、とキッチンへ行ってしまった。
ズズズズー―――
ミネアが音を大きく立てて緑茶を飲んでいると、やっと彼方は立ち直ったようである。
「みーちゃん、1人でお茶してズルい!」
「あ、カナタン、お帰り~」
ミネアは出会い2日目にして主人のあしらい方に長けていた。流石としか言い表せない。
「カナタンも戻ってきたことだし、ダンジョン作り実践しましょうか!」
「わくわく♪」
「チュートリアルの本を持って、奥のコントロール室へ行きましょう。」
ミネアに案内されてリビング奥の部屋へ入る。すると、一体どこの基地なんだと驚く程の設備の部屋だった。正面中央にメインになるのか大きなテレビがあり、その周囲を小さなモニター画面が沢山取り囲む。テレビの前には色々なバーやスイッチ、キーボード、何かをはめるような型がある。この世界は剣と魔法の世界のはずなのに、地球を凌ぐ機械類で、室内は満たされている。
「まずは、この型に本をはめましょう。」
指示された通りに、本を型にはめる。するとモニター画面が起動した。
「カナタンはまだ級なしなので、本を此処にはめないと機械が起動しません。級を取得すれば、触るだけで起動できます。」
「おぉ―ハイテク―!」
「最初に地下1階をつくりましょう。カナタンはMAP作成Lv1なので、基本パターンからMAPを選びましょうか。」
「MAP作成Lv1?」
「ダンジョン構造は一定期間でランダムに改変されます。元々基本パターンとして50パターンありますが、階が増えると当然足りなくなります。なのでダンジョンメイカーにはMAP作成能力が求められます。」
「うぇ、俺、理数系はダメなんだけど…」
「難しく考えないで下さい。建築しろといってる訳ではないですから。迷路をつくるのは子どもでもできます。」
「そうだな!」
ミネアの誘導に沿って、モニターを見ながらMAPを選ぶ。色々なMAPをモニターで見ると、易しい迷路から複雑なものまで色々あった。中でも易しそうなMAPを選んだ。
「そうですね。初心者冒険者向けに丁度良いMAPですね。で、次はモンスター合成に入ります。」
「合成?」
「はい、合成です。モンスター合成には本のモンスター欄を活用する方法と捕獲ゴーレムを活用する方法があります。チュートリアルのモンスターの章を御覧下さい。」
「わ!スゲー載ってる!」
「こちらのモンスターは、等級に合わせて閲覧制限がかかっています。級が上がれば閲覧できるモンスターが増えます。これらのモンスターは各10回しか召喚できませんので、注意して下さい。」
「え!何で!」
「ダンジョンメイカーには常にオリジナリティーが求められます。ですからモンスター合成が必要なのです。ちなみに合成に成功してできたモンスターは、合成モンスター欄に登録すると、何体でも無制限に召喚してダンジョンに配置できます。」
「おおぉ!」
「まずはダンジョンにモンスターを配置したり、合成してみましょう」
「あいさ―」
楽しげにモンスター欄を眺める彼方。微笑ましく見つめるミネアは、時に優しく時に厳しく指導したのであった。
本を用いてのモンスター配置や合成に慣れてきた頃、彼方はふと疑問に思う。
「なぁ、みーちゃん。なんでわざわざモンスターをダンジョンに召喚するんだ?何か手間じゃね―?」
「あ、そうですね。でも利点はちゃんとあるんですよ。ダンジョンメイカーって、戦闘能力は皆無じゃないですか―。それを補正するのが召喚能力です。」
「でもステータス欄には召喚なんてなかったような…」
「それは級なしだからです。今は本なしで、召喚はできないでしょう?」
「そういやそうだな。」
「5級から地上に捕獲ゴーレムを送りだしたり、4級からは地上にでれます。地上に出た時に魔物や盗賊に襲われたらどうします?ダンジョンメイカーは召喚で敵を撃退できます。」
「なるほど~。で、捕獲ゴーレムって何よ?」
「スキルに捕獲ゴーレム作成がありますよ。捕獲ゴーレムは、モンスター合成に必要な動植物や魔物を捕獲します。捕獲した獲物は捕獲物欄に登録すれば、何体でも召喚可能です。捕獲物同士でも捕獲物と本のモンスターとでも、モンスター合成ができます。」
「そんな便利なスキルがあるのに、何で地上にでる必要が?」
「地下にこもってばかりじゃ、ストレス溜まるでしょう?」
「まぁな―」
「メインの理由は別ですけど。」
「別なのかよ!」
「………株式会社トリッパーがダンジョンの管理・創造・運営を委託って話、しましたよね?」
「…………ま、まさか!?」
「そうです!営業です!さりげなーく、迷宮が誕生していて、最深部には秘宝が!とか。魔王がつくったらしいぜとか。噂を流したり、街では得られない武器を売ったりして、あのダンジョンで見つけたとか話すんですよ~」
「うげ―」
「街でイベントが発生したり、それをクリアして新たなスキルを得たり、楽しみてんこ盛りです!」
「新しいスキル……」
「それにせっかくつくったダンジョンが繁盛しないと、莫大な違約金や能力返還の請求が、ですね…」
「まさか、そのとばっちりが俺にも?」
「まさか~…………ある所にはあるらしいです―」
「…俺、頑張る!」
一通り、基本的なMAP作成やモンスター配置・アイテム作成・武具作成・罠作成の仕方を習い、せっせと地下5階まで作成した彼方。地下10階作成までは、階段作成スキルの使用が許可されていないため、冒険者が入ってくることはない。
「あ~、何かありきたりのダンジョンだな~つまんね!みーちゃん、癒して―」
「あぁ、言い忘れてましたけど等級をあげるには、作ればいいって訳じゃなくて、センスも問われますからね。神崎様の月1評価で悪い点でもとれば、私は消されちゃうかも…」
「なぬ~それはイカン!なんとしてでも、みーちゃんは渡さん!みーちゃん、期待してまってて!」
評価次第でミネアが消されるというのは、全くの嘘。彼方にやる気が見られて、こっそりほくそ笑むミネアであった。
一方やる気をだして、コントロール室に駆け込んだ彼方。スキルを最大限活用して、オリジナリティーあるものを模索する。
「ピコーン!そうだ家庭具作成Lv:max、これを活用する時が来た!」
なにやら思いついた彼方は、せっせと地下10階まで作成し、ボスモンスターを配置して、ダンジョン入口を開いたのであった。