みーちゃんの授業
目が覚めたら知らない天井だった。天井、というか剥き出しの岩みたいだ。夢かな、と思い二度寝してみる。なんてこったい眠気がこない。もう一度目を開けてみる。天井は白い、なんてことない土色だ。
「って~、昨日と同じ展開!バカなの?俺ってバカなの?バカバカバカバカ!」
ジー………
そんなバカナタの様子を半開きの扉の隙間から覗く視線が1つ。中々起きてこない彼方を起こそうと、扉を開け始めた所で奇声を聞いて立ち止まってしまったミネアだ。扉を閉めれば、音が立ちバレバレだ。だが思い切って開くのも、勇気がいる空気だった。
「…はっ!この視線は?」
視線を感じ取った彼方が顔をあげると、扉にいるミネアと目が合う。
「Nooooooo!みーちゃんに見られた!もう終わりだ!夢の世界はおしまいだぁぁぁぁぁぁ―」
バッタン
ミネアは扉を閉め、見なかった・見たのは幻覚、と解釈して朝食の準備に戻った。暫くすると、焼けた卵のイイ匂いが寝室に運ばれる。
「うぅぅぅぅ―………クンクンクン、旨そうな匂い。」
コンコン
「か、カナタン?朝ごはんですよ~」
「み―ちゃん!萌え――!」
「ぎゃふっ!と、とりあえず離して、リビングに行きましょうか!」
「は―い!」
食事にもミネアにも涎を垂らし、変態的な彼方。だが、意外と食事のマナーはきちんとしていた。
「ごちそうさまでした!」
「あ、カナタン。片付け終わったら、授業始めますからね。」「授業?も、もしかして恋のレッスン?グフフフフ…」
「カナタン?………涎が酷い。はぁ~」
一般家庭に黒板と教卓、机と椅子のセットは、普通存在しない。だが、ダンジョンメイカーの自宅には存在した。
「それでは、授業を始めます。準備はよろしいですか?」
「はい!」
「田中君、教科書を開いて。チュートリアルの5ページ。」
「は―い!」
主人に似て、ミネアも形から入るタイプだった。スーツを着こなし、オシャレな赤メガネをかけ、銀の指導棒を持っていた。授業を受ける彼方も、どこから出したのかわからないが、学ラン姿だった。
「1限はダンジョンと株式会社トリッパーの関係からダンジョンメイカーの等級についてを教えます。」
「早く知りたいです!」
「まず、株式会社トリッパーとはトリッパーによって構成される……………」
要約すると、異世界にありがちなダンジョン、地下迷宮や海底神殿・ほにゃららの塔、これらは株式会社トリッパーに委託管理・創造・運営が成されている。委託するのは、その世界の神様だったり魔王だったりするわけ。全く驚きの新事実だよね!
ダンジョンの存在によって、その世界の文明が発展したり、発展しすぎて滅びないようにする働きがあるっていうんだから、ダンジョンメイカーも遣り甲斐があるかも。
そうそう、株式会社トリッパーには、ダンジョン部門とかタイムトリッパー部門とか勇者部、魔王部、そりゃもう数えるのが大変なぐらい部門や支局があるんだって!かなり儲けているけど、地球では情報規制がされて極一部の人しか知らない大企業らしい。本当かなぁ?
「わかりましたか?」
「は―い!あ、そうだ!神崎さんからの手紙にダンジョンを完成させたら日本に戻れるってあったけど本当?」
「それについては、ダンジョンメイカーの等級と合わせて説明します。」
「お願いします!」
「ダンジョンメイカーの等級は下は5級、1番上は5段です。ダンジョンメイカー2級を取得すると、自国への行き来が可能となります。神崎様が言うダンジョンの完成は、2級取得を指しています。ちなみに2級取得にどれだけ時間がかかっても、トリップ前日の夜に時間を合わせて戻るのも可能です。」
「なんてチートだ………。」
「2級取得後は、ダンジョンメイカーを続けるか否かは、本人の意思に委ねられます。2級取得以後は、個人報酬が得られるため大半の皆さんはそのまま継続される方が多いです。」
「個人報酬って?」
「地球での金銭として受け取る方もいれば、ダンジョンを委託した神や魔王等からチートな能力を授かる方、様々です。
ちなみに、初段になると株式会社トリッパーの契約社員になれ、3段以上は無試験で正社員に合格です。正社員になると手取りで月給30万から始まり、月給500万の平社員も多いですね。」
「まじすか?」
「やる気がでましたか?ではまずは5級取得に向けて、取り組みましょう!これで1限は終わりです。等級の細部は、教科書をよく復習しておくように。試験にでますからね。
…号令!」
「起立、礼!ありがとうございました!」
金銭感覚が麻痺するような話を聴いた所で、授業は終了した。結局、株式会社トリッパーは謎の会社であることに変わりなかった。