彼方、契約の前に。
ご無沙汰しております。2話分予約投稿。短いですがお楽しみ頂けると嬉しいです。
PC投稿なので携帯の方読みづらかったらすみません。
カァーカァー
カァーカァー
異世界でも夕焼けと一緒にカラスが鳴くんだなぁと、しみじみ感じながら店仕舞いを手伝う彼方。女装というハプニングがあったものの、完売でき契約への喜びで弾む気持ちでいた。しかし彼に提示された内容は気が沈むものだった。
「え?契約はしない?」
完売させれば契約すると言っていたから嫌な女装もなんとかこなしたというのに、全くの女装損ではないか、と彼は憤慨した。
「ふ、ふん、お前がいけないのだ。」
オリジナルスキル《魔王の微笑み》は、ダンジョントリッパーの特殊条件によりレジストされました
オリジナルスキル《魔王の微笑み》は、ダンジョントリッパーの特殊条件によりレジストされました
「我の、我ら魔王の微笑みを受け継ぐ者の苦しみを完全レジストする者が存在するなんて…」
「そ、そんなぁ~」
「という訳で、このスキルを完全レジストするアイテムを探してくるか、創るかしないと契約はしない!」
「え、え―!?」
「ではなっ!」
店の扉は堅く閉じられた。強くノックをしても音は響かず、手は痛い。木の扉なのに、まるでコンクリートの様である。無理やり抉じ開けようとも魔法をぶつけてもビクともしない。彼方は店先で膝つきたそがれるしかなかった。
時刻は住民が仕事帰りで道を行き交う時だ。彼方の姿は情けなく、かつ不審だ。彼に慰めの声をかける者はいない。ただ風が背中を通りすがるだけだった。
ヒュ~~~
ヒュ~ゥ~~
「そ、そんなバナナ!」
こうしている間に人々は彼を警備兵に通報した。牢屋で一晩を過ごし、噂を聞いて駆け付けたシュエラが彼方の身元を証明し釈放された頃には、屍のように陰気腐っていたのだった。当然宿へ戻る間にも、人々から後ろ指さされたのは言うまでもない。
**************
「はっ!」
あまりにショッキングな出来事であったために彼方の脳が正常に機能するまで2日が過ぎた。彼の従者からすれば、普段から正常ではないと言いそうではあるのだが。
「たっだいまー」
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
「お食事はいかがですか?」
「それともお風呂?それともお休み?」
「えっえっ?何々、今日はそうゆうプレイ?プレイしちゃう?」
「ブー、や・あ・ね!」
「本日はメイドカフェ風にしてみました。」
「メイドカフェでアルヨ。」
「ロリッコカフェ。」
「カナイのカフェ。」
「カナタのカフェ。」
「えっえっえっ」
「だめだわ、カナタんノリわっるー」
結局、従者たちに遊ばれて本題に入ったのは1時間も経ってからであった。
「で、どうすればいいと思う?みーちゃん。」
「レジストアイテムですかー」
「マスター創れないの?」
「オリジナルスキルは神から与えられたスキルであってー…。レジスト効果は神が与えるのであってー…と、アーシュラ神は仰せです。」
「みーちゃんいつ聞いた!?」
「さっき、ツイートしてたよ、アシュちゃん。」
「アシュちゃん!?」
「まぁそれは置いといて、………無理じゃないですか?」
「置いとくんだ!?」
「どーでもいい。てか私もアシュちゃんとはスカイプするし。」
「しちゃうんだ!?」
本題とは誠にかけ離れた話題で盛り上がり、結局アドバイスもなく彼女らは各々の仕事に戻っていった。
「………問題解決してないし!」
ダンジョン管理室で1人項垂れる彼方であった。