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彼方とドワーフ

お待たせしました。

待たせた割に短くてすみません(汗)



お気に入り登録が増えていて恐縮です。皆さんの期待に応えられるよう頑張ります!

 よく晴れたある日、最北にある街の商店街で1人の少女が声をあげる。若干ハスキーだが、老若男女に受けの良い美声で道行く人々を勧誘する。今日は、柑橘類の特売日のようだ。少女が試食を誘い、多くの男性が彼女の美貌と柑橘類の美味しさに惹かれて購入していく。客が途絶えた頃、少女はほっと一息をつき、空を見上げて呟いた。



「……どうしてこうなった?」


 少女の名前は田中彼方。そう、この物語の主人公である彼方が女装した姿であった。彼方は何故女装して店先に立つことになったのか。朝の出来事を回想した。




**************

 彼方は街の中心にある商店街の八百屋に、朝から向かっていた。案内人としてシュエラを連れていた。街にはいくつかの商店街があり、複雑だったため彼女に案内を頼んだのだった。そして、目的の八百屋に辿り着く。開店前の店の扉をノックしてあけたのだった。

 目に映るのは美しい艶のある金髪。腰までのび、首の辺りで一纏めにされている。その方の背丈は低く、後ろからでもわかる服装はゴスロリ。彼女が振り返ると、その容貌に誰もが凍ったという。


バタンッ


「どうした?」

「どうやら場所を間違えたようです。」

「場所は合ってるぞ。」

「え゛」


 彼女が振り返ると、その容貌に誰もが凍りついた。美しさではなく、そのおぞましさに。

 この世界にはエルフがいるように、ドワーフもいた。低い背丈に分厚い骨格、太い鼻に厳つい目。日本でも様々な小説やゲームに登場するドワーフと遜色ない姿形、性格のドワーフがいた。しかしそれは男性ドワーフの場合だ。この世界には男性ドワーフと遜色ない体格の女性ドワーフが存在した。彼女らに幸か不幸か、体格以外の容姿の要素はエルフの美しさに引けをとらなかった。神のいたずらか、遺伝子上、ドワーフもエルフとルーツは同じなのだった。


 結果、彼方は神の神秘ともいえる女性ドワーフに出会ったのであった。


**************


「おい、クズさっさと働け!」

「はっ、はい―」


 彼方が空を見上げて黄昏ていると、店の奥から野太い声で喝が入る。喝を入れるのは店主ドワーフの、アイリスだ。容姿も残念だが名前も残念な店主。しかし彼女の作る野菜は絶品で、品種改良の技術も最先端。この店でしか買えない野菜や果実を求めて、世界中から人がやってくる。しかし彼女の店は大きな商店街にあるものの、客足は遠退き、隠れた良店化していた。


「……ん?お客さんか?ほれ、今日はこのかじ」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」

「おいおい逃げるんじゃない」


 たとえ良い品をつくれる技術があっても、売れなければ話にならない。彼女には残念な容姿な上、残念なオリジナルスキルが追い討ちをかけていた。

 別に残念な容姿である女性ドワーフが接客業に就く事が稀、という訳ではない。ドワーフは努力家であり、容姿は残念でも工夫や服装などにより店のマスコットキャラクターになるなど、需要はあるのだ。

 だが彼女の場合は努力云々の話ではなかった。彼女が接客する時の様子をリプレイしてお送りしよう。



「……ん?お客さんか?ほれ」


オリジナルスキル《魔王の微笑み》が発動されました

オリジナルスキル《魔王の微笑み》は、視界に入る対象に状態異常・気分不快を付与させます

オリジナルスキル《魔王の微笑み》の状態異常は、【ドワーフの御守り598476代目Lv:Max】によりレジストされました

気分不快のみ発動しています

気分不快のみ発動しています


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」



 こうして、残念な容姿と先天的な残念なスキルで接客は壊滅的であった。残念なオリジナルスキルは女性ドワーフに受け継がれてきた。誰に発現するか全く分からないため、女性ドワーフが生まれる度に両親は戦々恐々である。そして、ものづくりの達人であるドワーフでもレジストアイテム598476代目になっても状態異常しか抑えられなかったのであった。


 オリジナルスキル《魔王の微笑み》は、文字通りドワーフの祖先に魔王と呼ばれる存在がいたためである。古の時代、各地に凶悪な魔王がいた。その一角であった美しいドワーフの女王アイリス。エルフのように美しく、逞しい戦女神と謳われた魔王。彼女の微笑みを前に膝を折らない者は殆どいなかった。

 しかしある時、醜いオークの変異体が彼女の鼻を折り、蹂躙した。以降、ドワーフは醜い容姿をもち、魔王の呪いのようなスキルが受け継がれていったのだった。魔王は何を望んでスキルを血脈に刻んだのか、誰も知らない。



「ちっ、またか。魔王なんて糞食らえだ。……おい、クズ代わりに全部売り切らないと契約はしねえからな!」

「はい―」

「語尾をのばすんじゃねぇ!」

「はいっ!」


 残念な店主と契約を結ぶためとはいえ、女装して接客する必要があったのか不明だが日が暮れるまで販売に勤しんだ彼方であった。

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