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彼方の冒険1

お気に入りさんが増えてる!感激です。


読んで下さりありがとうございます。

 ダンジョンが出現してから半年が経った。地下6階以降は奇抜で予想外な構造、加えて高位モンスターが頻出することから、初心者冒険者御断りダンジョンの認定を受けた。そしてダンジョン出現から3ヶ月が経った頃から、アグス村近辺の森などから家畜や魔物がゴーレムの様な者に連れ去られる目撃情報がギルド内に飛び込んだ。それと同時に家畜の様な見た目のモンスターがダンジョンに出現したとの報告がされた。どこからか、最下層には魔王がいて、ゴーレムを使って家畜などをさらい魔物化しているのでは、…といった様々な疑念があちこちの街で噂されるのだった。

 そうしてアグス村は、村というのは名ばかりで、ハイレベル冒険者や観光客で賑わい、ゴーレム対策で街の周りに強固な壁が築かれ、大きな街へと変わっていった。

 様々な人々がアグス村へ行き交う中、ひっそりと近辺の丘に佇む青年がいた。この世界では珍しい黒髪黒目の青年だが、不思議と周囲を行き交う人々の目に留まらなかった。魔法の気配はないのに、彼は空気のようで注目を浴びる事はなかった。


「ふっふっふっ。半年ぶりの日の光だぁぁぁぁぁぁ!イェェイ~」


 彼、田中彼方はダンジョンメイカー4級を取得し、異世界トリップして初の地上体験を喜んでいた。丘の上で叫ぶ彼方だったが、誰も気にも留めない。何故なら彼は万全の対策をとっていた。


「あ!そうだそうだ、ミスト解除っと」


 彼が首にかけていた七色の数珠の内、紫の玉が光ると彼の姿が誰の目にも映る状態になった。突然丘に人が現れた形だったが幸い周囲に人気はなく、騒がれる事はなかった。


「我ながら、万能アイテムを作ってしまった感が…。ま―いっか!」


 彼の装いは一風変わっていた。黒衣の胴着を纏い、七色の数珠を首にかけ、銀の指輪と両腕に腕輪をつけている。右腕の腕輪の中央にはルビーが、左腕の腕輪の中央にはダイヤモンドが填められていた。また足は銀に輝く金属製の下駄を履いていた。そして何故か手ぶらであった。


「さ~ってと、アグス村はどっちかな―♪」


 わくわくした気持ちを抑えられず彼方は丘を駆け下りていったのだった。



「ア~グス饅頭~ア~グスまんじゅうはいかがですかぁ―?ダンジョン地下25階でしか入手できない甘草を使った名物アグス饅頭。今ならお買得、5個の値段で10個買えちゃうキャンペーン実施中!さぁ寄って寄って、買って買って!

Hey!そこの兄ちゃん、新顔だね観光かい?試食はどうだい。うまいかい?どうどうどう、今日のおやつに、お茶の友に。おぉ、お買い上げありがとうございます!」


 アグス村に入ると客引きの応酬の嵐だった。気づくと買う予定のなかった饅頭やら弁当やら御守りで両手は塞がっていた。精神的にもボロボロになった頃、なんとか冒険者ギルドに辿り着いたのだった。

 ギルド内は神崎氏からの情報を事前入手していたため、ナイトスケルトンが大勢働いていたが驚く事はなかった。受付には若い女性と壮年男性がいた。壮年男性は厳つい顔つきで苦手なタイプだと彼方は思ったが、男性の方しか空いてなかったので仕方無く向かった。


「よう坊主、子どもの遊び場にしちゃ―ちょっと早いぜ。」

「………これでも18です。ダンジョン探索許可を戴きたい。はい、ギルドカード。」

「あん?その見た目はどうみても12、13だろ。ギルドカードねぇ…………はぁ?オイオイ坊主嘘はいけねえぜ!ダンジョン商Aランクだと?子どもは子どもらしい嘘をつくもんだぜ!」

「嘘でも子どもでもないし。」

「ハッ。悪い子どもにゃ、お仕置きしないとな。坊主、裏庭にこい!本当の実力暴いてやるぜ!」


 日本人は異世界で若く見られるのは王道だ。加えて彼方は160cmの低身長。18歳の彼方は、この世界の成人である15歳よりも幼くみられた。

 そしてギルドマスターが嘘だと決めつけたダンジョン商Aランクとは、商業ギルドが認定するランクの1つだ。商業ギルドが認めたダンジョン商人は、ダンジョン内のアイテムを自由な価格で売買する権利とダンジョン内で移動露店を開く権利を持ち、ダンジョンにアイテム収集をしに探索する権利と能力を有している。ダンジョンという危険な場所へ単独で行くため、冒険者ランクよりもランク付けは厳しく、ダンジョン商の探索力は冒険者ランクより1つ格上と見なされる。よってダンジョン商Aランクは冒険者Sランクと同等の実力を持つと言えるのだ。

 ちなみに冒険者ランクは下からG・F・E・D・C・B・A・S・Kとあり、キングのKは伝説級で、実際の現在確認されている最上ランクはSである。また商業ギルドのランクは下から、G・F・E・D・C・B・A・Kとあり、各国の大手商会の会長がKランクであり、Aランク以上は非常に少ないのが現状だ。


 ギルドマスターは現役時代、冒険者ランクAランクで名を馳せた魔法士だった。戦争時の功績からギルドマスターに推薦され、現在に至る。元Aランクのギルマスからみても、彼方に己より実力があるようには見えなかった。


「坊主、武器も構えなくていいのか?準備の時間ぐれぇ、やるぜ」

「………。」

「ケッ、黙りかよ。ナメてるのか?後からやっぱり時間をくれとか文句いうなよ!……《シルバーゴーレム》先手必勝!」

「ふぅ―《融解》」


 土属性の魔法士であるギルマスは、短縮詠唱で土中から銀を集めゴーレムを作成した。流石は元Aランク、近場に銀は殆どない地質にも関わらず、熊ほどの大きいゴーレムをつくるほどの銀を数秒で集めた。

 だがチートアイテムを持つ彼方には敵わない。彼方は数珠の内、赤い玉に触れて一言呟いた。魔力も使わず、ただ玉に触れて呟くだけ。たったそれだけで目の前のゴーレムは赤い光に包まれ、一瞬で溶けてしまった。


「なっ!ばかな!」

「音無、影縫い、封鎖」

「っーーーーー」

「オジサン、これで喋れないし動けないし、魔力も出せないよ。どうする?」


 ギルドマスターは突然の事態に、目の前の青年に恐怖した。声を上げたくても口はパクパクすりだけで、息しかでない。身動きしようにも、金縛りにあっているかのように動けない。無詠唱で魔法を発しようにも、魔力放出ができなかった。


「降参して、ダンジョン探索許可してくれるなら瞬きを2回。降参しなー………あぁ降参してくれるんですね。それでは解除。」

「あ、あぁ、喋れる。一体おめえは」

「詮索はしないでくださいね。………死にたくなければ。」


 黒い笑みを向けられたギルドマスターは、ゾッとして目に見えない速さで許可証を用意すると彼方を渡し、受付の奥に引っ込んだ。珍しく青い顔を浮かべたマスターを不審に思った受付嬢ナーシェは、先程までマスターが対応していた彼方へ話しかけた。


「あの―?マスターと何か?」

「え?……君、カワイイね!僕の事はカナタンって呼んでね!」

「え?カ、カナタン?」

「萌え~」


 ギルドマスターと対峙していた時とキャラが違うが、これも田中彼方の一面だった。男性と女性に対するキャラが全く違った。特に貫禄ある年上の男性とタイプ外の女性には容赦なかった。幸いナーシェはタイプの容姿だったため、冷たくあしらわれる事はなかった。


 一方同時刻のダンジョン管理室は5人の女の子達が、わいわいと騒いでいた。1人はダンジョンの各階を操作し、1人はポテトチップスを貪りながら映画を観ていた。そして、とあるテレビ画面に釘付けの女性が3人、市松人形のイチコ・ブラックフェアリーのカナイ・獣人のミネアだ。画面に映っているのは黒髪の青年、……そう彼女らの主人である。


「あれが噂の鬼畜ギルドマスター!」

「渋いです。」

「カナタンふぁいとぉ~」

「てかさ、マスターキャラ違くね?」

「んだんだ。」

「毒でも食べたのかしら?」


 画面は進み、ギルドマスターは身動きが取れない様だ。


「はぅわ―」

「チートですね、アレ」

「流石カナタン!」


 アレとは彼方が作成したチートアイテムの1つ、七色の数珠だ。家庭具作成スキルでは何故か、『これは家庭具!』と認識してしまうと様々なモノをつくりだせた。強力な武具はつくれないが、鑑賞用の武具はつくれる。また魔法書も、上級魔法士の家には気軽に本棚に入っているはず、と思いこむと作り出せた。ある程度のルールはあるものの、いい加減なスキルであった。


「音無は発声を封じたから風属性ね。よって白玉!」

「影縫いは、闇属性だから、えっと黒?」

「封鎖?なんだろ~」

「ん~、あ!わかった!」

「カナイさん、答えは?」

「魔力を封じる、封印魔法。即ち神術。だから玉は紫!」

「「なるほど~」」


 七色の数珠は全属性の魔法を使えるチートアイテム。魔法士でなくても使え、魔力消費もゼロ。誰もが喉から手を出したくなる魔具であった。異世界トリップの王道は魔法であったが、彼方には魔力はなかった。その事実を知った時、絶望感を味わったが、カナイをつくれた結果から希望を見いだし魔法を使えるアイテムをつくってしまったのだ。もちろんこれも家庭具として作成された。


「それにしても、あの紫の玉。」

「ん?」

「どうやって作ったのかしら?」

「さぁ~?」

「まぁカナタンだし~?」

「あは、だよね―。アハハ~」


「ヘックシッ!」


 冒険者ギルドを後にした彼方は、商業ギルドに寄り、アグス村中央広場で露店を開いていた。

 年代物の古めかしい雰囲気のある武具や魔具が、露店に飾られた。見る目の無い者がみれば、ガラクタだが、見る目のある者が見れば、それらが強力な武具だとわかるモノばかりだった。彼方は特に客引きはせず、読書しながら客を待つ。昨日までいなかった露店に好奇心で近づく者が多かったが、大半は大したモノではないと判断し、2時間も経つと殆ど客は訪れなかった。

 そろそろ店を閉めようかという時、3人組の冒険者が現れた。どこかでみた事ある剣士と魔法士風の女性、もう1人は初めて見るエルフだ。


「あれ?カナタン?」

「はろ~、ナーシェ」

「「知り合い?」」

「午前中に冒険者ギルドで仲良くなったの」

「冒険者が露店?」

「あ―うん。これでもダンジョン商人だからさ、俺。」

「へぇ~子どもなのに偉いな坊主。」


ピキッ


「ん?なんか変な音したような」

「バ、バルー!」

「この馬鹿!」


 彼方の表情は黒くなっていくのに、バルーは全く気付く気配はなかった。彼方の実年齢を知っているナーシェや人間の年齢を見抜く能力を持つエルフの女性には、バルーの一言は禁句であったと青ざめる。バルーは武具が珍しく強いものだと気づき物色していると、近くから凍える冷気を感じ、思わず顔をあげた。


「ふっふっふっ、お気に召しましたか、お客様?」

「ハッ!」


 黒い笑みと冷気を浴びてバルーは何か失敗した事に気付くが、既に遅し。


「て、店主、何か怒らせるような事をしてしまったようだ。すまない!」

「今更謝られても、ねぇ?」

「カ、カナタン?私に免じて許してあげて!」

「て、店主殿、この馬鹿は妾が教育しておくからの!」

「ふっ、美女2人に頼まれたら断れませんね。百歩譲って許してあげましょう。…でも、この方には今後何も売りませんから!」

「なっ!横暴だ!」

「…あ、ナーシェたんにオススメの魔具は」

「無視か?」

「エルフたんのお名前は?」

「エルフたん………」

「無視するなぁ―!」


 バルーを無視して女性2人の対応をしだした彼方。彼方の対応に苛ついたバルーは、店先で喧しく騒いだ。すると、先程よりも黒い笑みをした彼方が振り返ったのだった。


「………ねぇ、お兄さん。ダンジョン商Aランクの俺に、そんな暴言を吐いて良いと思ってる?イケメンだからって、何でも許されるとでも思ってる?ねぇ、見た目だけで人の歳が計れるとでも?俺は18だっつーの!この街の男共はどいつもコイツも、坊主坊主ママのオッパイ吸ってろだと?ああん?」

「そ、そこまでは言ってないが」

「うっさいハエだな―。黙れよ!音無。」

「っーーーーーー」

「あれは!発声を封じる魔法?」

「ん~、魔力の放出はなかったが。」

「魔具って事?」

「わからん。」


 バルーは謝ったのに、彼方が益々怒る訳が理解できなかった。何故か声を出すことも封じられ、文句も言えなかった。


「ま、俺に勝てたら売ってあげてもいいぜ!」

「っーーーーーー」

「ねぇ、ダンジョン商Aランクって冒険者Sランク相当よね、メル?」

「であったな。バルーは?」

「最近Aにランクアップしたばかりよ。」

「………勝てる気がしないな。」

「そうね。」


 パーティーメンバーはバルーは負けると予想していたが、当の本人は闘志をメラメラ燃やしていた。その気持ちに応えた火精霊は、バルーの全身を蒼い炎で纏わせた。


「ふぅん、ヤる気満々?………凍える息吹。」


 バルーは剣を構え彼方に斬りかかった。しかし剣が彼方に届く前にバルーの体は氷で覆われ、辛うじて呼吸用に鼻と口元に穴が空いてるだけだった。バルーを守る精霊は必死に氷を溶かそうと試みるも、全く変化は見られなかった。結局バルーは彼方に敗北し、ナーシェ達が宿へ引きずって去っていったのだった。



 その日の夜の酒場は、とある商会の話題で盛り上がった。


「あれはたまげたな!」

「あの見た目で18!」

「ダンジョン商Aランク、ツェェェェェェ!」

「あの強さ、鬼パネェー」

「アニキ、俺を弟子にしてくれぇ―!」

「スター商会かぁ」


 訪れてたった1日で彼方は、街の要注意人物と化したのだった。ある人はあの禁句を発しないよう怯え、ある人は彼の強さに憧れた。ある人は彼の魔具を狙い、ある人はファンクラブを作り彼を守ろうと画策した。善くも悪くも、街に歓迎された彼方であった。

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