3 女教皇との邂逅
数回戦闘を繰り返し、資源も心もとなくなった為、僕とミナは帰還転移魔法を使用し、地上に戻った。
ミナは「今日はもうログアウトする。少し疲れたから」と僕へ言った。
「……そう」
僕は思わず残念そうな声を正直に出してしまった。
ミナとはもう少し一緒に遊びたかった。
「……よかったら、また一緒にプレイしてくれる?」
ミナの方から言ってきた。
「……こっちこそ! 大歓迎だよ!!」
舞い上がり大きな声を出す僕に、ミナはクスッと笑った。
僕とミナは最後に握手を交わすと別れた。
二人の距離が一気に縮まり、僕は気を良くしていた。
有頂天の僕は情報集めの為、三人娘を自由にし、城下町を一人で行動した。
狭い通路にアーケードか祭りの露店のような店が作られ、密集している。
興味があった露店通りに足を向けながら、僕はカリバーンが使用した魔法剣に頭をめぐらしていた。
僕の今の最大の関心事だった。どうやって身に着けるんだろうか、その方法すら分からない。
カリバーンに直接訊くべきだろうか。
情報が命のこのゲーム、簡単に教えるはずがなかった。
道はプレイヤー以外にもNPCで溢れかえっている。
ノン・プレイヤー・キャラクター――説明するまでも無い。ゲーム世界を成り立たせる要素の一つであり、プレイヤーキャラクターに対し、ゲームの進行やイベント発生、バランス調整を行い、プレイヤーをゲームマスターの作ったストーリーにうまく誘導するための存在である。
NPCが齎す情報や知識は、ゲーム攻略において重要な鍵を握っている。
今は地道にNPCたちに聞き込みを掛け、情報を集めよるより無かった。
僕は前から来る一人のNPCと眼が合った。
ローブを纏った、魔術師風の女性だった。
三重の冠のような被り物を頭に乗せ、白いベールを身に着け、手には一冊の書物を持っている。
「私の名は、レビス。女教皇レビス……」
レビス――NPCが語りかけてきた。
「お気をつけなさい。貴方の魂の座を狙っている者がいます」
「魂の座……?」
僕は思わず尋ねた。
「魂の座とは、側頭葉――運動前野との直接回路があり、手先の運動の調整に重大な影響力を持つ音声の処理と記憶を蓄える場。側頭葉に電気刺激を加えると体外離脱のような体験が起こる、魂読込で重要な部位――」
何故、NPCがこんな事を言うのかよく分からなかったが、僕は黙って訊いていた。重要なヒントをくれる予感がしていた。
「このゲームは、セネト――古代の盤上の遊戯を模した物。死後の世界たる地下を通り過ぎて、試練を乗り越え、ゴールを目指す……。すなわち地上へ復活する、という過程を模した死と再生の遊び――」
NPCは話を続ける。
「哲学者の剣――偉大なる技が貴方に宿ったとき、両性具有神の聖剣を所有する資格を得る」
「両性具有神の聖剣……?」
「両性具有神は魔術の神。黒の剣と白の王錫、そして赤の練金薬と化合することにより、生み出される」
彼女が言う言葉はアイテム名か、それともゲーム進行に関わる何かの寓意か隠喩だろうか。にわかに判断できなかった。
「全てはソウルアーカイバ計画、そしてナーヴァスに関わること……」
「ナーヴァス……!?」
カリバーンも同じことを言っていた。
レビスは僕が指に嵌めているリングを指差す。
「ウロボロス・リングこそ攻略の要――。決して誰にも渡してはなりません」
そういい残すと、レビスは消え去った。
僕の中で『ナーヴァス』の言葉が反芻していた。