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2 授与式での出来事

 数日前の話だ。

 僕はタイトル授与式に出席する為、ログインすると王城へ向かった。

 城内の豪華な造りに市街の比ではない。

 近衛兵に導かれ入ったのは、玉座の間だった。

 玉座は広くシャンデリアが天井から吊らされ、壁には国旗や旗旌、タペストーリーが垂れ下がり、床には赤い絨毯が惹かれている。

 大広間には、僕以外にも何人かのプレイヤーと思われる人々が居た。

 どのプレイヤーもレアなアイテムで身を固めている。

 明らかにランキング上位のプレイヤー達ばかりだ。

 そして、ここに居る殆どのプレイヤーが、上級職の資格を取得している魔法所有者だ。

 攻めに特化した魔法所有者なら、魔導剣師。

 守りに特化した魔法所有者なら、聖職騎士。

 そして、攻めの魔法を極めるなら高位魔術師だろう。高位魔術師は通常習得する魔法より強力なシークレット魔法を体得することができる。エネミーがドロップするアイテムを得る事により身に着けられる魔法である。

 守りと攻めの魔法を両方を極めたいなら魔導司祭とプレイヤーは選択するが、魔導司祭はシークレット魔法を身につけることが出来ない。

 ゆえに魔導司祭は中途半端な印象の資格だが、一方で数々の生命線を握る特技を身につけることが出来る。

 エネミーを感知する索敵能力や迷宮内での位置把握やマッピングを可能とする迷宮探査能力、エネミーの戦力や特殊能力を分析するエネミー解析能力にアイテム鑑定、さらに錬金術というアイテム・ジェネレート能力を持つ。

 どの資格も一長一短で、全てはプレイヤーの好みに委ねられている。

 アユミールの顔もあった。僕と眼が会うと、アユミールは手を振る。

 出席者の中に、一際目立つ男が居る。

 僕の興味を引いたのは、男が着ているのは黄金の鎧だった。

 煌神の鎧に間違いなかった。

 煌神の鎧――聖皇の鎧を上回る、錬金術により鍛錬したレアアイテムである。

 聖皇の鎧をベースに数種の素材と化合することにより生み出されるアイテムのはずである。

 失敗する可能性がある以上、レアアイテムである聖皇の鎧を無駄遣いは出来ない。

 わずかな可能性に挑戦し、入手した見事なプレートアーマーに僕は軽い嫉妬を覚えた。

 盾を持っていないことからも、職業は魔導剣師だろうか。

 魔導剣師は盾を装備できないからだ。 

 僕の肩を叩く者がいた。僕は振り向く。

 ミナだった。

「あのプレイヤー何者……?」

 僕は思わずミナに訊いた。

「彼がカリバーンなんだって」

「あれが……!?」

 カリバーン――ウィザード・ブレードのプレイヤーランキング一位のプレイヤーであり、攻略チーム『黄昏の騎士団(トワイライト・ナイツ)』を率いる騎士団長である。

 幾つものイベントバトルを制しているという噂がある。

 数という論理でゲームを行う、つまり僕とは正反対の人間だ。

「もう一人がメリクリウス――『黄金の魔術団ゴールデン・マジェスティック・オーダー』主催者」

 黄金の魔術団――主に魔法所有者で構成されたゲーム攻略チームである。

 このゲーム内での隠された魔法の発見やアイテム作成の為の錬金術の研究、タイムテーブルの解析などを行っている攻略集団だ。 

 黄金の魔術団の主催者メリクリウスは格好から、魔法所有者である事は間違いなかった。

 メリクリウスは見たこともないような魔導帽と魔導衣に身を包み、仮面舞踏会で出席者が着けるような銀と黄金のマスクを顔につけている。顔半分が仮面で覆われている為、口元だけが見える。

 いずれにしろ装備品がレアアイテムであることは間違いない。

 このゲームの二大勢力のツートップが対峙している。 

 カリバーンもメリクリウスも会話をせず、互いに距離を取っている。

 二人の間で、火花が散っているようだった。

「なぜここに……?」

 僕はミナに尋ねた。

「多分、みんなスカウト目的……。タイトルホルダーのプレイヤーを、自分達のチームに引き込むためでしょ。タイトルホルダーでも、グランドマスターともなれば、注目度も当然高いから……」

 アユミールも仲間集めが目的だろう。

「――やあ、待たせたね」

 広間に悠然と二人の男女が現れた。

 女はドレスを纏い、結い上げた頭にティアラ乗せている。お姫様そのものだ。男の方は鍔広帽に、カラフルな服装に、杖を一本持っている。メリクリウスより服装が派手だ。 

「今日はお集まりいただきありがとう。隣はセネト王国の姫君フェリア姫、国に迷宮探索の御布令を出した方だ。現在病床の国王に代わりこの国を治めている。そして、僕は王国宰相にして、宮廷の道化師の異名をもつ愚者フールエンデ――」

 フェリア姫はゲームのイメージキャラクターにして、現役アイドルの肖像権を借り受けたAI型NPCである。

 その隣にいる愚者エンデは、確かに愚者というより、まるで道化師ピエロのようだ。

 しかし、振る舞いや雰囲気、物言いからNPCやアルバイトの雇われGMの類ではないようだ。

 明らかに格が違っていた。

 運営側の人間――社員ゲームマスターであることは、明白だった。

 フェリア姫とエンデの登場により、ようやく授与式は始まった。

「――聖職騎士クロム」

 フェリア姫が一人のプレイヤーの名前を呼ぶ。

 アイウェアをしているところからも、知的な印象がある。

 僕は特に彼が持っている武具に注目していた。

 聖皇の肖像盾――聖皇シリーズに連なる武具である。

 聖皇の鎧よりも出現率は低く、全サーバーで百前後と、前回のゲーム内実態調査で出ていたことを僕は思い出した。 

 聖皇の肖像盾イマーゴ・クリペアータは、魔法防御を展開し、防御率を引き上げ、エネミーの魔法攻撃を緩和する効果を持つ。

 記憶が確かならば、エクストラスキルが付随した聖皇シリーズの系譜に連なるA級のレア武具である。

 盾が装備できな魔導剣師には、無用の長物であるが、同じ職業のアイグレーに装備させたいと常々思っているアイテムである。

 次に呼ばれたのは、体格のいい、戦斧を持つ長身の戦士だ。

 フルヘイスで半裸の、まるでアメリカのテーブルトークのパッケージ絵に描かれているような蛮族バーバリアン風の格好をしている。

 上級職の資格を持つものばかりの中で、一般職の彼はどこか異質な感じがした。

 だが、どこかプロのような匂いがする。傭兵のような雰囲気だ。

 戦士職のキャラを資格の取得をせず、そのまま育成するプレイヤーは意外に多い。

 肉弾戦を重要視する戦士は、全ての武器が使用でき、耐久力も生命力も職業中、ダントツだからだ。

 深層部に入れば入るほど、魔法耐久率の高いエネミーばかりになる。

 乱暴な言い方をすれば、魔法は無用の長物といえるかもしれない。

 資源を無駄に浪費しない生の攻撃力は、かなり重宝し、必然的に戦士系の職業は、パーティーの要となる。

 成長も早く、資源に依存した職業ではない為、転職を行わず、戦士系を育成する事は、深層部においては立派な戦略である。

「魔導司祭ミナ」

 ミナは僕にピースサインをすると、王女の前に向かう。

 女性プレイヤーだけにミナは目立つ。フォトジェニックな存在だけに尚更だった。

「魔導剣師ジン」

 僕は名を呼ばれ、フェリア姫の前に進み、勲章を受け取った。

 ファリア姫直々に手渡された勲章を胸につけると、拍手が僕たちを包む。

 僕もこれで一流プレイヤーの仲間入りというわけだ。

 最高に気分がよかった。

「ここに居るもの達は、レベルや所有アイテムの数、スキル、プレイヤーマナーなど一般プレイヤーより抜きん出いる方々だ」 

 エンデの言葉に、僕はウロボロスリングを想像した。

 ここに居るもの達は、あの指輪を所持しているのだろうか。

 それとも、他に特A級のアイテムでも持っているのだろうか……?

「そして、脳力値にも優れている」

「脳力値とは……?」

 クロムが尋ねた。

 眼鏡アイウェアを掛けたプレイヤーだった。

 綺麗な生地を使用したセルフレームが特徴的な、おしゃれな眼鏡だった。

 ブランドのオリジナルデータを流用しているのかもしれない。電子シリアルナンバーが入ったデータを購入すれば、ゲーム内でも使用が可能だった。

 知的で都会的な感じがする。仮の身体全体から、自信のようなものが漲っている。

 実生活においても、エリートサラリーマンか弁護士と言ったさぞかし社会的地位が高い職業についている感じがする。

 いわゆる勝ち組だろう。

 僕のこの手の分析は外れたことがない。

「戦闘能力や神経伝達速度指数、同調率値などの格スペックの評価を算定評価したものだ。ダイヤの鑑定基準のようなものと思ってくれて構わない」

 エンデは説明する。

「今後もこのゲームを遊びつくして欲しい! 勇者達にもう一度盛大な拍手と祝福を……!!」

 先程よりもっと大きな拍手が鳴り響く中、カリバーンが手を上げた。

「一つ提案があるのだが――」

 野太い声だった。

「よろしければ、彼らの実力を知りたい。スカウトの参考に、な。もちろん彼らさえ良ければの話だが……」

 思わぬ言葉に、僕達新規タイトルホルダー達は一様に戸惑いを見せる。

「――私もお願いしたい」

 メリクリウスも言った。

「SⅴSでも行えと?」

 兜頭のバーバリアンの問いに、カリバーンは頷く。

「そうだ。私と戦って欲しい」

「この場で、ですか?」

 僕はカリバーンに尋ねた。

「殺しあうわけじゃない。実力を測るだけだ。……それとも怖いかね」

 カリバーンの挑発に僕はカチンと来た。

 数の論理で、ゲーム攻略を推し進めているプレイヤーには前から反発を覚えていた。

「……いいですよ。やりましょう」

 僕自身、自分の腕を試してみたかった。

 ミナの前で、かっこいい自分を見せたかったというスケベ心もあったかもしれない。

 僕とカリバーンは玉座の間の中央に向かい合って立つ。

 玉座の間はプレイヤー同士のSvSが行なえるようになっているようシステムが設けられていた。

 今思えば、事前に話が決まっていたのかもしれない。

 システム上プレイヤー同士の戦闘はできないようになっている。

 僕はまんまと嵌ってしまったということだ。

 やはり、ランキング一位のプレイヤーの戦闘は注目度が強く、みんなカリバーンのプレイを見守っている。

 特にメリクリウスの視線は端で見ていても熱い。

 エンデとフェリア姫は、僕とカリバーンを見ながら、何やら耳打ちをし合っている。

 何か、品定めされているような気分だ。

「……ほう、ウロボロスリングを持っているのか」

 カリバーンが僕の指輪を見ながらそう言った。

「ええ」

 僕は結局ウロボロスリングを身に着けていた。邪魔になるものでもないし、そのほうが防犯上もいい。

 さすがは、有名プレイヤーである。ウロボロスリングの存在を知っているようだ。

「剣を抜きたまえ」

 カリバーンに言われるがまま、僕はミーティアの剣を抜いていた。 

 カリバーンも剣を抜く。僕と同じミーティアの剣らしい。

 レベルやパラメータはハンデ調整され、ほぼ差はない。

 Buffの手助けがない以上、後はプレイヤーの腕次第ということになる。

 即効瞬殺――長期戦になればこっちが不利になるのは、分かりきっていた。

 剣を構えながら、相手の出方を待っていると、カリバーンと僕は眼があった。

 威圧感が僕を包む。 

 どう仕掛けるか、互いに計っていた時、突然、僕とカリバーンの間に人影が出現した。

 ボロボロのローブを纏った魔法使いのような姿をした者だった。

 まるでエネミーが現れたかのようだ。

「……コンプリーターだ!!」

 出席者の誰かが叫んでいた。

 魔法使い――コンプリーターは顔にガスマスクのようなものを被り、手に水晶玉のようなものを握っていた。

 どうやら、この部屋に忍び込み、潜んでいたようだ。 

 敏捷性が高く、肉弾戦を得意とする上級職で『暗殺士コマンド』という職業があるが、隠形ステルス能力というジョブスキルを持つ。

 魔法使いのようでありながら、コンプリーターの身のこなしは『暗殺士』そのものだった。

 アイテム合成で使う素材アイテムに似た水晶玉をコンプリーターは床に落とし、叩き割る。

 突然、僕とカリバーンの周囲に情報ウインドウが無数に展開する。

 まるで全身を走査されている気分だ。托身体をハッキングされているようだ。

 情報ウインドウにはアイテムリストが丸裸になり、映し出されていた。

「……中々のレアアイテムが揃っているな」

 コンプリーターがマスクの奥で呟く。ボイスチェンジャーで変えたような甲高い声だった。

 この場を襲撃してくる大胆さは、まるでテロリストそのものだ。

「闇アイテムだな……?」

 カリバーンの言葉に、コンプリーターから笑い声が漏れる。

 闇アイテム――ゲームを解析したり、チートを行なう為の違法ハッキングプログラムである。コンプリーターが配布していると噂されるものだ。 

 コンプリーターが使用したのは他のプレイヤーのアイテムを覗き見する闇アイテムらしい。正規アイテム品に偽造し、ゲーム内に持ち込んでいるのだろう。

 カリバーンがアイテム効果を振り切ると、コンプリーターに向かって行った。

 現在システムはSvS状態である。

 戦えないことはない。

 不用意に踏み込んだのは、コンプリーターの落ち度でもあった。

 僕も負けずにもがく様にアイテム効果を弾き返すと、コンプリーターへ向かっていった。

 剣の有効圏内に入ると、僕は反射的にマキシマム・ソニックブレードを仕掛けていた。

 剣の連続攻撃がコンプリーターを切り裂いていく。

 しかしあまり手ごたえがない。

「大したものだ……!」

 僕の動きに感心したように言うと、カリバーンも技を発動させていた。

 カリバーンの技は視たこともないような魔法剣だった。

 派手なエフェクトが展開する。

 まるで、神を召喚するような魔法剣だった。

 他のゲームではおなじみの召喚魔法だが、敵が仲間を呼ぶ為の召喚魔法は存在しても、プレイヤー側にはそのような魔法は存在しない。

 最もシークレット魔法がゲーム内において幾つもある為、確証は無いが、今のところそのような情報は無かった。

 呼び出された存在は神――おそらく――だった。

 だが、あまりにも異形だった。

 神は、王冠を被った男性と女性の二つの頭部を一つの体に持ち、両手に太陽と月をそれぞれ象った儀仗を持っている。

「両性具有神――!?」

 メルクリウスは驚きの声を上げていた。

 両性具有神――攻撃系の魔法を司る魔術と錬金術の神で、本来は神に仕えない魔術師が信奉する唯一の存在である。 

 剣が作り出す圧力のようなものが幾つも襲い掛かる。

 初めて見るジョブスキルに、僕は眼を奪われていた。

 カリバーンの技を全身に浴び、観念したのか、コンプリーターは退散するエネミーのようにこの場から姿を消した。

「……どうやら本物ではないらしい。BOTかエージェントのような独立行動型のプログラムのようだ」

 カリバーンは剣を鞘に収めながら言った。

「アイテムをチェックしたまえ」

「は、はい」

 カリバーンに促されるままに、僕は自分の所持アイテムを確認する。

 盗まれたものは何もない。

「……大丈夫のようです」

 僕はほっとした。ウロボロスリングも無事である。

 カリバーンは僕をじっと見ると、「やはり……ナーヴァスか」とそう呟いた。

 ナーヴァス――聴きなれない言葉だった。

「……さっきの技、あれはジョブスキルなんですか?」

 僕はカリバーンに尋ねていた。

「ああ」 

 カリバーンはそれ以上何も言わなかった。

「君ならいつでも歓迎する。気が向いたらいつでも来たまえ」

 僕の肩を叩きながら、カリバーンは通り過ぎて行った。

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