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告白

 折りたたまれたダンボールを、スーツ姿の人々がビルの中に運んでいる映像が映っている。

 東京地検特捜部がゲーム製造運営会社のテンペスト社に踏み込んでいく映像だった。

 僕はノートパットの動画を見ていた。


 世界最大級の個人情報流出か テンペスト社個人情報不正利用疑惑


 映像画面右端にテロップが載せられている。

『……一億台以上も売れている世界中の爆発的な人気のゲーム機エクスペリエンスの製造管理会社テンペスト社で、そのシステムの根幹を揺るがしかねない事件が起きた』

 エクスペリエンスのイメージ映像と共にニュースのナレーションが流れる。

『内部告発によりテンペスト社は利用者の個人情報を不正に利用しようとした疑いが発覚した。このシステムの登録した利用者の個人情報が流出した可能性も指摘されている』

 AIたちの証拠データは、内部告発という扱いになっている。

 ――怖いですね。使いたくなくなりますよね。

 利用者の声だ。インタビュー場所は秋葉原だろうか。

 さえないひょろひょろの青年が答えていた。僕と同様いかにもゲームが好きそうだ。

 ――最近はオンラインの魂読込のゲームしかやってない。だからゲームが全部できなくて困ります。

 再び別の利用者のコメントだ。

 画面にテロップが入り、利用者のコメントを分かりやすく表示する。

 ――あまりにもびっくりしすぎたのと、はやくなんとかして欲しいとは思ってますけど……。

 コメントが終わると、図解でエクスペリエンスのネットワークの構造が説明される。

「……本当によかったの?」

 僕なミナに尋ねていた。

 渋谷Qフロント内のスターバックスだった。

「うん、だって犯罪者にはなりたくないもの」

 未奈の言葉には屈託がなかった。

 近々未奈はまたオーディションを受けるらしい。

「あっ、アユミールさんだ」

 未奈は嬉しそうな声を上げた。

 ――最近、クリアしたんですけどびっくりして……。

 アユミールがゲームクリア者のコメントととして、テレビに出演した動画だった。

 ネットで拾った動画を見せるという名目で、未奈をここに誘い出した。 

 目立ちたがりのアユミールらしかった。きっと取材の際に出演するように打診されたのだろう。

 ゲームクリア・プレイヤーということで、僕や未奈などにもちらほらと雑誌媒体などから取材が来ている。

 賞金の一千万は、ゲームクリア翌日に僕の銀行口座に振り込まれていた。振込先はテンペスト社名義である。

 AIたちが気を利かせてくれたのだろう。お金に執着は無いが、あって困るものではない。

 テンペスト社は大々的にゲームクリアのパーティーを行なう予定である。今回の騒動で失墜した社のイメージ回復をする為の宣伝行為なのは明白だった。

 クロム=護人の話では、大本の伝報堂までには捜査の手は届かないようだ。

 事実、テレビでは伝報堂とテンペスト社との関係が語られることはまったくといっていいほど無い。

 それだけ影響力が大きいのだろう。

 敵の巨大さに、後になって改めて怖くなっていたが、気にする必要はない護人は言っていた。

 一個人を攻撃するような真似をすれば、それこそ伝報堂の評判を落とすことになる。

 ――世界最大級の個人情報不正利用犯罪といっていいのでは無いでしょうか……。

 情報セキュリティに詳しい有名私立大学の名誉教授が解説する。

『――氏は社会に与えるインパクトは計り知れないと指摘する。現在テンペスト社はオンラインサービスを停止し、経営者達を一新し、騒動の火消しに奔走している』

 ナレーションが続く。

 ――知ってます、自分も被害受けたんで……。不安ですし、対応を早く検討して欲しい……。

 再び利用者のコメントの後、社会の歩みを示す、無数の人々の歩く足元を撮影した、ニュースにありがちな映像が流れていた。

『一度悪用されれば、利用者達に被害が及ぶ可能性もあります』

 映像が切り替わり、再び教授のコメントが映し出される。

『アメリカでは懲罰的損害賠償というのがあって、こういうことを二度とおかしてはならないという意味で、多額の損害賠償、支払いを命じることがあります。今回の場合がそういう風になるかどうか分かりませんけれども、アメリカでは日本円で何千億円単位の損害賠償を命ずる例が出てくるんですね……』

 別の人間が映る。

『ゲーム文化が大きく後退することにもなります。魂読込というゲーム産業のイノベージョンの火を絶やさぬ為にも、法的整備が必要になってくると思います』

 業界情報通のライターがコメントすると、動画が終わった。

「話って何……?」

 未奈が尋ねてきた。

「――うん」

 僕は覚悟を決めていた。

 未奈に告白する。

 その為に、今まで頑張ってきたのだ。

 今なら言える――どんな結果が待っていようと、怖くはなかった。

 誰かが背中を押した。

 そんな気がした。

                  <終>

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