2 ラスボスとの死闘
サルマンの身体を依代にして出現したグルダーニにより、最後の戦いの場は瓦礫の山と化していた。
足場が非常に悪くなり、崩落した天井や床の亀裂から、異次元空間のようなものが見える。
そして、予想通り、戦いは長期戦に縺れ込んでいた。
グルダーニ――先ほどサルマンだったものは、第一形態から第二段階へ変貌し、禍々しい姿を見せている。
第一段階は速攻で片がついた。
グルダーニはグロテスクな肉塊の卵か、胎児のような形状で、主に触手による攻撃だけであった。
僕の装備する両性具有神の聖剣の打撃攻撃は十分に効果を発揮した。通常攻撃でも虚空皇の剣より遥かに大きなダメージを刻む。
両性具有神の聖剣だけが有効な武器というのは嘘偽りは無いようだ
資源を温存しながら戦うには、やはり両性具有神の聖剣は必要不可欠だろう。
第一段階の戦いが終わるとすぐ様、第二段階の戦闘が始まる。
第二段階は、胎児の状態から球体に近い形状になり、複数の腫瘍の集合体といえばいいだろうか、蠕動し、息づいている。
蟹のような外骨格の表皮のようなもので所々覆われ、硬く閉じられている。
触手はより太くなり、数を増している。
皺と血管が走る球体の中心部には、人の顔のような物が浮かび上がっている。
明らかに女性のような表情の作りを成した面長な顔を中心に、別の動物のような顔が重なり、一体化している。
瞳は眠るように硬く閉じられていた。
一言で言うならタコの化け物――しかし、その大きさは今までであったエネミーでも最大級、暴君竜以上の大きさだ。
もちろん僕達はただ眺めていたわけではない。その間、生命力値などの資源回復に努める。
「お約束だろうと思うけど……」
アユミールが訊いてきた。第一段階での戦闘はほぼ防御に回っていた。後の戦闘を想定した魔力の温存作戦である。
「……ああ、おそらくあと一回は変化するな」
クロムが答える。
「じゃあ、今度も温存しながら戦うってことで」
「それこそお約束だ」
第二段階との戦闘開始と同時に、前衛の攻撃担当者へ向けて、後衛の後方支援者が、強化魔法の特殊効果を施す。
攻撃や防御はもとより、そしてスピードや運などさまざまなステータスが一時的に引き上げられていく中、グルダーニ本体中央に浮かぶ顔が口を開けると、熱線を放っていた。
グルダーニの熱線攻撃は、戦闘参加メンバー全員を焼き払う。
生命力値が凄まじい勢いで失われていく。
プレイヤーのみならずAIたちも含め、全ての戦闘参加者の資源が失われていく。
回復処置に魔法を出し惜しみしている余裕はない。
パーティー間の動きが、回復を行ないながら攻撃も同時に展開しようとした時、グルダーニから波動が放たれた。悪しき波動であった。
魔神の胎動――後方支援者が僕達に施されていた特殊攻撃が瞬時に掻き消されていった。
グルダーニの特殊攻撃だった。
特殊攻撃を早い段階で仕掛けてくるのも異例だが、魔法付帯効果を消却するなど、反則以外の何者でもない。
前衛の攻撃担当者の攻撃強化が消えうせ、攻撃力値が一気に低下する。
事実、攻撃をかける為にグルダーニへ向っていった前衛達が与えたダメージ値は微々たるものだった。
その先行した前衛達を、グルダーニは太い巨木の幹のような触手を何本かまとめて振る。
前衛達が触手に薙ぎ払われ、吹っ飛ぶ。
僕もその一本に弾き飛ばされていた。
フォーメーションが激しく乱れる中、「距離をとって魔法での攻撃に切り替えろ!」とクロムの指示が飛んだ。
僕が魔法の準備に入った時、グルダーニの球体状の本体は、宙に浮かび上がると、全身から波動を放った。
混沌の波動――グルダーニの精神攻撃だった。
視界が大きく揺れ、托身体全身を大きく揺さぶってくる。
ミナとアユミール、聖皇の肖像盾を前にかざし、攻撃に耐える。クロムはアブソリュート・ディフェンスを施した。
波動を浴びた一部のメンバーのステータスが異常状態になっている。
フレイム・メッセンジャーなど足元にも及ばない強力な精神攻撃だった。
戦闘に参加できなくなったメンバーを正常に戻す為に、すぐに回復役のメンバーが対応に回る。
いつしかグルダーニの周囲に、力場のようなものが形成されていた。
クロムの指示に従い、前後衛の攻撃魔法所有者が<資源放射>を立て続けに放っていた。
僕も<資源放射>の魔法を試みる。
解き放たれた魔力資源の大出力放射は、属性に関係なく大ダメージを与えるはずだが、グルダーニにはまったく効果が無かった。
魔法無効化――グルダーニの展開する防御フィールドは特に強力で、魔法攻撃をまったく受け付けない。 あざ笑うようにグルダーニは触手を波立たせ、鞭の様に振るう。
触手攻撃は中距離攻撃を可能とするが、こちらが触手へいくら攻撃を加えても、意味がない。
本体へ攻撃を行なわなければ、戦いはいつまでたっても終わらない。
触手を交わしながら本体へ直接攻撃をかけるか、魔法による長距離攻撃を放つか、だ。
あとはディメンジョンブレードなどの中長距離型魔法剣による攻撃しか残されていない。
僕は触手を避けながら、本体へ攻撃を仕掛ける為、グルダーニへ向っていった。
フィロソフィーブレードを発動すると、マキシマム・ソニック・ブレードの重複配合し、攻撃を仕掛ける。
両性具有神の聖剣による計二四回の打撃攻撃は、ダメージがどんどん累積し、グルダーニの生命を削っていく。グルダーニに有効な武器である聖剣の面目躍如だった。
魔法剣の効果が終了すると、僕は身を翻し、恥も外聞も無く、全力で走って逃げた。
他のメンバーも床の亀裂を避けながら、後退していく。亀裂内部に嵌まり込めば、異次元世界の藻屑と化すだろう。
僕たち主要メンバーは瓦礫の山に身を潜める。
グルダーニ攻略のプランを練りなおす必要があった。
攻守共に次々と繰り出されるグルダーニの特殊攻撃に、第二段階でありながら僕達は大苦戦している。
明らかに旗色が悪い。
「魔法障壁か……。まさかグルダーニの今の状態は、防御形態なのか……?」
クロムが不吉なことを言い出した。
「第三段階は攻撃形態とでも……?」
僕の言葉に、クロムは無言のままだった。
考えたくもなかった。
グルダーニの攻撃がより強力になるということだ。今でもすでに持て余しているのに、これ以上強敵になったら、勝てる見込みは無い。
「ミナ、回復は他の回復魔法所有者に任せて、君は分析に徹してくれ」
クロムがミナに指示を出す。
「……無理だと思います。何度もトライしてるんだけど、成功しなくて……」
「敵の状態が分からない以上、戦いようがない。諦めずに何度も試してみてくれ」
「……わかりました」
ミナはクロムの言葉を受け入れる。確かに他に方法が無い。敵を知らずして、対策の立てようが無い。
「なんか温存とか言ってられなくなってきたわねえ……」
アユミールは考えをまとめるように、腕を組みながら言う。
「……ジン君、こうなったらシークレット魔法を仕掛けるわよ。その後でフィロソフィー・ブレードをお願い」
アユミールは僕を誘ってきた。アユミールがこうなると、誰も止められない。
しかし、今のアユミールは赤の魔導書の装備により、魔力資源の消費率が低減され、代償制限の緩和が成されている。シークレット魔法を使用しても、次の攻撃に遅れが生じる程度で、睡眠状態などに陥ることは無い。魔法のリスクは少なかった。
「わかりました。やってみます……!」
僕はアユミールの案を結局のんでいた。
考えていても始まらない。有効な対策がない以上、攻め続けるしかなかった。
「前衛が魔法を主体とした攻撃でグルダーニを牽制し、後衛は前衛の強化と回復を行うことを基本に、フォーメーションを組む。強化が整った奴から、触手を避けつつ、接近して直接攻撃をかける。<デモン・ムーヴ>を仕掛けてきたら、すぐに後退……でいいな?」
クロムの指示に僕達は一斉に頷く。
「じゃあ、行きますか……!!」
アユミールは自らを鼓舞するように言うと、他のメンバーは動き出し、配置に付いていく。
攻撃魔法所有者達が魔法で攻撃を試みる最中、アユミールは赤の魔導書を開き、魔法の準備に入る。
アユミールの力が高まっていく。
僕も魔法剣の行使に入っていた。
選択したのは核爆の魔法剣だった。
プレッシャーブレードと<核爆>の魔法を配合すると、魔法触媒が剣の先端に浮かぶ。
アユミールはすでに魔法触媒の形成を完了していた。
形成スピードは前回よりも速い。赤の魔導書の恩恵だった。
聖皇の肖像盾を前方で構え、もう片方の手で聖皇の司祭杖を握りながらミナも精神統一に入る。
グルダーニの分析作業を試みる。
「ガツンといくわよ……!!」
そう叫びながらアユミールが放ったのは、<核力消失>の魔法だった。インサニティー・ロードを葬り去ったシークレット魔法である。
魔法触媒が被弾すると、グルダーニは粒子化し、砕け散るような演出効果が展開されていく。
魔法をくらったインサニティー・ロードと同様、グルダーニは本体が塵芥化しそうになっては、元の姿に戻るような作用を何度も繰り返している。
しかし、インサニティー・ロードのように、粒子と化し、消滅することはなかった。
それでもシークレット魔法は、グルダーニに多大なダメージを与えていた。
魔法現象が終了すると、すぐに僕は魔法剣を仕掛けていた。
僕は下段から上段へ魔法剣を切り上げるように、両性具有神の聖剣を振るう。
魔法触媒が弾け、剣の衝撃波と爆炎が火山のように吹き上がると、グルダーニが巨大な火柱に包まれる。
長距離広範囲の強力な核爆の魔法剣は、第二段階型グルダーニに大ダメージを与えた。
さらにクロムがディメンジョンブレードを仕掛けた。横一線に空間断層の刃が走り、グルダーニを切り裂く。
僕よりもクロムは虚空皇の剣を使いこなしていた。
三連続の強力な攻撃に、グルダーニの攻撃の手も緩んでいだ。
僕達の攻撃が終わると、残りの前衛が魔法剣や打撃攻撃などの接近戦を仕掛け、後に続く。
しかしグルダーニは、邪魔な連中を排除するように、再び熱線を放った。
熱線がメンバー全員に降り注ぐ中、ミナの目が見開かれる。
分析が成功したようだ。
熱線を避けながら、主要メンバーはミナの分析結果を聞くために、近くに向う。
「アーマークラスの高さはエネミートップクラス、さらに防御フィールドを断続的に展開し、魔法は全ての系統に耐性あり。グルダーニ自身の攻撃成功率は高く、回避も難しい……触手への攻撃は、ほぼ無意味……ダメージの計上はほとんど成されない。弱体化魔法も効きが薄い……でもシークレット魔法は比較的有効」
ミナの分析結果は戦いの中で知りえたことばかりだ。あまり有力な情報とはいえない。
「弱点らしき部分は見当たらない……強いて言えば顔部分だけがアーマークラスが低い。……核爆の魔法を狙い撃ちしてみます。いいですよね?」
ミナが僕達に確認していた。魔法の正確さなら、ミナがナンバーワンだ。
「……では、こちらはディメンジョンブレードで狙い斬りしてみるかな。……ジン君、ディメンジョンブレードの重複配合攻撃を行なうとどうなる?」
クロムが突然尋ねてきた。
「……試したことはありませんけど、多分通常よりもはるかに攻撃力が増すと思いますが――」
「当然、クリティカル率も高まるか……?」
クロムの言葉に、僕はハッとなる。
「……成程、試してみる価値はありますね……。やってみます!」
「有効な交戦ポイントまで移動したら、まず俺が先行して仕掛ける。……多分、そろそろ特殊攻撃を仕掛けてくるころだ。十分に注意しろ」
乱れたフォーメーションを一旦整えると、僕はフィロソフィーブレードを発動し、ディメンジョンブレードを二重配合する。
ミナとクロム、そして僕はそれぞれのポイントに移動した。
触手が蠢きながら、グルダーニ全体が蠕動した。
何かを仕掛けるつもりだ。
しかし、こちらの方が早かった。ミナが<核爆>の魔法触媒を打ち出していた。
魔法の精密攻撃により、魔法触媒は顔部分に正確にヒットする。
爆炎がグルダーニを包み、特殊攻撃がキャンセル状態になった。
クロムが駆け出す。
走りながら、クロムはディメンジョンブレードでグルダーニに切り込んだ。
顔の身中線を沿って、空間断層の刃の軌跡が入った。
クロムの斬線をなぞるように、さらに僕のディメンジョンブレードの重複配合された魔法剣を走った。
単発のものよりも明らかに太い、二重ディメンジョンブレードの攻撃が刻まれると、グルダーニは絶叫した。
グルダーニ第二段階を斃した瞬間だった。




