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1 黙示録の四騎士

 四人のスケジュールが最もいい日に、僕達は護人の部屋に集まっていた。

 社会人の護人に限っては有給まで取っている。

 隠者サルマン、そしてグルダーニ神へ戦いを挑むラストバトルを行なう為だった。

 僕達はダークゾーン内を探索し、ついに九階へのルートを見つけ出していた。

 レビスに捕まったプレイヤーメリクリウス事実上追放になった。

 さすがに逮捕までには至らないまでも、数々の余罪ともいえる違法行為が発覚した。確認できるだけでも数十種類の複数のアカウントを所持し、コンプリーターと手を組み、ゲーム世界からハッキング行為を行っていたようだ。

 個人情報保護の観点からプレイヤーの身元が大々的に晒される事は無かったが、ネトゲ板などの掲示板で、RMT業者を営む中国人ブローカーや元暴力団構成員、あるいは都内に住む二八歳の無職の男性など未確認情報が錯綜していた。

 しかし、運営側はアカウントを全て停止しただけで、特に告訴するつもりは無いようだ。

 リーダーがいなくなったメリクリウス一派『黄金の魔術団』はいくつかの小グループに分裂し、攻略を進めているようだが、コンプリーターの援助が無くなり、大きく後退を余儀なくされた。

 コンプリーターに関しては、あの後姿を見せなくなった。

 コンプリーターのほうからメリクリウスのへ接触してきて、違法的な攻略を行なっていた。情報交換と共に闇アイテムの提供を受けていたらしい。

 結局我々の元に現れ、自滅消去したものは分身と考える方が妥当だろう。

 本当にプログラム体なのだろうか、ならば相当に優れたAIソフトである。そもそも論理規定三項に縛られたAIが犯罪を犯すなどありえるのだろうか。

 何よりカリバーンはコンプリーターが人間であることを示唆していた。

 僕の疑問は尽きなかった。

 赤の錬金薬は規制を解かれ、出現の事実をちらほら耳にするようになっていた。僕達がグルダーニ神との戦いに踏み切った理由がそれだった。

 僕達以外に両性具有神の聖剣の生成に成功したという話はさすがに聞かないが、時間の問題だろう。

 うかうかしていると、別のグループがすぐに追いついてくる可能性がある。

 もはや一刻の猶予も無かった。

 護人の部屋はおしゃれで、本人のセンスと趣味の良さを伺わせるインテリアとレイアウトだった。

 護人のエクスペリエンスには、マルチプレイ用のタブが接続されている。

 僕達はそれぞれ魂読込用のマイ・ヘッドギアを持ち込み、タブに接続していた。

 四二インチのテレビ画面にはウィザードブレードのデモ画面が映っている。

 僕達全員はヘッドギアを装着する。

「……必ず勝とうね!」

 愛美=アユミールが声をかける。相変わらずテンションは高い。

「もちろんだ。やるからには必ず勝つ……!」

 護人=クロムが言う。クールな護人も今日はどこか熱い。

「ジン君」

 未奈=ミナが僕の名前を呼んだ。ヘッドギア姿の未奈も可愛い。

「何?」

「ありがとね。今のうちお礼を言っとく」

「……まだ早いって」

「ううん、ジン君があの時言ってくれなかったら、わたし本気でこのゲームをクリアしようと思わなかった」

「…………」

「お陰で、すごく自分に自信が持てるようになった。本当に感謝している」

 僕は何を言っていいのか、返答に困ってしまった。

 僕がここまで間ばれたのは、紛れもなく未奈のお陰だ。

 こっちこそ感謝したい。

「だから、自分の為に戦って欲しいの。わたしの為じゃなく」

「未奈――」

 僕は助けを求めるように護人を見ると、護人は微笑していた。

「……まあ、ベストを尽くせってことさ。お互いに、な」

「そういう事」

 護人も愛美も、僕を見ながら意味ありげに笑っていた。二人とも僕の未奈への思いを完全に見抜いているようだ。

「では行こう」

 護人の声に、僕達は一斉にバイザーを下げると、ゲーム世界にソウルロードした。


 エクストラステージ<異次元界>九階――転移魔法により出現したポイントは、グルダーニ神神殿近くだった。

 ダークゾーン攻略を進めていく中、僕達四人はレベルアップと共にレアアイテムを入手し、錬金術スキルなどで強化し、装備を揃えていった。

 ダークゾーン内の敵は強敵ぞろいだが、ドロップアイテムも貴重なものばかりで、例えばアユミールは右手に聖皇の肖像盾を持ち、左手には魔導儀杖ではなく、彫金の装丁が施された大きな赤い表紙の書物を携えている。

 <赤の魔導書>だった。

 メリクリウスが所持していたアイテムである。赤の魔導書を装備すると、スロットが追加され、別の魔導書をさらに装備できる。これにより魔力消費が少なくなり、シークレット魔法使用の際に課せられる制限が緩和される。ダークゾーン探索中に、シークレット魔法の魔導書が三つ集まり、錬金術スキルによって生み出していた。

 またミナも<聖皇の司教杖>というアイテムを入手していた。回復魔法の比率を高めると共に、<福音>の効果も持ち、資源の消費なくして回復をもたらす、これもA級レアアイテムである。念願だった聖皇の肖像盾も入手し、装備している。

 僕が愛用していた虚空皇の剣は今はクロムが装備している。クロムはディメンジョン・ブレードが使用できるようになっていた。

 しかし、シークレットスキルだけは身につけることが出来なかった。ダークゾーン内で何回かウロボロスリングを入手出来たが、メリクリウスが解析したウロボロスリングの乱数は変更され、乱数の調整固定は侭ならなかった。それは他のレアアイテムも同様だった。

 僕達プレイヤーに加え、持ちキャラ総勢一六人はサルマンがグルダーニを召喚するための神殿の扉の前にいた。

 扉を明けようとしたとき、魔方陣が四つ浮かび上がると、四人の騎士風のエネミーが出現した。

 フォー・アポクリプス・ナイツ――黙示録の四騎士だ。

 フォー・アポクリプス・ナイツはそれぞれ赤、青、白、黒と四者四色の鎧を全身で身を固め、剣と盾を構えていた。 

 グルダーニ神の神殿を守るサルマンの親衛隊そのものだ。

「現れたわね」

 アユミールが不敵に言う。

「それぞれ一体つづ分かれて始末するぞ」

 クロムが指示を出す。

「オッケー」

「はい」

「了解しました」

 それぞれプレイヤーのパーティーたちが配置に付くと、僕は両性具有神の聖剣を抜き、哲学者の剣の準備に入る。

「……いきなり使うか」

 クロムが僕に尋ねてきた。

「慣らし運転って必要でしょう?」

 僕の言葉にクロムは微笑む。

「頼むぞ、エース」

 クロムの言葉に、僕は微笑すると、戦闘がスタートした。

 アイグレーとエリテュリアが攻撃強化魔法を施していく中、僕はフィロソフィー・ブレードを発動し、マキシマムソニックブレードとディメンジョンブレードを配合する。

 両性具有神が降臨する。

 資源が燃焼し、力が身体に宿ると、僕はディメンジョンブレードの連続攻撃が繰り出した。

 剣は軽い。虚空皇の剣よりも遙かに軽い。資源消費量も遙かに少ない。

 全て両性具有神の聖剣の恩恵だった。

 空を滑るように斬撃が疾走する。

 資源の消費もかなり軽減されている。

 ディメンジョンブレードは九回に達していた。

 まだまだ伸びる――そういう確信があった。

 攻撃強化効果も手伝って、無数の空間断層の刃は、敵を打ち倒し、戦闘は一ターンで終了する。

 僕のパーティーはすぐに他のプレイヤーのフォローに回ろうとする。

 クロムもディメンジョンブレードで止めを刺していた。

 僕以外のプレイヤーもすでに戦闘を終了していた。

 僕達のレベルはもう、そこまでに至っていた。

 戦闘終了すると僕達は扉を開き、神殿内に踏み込んでいった。

 神殿奥の祭壇には、隠者サルマンがいた。

 僕は再びサルマンと対峙していた。

 僕達を一人一人見ると、サルマンは突然拍手しだした。

「……たいしたものだ。さすがナーヴァスだ」

 悪意のない素直な賞賛に、僕は聞こえた。

「ここでだらだらとゲームイベントを開始してもいいが……それともイベントをショートカットできるが、どうするかね?」

 サルマンは僕達に尋ねてきた。

「……必要ないな。確かに」

 クロムははっきりと断った。

 僕も必要なかった。

「その代わり教えてもらえないか」

「何を、かな?」

「君は聖人――レビスやカリバーン同様、AIなんだろう……?」

「ああ」

「君のAIとしての役目はなんなんだ……?」

 クロムの問いに、サルマンは一瞬答えるのを躊躇する。

「……まあ、いいだろう。君達に正体を明かしたところで、ゲームバランスが崩れるわけじゃない」

 サルマンはもったいぶった言い方をする。

「僕の役目はエネミーバランス管理の為のAI。敵の発生やエネミーの戦闘力の調整を司る」

 カリバーンがアイテムの神ならば、サルマンはエネミーの神といえる。

 いわば、エネミーの化身そのものだ。

「しかし、奇しくもナーヴァスたちが揃いも揃って、戦いに挑んでくるとは……」

「ツイてないわね」

 アユミールの言葉に、サルマンは笑う。

「……いや、むしろ幸運さ」

 サルマンはどこか嬉しそうだった。

 僕はその言葉が本心に聞こえた。

 AIに本心という概念があればの話だが――。

「さあ、では始めるとしようか」

 そう言うとサルマンは杖を掲げる。

「ウロボロスリングの秘密――」

 僕はとっさにサルマンに尋ねていた。

「……ああ、それもゲームクリア時に教えてあげるよ」

 そう言うと、サルマンが魔法陣の中心で光に包まれ、邪神像が鳴動する。

「グルダーニを召喚する。僕自身を生贄にしてね」

「そういう設定か……」 

 クロムはどこか冷めたように言った。 

「ああ、盛り上がる演出だろう……?」

 サルマンの身体が膨張を繰り返すと、怪物と化していく。

 僕が剣を構えると、周囲の風景も一変していた。

 神殿内の天井が崩れ落ち、床に亀裂が走っていく。

 激闘の予感が、僕を心地よい緊張感が包んでいた。 

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