2 使いこなせない技
エクストラ・ステージ<異次元界>での攻略を始めて早々、巨大エネミーとの戦闘が待っていた。
今、僕達が相手にしているのは漆黒の暴君竜だった。
AIを含めた一六人のフルメンバーで戦っていた。
漆黒の暴君竜の各パラメーターは深緑の暴君竜より全てが強化され上だが、前回の巨大竜との戦闘経験が、漆黒の暴君竜とのバトルを優位に進めていた。
何より僕にはフィロソフィー・ブレードがある。
先日得たばかりのシークレット・スキルであるフィロソフィー・ブレードを試すには、漆黒の暴君竜は格好の相手だった。
だが、それは僕の奢りだった。
アユミールがシークレット魔法を決めた後、僕はフィロソフィー・ブレードを発動していた。
両性具有神が降臨し、強力な魔法と魔法剣を組み合わせる。
選んだのは<核爆>の魔法とプレッシャーブレードだった。カリバーンが得意とする魔法剣である。
魔法触媒が形成されると、僕は攻撃を仕掛けた。
剣を振るった途端、急激に重くなり、自由が利かなくなった。
攻撃ミス――エネミーを掠ることなく、魔法剣は大きく外した。
魔法剣が空振りに終わり、舌打ちしながら僕は再度フィロソフィー・ブレードを選ぶ。
今度はマキシマムソニックブレードとディメンションブレードの配合を選択し、複合魔法剣を放つ。
再度、両性具有神が降臨し、派手な映像効果を展開すると、配合を終え、準備が整うと僕は魔法剣を放つ。
竜のウィークポイントは前回の戦いで把握している。
数箇所の弱点を狙い、僕は魔法剣を放った。
しかし繰り出した次元裂断は、たった三回だった。
攻撃は弱点を切り裂き、クリティカルヒットを導き出していた。
次元裂断の刃の太刀筋に沿ってエネミーが自動補正され、断面を顕にしながら竜が真っ二つになると砕け散る。
一撃必殺にも関わらず、僕の気持ちは冴えない。
利得が加算され、キャンプモードに入ると、クロムは「……魔法剣が使いこなせてないようだな」と僕に尋ねてきた。
「……すいません」
僕は謝る。
「君だったら、もっと回数を出せると思っていたが……」
クロムの失望にも似た声が漏れていた。無理も無かった。
「ひょっとして、ディメンジョンブレードとソニックブレードは咬み合わせが悪いのか?」
「……そうじゃなくて。おそらく虚空皇の剣では十二分に発揮できないんだと思います。なんか、急に重い感じになるんです」
「成功率と相性の問題か……やはり、両性具有神の聖剣を手に入れないと駄目ということか……」
哲学者の剣の配合処理には、時間も掛かる。
攻撃に遅れが出るということだ。
「やはり、白光の法剣に装備換えしたほうがいいんじゃないか?」
クロムの言葉に、僕は首を振る。
「……正直、ディメンジョンブレードが使用できないのは痛いです」
白光の法剣は、虚空皇の剣を上回り攻撃力を持ち、哲学者の剣使用時の資源消費を大幅に軽減する一方、ディメンジョンブレードを使用できる追加スロットは付属していない。
ディメンジョンブレードが使用できるのは、虚空皇の剣だけだ。
ディメンジョンブレードは対魔法耐性の高いエネミーに絶大な効果がある。また近距離範囲から長距離範囲と攻撃距離も広い。
ディメンジョンブレードが使用できないということは、戦術が大きく変わってしまう。
「高コストの魔法剣だし、油断してるとすぐに資源を使い切ってしまう……」
フィロソフィーブレードで、魔法剣同士を組み合わせれば、当然二重に資源を消費する。
資源が底を尽けば、万能薬で回復させるか、その度に街に戻り、回復させなければならない。
超高額の万能薬の使用も、これでは莫迦にならない。
「……これじゃ、ボス戦じゃとても使えませんよ」
今の状態では短期決戦がいいところだ。
ボスのような長期戦が当たり前の戦闘では、資源がすぐに底を着き、途端にパーティー内で足手まといに成り下がる。
あまりにも扱いが難しい。
「……いや、今は資源を考えず、何度も試すべきだ。データをとにかく収集して、慣れた方がいい。フィロソフィー・ブレードに関するデータがあまりにも少なすぎる」
「……そうですね」
クロムと話をしている側で、ミナがドロップアイテムを鑑定していた。アユミールがその様子を見守っている。
「ウロボロスリング……!!」
ミナが大声を上げた。
「シリアルナンバーは……?」
アユミールが尋ねる。
「二八」
ウロボロスリングの出現率は上がっているということだろう。
運営側がアイテム出現の規制を解除したのだろうか。
「わたしが貰ってもいい?」
アユミールが真っ先に主張した。
「どうする?」
クロムが皆の意見を聞く。
「わたしはいいと思います。高位魔術師がウロボロスリングで、どのような能力を得るのか、すっごい興味がある――」
ミナの意見は周りを納得するのに、十分なものだった。
魔法部門を強化するのは、今後の戦いを優位に進める上でも必要だ。
僕達は同意すると、アユミールはウロボロスリングを指に嵌め、ボーナス・パワーを解放した。
カリバーンのときと同じように、爆発的な光を放つ。
しかし、ウロボロスリングは砕け散った。
「……最悪!!」
アユミールの様に、ミナは吹き出していた。
「何笑ってんのよ!?」
「……ゴメンなさい。だって、しょうがないじゃないですか……この場合」
ミナは謝りながらも、笑うのを止めることはできないようだ。
やはり、秘技は簡単に得られない。
エクストラステージ<異次元世界>は全九階で、石造りの迷宮とは打って変わって、時空間の回廊で構成され、さらに無数の階層に分かれ、入り組んでいる。
またダークゾーンやワープゾーンのような空間系トラップが無数に張り巡らされ、プレイヤーの方向感覚を狂わせ、苦しめる。
回廊のスペースは一定ではなく魔王魔神級のエネミー加え、漆黒の暴君竜のような巨大エネミーが跋扈する世界でもだった。
裏技――公式にアナウンスされていない技である。
バグか、メーカー側の仕込みか、デバックモードのいずれか、とされている。
フィロソフィーブレードの獲得は、極めて偶発的なものだろう。
AIとの関わりこそが、アイテム入手やスキル体得の鍵というのは、何となく肌で感じていた。
三つのアイテムを揃えた所で、両性具有神の聖剣を手に入れられるとは限らない。
今砕け散ったウロボロスリングがいい例だ。
所詮は、擬似乱数――乱数のように見えるが、実際には確定的な計算によって求めている数列に含まれる数にすぎない。
擬似乱数を生成する擬似乱数生成器や、生成アルゴリズムである擬似乱数生成法の産物だ。
サイコロを例にとるまでもなく、乱数は本来規則性も再現性も無いために予測は不可能だが、擬似乱数は計算によって作るので、作り方が分かれば理論的には予測可能であり、また内部の初期値が分かれば、先に計算しておくこともできる。
両性具有神の聖剣を得た時、言うまでも無く、それは最終ボスとの決戦の時であった。