3 ブレード・マスターとの戦い
戦闘開始直後、カリバーンはフィロソフィーブレードを仕掛けてきた。
両性具有神の演出効果が顕現すると、炎の剣が無数に幾重にも走る。
フレイムソードとソニックブレードを合わせた様な剣技だった。
もはや何でもありだ。
クロムがアブソリュートディフェンスを展開し、やり過ごす。
「魔法で攻撃を……!!」
クロムは魔法剣に耐えながら、後衛に指示を出した。
「了解!!」
ミナとアユミールは同時に同じ魔法を仕掛ける。
<核爆>の魔法だった。
二つの魔法触媒は、カリバーンへ向って放たれる。
ワイヤーフレームの世界が爆炎でカリバーンもろとも飲み込む。
カリバーンはダメージを食らうが、ほぼ無傷に近かった。
「……魔法無効化能力か。エネミーそのものだな」
クロムは舌打ちしながら言った。魔法への抵抗率は高いようだ。
「マキシマムソニックブレードで接近戦を掛けてみます」
僕は自分の考えを告げた。
「……魔法剣を打ち合いは危険だ。ディメンジョンブレードで距離をとって応戦するべきだ」
「いいえ、カリバーンの魔法剣は全て中距離攻撃を前提にしています。もしかしたら接近戦が苦手なのかも……」
「……そうか、AIゆえに行動予測は出来ても、反射的対応はあまり得意ではないということか……」
クロムの分析に僕は頷く。
「行きます!!」
僕はそう言うとカリバーンに向っていった。後ろでミナが<福音>による常時回復をパーティー間に施す。
間合いに入り、剣を打ち込むとカリバーンが僕の剣を受ける。
「ナーヴァス、私を失望させるなよ……!!」
カリバーンは笑いながら、剣を振るう。
「黙れ!!」
数回剣を交えると、僕はマキシマムソニックブレードを仕掛けた。
間隙の無い無数の高速剣がカリバーンに打ち込まれていく。
しかし、カリバーンもマキシマムソニックブレードを仕掛けてきた。
高速剣と高速剣が互いに鍔迫り合い、打ち消しあってダメージを刻むことが出来ない。
マキシマムソニックブレードが破られていた。
「……ワンパターンだな、ナーヴァス。この技に頼りすぎだ」
カリバーンの言葉が耳に響く。
カリバーンの予測能力は僕の単純で単調な行動を完全に読んでいた。
伝家の宝刀を完璧に防がれ、失意と敗北感が僕を包む。
茫然自失という戦いにおいて絶対に犯してはならない状態に陥った僕は、カリバーンのなぎ払った剣を、まともにくらい、吹き飛ばされた。
精神的にも托身体にもダメージをくらい、しばらくまともに立ち上がれない。
剣を握る手に力が入らなかった。
カリバーンが僕に躊躇無く、剣を上段から振り下ろそうとしたとき、クロムが前に立ち、盾で剣を受け止めた。
さらに火球がカリバーンを襲う。ミナの魔法だった。
ミナはシューティングゲームのように火球の魔法を連射する。レベルの低い魔法ゆえ連発が可能だった。
精度の高い収束された魔法は、魔法無効化が高いカリバーンといえど効果的だった。ダメージは無いに等しいが、視界を奪い、牽制するには十分だった。
「早く逃げて……!」
ミナの言葉に従い、僕とクロムはその場を離れた。
高い魔法無効化率に加え、フィロソフィーブレードを中心に魔法剣を知り尽くし、使いこなす技術を持つカリバーンは、エネミーと一線を画す存在であった。
エネミーネーム<ブレード・マスター>の名を恥じぬ実力だ。インサニティー・ロードなど比べ物にならないほど手ごわい。
僕達は身を寄せるように、一箇所に集まっていた。完全に圧されぎみの状態だった。
「……断っておくが、私はゲーム内での戦闘データをベースにした行動予測機能を持つ戦闘型AIでもある。当然、君たちのデータも収集済みだ。ただのエネミーと思っていると、永遠に勝てんぞ」
カリバーンは僕達に告げる。
「何か打つ手はないか……?」
クロムが皆に尋ねてきた。
「玉砕覚悟でシークレット魔法ブチかます……!?」
アユミールは苛立ったように言う。
「……止めておけ、奴はメリクリウスの魔法触媒を打ち抜いている。攻撃が無駄に終わるだけだ」
クロムの言葉に、アユミールは手をワナワナさせるが、反論はしなかった。
アユミールも百も承知だろう。
カリバーンは攻撃を仕掛けてこない。
僕達の相談が終わるまで待つつもりだ。どこまで、プレイヤーを馬鹿にすれば気が済むのか。
「……魔法剣を放った直後なら?」
ミナの意見に、僕達全員はハッとなる。
「……意外にギャンブラーだね、ミナは」
アユミールは破顔した。
「よおし、乗った……!」
アユミールは両手を打ち鳴らした。
「まったく、このお姫様達ときたら……」
呆れながらもクロムはどこか楽しそうだった。そして僕を睨む。
「しっかりしろ。少しは彼女達を見習え。戦意を失うのは、死亡してからでも遅くは無いだろう……?」
ハッパを掛けるクロムに、僕はハッとなると、両頬を両手で叩き、気合を入れなおした。
「俺はアブソリュートディフェンスで防御に徹する。守りが硬ければ、向こうも大技を使わざる終えないはずだ」
「僕はディメンジョンブレードを仕掛けます」
僕は言う。
「……その意気だ。それでこそエースだ」
クロムは笑った。
「アユミールはなるべく距離をつめて、確実に当てるんだ。詠唱キャンセルだけは気をつけろ。ミナは回復と補助魔法に専念してくれ。無理だと思うが、分析の方も頼む」
クロムの指示に、
「オッケー、まかせて」
「了解です……!」
アユミールはオーケーサインの輪っかを作り、ミナは頷く。
フォーメーションを整えると、クロムはアブソリュートディフェンスを展開し、ミナが攻撃強化の補助魔法を僕に掛ける。
アユミールが魔導書に装備変えを行なっている間、僕はディメンジョンブレードの準備に入る。
カリバーンはディメンジョンブレードをもっていない。追加スロットに無い以上、向こうは使用できない。
僕はディメンジョンブレードを放つが、カリバーンは体裁きだけで、ディメンジョンブレードを避けた。攻撃をミスしていた。またしても、攻撃を読まれた結果だった。
アブソリュートディフェンスを切り崩す為、予想通りカリバーンはフィロソフィー・ブレードを繰り出してきた。
両性具有神が降臨すると、白光の法剣の刀身に白い冷気のようなものを帯び、立ち昇るとと、繰り出されたのはプレッシャーブレードだった。
ただし、剣圧攻撃に加え、冷凍系の魔法が付帯している。
剣圧と超低温の二重同時攻撃はそれぞれの特性を倍増し、攻撃効果を増している。
寒波の衝撃波と化し、ダメージのみならず、托身体の活動を鈍らせる。
しかし、その攻撃はカリバーンに大きな隙を作っていた。
アユミールは魔法の準備はすでに終えていた。
魔法剣の使用直後、アユミールは絶好のタイミングでカリバーンに魔法触媒を放った。
カリバーンは塵となる――はずであった。
暗殺士のエージェントが突然カリバーンから飛び出ると、カリバーンの身代わりとなり、<核力消失>を浴びた。
「なっ……!」
アユミールは驚きの声を上げた。
暗殺士は瞬時に塵と化すと消失したが、カリバーンはノーダメージだった。
「……切り札を私に見せすぎたな」
「ム……カつく……!」
カリバーンの科白に、アユミールは悔しそうに言いながら、その場に崩れ去るように眠りに陥る。
カリバーンはフィロソフィー・ブレードにより招かれ、何度目かの両性具有神が降臨する。
白光の法剣の切先に魔法触媒が形成されていく。
<核爆>の魔法剣――メリクリウスで使用したものだった。
「……まずい!!」
我々に止めを刺すつもりだった。
カリバーンは核爆の魔法剣を振り下ろした。
アブソリュートディフェンスが間に合わず、核爆の剣圧が襲い掛かる。
爆炎と爆風、そして衝撃波がうねりを上げて、熱波の暴風となり、吹き荒れる。
熱波は僕達パーティーは散り散りに吹き飛ばした。
アユミールは目覚める様子は無い。
ミナが回復魔法を掛け、さらにクロムも回復魔法を試みる。
生命力値が戻っても、次の手が無かった。
「分析結果は……?」
クロムが尋ねると、ミナは首を振った。失敗に終わったらしい。
万事休すだった。
多彩な種類の魔法剣に加え、こちらの攻撃を完全に読まれている。
カリバーンはアニメに出てくるような戦闘機械兵器そのものだった。
こちらの戦略や攻撃パターン、弱点を分析、行動を予測し、容赦なく突いてくる。
本人の言葉通り、ゲーム内で繰り広げられたさまざまな戦闘データの蓄積の賜物だろう。
さらにフィロソフィーブレードが、カリバーンの強さを絶対なものにしていた。
向こうのデータにない、予測外の攻撃を仕掛けない限り、勝機はない。
床に臥し、回復魔法により生命力値が元に戻っていくのを感じながら、僕はいつしかウロボロスリングを見ていた。
僕にある考えが浮かんでいた。
――もし、フィロソフィー・ブレードを、僕が使用できたならば……?
「賭けてみるか……?」
カリバーンの声が僕の耳に届く。
カリバーンも僕の意図に気づいたようだ。
「ウロボロスリングのボーナスパワーを使えと……?」
僕が尋ねると、カリバーンは頷く。
「駄目だ! 挑発に乗るな!!」
クロムの静止が入る。
失敗すれば、SA級のアイテムを失ってしまう。
僕はウロボロスリングに未練は無かった。
ここでアイテムに固執すれば、仲間の信義や信用を失う。
僕はミナを見た。
彼女との約束もある。こんなところで足踏みしているわけには行かなかった。
掛け替えの無い仲間を失いたくはなかった。
例え、ゲーム内の世界の話でも……!!
僕はリングのパワーを解放した。
ウロボロスリングが爆発したような光を放つ。
その瞬間、ステイタスに新たなスロットが追加拡張されていた。
托身体に新たなる力が宿っていた。
フィロソフィー・ブレード――幻のシークレット・スキルを僕は会得した。
突然僕の托身体に光の紙片がキラキラ舞うようなエフェクトが瞬く。ジョブスキル使用のための資源が回復していく。
「――万能薬!?」
クロムだった。クロムは親指を立てていた。
高価な万能薬を惜しみなく、僕のために使用してくれていた。
さらに、別の力が宿っていく。ミナの攻撃補助魔法だった。
まるで二人が後押ししてくれているようだった。
「……見事なパーティープレイだな」
カリバーンは僕達のやり取りを賞賛していた。
僕はカリバーンを見る。
カリバーンは好敵手を得たような、どこか満足げな顔をしていた。
「使い方は分かるか……?」
「……ええ」
すでにマニュアルは托身体にセットされている。
「そうか――」
哲学者の剣――それは、ジョブスキルや魔法、そして魔法剣同士など二種類の攻撃を組み合わせ、同時に発動する魔法剣だった。
城で使用したときは、プレッシャーブレードとソニックブレードの複合攻撃だったのだろう。互いの特性を抽出し、合成する様は錬金術さながら、だ。
フィロソフィーブレードをぶつけ本番で使用する気でいた。
平静を装っているが、カリバーンの情報処理は、僕の行動予測が立たず、混乱しているはずである。
フィロソフィーブレードで攻撃したことはあっても、攻撃されたことは無い。
すなわち、向こうに攻撃データは存在しない。
データが無い以上、こちら側の手を読むことは、戦闘AIといえ、不可能なはずだった。
僕は剣を構える。
「組み合わせは無限に存在する。だが、当然相性がある……」
「……でしょうね」
カリバーンは剣を構える。
カリバーンもフィロソフィーブレードを仕掛けるようだ。
好都合だった。
僕はカリバーンがどういう魔法剣を使用してくるか、読めていた。
そして自分自身、何を配合するか、すでに決まっていた。
僕とカリバーンは同時に、フィロソフィーブレードの準備に入った。
互いの背後に、両性具有神が現れる。
カリバーンは剣を正眼に構えると、剣先に魔法触媒が形成していく。
王手に選んだのは、やはり核爆の魔法剣だった。
僕の予想は当たっていた。
相手が攻撃を繰り出す前に、僕はカリバーンの懐に飛び込んでいた。
僕が仕掛けていたのは、マキシマムソニックブレードだった。
一度破れた技をもう一度使用しようなど、さすがのカリバーンもまったくの予想外であろう。
ミナの強化付帯魔法により、カウンターストップ状態にまで高められた高速の剣の洗礼を、カリバーンは全身に味わっていた。
連続攻撃回数は、十二回に達していた。
だが、攻撃がとどまる事は無かった。
さらなる連続攻撃がカリバーンに追い討ちをかける。
僕が仕掛けたのは、マキシマムソニックブレードの二重配合だった。
留まらない連続攻撃が、カリバーンを追い詰める。
攻撃は二四回を超えた。
クリティカルヒットを引き寄せるつもりで、ラスト二五回目の攻撃を、僕は渾身の力でカリバーンに叩き込んだ。
手ごたえはあった。カリバーンは吹き飛ばされていた。
魔法触媒が消え、核爆の魔法剣はキャンセル状態になっている。
「マ、マキシマム……ソニックブレードの重複攻撃……か。見事だ……」
カリバーンは苦しそうに言った。
「――ワンパターンでしたね、お互いに……」
僕の言葉に、カリバーンは微かに笑う。
「極めて……みろ。哲学者の剣……!!」
そういい残すと、エネミーが滅びるようにカリバーンはこの場から消えた。
その瞬間、ワイヤーフレームの世界が再構成され、通常の迷宮に戻っていた。
「……やれやれ、やっと戻れたか」
クロムはそう言うと、僕の方を見る。
「まったく、うちのチームはどいつもこいつも無茶ばかりする」
「……すみません」
僕は素直に頭を下げた。クロムは肩を叩く。
ミナも笑っていた。
あくびをしながら、アユミールも目覚めていた。
「……どうなった?」
アユミールがのん気に尋ねてきた時、突然迷宮が大きく乱れた。
周囲にノイズが走り、ラグやバグのような現象が起こっている。
ブロックノイズが出現し、パラパラと世界が崩れていく。
「何々!?」
「……どうやら、AIを斃したせいで、さらにサーバーが不調になったらしいな」
クロムが冷静に分析する。
――システムに異常事態が発生いたしました。管理AIの一部に不具合の疑いがあります。
突然ゲーム世界にアナウンスが流れた。
――数分後、サーバーの活動を緊急停止させていただきます。
「すぐに転移魔法を……!!」
クロムの声に、ミナがあわてて転移魔法の実行を始める。
正式な手続きを取らなければ、セーブ前まで戻される。
せっかく得たスペシャルなジョブスキルのデータがデフォルドする危険性があった。
――現在のプレイを一時中断し、ログアウトの実行を行なうようお願いいたします。なおデータの一部が失われる危険性があります……。
僕達は沈没船から脱出しようともがくネズミも同じだった。




