1 魔導剣師と魔法剣
――そう、ウロボロスリングを入手したことが、全ての始まりだった。
僕はいつものように迷宮を彷徨っていた。
プレイヤーでも、僕は魂読込型のソロ・プレイヤーだった。
魂読込による状態遷移型シミュレーテッドリアリティ方式のリアルタイムコンバットを選択している。
コンバットシミュレーターそのものだが、慣れると、従来のコマンド制バトルシステムには戻れない。
小隊の陣列は前衛が二人、後衛が二人の構成である。
剣は鞘に収めているが、いつでも抜刀できる準備は出来ている。
前方で魔法陣が浮かび上がる。邪悪な呪印に彩られた魔方陣だった。
エネミーたちは迷宮内を常時徘徊する徘徊型と突如ランダムで出現する未確認型の二種類に分類される。
敵が出現する前触れだった。
アポクリプス・ブルー・ナイト――魔王・中ボス級のエネミーである。
HPは3万前後、物理防御値が高いこともさることながら、呪文耐久率は九割で、全ての系統に対応する。
特殊攻撃として、ドレイン攻撃に一撃必殺を仕掛け、プレイヤー側のメンバーを即死に至らしめる。
厄介なのはこちらの仕掛けた補助魔法を打ち消す、特殊効果解除を仕掛けてくる。
攻撃と防御両方に優れ、格調高い鎧姿は敵ながら神々しい。
まさに黙示録の騎士にふさわしい姿だ。
レベルごと根こそぎ資源を奪うドレインは絶対に避けなければならない。
「ジン、どうしますか?」
ヘスペリア――AIの一人が尋ねてきた。
ジン――僕の名前だ。
現実世界でも同じなだが、ただし、綴りはGENE――遺伝子と掛けている。
「長期戦になればこっちが不利になる。ワン・ターンで決める。攻撃支援の補助魔法と効果を施してくれ」
僕がAIにしてニンフの化身である三姉妹ヘスペリア、アイグレー、エリテュイアに指示を出す。
「了解」とヘスペリア、
「お任せを」とアイグレー、
「はーい」とエリテュリアが返事をする。
多くを語る必要はない。
パーティの陣形を決め、それぞれの配置につくと、魔法詠唱に入った。
パーティーメンバーの三人娘は補助AIにして、BOTである。
プレイヤーの数を補ったり、あるいはオフラインであたかも人間のプレイヤーを相手にしているかのように遊ぶためのものである。
射撃・攻撃・回復など本来プレイヤーが行う操作をプレイヤーに代わって行う支援キャラクターで、
経験値を溜める為の戦闘などといった単純作業や繰り返し作業などの作業や行為を代行させる規約違反に該当しなければ、使用可能である。僕のようなソロプレイヤーには欠かせない存在である。
魔術師よりも上位の資格である高位魔術師ヘスペリアが、攻撃支援魔法を唱える。
攻撃力を一時引き上げる強化魔法だった。
魔法の力が僕に宿り、攻撃力の数値が倍増する。
アイグレーは攻撃魔法と回復補助の神聖魔法の両方を習得できる高位魔法所有資格を持つ職業の魔導司祭である。
アイグレーは<福音>の魔法を唱える。
<福音>――パーティー全体に毎ターンごとに回復効果を齎す魔法である。
ヘスペリアもアイグレーも高レベルの魔法のため、魔力資源の消費量が高い。
敵は魔法無効化率の90パーセントの相手、魔法による攻撃は一切通用しない。
加えて一撃必殺の攻撃を仕掛けてくる。
補助系の魔法を唱えさせるのが賢明だった。
出し惜しみをすれば、即死に繋がる。
最後に、エリテュリアが動いた。
エリテュリアは聖職系魔法を駆使し、前衛での戦闘も担当できる聖職騎士である。
聖職騎士のジョブスキルである<祝福>を発動した。
<祝福>――戦意高揚の特殊効果で、攻撃力を六倍にする。
支援キャラはメインプレイヤーである僕の能力を極限まで高め、攻撃力は膨れ上がっている。
そして僕は、魔導剣師の職に就くこのパーティーのメインプレイヤーだ。
魔導剣師――魔術師系魔法と魔法剣術を駆使する上級職である。
魔術師は本来、身体より精神面を重視する職業だが、魔法による肉体改造を行い、戦士に匹敵する戦闘能力を身に着けた上級職業資格である。
肉弾戦はもちろんだが、魔法も使用できる魔法所有職業だが、特筆すべき点はやはり魔法剣に長けているという所だろう。
僕は魔導剣師のジョブ・スキルである魔法剣マキシマム・ソニック・ブレードを選んだ。
マキシマム・ソニック・ブレード――魔法により攻撃力と剣速を高めた魔法剣である。平均六回から最大12回の連続攻撃を可能とする魔法剣である。
ランダムとコマンド入力の速さに左右され、個人差はあるが、僕は12回の攻撃をほぼ毎回の戦闘で成功させることができる。
ジョブスキル――職業特有の技能である。
特に魔導剣師のジョブスキルである魔法剣は魔力値に加え、技能値まで二重に資源を消費する高コストの技だ。
それでも魔法剣は、魔法無効化率九割の相手には極めて有効な戦術だった。
僕は魔法剣行使のための精神集中に入ると、魔力と技能力を司る資源が消費されていく感覚が身体中に広がった。
僕より先にブルーナイトが仕掛けてきた。
資源が技に転換される際に時間を有する為、僅かに攻撃が出遅れてしまう。
隙を生み、特に敏捷性の低い戦士系は、エネミーの格好の的になる。
僕はブルーナイトの剣が、クリティカルヒット級の攻撃であることを見抜いた。
凶速の剣技は、僕の敏捷性では防げない程の速さを秘めた剣だった。
必殺の剣により、僕は即死――のはずだった。
大ダメージは食らうものの、ブルーナイトの攻撃に持ちこたえた。
ブルーナイトの剣は、鎧が展開する魔法防御が弾いていた。
聖皇の鎧――僕が装備する武具が、最悪の事態を防いだ。
全身を覆うこの純白の鎧は、錬金術と魔法鋳造技術により作られたレアアイテムである。魔法効果機能が付随し、鎧が常時展開する魔法防御によりクリティカルヒットを回避する。
さらに毎ターンごとに最大HPの10パーセント分を回復するヒーリング効果や最大攻撃力の数値を増加してくれる魔法効果機能がある。
以前、ブルーナイトに匹敵する凶悪エネミーがドロップしたものを入手し、それ以降僕の防具として愛用している。
僕は剣を振り上げ、ブルーナイトにマキシマム・ソニック・ブレードを発動した。
魔法が作り上げる剣技は、剣の嵐そのものだ。
僕はブルーナイトに、剣の猛攻を休めずに繰り出す。
攻撃値はメンバーの効果補助を受け、攻撃力の上限値をこえた時に生じる、カウンターストップ状態にまで高まっていた。
僕が振るっている剣はメーティアの剣――隕鉄で作り上げた名匠の逸品と名高い業物として、プレイヤー内でも評判が高いレアアイテムである。
攻撃力だけでなく、敏捷性を高めるという付加効果を持つ両刃の剣で、魔法剣を有効に使用できる数少ない剣だった。
魔法剣の連続攻撃は、毎回1万近い値の攻撃を繰り出し、ブルーナイトにダメージを与え続ける。
高速の魔法剣の前にブルーナイトは耐え切れなくなり、砕け散ると我々の前から消滅した。
ワン・ターン・キルは成された。
敵との勝利に、三姉妹は勝利の歓声を上げた。
利得報酬である経験値に金がパーティーメンバーに自動的に振り分け、計上され、そしてドロップアイテムを受け取る。
戦闘――まさにそれは資源の奪い合いだ。
魔力や攻撃を駆使し、互いを潰しあう。戦略の名の元に成されていく。
死は命のみならず、財産すら根こそぎ奪われてしまう。
まさに死の後は何も残らないという鉄の掟だ。
アイテムを回収すると、僕達は体勢を整える為、周囲に結界を張る。
パーティ体制を整備する為の一時休憩モードである。
主に迷宮内の通路で、テントを張るごとく結界を展開し、野営を行なう。休止状態になるため、徘徊エネミーでも絶対に手が出せない。
エリテュリアが僕に回復の魔法を掛ける。
体力値は回復しても、魔力や技能値といった重要資源は回復しない。
ゲーム内の戦闘において、資源の有効利用と節約こそが、最大の命題である。
ブルーナイトとの戦闘に勝利したが、失った資源は少なくない。
「ロード級のエネミー撃破が通算三百勝を達成しました」
長女のヘスペリアが告げる。
「これでグランド・マスターの称号がジンに与えられます」
僕は思わず声を上げる。
タイトルホルダーの授与は、プレイヤーにとって名誉だった。僕もこれで一流プレイヤーの仲間入りということだ。
アイグレーはナイトから入手したアイテムの鑑定に入っていた。
「分かったか?」
僕はアイグレーに尋ねると、アイグレーは首を振った。
「――鑑定不能のアイテムです」
「何?」と言った時、突然僕の視界が赤く点滅する。
「魂読込のリミットが近づいています。いったんログアウトした方がいいみたいですね」
エリテュリアの警告に、僕は思わず舌打ちする。
「分かった」
僕は素直に警告に従い、ゲームをログアウトした。