1 居酒屋ダイニング店 <罪人の楽園亭>
僕はノートパッドでメールを確認する。
☆罪人の楽園亭オフ会を開催!!☆
PM7:00より開始です!
奮ってご参加ください!!
心なしか、メールの文章が踊っている。
差出人はアユミールからだった。
竜退治の祝勝会をやろうと、アユミールが提案したことだった。
僕は大江戸線に乗り、六本木駅を目指していた。
「オーディション、また受けてみようかな」
僕の隣に座る未奈はぽつりと言った。未奈も出席する。
「そうだよ」
僕は同意した。
「うん」
「応援してる。ファン一号ってことで」
「……バッカにして。結構ファンは居るんだから」
未奈は一瞬ムッとしたが、すぐに笑う。
精神状態は回復し、かなり元気になっていた。
僕も一安心だった。
やはり未奈には常に元気な顔を見せていて欲しい。
彼女が笑うだけで、幸せな気分になる。
「ゲーマーアイドル紗川未奈で売り出したら、事務所もすぐ決まるし、きっと売れるよ。仕事だってじゃんじゃん入ってくるさ。だからウィザード・ブレードクリアして、一緒に有名になろうよ」
「……ありがと」
久々の未奈の明るい顔に、僕も気分が良くなっていた。
ウィザード・ブレードのゲームクリアが自分の中で目的となった瞬間でもあった。
指定の店はロアビル近くにあった。
罪人の楽園亭――六本木に実在する居酒屋ダイニング店である。
罪人の楽園亭といえば、ウィザード・ブレードのゲーム内に存在するパーティー変成や情報交換を行う仮想テナントだが、この店は期間限定で行われているウィザードブレードのゲーム運営会社と外食事業グループとのコラボレーション企画である。
出店倒産が相次ぐ厳しい飲食店業界で、コンセプトダイニングを立ち上げ、料理以外のイベント性や非現実感を演出することで客を呼ぼうというのが、この店だった。
そして、今日ここで僕達のオフ会が行われる。
店内に入ると、予想以上に賑わっている。単なる企画物の店ではないようだ。
待合場では、背広姿のサラリーマン姿も多く、順番待ちの状況だった。ゲーム好きの連中のみならず、物珍しさも手伝って、繁盛しているらしい。
大学生のコンパなどにも利用されているのかもしれない。
内装は安っぽいのかと思っていたが、予想以上にお金を掛けていて本格的だった。
店員もゲームの世界観に合わせたコスプレ風の服装で、客をもてなしている。
思ったより楽しめそうな雰囲気に、僕も楽しくなってきていた。
それは未奈も同じ様子だった。
店の内装にはしゃぎ、心を躍らせているようだ。
店員に幹事の名前を言うと、僕と未奈は席に通される。
通されたのは、個室の部屋だった。
二人の男女がすでに席に座り、待っていた。
「――ジン君でしょ?」
座っていた女性が声をかけてきた。
「もしかしてアユミールさんですか?」
「そ、本名は茉莉愛美、職業はイベコン、よろしく」
僕はアユミール=愛美と握手した。
間近で見ると、本当に可愛い。未奈とは違う魅力がある。
柑橘系の香水をつけているのか、爽やかな香りが鼻をくすぐる。
華やかな仕事をしている為か、本人は元より、着ている服まで洗練されている。
「仕事でウィザードブレードの宣伝活動もやってる。まあ、実際のイベントの広報活動の傍ら、宣伝の一環で、コンパニオンゲーマーとしてゲームにエントリーしたわけ。まあわたし自身結果ハマって……元々結構ゲーム好きだって言うのもあるけど……」
「あのゲーム内での服装は、その……」
「そう。関係者の特権って奴、そっちがミナね……?」
僕の後ろを見ながら、愛美は言う。未奈は軽く会釈した。
やはり二人にはどこか距離がある。
「で、このイケメンさんは鞘峰護人さん」
愛美は目の前の男を指差しながら言った。
「もしかして……」
僕は声を上げた。
「そう、クロム……さん」
「ああ……」
鞘峰護人は、自分をクロムは認めた。
まるで漫画で主人公のライバル役のようなキャラクターだった。
美形で冷静沈着、女性に対しても物怖じしない様子はゲームのままだ。
托身体と同じく、おしゃれなアイウェアを掛け、胸にシルバーのドックタグが輝く。
そのドックタグがクロムハーツというブランドであるということを、僕は後で知った。
「その正体は、大手広告代理店のエリートビジネスマンでございまーす」
「……そういう言い方はやめてくれ。それに大手じゃない」
「いやいや、わたしの業界じゃ結構有名よ。仕事でお世話にもなってるしね」
クロム=護人やアユミール=愛美などゲーム内の人々とこうして現実世界で会っている。
どこか奇妙な感じだった。
僕と未奈は席に座る。
テーブルを挟んで男は奥に、女は入り口手前に陣取った。
「――マルチ・アタック・プレイヤーだったんですね」
僕はクロム=護人に声をかけた。
「ああ、そうだ」
「……すごいですね。実際にそういうやり方をしている人初めて見ましたよ」
僕は素直にクロム=護人のプレイを褒めた。
マルチプレイ――四人のキャラを同時に制御するプレイスタイルである。
魂読込でそういうプレイヤーが居ると、噂には聞いていたが、あそこまで的確に制御するなんて、凄腕の何者でもない。
「マルチタスク型ナーヴァス……ですか」
僕は思わず言葉にしていた。
「サルマンの言っていた言葉か……。ようはゲームの才能という訳か」
護人もなんとなく言葉の意味を理解していたらしい。
「僕がアクセレーター型ナーヴァス、あなたはマルチタスク型のナーヴァス、そして未奈はイマジナリージェネレーター型のナーヴァス――」
「俺も気になって、知り合いに聞いてみた。エレクトリックスポーツをやってる奴なんだが、ゲームの才能は訓練より天性だそうだ。優れたゲームプレイヤーは、初心者と比べて認知能力に優れているらしい」
「ナーヴァスは脳力値の高いプレイヤーの事のことだって、カリバーンが言ってました」
「脳力値……? エンデが言っていたな」
「脳力値はレアアイテムの発生にも関わってくるとも言ってた――」
「俺より未奈ちゃんのほうがすごいんじゃないか? 確かに認知能力には優れていそうだ」
「……そんな」
護人の未奈は恐縮する。僕は護人にちょっと嫉妬する。
「何々、何の話……?」
愛美が話題に入ってくる。
「ナーヴァスの話です」
「何それ?」
愛美も知らないらしい。情報通を気取っているが、実はたいしたことは無いようだ。
僕はナーヴァスに関して簡単に説明する。
「……はじめて聞いた」
「愛美さんももしかしたらそうかもしれませんね」
僕はお世辞じみたことを言う。しかし、半分は本当だった。
愛美の魔法制御も中々のものだ。
「まあ、暗算とか暗記とか得意な方ではあるけど」
「そうなんですか……?」
「……確かに計算高そう」
未奈が意地の悪いことを言うと、「……どういう意味」と愛美は未奈を睨んだ。
「計算高い女性は、実際の計算能力も高いらしい。女性が好みの男性の前で大げさな表現をしたり高い声を出す際、脳の前頭葉で複雑な数的処理を司る部位が活発化するようだ」
護人がフォローのようなこと言う。
「……ぜんぜん嬉しくないですけど」
「彼女がその資質を持つならば、カリキュレーター型ナーヴァス……とでも言うのかな。シークレット魔法を自在に操るのは、彼女の演算能力に起因していそうだ」
こじつけの様な分析だが、否定する要素も無かった。意外に当たっているかもしれない。
「……まあ話は後。とりあえずは乾杯しましょう」
愛美は近くの端末を手に取る。
「ビールの飲む人、手上げて!」
愛美と護人は手を上げる。
「生の中ジョッキでいいわよね? ジン君はどうする? お酒頼んじゃう?」
冗談ぽく言う愛美に、「こ、困ります」とだけ答えた。
さっきからドキドキしっ放しだった。これを大人の魅力というのだろうか。
ようはからかわれているだけなのだが……。
「彼、未成年者ですけど」
未奈が止めに入る。
「……知ってるし、冗談だし」
愛美は舌打ちする。
「う、烏龍茶でいいです」
僕は愛美に注文した。これ以上険悪になるのは避けたかった。
「ウーロンハイ?」
愛美が聞き返す。
「……勘弁してください」
「冗談だってばー。可愛いねーっ、高校生は」
僕はどういう顔をしていいのかわからなかった。
「……もう、遊ばれてるのが分からないの? だらしない顔して……」
釘を刺す未奈の言葉に、僕はドキッとする。
「あんたはジン君の保護者かっつーうの」
未奈はカチンと来たのか、
「いるんだよねえ。その気もないくせに、困ってる男とか友達を見るとほっとけない。面倒見がいいっていうと聞こえはいいけど、ようはそういうのに喜びを感じる女が――」
「……わたしだって言いたいんですか?」
「……別にー」
まさに一触即発だった。一歩も引く気はない。
愛美も未奈も気が強い性格であるのは間違いない。
「もう辞めましょうよ。今日は楽しく飲みましょう……!」
僕は二人を宥める。
僕らのやり取りに護人が笑っていた。笑っていないで助けて欲しい。
こんな波乱な幕開けはまったくの予想外だった。
そうこうしている内に、つき出しと飲み物が運ばれてきた。それそれ注文したものを受け取る。
「じゃあ、乾杯しましょう」
愛美はジョッキを手に持ちながら言うと、互いのコップを合わせた。
「わたし達かなり相性良かったと思わない?」
「まあ」
「確かに」
「否定はしないな」
愛美の言葉に、僕と未奈、護人は声を合わせる。
「この際だから、正式に組みましょうよ」
愛美はズバッと切り出した。
僕自身、このチームをドラゴンとの戦いだけで解消するのはもったいないと思っていた。
黒の剣の問題もある。
とりあえず僕の預かりになっているが、誰が持つべきなのか、今日の会で話し合わなければならないと思っていた。
「護人さんも今後もわたし達と組むってことでいいわよね」
愛美は本題を切り出した。愛美の目的はこれのようだ。
できれば、ゲームクリアのため、この関係を維持したいのは愛美も同じらしい。
「俺達はそれぞれゲームクリアを目指しているいわば敵同士だ。馴れ合ってなんの得になる……?」
護人の言葉に、場の空気が一気に冷える。
「……じゃあ、何でここに来たんですか」
僕は思わず、護人に問いただした。
「君に興味があったからさ」
護人は僕を見ながら言った。
愛美と未奈は護人を見る。
僕も怖くなった。
彼は男が好きなのだろうか……?
「……そういう意味じゃない」
護人は苛立ったように否定する。
「あれだけ高速に剣を繰り出すプレイヤーと実際に話をしてみたかった――それだけだ」
褒められているのか、よく分からなり、僕は照れくさくなった。
「四人で協力した方が絶対現実的よ」
愛美は食い下がる。
「例えば?」
「レアアイテムのトレードとか、情報交換とか……。今後は積極的にトレード行為を行なうべきだし、幸い、わたし達の職業は被っていない」
「魔導剣師を二人揃えた方よっぽど戦略的じゃないのか。事実、俺はそうしているが――」
「回復と防御はボス戦での要。知らないとは言わせない」
護人は考えをまとめるように、指でテーブルを突いていた。
「もっと現実的な話をすると、今後はウィザード・ブレードの二大勢力とゲームクリアを競い争うのよ。ギルドやサークル連中を相手に、むしろ四人なんて足りないくらいだけど」
いくらエリートビジネスマンと言えど、女性に口喧嘩で勝つのは難しいようだ。
「……まあ、いいだろう。カリバーンやメリクリウスと組むくらいなら君達と行動していた方が楽しそうだ」
もったいぶったような言い方が鼻につく。
「美人が二人もいるから、な」
護人は、「な」という部分で僕の顔を見る。僕は否定も肯定もしなかった。
しばらくの間、僕達は唐揚げやホッケなど注文した食べ物をそれぞれ突き合った。
しかし、未奈と愛美は会話を一切交わさなかった。眼すら合わさない。
二人ともどうも仲が悪い。
愛美は未奈のことを回復役要員にしか思っていない。
愛美=アユミールはシークレット魔法を持っている。
確かにシークレット魔法は、高位魔術師しか身につけられない追加スキルで、魔導司祭には体得できない。
特に迷宮深層部になればなるほど、魔法耐久率の高いエネミーが多くなる。通常習得の最上級呪文ですら弾き返す奴もいる。
しかし、未奈は通常魔法を急所に的確にヒットさせ、反撃の機会を作ったという実績がある。
魔法の制御や精度に関しては、未奈のほうが上だと僕は見ている。
ゆえに二人の実力はさほど差は無いのではないかと思っていた。
強い性格同士だからといって、衝突しあう理由は無い。
いつしか話はレビスの話題になっていた。
「レビスとかいうあのNPCはなんだろう……?」
愛美が言う。
「ゲーム内を巡回するガーディアンNPCを統制統括するマネージャーAIだろう……。ゲーム内の治安に日々勤めているわけだけだが、NPCは違法行為を犯したプレイヤーを取り締まれない。AIは論理規定三項が組み込まれているからな」
護人が疑問に答えていた。
聞いたことがあった。
論理規定三項――いわゆるロボット三原則である。
NPCの行動のベースになるものである。NPCもしくはAIは、人間に使われるように動く。あくまで人間を助けるように作られている。だから、AIは人間に対して反乱を起こすことはあり得ない。
「プレイヤー自体も人間だから、論理コードの関係上、AIはあんまり強く打って出れないようだ。それを補う為に、人間自身がゲーム内に起きたトラブルを解決する為に、人間スタッフの何人かが保安要員として巡回監視しているわけだが……、コンプリーターの無差別ぶりを見ると、あまり機能して無いようだな」
僕はある言葉が頭に浮かんでいた。
「護人さん、ソウルアーカイバ計画って分かります……?」
僕は護人にぶつけた。
「何だ、それは?」
護人も知らないらしい。
「あっ……分からなければいいです」
僕はこの話題をすぐに引っ込め、烏龍茶を口にする。
「で、組んだはいいが、これからの我々のチームの方針はどうするつもりだ、リーダー?」
護人は愛美に尋ねた。
相手を上手く乗せ、操縦する術に護人は長けている。
女性の扱いも上手いようだ。愛美の性格を把握している。
「……ちょうどいいわ」
愛美はファンシーな絵柄が着いたA4のクリアファイルをバックから取り出すと、クリップでとめられた数枚のプリント用紙の束を全員に配った。
「これは……?」
僕は愛美に尋ねた。
「ここに印刷されているのは、ウィザード・ブレード現在の全アイテム表よ。わたしをスカウトしようとしたギルドから提供されたもの」
用意がいい。我々をつなぎ止めるために予め準備していたのだろう。まとめ役や交渉能力は長けているかもしれない。
僕はプリント用紙を眺める。驚くような情報が網羅されている。
「シークレットアイテムまで……。これ大丈夫なんですか?」
僕は愛美に訊く。
「オフィシャルじゃないから本当はいけないんだけど……。情報自体もおそらくコンプリーターや不正プレイヤーが闇アイテムで違法にシステムに干渉して、情報を入手して、ばら撒いているみたい」
「何の為に……?」
未奈が尋ねる。
「一つは、虚栄心――尊敬と注目を一身に浴びたいっていうプレイヤー心理……? ネットに居るでしょこういう輩が。まあ、自分の手を汚さず、そういう連中を利用しているわけよ」
コピー紙には、全てではないがシード値の調整に始まり、タイムテーブルや出現条件、ドロップするエネミーの情報までこと細かく記載されている。
紙には闇アイテムまで網羅されている。闇アイテムは種類が豊富で、コンプリーターが使用したプレイヤーのアイテムを覗き見するものや、アイテムを違法複製するものまである。
「この程度の情報を流したところで、不完全情報ゲームであるウィザードブレードが、完全情報ゲームに近づくことはない……か」
護人は言う。
「不完全情報ゲームってなんですか?」
未奈は護人に尋ねていた。
「ゲーム理論において、ゲームの規則に関するすべての情報が明らかになっていないゲームのことだ。逆に囲碁や将棋などは完全情報ゲームという。ウィザードブレードはプレイヤー間での情報格差が大きいからな」
広告代理店の人間らしいインテリジェンスに溢れた意見だった。もっともゲーム理論など高校生の僕に理解できるはずも無い。
だが、確かにこのゲームはナーヴァスやNPCなど、謎が多すぎることだけは分かる。
「これ以上のバージョン更新によるアイテムの追加はないみたい。で、ゲーム攻略の為に私達が手に入れなければならないのは、ウロボロスリングと赤の練金薬の二大アイテムね」
「共にSA級……か」
「ジン君が持ってるウロボロスリングはジョブスキルを体得する為のアイテム。この指輪のボーナスパワーを解放すると、身に着けられるといわれている。でも、確立は一割をきってるわ――」
「一割って……」
「多分、これも何か条件があるのよ。アイテムドロップがシビアで低確率であればあるほど、ドロップに関する条件やタイムテーブルが備わっている。抜け道がないわけじゃないみたい。でも――」
「ウロボロスリングに関しては、その出現方法はおろか、どういう技を身に着ける方法もなし……か」
護人はプリントを見ながら言った。
「カリバーンさんが使用した技らしいです。フィロソフィー・ブレードって言うらしいですよ」
「……そうなんだ」
僕の言葉を、愛美はプリント用紙にメモる。
そう言えば、仲間になればウロボロスリングに関して情報を教えるといっていたが、この分だと愛美もさほど知らないらしい。
ようはブラフだったということだ。これだから年上の女性は信用できない。
ウロボロスリングを使用すれば、魔導剣師以外にも、他の職業で別の技を見につけられるということだろうか。でなければ、ゲームバランスは狂ってくるだろう。
「じゃあ、これに関しては、カリバーンさんに直接聞きましょう」
愛美の言葉に、「教えると思うか……?」と護人が言う。
「確かにそこまでは、教えてくれませんでした」
僕は言った。
「ああいう人って意外に教えてくれるんじゃない? 気前がいいって言うか、大物ぶりたいって言うか……。まあ、わたしが女の魅力で迫ってみるわ」
めんどくさくなったのか、誰もツッコまなかった。
「両性具有神の聖剣を鍛造する為のアイテム、むしろこっちの方が重要よ」
僕は素材であるアイテムに眼を向けていく。
黒の剣
白の王錫
赤の練金薬
どれが欠けても、両性具有神の聖剣は生み出せない。
「白の王錫はA級……ドロップアイテムで、黒の剣はB級……」
僕はプリントを見ながら呟く。
あれだけ苦労して入手した黒の剣がB級アイテムとは……。
価値はA級の虚空皇の剣より低い。
「イベントアイテムみたいなものだから……か」
「白の王錫に関しては、出現が何個か確認されているの。まあ聖皇の鎧よりは出現率は低いけど、いちおA級だから。赤の錬金薬に関してはまったくきかないわね……」
僕が持つプリントを覗きながら、未奈が言う。
黒の剣、この前手に入れたアイテムだ。
呪いがかかっている為、装備はできない。攻撃力も?マークがついている。
僕はむしろ『黒の剣』というネーミングに大きく反応していた。
まるでマイケル・ムアコックのエルリックサーガに登場する――。
「ストーム・ブリンガーだな」
何気なく呟いた護人の言葉に、僕は思わず顔を上げ、護人の方をじっと見る。
「お好きなんですか……? エルリックサーガ?」
「――最高のファンタジーだと思ってるよ」
護人は笑顔で答えていた。
一見、イケメンのリア充でありながら、意外に僕と趣味は合うのかもしれない。
一瞬にして護人への親近感が湧き始めていた。
「赤の錬金薬、ウロボロスリングがSA級……か。このSA級アイテムの赤の魔導書とは……?」
メリクリウスが所持していると言っていた事を、僕は思い出していた。
「魔導書で最高峰のもの……らしいけど、わたしもよくは知らないわ」
赤の錬金薬やウロボロスリングのように、ゲームクリア関連アイテムではないようだ。
その他にもSA級のアイテムはいくつかあるが、クリアに関係するようなものではない。
アイテムコンプ目的のプレイヤーの為の欲求を満たす為のものだろう。
「やっぱり当面の目的は、両性具有神の剣の素材となるアイテム集めね」
「異議なし……だな」
「黒の剣は、僕が持っていていいでんすか……?」
僕はみんなに確認を取る。
「もちろんだ」
即答すると、護人が僕に耳打ちする。
「――他の娘に持たせると争いの火種になる」
「……ですね」
僕は納得した。
「これでもう怖いものは無いわ……!」
突然愛美が立ち上がった。
「ゲームクリアして一千万頂くわよ!!」
腕を頭上に上げ、愛美は宣言した。
気合を入れるため、愛美が掛け声の唱和を求める。僕達もしぶしぶ、腕を挙げ、愛美に付きあった。
「声が小さい!!」
愛美はそう言うと再び、掛け声を僕達に上げさせた。