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 巨大な毒々しい装飾が施された扉の奥は、神殿そのものだった。

 最後の敵が潜むにはあまりに豪華な造りだ。

 高い天井に大理石の床、奥には祭壇がある。

 権威を象徴する玉座のような祭壇には、一人の男が立っている。

 隠者ハーミットサルマンが僕達を見ると、微笑む。

 隠者サルマン――タロットカードを課したNPCノンプレイヤーキャラである『聖人セイント』にして、『セネトの無限迷宮』の迷宮の主(ダンジョンマスター)で、異次元界に封印されている邪神を召喚を企てている魔導士を演じるゲームマスターでもある。

 迷宮最深部のさらに存在する、追加迷宮エクストラステージである<異次元世界>の深遠部――ようやく辿りついた場所であった。

 祭壇の床には魔方陣が描かれている。

 魔方陣は四方のかがり火で照らされ、祭壇には巨大な邪神の石像が存在した。

 邪神グルダーニの石像だった。

 邪神グルダーニ――隠者サルマンが召喚しようとしている暗黒の神で、この魂読込ソウルロード型VRMMORPG『ウィザードブレード・オンライン』の最終ボスエネミーである。

 僕は、もう一度ステータスや魔力、技能値などの資源リソースを確認する。

 キャラ育成は十分行い、生命力値ヒットポイント魔力マジックポイント、そして特殊攻撃を掛ける技能値スキルポイントなど資源リソースは、潤沢に存在する。

 さらにレアアイテムを装備することで、エナジードレインやクリティカルヒットなどの特殊攻撃への耐性を身に着けている。

 そして、なにより僕には仲間がいる。

 ソロプレイの頃から、苦楽を共にした忠実なる存在であるAIキャラの三姉妹――ヘスペリア、アイグレー、エリテュリア。

 隣に居るのは僕と同じ魂読込ソウルロードしたプレイヤーだ。

 聖職騎士クロム。

 高位魔導士ミロワール。

 そして、魔導司祭ミナ――。

 僕以外のプレイヤーも元々はソロプレイヤーで、僕と同様、自らが育てたAIキャラが存在し、グルダーニと戦える人数数全て導入している。

「……敵の出方を見たい。GENEジン君、先制攻撃は君が頼む」

 防御の要であり、パーティーの実質の司令塔のクロムが僕に指示を出す。

「わかりました」

 僕――GENEはクロムに従った。

 眼鏡を掛けた端正な顔立ちは、男の僕から見てもうらやましい。現実世界での顔とまったく遜色ない。

「アユミールとミナもとりあえず補助魔法に徹してくれ。初めから派手な魔法は無しだ」

「わかりました」

 ミナは素直に従う。

「……つまんないの」

 対照的にアユミールが不平を漏らす。

 他のプレイヤーと組むことなど無かったこの僕がチームを組んでいる――不思議な気分だった。

 ゲームを通し、知り合った掛け替えの無い存在だ。

 どのプレイヤーも優れた技能を持つ。 

 僕の装備している剣が突然高い金属音を鳴り響かせる。エフェクトも特別仕様の逸品で、剣の刃は淡い光を放っている。

 僕の手に握られているのは、『両性具有神の聖剣』である。

 両性具有神の聖剣――ゲーム中最強の攻撃力を誇る最終兵器であり、全サーバー間で一本しかない、究極のウルトラ・レアアイテム――。 

 刀剣系最強の武器で、グルダーニに有効なダメージを与えることができる唯一のアイテムだ。

 AI機能が組み込こまれた、知性が宿るこのインテリジェント・ソードの力を引き出せるのは僕だけだ。

 シークレットスキルである魔法剣『哲学者の剣フィロソフィーブレード』と組み合わせることで、絶大な効果を発揮する。

 情報が正しければの話だが――。

 この剣は、僕達のチームの共有財産で、皆で集めた無数のレアアイテムを合成製造したものである。

 他のプレイヤー達も、レアな魔法やアイテムを所有している。

 事実、僕達は特別な才能を持つプレイヤーだった。

 『ナーヴァス』という――。

 グルダーニはまだ出現していない。 

 おそらくサルマンがこれから呼び出すイベントでも始まるのだろう。ゲームでは定番である。

 サルマン、そしてグルダーニを斃した時、ゲームは終わる――はずである。

 望むところだった。怖いものは何も無い。

 剣と共に、右手の指に嵌められたアイテム『環蛇の指輪(ウロボロスリング)』が輝く。

 蛇が尾を飲み込むような形をした黄金の指輪を入手した時から、僕の運命は回り始めた。

 この生命が流転する様を表した宇宙の輪(ウロボロス)の如く――。

 いつしかミナと眼が合っていた。

 ミナは優しく僕に微笑む。

 ゲームをクリアできたら、ミナの事にもケリをつけなければならない。

 自分の思いを告げるのだ。

 たとえゲームオーバーが待ち構えていようとも――。

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