プロローグ
私は夢を見る。同じ夕暮れ時、バスに揺られる。ふと反対の窓際を見れば、誰かが座っている。その誰かは、おもむろに話し始める。私はただ相槌を打ったり、尋ねたりする。ふとした瞬間、誰かは泣き出す。
笑うこともある。私はそれを見てふと、人生だとかに対する慈しみのような、虚しさのようなものを覚える。泣きそうになるのを堪える時に目にくる感覚。あれが何故か心臓とは全く違う位置で感じる。そして深い睡魔が私を襲う。そして私は、自室の天井を見上げる。
今から記すのは、私と彼の出来事、そして私と彼の人生の事だ。尚、現実と夢の話が交互にくるだろうから、頭を回して読むといいだろう。
いつも通りの通学路を歩く。目に染みるような青さが何故か、酷く切なくなった。私は、黄昏ることが好きだった。目の前にあるものの事をもっと感覚的に捉える事は私が私を特別な人間だと、錯覚させてくれた。例えば、冬の空はやけに高い。その理由を知識として持ってはいるが、私は敢えて目を逸らす。冬は、人が最も多く死ぬ季節だ。天国だとかは空の上にあるだとかいう。空が高く見えるのは理屈じゃなく、もっと人の感情の奥深く。もう手に届かない存在を空に結びつけるからだと思う。教室に着いた時、思い切りドアが開かれた。
『ねぇ、宿題やってないよぉ、どうしよぉぉ…!』
何かと思えば友人だった。
『…はぁ、毎度毎度凄いねぇ…宿題忘れの皆勤賞取れるんじゃない?』
『そんなのいらないってぇ…』
半分泣いている友人を半ば呆れて見つめる。
ふと、友人が思い立ったように言った。
『ね、ね、宿題ノート貸してくれない!?いつも申し訳ないんだけど…!』
『…コーラと引き換え。』
『ぐっ…背に腹は代えられない…』
流石に何十回とノートを貸している訳だから、友人は条件を呑んだ。私は鞄を置いて友人の席にノートを持っていく。友人がせっせと書き写している間、私はぼんやりとその光景を眺めていた。私の視線に気づいた友人が尋ねた。
『…どうかした?』
『いや、何でも。』
私は半ば笑って答えた。
『…もしかして私の顔の可愛さに見惚れ…』
『馬鹿おっしゃい。早くノート写しなさい。』
『申し訳ありません。』
友人はそのまま半狂乱になりながら文字を書いていた。すごい熱量だ。落ち着いたところで、友人がまた声をかけてきた。
『ね、最近さ、いつも考え事してるね。』
私は少し首を傾げる。
『そうかねぇ…?』
近くにいた別の友人が話に入ってきた。
『確かに…何か最近よく授業中も窓の方ばっか見てんじゃんね。』
『もしかして黄昏ブームが…?』
『いやあれはブームとかじゃないから。』
適当に言葉を返しながらも意識は別のところにあった。実はこの頃なのだ、あの夢を見るようになったのは。




